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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード22-1

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魔導研究所内 ブリーフィングルーム――

 測定結果を聞いてから2日が経った。『転移魔法』の実験を行う準備が出来たとの事で、静流たちはブリーフィングルームに呼び出された。
 あの後、技術少佐のアマンダは、自室にこもりっきりだったようで、髪は乱れ、目の下にクマが出来ている。

「やっと術式の構築が終わったわ。みんな、揃ってるわね?」

「お疲れ様であります」

「あのあと、『チラウラノート』のAIと色んなやり取りをして、わかったことがあるの。これを見てちょうだい。始めて?」

 少佐がそう言うと、ノートが発光しながらやがて人型に変身した。

「少佐が二人!? どうゆう仕組み?」

「私が自分のイメージを、ノートに【トレース】させたの」
 少佐は自分に変身したノートの頭をなでている。

「うわ、スゴいな」

「肯定。ワタシはスゴいデス」

「しゃべった。少佐の声だ」

「ちょっとアナタ、本当に『チラウラノート』なの?」
 仁奈は怪訝そうに聞いた。

「肯定。ワタシはノートデス」

「何にでも変身出来るの?」
 静流はノートにそう尋ねた。

「肯定。マスター」

「うはぁ、今、僕の事『マスター』って呼んでくれた!」

「肯定。マスターは『ワタル2世(仮)』様デスから」

「ん? 何ですって?『ワタル2世(仮)』とは?」
 少佐は聞き逃さなかった。

「回答不能……デス」
 この場合、AIがうっかり口を滑らせたと解釈するのが自然である。

「『ワタル2世』ってやっぱ、アノ方の事ですよね?」

「静流クン、どうやら私の仮説は正しかったようね」

「どういう事ですか?」

「第一にアナタは五十嵐ワタルの血を引いている事。次に『(仮)』が付いているのは、アナタはまだ
『その域』に達していないという事よ」

「なるほど。という事でありますと、このノートは静流様の『しもべ』という事でありますね?」

「肯定。私は静流様の『しもべ』でアリマス」
 どことなく佳乃の口調がうつっている。

「ハイハーイ! 姿をチェンジしたい時は、どうやるの?」
 リリイはアマンダノートに質問した。

「ココにイメージを送るでアリマス」
 アマンダノートは自分のオデコを指した。

「静流様、『ワタル2世』と『しもべ』と来れば、やっぱアレでありますよね?」
 佳乃は静流に思ったことを素直に聞いてみた。

「へへ、わかっちゃいます? ねえキミ、こんなのどうかなぁ?」
 静流はアマンダノートのオデコに自分のオデコを付けた。

「【トレース】パァ」
 アマンダノートはそう言うと、スライム状になり、みるみる形が変わった。

「そうそう、コレだよ!」

「お呼びですか? 静流様」

「うはぁ、声まで再現出来ているであります!」
 静流と佳乃は興奮度MAXであった。他のものは、

「この『しゃべる黒豹』が何なの?」

「アレでしょ? またマンガよね?」

「正解。でも、正確には黒じゃなくって、ダークグレーでオーダーしましたけど。大人の事情?ってやつです」
 よく見ると確かにダークグレーである。

「だったら静流クンのトレードマークで、桃豹とかは?」

「それもアウトでしょう? 海外にありましたよ?」

「確かにその様なマンガがあったわね? 確か『四つのしもべ』を従えて、巧妙に隠されている塔に住んでいるってヤツ?」

「少佐、よく知ってますね?」

「その認識でおおむね合っています。『ワタルの塔』は異空間に今もあります」
 黒、もといダークグレーの豹が答えた。濃灰豹とでも言うのか。

「キミ、さらっとスゴい事言うね? そう言うのって回答不能じゃないの?」
 仁奈が驚いてそう言うと、

「冗談という認識でお願いします。テヘペロ」 

「AIも冗談って言うんだ。お茶目ね」
 存在自体が冗談みたいなものにもはや驚くこともない。

「まあ、デスマスのロボットボイスじゃなくて、オジサマボイスになっただけ、イイんじゃない?」
 リリイは率直な感想を述べた。

「名前は募集中として、デフォの姿はダークグレーの豹でお願い。イイかな?」

「了解しました、静流様」

「くぅぅ。もうこれで十分です。お腹いっぱい」
 静流は濃灰豹のオジサマボイスにうっとりしている。

「こんなにデレている静流様は、初めて見たであります」

「女の子にもこんな態度とってもらいたいわね」
 静流は、どこかの動物好きな映画監督の様に濃灰豹をよーしよしよしと可愛がっている。

「何さ! 静流のバァカ!」
 オシリスはデレデレの静流を見てそう言った。

「ん? オシリスちゃん、妬いてるのかなぁ?」

「ち、違うもん! もう寝る!」
 リリイに突っ込まれ、図星だったのかオシリスは不可視化した。

「驚くのはまだ早いわよ?」
 少佐は一冊の本「日本の試作拳銃」を手に取った。

「あと用意するのは、これ」
 次に少佐は守衛が使っている38口径のリボルバーを用意した。

「そんな本と拳銃で、どうするんですか?」

「こうするのよ。ちょっと来てちょうだい」

「はい、少佐殿」

「んふぅ。確かにイイわね、コレ」

「あげませんよ?」
 静流は全力で否定した。

「ちょっと、本に戻りなさい」

「かしこまりました。少佐殿」ポンッ
 濃灰豹がノートに戻った。

「こうして使うの。【スキャン】」ベー
 ノートからレーザー光線が出て、開いたところの部分を凄い速さでスキャンしている。

「はい終わり。静流クン、【ダウンロード】よ」

「はい、【ダウンロード】ポゥ」
 静流の目が緑色に変わり、物凄い速さで内容を吸い上げる

「次にこう言うのよ【コンバート】」

「はい、【コンバート】ポゥ」
 すると、リボルバーが緑色のオーラに包まれ、やがて形が変わった。 

「え? ナンブ式……かな?」

「うひゃあ、試作の『ダディーナンブ』じゃない! レア中のレアよ!?」

 リリイは目をキラキラさせながら、ダディーナンブを手に取った。
 ダディーナンブは正式には『ナンブ式拳銃(大型甲)』であり、銃身が長く、脱着式ストックを装備し、照尺もタンジェント方式になっている。つまり、遠距離射撃用である。

「うはぁ。使えるわよ。コレ」
 リリイは興奮しながら質感を味わっている。

「コンバートに成功したものは、消えたりはしない」

「凄いじゃないですか? もっとやりましょうよ」

「改良する場合はそれを糧にコンバートすればイイの。単純でしょ?」

「何です?そのチート能力」

「この能力は『錬金術』のたぐいと思ってイイわ。ノートは『最適化』を行っているという事」

「対価と釣り合えば何でも可能なの?」

「勿論、失敗も当然あるわよ?」

「次は『マミーナンブ』やろうよ。ムフ」
 リリイはさらなるレア武器を生み出そうとしている。

「連続はダメなのよ。クールタイムが必要なの」

「どの位ですか?」

「それが、物によるみたいでね。どうなの? クロちゃん? グレちゃんかしら?」
 ひと仕事終え、デフォの濃灰豹になっているノートに声を掛けた。

「この程度であれば、1時間程です。少佐殿」

「ちょっとアマンダさん? 勝手に名前付けないで下さいよぉ」
 静流は頬を膨らませて怒っている。

「あくまで仮称よ。気にしないで」

「面白そうじゃない? じゃあ手あたり次第スキャンすれば、もしかして?」

「具現化出来るかはこの子が成功率で教えてくれるわ。ただし」
 リリイの提案に少佐はやんわりと否定した。

「ただし、何ですか?」

「やはり、物によるって事。【コンバート】するには、同じくらいの質量と魔力が必要なの」

「そっか。やっぱりそう上手くいかないですよね。でも面白い事は間違いないです!」パァ
 静流は笑みを浮かべた。

「でもこのクロマティ、使い方次第でとんでもない事になりそうね」
 仁奈は考え込んでいる。

「もう、仁奈さんまで勝手にぃ」

「ヤバいって事でありますか? 仁奈先輩?」

「まあ、そう簡単にはいかないでしょうから心配しすぎかしらね?」

「ええ。平均成功率は三割だって言ってましたよ? あと、拒否される場合もあるとか」

「悪用は出来ないようになってるって事かな? それをAIが判断してるとか?」

「まあ、全て手書きじゃなくてもイイのは助かるよね」
 リリイはホルスターを兼ねているストックに銃をしまいながら言った。

「コホン、さてここからが本題よ。今回私が構築した、転移魔法についての成功率は85%だったわ」

「凄いじゃないですか? 僕がやった時は45%でしたよ」

「苦労した甲斐があったみたい。じゃあ、説明するわ。外に行きましょう」
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