上 下
89 / 516
第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード30-6

しおりを挟む
流刑の街―― 廃墟マンション
          
「塔に行くのは明日にしなさい。夜は視界がほとんどゼロになるし、サンドワームは夜行性なのよ」

 モモが夜にドーム外に行く危険性を説明し、塔の本格的調査は明日となった。

「アマンダさんに報告しとかないとな。念話、使えるかな?」
「モニター室を使いなさい。今日は砂嵐が来てないから、オシリスに補助してもらえば、通信は出来るはずよ」
「ありがとう、伯母さん」

廃墟マンション―― モニター室
 
「ここで伯母さんはモニターしてたんだ」
「そうみたいね。私を触媒に使ってたみたい」
「よし、試してみるか」

〔アマンダさん、応答せよ〕
〔ん?静流クン? どうしかたの?〕
〔感度良好、みたいですね〕

〔静流、むこうのモニターとリンク出来そうよ?〕
〔アマンダさん、液晶パネル、オンにしてもらえますか?〕
〔わかった。あ、写った。静流クゥン!〕
〔こっちでも見えてますよ。状況報告をしたいのですが〕
〔え? コホン。で、状況は?〕

〔学園七不思議は解決しました〕
〔ご苦労様〕

〔【ゲート】の修復も完了しました〕
〔うんうん、それで?〕

〔今は【ゲート】の向こう側にいます〕
〔やったじゃない! で、塔は見つかったの?〕
〔ええ。明日、調査します〕
〔うはぁ、何このトントン拍子感〕

〔あと報告があるとすれば……〕
〔何? バッドなニュース?〕
〔いえ、グッドなのかな?〕
〔何よ、早く言いなさいよ〕

〔黒竜ブラムを、『懐柔かいじゅう』しました。怪獣だけに〕

〔何それ? 笑えないジョークね?〕
〔うわぁ、スベった。ホントなんですよ、主従契約を結びました。もちろん僕が上ですよ?〕

〔あなたって子は、いつも予想のはるか上を行くのね? でも心強い味方が出来たって事でしょう? よかったじゃない〕
〔そうなんですよ。なので、明日には結果、出そうです!〕
〔楽しみにしてるわ。じゃあね〕
〔はい、通信終わります!〕ブチ

「報告終わり。アマンダさん、飛びあがって喜んでたよ? 子供みたいに」

 少佐もことのほか喜んでくれているようだ。

「それだけお手柄だった、って事でしょ?」
「へへへ、そうかなぁ」

 オシリスに労をねぎらわれ、照れながら頭を掻く静流。


              ◆ ◆ ◆ ◆


 寝る時間となり、それぞれに用意された部屋に移動した。
 薫子Gは、リナや雪乃、忍用に用意された部屋にいた。

「みんなでザコ寝なんて、ひさしぶりだわぁ」
「思念体でも眠くなったりするんですの?」
「ううん、そうじゃない。昔の事を思い出してたの」
「そういやあ昔は、こうしてザコ寝してたもんな」
「私は……静流と一緒に寝たい」
「それはダメ! 静流は兄さんと寝てもらう。夜這い禁止ね?」
「むぅ、わかった」

 薫子Gの布団の中から、もこもことブラムが出て来た。

「ん? ブラム? いつの間に?」
「ねえ、カオルコって、ウチと同じ雰囲気だよね?」

 ブラムは薫子Gを凝視している。

「ええ。だってワタシは、あなたのタマゴから生まれたんだから」
「うぇ? だってウチ、暫くタマゴ産んだ記憶、無いけど!?」 
「経緯はわからない。でも事実よ」
「じゃあ、ウチの娘って?」
「ワタシよ。お母さん」
「ちち、ちょっと慣れてないから、お母さん呼ばわりは止めてくれないかな?」
「わかったわ。ブラム」
「それでイイ。でも、カオルコの髪は桃色だよね? どういう事?」

 そう言ってブラムは、腕を組み、うなった。

「私、生まれてから兄さんに助けてもらうまで、研究施設にいたから、何かされてるんじゃないかしら?」
「むう。記憶、消されてるのかな?」

 ブラムは研究施設の記憶は全く無かった。

「そう言えばアナタは、5番目だったはず」

 突然思い出したのか、忍がブラムを見てそう言った。

「良く知ってるね。ウチがワタルの5番目だったって」

 ブラムは忍を見て、そう言った。

「ワタシは3番目だった。前世で」
「3番目? あなたアカリ、なの?」
「そう、らしいわ」
「奇遇ね? 前の旦那様が同じ、なんてね」バチ
「全く同感。現世でも負けない」バチバチ

 ブラムと忍がにらみ合っている。

「ちょっと二人共、喧嘩なんかしたら、静流が困るでしょ?」
「大丈夫だよカオルコ、喧嘩なんか、しないよ?」
「ただ、にらめっこしてるだけ。心配ない」

 二人はガンを飛ばしながら、引きつった笑みを浮かべ、そう言った。

「とてもそうは見えないんだけど」


              ◆ ◆ ◆ ◆


 一方女性軍人たちにあてがわれた部屋では、

「気になるのは、先ほど話題にあった『元老院』だな」
「そんな機関が存在するなんて、自分も都市伝説だと思っていたであります」
「好かんな、一体何が目的なのだ?」
「恐らく、『黄昏の君』を復活させようとしているんだと思います」
「英雄をか。今更英雄が復活したって、何も変わらんだろうに」
「戦争でも起こそうとしているんでしょうか?」
「まさかな。元准将閣下に相談してみるか。あの方なら何か知っているかもしれん」

 女性軍人たちは、布団を敷きながらそんな事を話していた。

「それより佳乃、また厄介な子が増えたわね?」
「全くであります澪殿、前途多難、であります!」

 二人の女性軍人たちは、顔を見合い、また落胆した。

「何を悩んでおるのだ? 私たちにはヤツらには無いものが、あるだろう?」
「何ですか? それって」

 隊長は自信たっぷりにそう言うと、萌が乗り出して来た。

「『女の色気』だ! フハハハ」

 隊長は腰に手をやり、大きくのけ反った。

「はあ。隊長、実におめでたいでありますなぁ」
「肉付きなら私も負けてないけど、そう言うのじゃないのよね」
「先輩たちって、もしかして静流様と、どうにかなりたいんですか?」

 萌は今頃そんな事を聞いて来た。

「んん? 何の事かなぁ?」
「さて、何の事でありますかね?」
「わかりやすいリアクション、どうも」
「薫はどうなんだ? アイツもかなりイイ線いっとると思うが」
「確かに、数年後の静流様は、あんな感じなのかもしれないんですけど、何か違うんですよね」
「あの人って、何でも出来ちゃう感じ? 助けは要らない、みたいな?」
「他者を寄せ付けない、孤独なヒ-ローのようでありますな」
「とりまきが二人いますし、ただならぬ関係みたいな感じも」
「あんなもん、押し倒してしまえばイイのだ!」
「そう言うワケにはいきませんよ。双方の同意が無いと」
「お堅いヤツめ。行き遅れるぞ?」
「グッ、刺さるなぁ」
「ピンポイント、であります」

 澪と佳乃は、左胸を押さえて苦しむフリをした。


              ◆ ◆ ◆ ◆


 男どもの部屋は、静流と薫であった。

「薫さん、やっと会えましたね」
「ん? 探してたような口ぶりだなぁ、静流」
「探してましたよ? 今思うと、伯母さんがSOSを出していたんだなって」
「母さんか。あの人も苦労人だからなぁ」
「伯父さん、庵さんって今は?」
「行方不明。お前んとこもそうだろ? 静叔父さん」
「二人共同じ時期なんて、何か関係があったりして?」
「さあな。ヘマやって、どっかでくたばってなけりゃあイイんだがな」

 天井を見ながら、二人は父親を想った。

「薫さんの仕事って、何をなさってるんです?」
「ここにはな、静流たちが使った固定ゲートの他に、もう一つ固定ゲートがあるんだ」
「それって、やっぱり異世界ですか?」
「ああ。コテコテの異世界だ。恐らく前の管理者が作ったんだろう。モンスターがいて、冒険者がいる」
「薫さんも冒険者ギルドとかに在籍してるんですか?」
「おうよ。俺はランクS、リナたちは、ランクAだ」
「スゲー! まんまロープレじゃないですか?」
「ただし、ゲームじゃない、現実だ。やられたら死ぬ。俺だって死にかけた事もあるんだぞ?」
「そうか、つまり、デスゲームって事か」
「お前が倒したって言うレッドドラゴンも、恐らくそこの世界から迷い込んで来たんだろうな」
「あんなのがうじゃうじゃいたら、命がいくつあっても足りないよ」
「ソイツ位のレベルになると、それほど出現頻度は多く無いな」
「そうなんだ。ちょっと安心した」
「とにかくギルドから依頼が来る、クエストをこなす。そんで金を稼ぐってわけだ」
「そっかぁ。行ってみたいです」
「おう。静流なら大歓迎だぜ!」

 静流は、目をキラキラさせて薫の話を聞いている。

「そう言えば、ほのかさん、でしたっけ」
「ああ、アイツがどうかしたか?」
「いつか、【ゲート】が思うように構築出来るようになったら、僕も行ってみたいな、ほのかさんがいる世界に」
「おう、期待してるぜ、静流」
「はい、頑張ります」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生チートで夢生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:4,873

異世界イチャラブ冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:1,775

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,195pt お気に入り:2,120

生徒会総選挙が事実上人気投票なのって誰得か説明してくれ

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:257

異世界召喚戦記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:688

姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

闇の獣人 女神の加護で強く生き抜きます(18禁)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:247

【5月25日完結予定】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:201,193pt お気に入り:12,351

処理中です...