上 下
44 / 516
第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード19-2

しおりを挟む
魔導研究所内 射撃訓練場―― 午後

 午後になり、射撃大会が始まる。所長が開会宣言を行った。
「これより、魔導研究所恒例『ドキッ! 軍人だらけの大射撃大会! ポロリもあるかもヨ!』を開催します!」

「イイぞー! やれー! やっちまえ!」ざわ……ざわ

「きゃあー! 静流様ぁー! 頑張ってー!」ざわ……ざわ

「少尉殿、S級スナイパーの腕、見させてもらいますぜ」

「リリィ、アンタに賭けてるのよ! 負けたら奢ってもらうからね!」

「『恒例』って、いつもやってるんですか?」

「ジョークでしょ? でもたまに武器のデータ集めにやるわよ」
 コホン、と咳払いをした後、所長はこんなことを言い出した。

「えー諸君、この射撃大会に見事優勝したあかつきには、ここにある商品の他、副賞として『戦乙女神シズルカ』様の『愛の施術』を受ける権利を与える!」

「数々の奇跡を起こしたあの女神様が?」

「うぉぉぉ!? って聞いてないぞ! そんなの」

「ええっ!? だったらアタシもエントリーすればよかったわぁ」
 群衆はあまりのサプライズに驚きを隠せなかった。

「所長? 勝手に決めてイイんですか?」

「イイのじゃ! ワシがイイと言ったらイイのじゃ!」
 駄々っ子の様にくねくねとツイストしている所長。

「静流クン、どうする?」
 少佐が聞いて来た。まるで全てシナリオ通りの様に。

「イイですよ。そんなんで盛り上がるんなら」

「な? イイと言っとるじゃろ? ワシも出ようかのう。少佐」

「そう仰ると思い、エントリーしておきました」

「話が早い。して、誰と組むんじゃ?」

「勿論、私と」
(本当は私が受けたかったのよ、施術……姉さんの件もあるしね)

 エントリーしているチームはAからFまで6組であり、くじ引きで仁奈組がB、静流組がD、所長組がFとなった。
 競技は二種目を会場を変えて同時に行うことになっている。
 先ず、A組とB組の戦いが始まった。

 ライフル部門の会場は沸いていた。
 B組の仁奈は、800m離れた的に5発全弾命中であり、命中精度は3cmであった。
  
「ヒュウ、やっぱスゲェな、少尉殿は」

「少尉、自動照準の最新ライフルとの相性ピッタリですね?」

「ま、ウォーミングアップは、こんなもんね」
(おかしいわ。少し右にズレてる。自動補正してるはずなのに……)

 対するA組は一発外した為、失格であった。

 拳銃部門の方はどうかと言うと、
 50m先に動物を模したターゲットが色んな動きをしてくる。攻撃対象はオオカミとイノシシ。保護対象はウサギとネコである。
 攻撃対象を倒すとプラス10点、保護対象を誤って倒すとマイナス10点となる。
 弾倉一個分の8発、満点は80点となる。

「いやー、補正のお陰でよく当たるでありますなぁ。最後に気を抜いてしまったでありますが」

 佳乃は最後のオオカミを外し、70点であった。相手選手は的に当てることすら出来ず、30点止まりだった。

「何とか残ったでありますか」

「佳乃、よくやったわ。次は、恐らく所長たちよ」

「うへ。まともにやるはず、無いでありますよね?」

「心してかかりなさい?」

 次にC・D組の競技開始となった。
 ライフル部門の会場は沸いていた。
 D組のリリィは、的に5発全弾命中の所、命中精度は5cmであった。
  
「へぇ。やるもんだね、リリィ」

「初弾で銃のクセを読み取って、すぐさま修正とは流石だぜ」

「うん。悪くないね」

 対するC組の命中精度は8cmだった。

 拳銃部門の方はどうかと言うと、
 
「焦りました。途中で大きなネコが出てきたんで、ヒョウだと思って倒しちゃったんです」

 結果的に静流の直感が合っていたようで、満点だった。
 相手選手は引っ掛け問題でつまづき、70点だった。

「へぇ、満点か。やるじゃんよ、静流クン!」ギュウ

「リリィさんのアドバイスのお陰ですよ」
 予想外の結果にリリィは大喜びで、静流を抱きしめた。

「リリィさんだって、自動補正なしでスゴいじゃないですか やるぅ」パァァ

「そ、そぉかな? こんなの序の口だよ」ポッ

「リリィさん、さっき言ってた『秘策』って何だったんですか?」

「あ、さっきのはハッタリ。だって、悔しいじゃんよ」

「そ、そうだったんですね……大丈夫かなぁ?」

「大丈夫よ。今の調子、忘れないでね!」

 次にE・F組の競技開始となった。
 F組のライフルは所長が務め、命中精度は何と2cmであった。

「所長、スゴいじゃないですか! ほんとに通常弾ですか?」

「ギクッ、当たり前じゃわい!」
(大丈夫じゃ、バレとらん) 

 対するE組の命中精度は6cmだった。

 拳銃部門の方はどうかと言うと、
 
「もうちょっと気を使ってくれてもイイじゃない、もう」 
 引っ掛けにハマり、得点は40点であった。

 相手選手は銃の調子が急に悪くなり、30点であった。
(悪く思わないでね? レーザーサイトのつまみをちょっとイジらせてもらったわよ)

 結果的にB組、D組、F組が決勝に残った。
 決勝は、三位決定戦をやるのが面倒なので、三つ巴戦となった。

「決勝戦、始め!」

「ワー、ワー」

「今よ! チャフ発射!」ポゥ
 決勝開始のコールがあった直後、アルミホイルを細かく切ったようなものが宙を舞う。

「ありぁ? レーザーが出ないであります」

「スコープのレティクルも、消えた」
 B組の二人が同時にトラブっている。
 静流はインカムでリリィと連絡をとった。
〈リリィさん、B組の様子が変です〉

〈今さっき、チャフを打ったようね。これで自動補正は効かなくなる〉

〈え? それって妨害ですよね?〉

〈所長たちよ。やっぱり何か隠してたわね〉

〈どうするんです?〉

〈どうもしない。仁奈なら何とかするでしょ? ほら、自分の競技に集中!〉

〈り、了解!〉

 ライフル部門の協議が始まった。
 B組のレーンでは、仁奈が少々てこずっていた。

「チッ、自動照準はバカになったみたいね。あとは自分次第か」
 発光しなくなったスコープを覗き、中心に的を合わせ、引鉄を絞る。パァン…………カン

「やっぱり少し右にズレてるわね。次!」パァン…………カン
 という具合に調子を見ながら5発撃ち終わり、結果は3cmだった。

 F組のレーンでは、所長が初弾をド真ん中に命中させた所であった。

「スゴいじゃないですか! ど真ん中ですよ!」

「驚くのはまだ早いぞい!」パァン…………カン

「またど真ん中! 所長ってスイス銀行に口座あります?」

「ちょっと失礼?」ヒョイ

「な、何をする!」
 運営の係員が銃を取り上げ、弾を確認すると、

「いけませんねぇ、超小型熱線追尾付き弾頭を使っては」

「う、しまった。バレたか」

「狙いが正確過ぎます!」
 所長は不正がバレ、失格となった。

 D組のレーンでは、リリィが初弾を中心から3cmの位置に撃ち込んだ。
「大体こんなもんか。あとは風かな」

 拳銃部門の方はどうかと言うと、

「あの所長! あれほどうまくやれって言ったのに、適当に外して撃てばよかったのよ」
 少佐は所長の失格と同時に棄権した。
 次は佳乃である。

「えーと、オオカミは殺す!」 パァン ピンポーン

「ウサギはスルー」 ピンポーン

「イノシシは殺す!」 パァン ピンポーン

「オオカミは殺す!」 パァン ピンポーン

「ネコはスルーと。あれ?ネコにしては大きいか?」ブー

「しまった、次は?小さいオオカミ!」 パァン ブー

「次! イノシシの子供は……殺す!」 パァン ブー

「次! ネコはスルー!」 ピンポーン

正解が5問、不正解が3問で、20点であった。

「あのぅ、運営さん、ちょっとイイでありますか?」
 佳乃が確認したのは、

 5問目はネコではなく、ヒョウだった。
 6問目はイヌだった。
 7問目は子供のイノシシは山に返すが正解だった。

「そんなの先にやった方が不利でありますよ!」プンスカ

 佳乃の言う通り、静流はまた満点だった。

「何か悪いなぁ、佳乃さん」
 と、周りでひときわ歓声が上がった。

「凄いぞリリィ! 2cmだってよ」

「少尉殿も自動補正無しで3cmたぁ、たまげたね!」

 全競技が終わり、結果発表となった。

「優勝は、D組!!」ワァーーー!

 リリィと静流は表彰台に上がった。

「準優勝、B組!」ワァーーー!

 次に仁奈と佳乃が表彰台に上がった。

「リリィ、やるわね。見直したわ」

「仁奈、アンタこそ、あの状況でよく立て直したわね」
 二人は互いの健闘を称えた。

「まあ、古いものでも使い様によっては有効だってことよね」

「つまり、温故知新って事かしら?」
 微笑みながら談笑している二人を見て、静流は安堵した。

「よかったぁ。これで二人は仲良くなるんだよね?」ニパァァ


「「ふぁふぅぅん」」

 静流の「博愛スマイル」によろめく二人。

「二人共、これで良く分かったでしょ? 武器って使う者次第だって事」
 さもイイ事言ったと少佐は、胸を張り、手を腰にあててふんぞり返っていた。


「「あなたが言いますか!!」」


「静流様、お疲れ様であります。」
 三人が戯れている様を少し離れて見ていた佳乃は、静流に声を掛けた。

「佳乃さん、お疲れ様でした。結構頑張ってたらしいじゃないですか?」

「静流様こそ。大健闘でありますよ!」

「ひと肌脱いだ価値、ありましたよね?」

「ええ。あんなに楽しそうに笑っているお二人は、初めて見るかもであります」


         ◆ ◆ ◆ ◆


駐屯地 客員用詰所―― 夜
 
 優勝の商品を受け取りに、リリィは静流の部屋を訪ねた。
「静流クン、今日はありがとうね」

「いえいえ、僕なんか何もしてないですよ」

「アナタには感謝してるんだよ。仁奈とのわだかまりが嘘みたいに無くなった。女神様のご褒美かな?」

「あ、どうします?本当に施術、しましょうか?」

「そうね、折角だから、受けてみよう……かな。変身セットの調子も見たいし」

「ちょっと待ってくださいね、準備しますから」
 静流は調整が終わった装備を全て装着した。

「先ずは偽装肉体【復元】(シュン)」
 シズムの身体に復元された。感覚を調べる。

「うん。いいみたいですね。次、変身!」(シュン)
 ノーマル女神にチェンジする。そして、腰にベルトがあるような仕草から、腕を振って風を腰のベルト付近に送るような動作を行う。

 
【セタップ!】と叫び、操作パネルをいじる。パァァァ


「これが、女神モード?」

「そうですよ。リリィさん、何か悩み事、あります?」

「あるにはあるけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」
 後ろを向いてモジモジし始めたリリィ。

「あ、口に出さなくてイイんです。その事を強く念じてください」

「誰かが言ってたんだけど、脱がなくてイイの?」

「あ、アレはガセですよ、大丈夫です。そのままで」

 静流はあわてて否定したが、実際はわからなかった。
 リリィは手を胸の前で組み、目を閉じている。
 静流はリリィの背中に施術を試みた。

「では施術を始めます……【弱キュア】ポッ」

 両手に淡い桃色の霧をまとい、リリィの背中に当てる。

「失礼します!」ポォォ


「あっふぅぅぅぅん」シュゥゥゥ


 リリィは後ろにのけ反った。桃色のオーラが体内に吸収されていく。

「どうですか? 何か変わりました?」
 じっと目を閉じているリリィに静流は声を掛けた。

「うん。どうだろ? あれ?何か体内から湧いてくるのは……魔力?」
 リリィの身体に緑色のオーラが見える。

「落ち着け、私、試してみるか。【カマイタチ】ゴウッ!」
 リリィの手から、小さい空気の渦が巻いている。

「やった! 出来た! 静流クン、出来たよ」
 興奮気味にリリィが言うと、

「何事でありますか? ってリリィ先輩?」

「佳乃! 見て、アタシ、魔法を使ってるの!」


         ◆ ◆ ◆ ◆


駐屯地 厚生施設内 喫茶ロプロス―― 夜

 とりあえず事情を聴こうと喫茶店に行った。いつの間にか仁奈と少佐が合流して来た。

「リリィさんの身体に、一体何が起こったんですか?」

「えっとね、アタシって18歳の時魔力が枯渇して、魔法が使えなくなったの。それで裏方に配属になったんだ」

「魔力が枯渇した?」

「簡単に言えば、体内の魔素を魔力に変換することが出来なくなったって事」
 少佐がフォローしてくれた。

「それが僕の施術で器官が活性化したと?」

「そう言う事ね。また一人救ってしまったって事よ」

「そうですか。良かったですね? リリィさん!」

「嬉しいなんてもんじゃないわよ! 最高!」 
 リリィは静流の両手を握り、ブンブンと上下に振った。

「あわわわ、スゴい力だ」

「リリィ、本当に……良かった」グスッ
 仁奈は泣き始めた

「魔法が使えなくなってからのリリィの素っ気無い態度に、イラっと来た事もあって……ついキツく当たっていたの。ゴメンね、リリィ」 

「わかってたよ、仁奈。アタシを心配してくれてたの。こっちこそゴメン」
 二人は抱き合ってわんわん泣いている。

「いい話でありますなぁ、静流様」グスッ
 佳乃はもらい泣きしている。

「イイ事をしたのは、間違いないんですよね?僕」

「勿論よ。しかし、どう言う原理なのかしら?」

「原理? ですか?」

「リリィの症状は、上級ヒーラーやサイコドクターもお手上げだったのよ?」

「カチュア先生は、『解呪』をやっているのかもって言ってましたよ」

「『呪い』か。はっちゃんもそんな事、言ってたわね」

「航空基地の受付嬢さんもそんな事、言っていたであります」

「ああ、不感症の子ね? どうやらその辺りに鍵がありそうだわね」
 静流は、少佐がブツブツ言っていたが、気にしない事にした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生チートで夢生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:4,873

異世界イチャラブ冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:1,775

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,037pt お気に入り:2,118

生徒会総選挙が事実上人気投票なのって誰得か説明してくれ

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:257

異世界召喚戦記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:688

姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

闇の獣人 女神の加護で強く生き抜きます(18禁)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:247

【5月25日完結予定】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:210,889pt お気に入り:12,366

処理中です...