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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード41-9

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Cスタジオ ――

 見学目的で入ったCスタジオで、スタッフたちに質問攻めにあうも、的確にアドバイスをするユズル。
 右京はそんなユズルを見て、尊敬というより敬慕と言った方が当てはまりそうな眼差しを送っている。
 そんな事をやっていると、技術スタッフらしき人に声を掛けられるユズル。

「え? 僕の変身フォームをキャプチャーしたい、ですって?」
「是非頼むよ。ゲームのCGチームが、キミの完璧な変身フォームをベースにしたいらしいんだ」
「ちょっと待って下さい、右京さん、どうしましょう?」
「う~ん、とりあえずミフネの方に連絡を入れましょう。梨元さんなら私も知ってますから」
「お願いします」

 右京はそう言うとポケットから端末を取り出した。ユズルの目に、待ち受け画面がチラッと見えた。

「右京さん? その待ち受けって? まさか」
「ああ、コレですか? サムライレンジャーですよ。しかもダッシュ7です! スゴいでしょう? んふぅ」
「あの、サムライレンジャーは、まだ商品化してないハズなんですが……」

 何故、右京がこの生写真を持っているのか、さっぱりわからないユズル。

「ユズル様、動画、見ましたぁ?」
「え? まさか、アノ動画って?」
「へっへーん。私が編集したんですよ? 結構イケてましたでしょう?」
「右京さんが? リリィさん、プロの方に依頼してたんですか?」
「ええ。パイロット版を以前見かけて、同朋から新しいPVを作るという情報があった時、真っ先に手を挙げました」
「道理で完璧なエフェクトだったわけだ」
「素材はリリィ殿から提供されたものを使ったんです。それで、その時の報酬がこのブロマイドだったんですぅ。むはぁ」

 そのダッシュ7の生写真は、いつぞやのビンゴの景品だった事を思い出したユズル。

「それで、サムライレンジャーの今後の展開はどうなんですか? ユズル様ぁ?」
「う~ん、あれは余興でやった程度なので、コミカライズとトレーディングカードぐらいしかまだ企画はありませんね」

 『浪人ギア』は実戦用に開発した、とは表向きには言えないので、そう言う事にしている。

「是非、シリーズ化して欲しいです! 地上波で♪」フーフー
「無理です! 一部の設定が18禁レベルでしょうに」
「深夜枠ならイケそうですけど。おっと電話でしたね」

 右京は、梨元に先ほどのスタッフとのやりとりを説明し、対応を確認した。

「あーはい。わかりました。では」
「どうでした?」
「スゴく喜んでましたよ?『早くも仕事が舞い込んで来たぁー!』って。クス」
「そうですか。何だか話が大きくなっちゃったな……」
「細かいのはそちらで詰めるって言ってましたから、任せちゃえばイイんですよ。プロなんですから」

「そうですよね。いやぁ、右京さんがいてくれて、ホント助かりました」パァ
「ふぐぅっ……不意打ちは卑怯、ですよ?」

 右京は、二度目のニパを食らい、後ろに倒れそうになった。 




              ◆ ◆ ◆ ◆




 その後も、スタッフに的確なアドバイスを送り、作業がひと段落した。

「いやあ助かったよ。第一世代のライダーって、ライブで知ってるの、君のお父さん位だからね」
「どうも。あ、でも最近のライダーも見てますからね?」
「ありがとう。さぁ、もうひと踏ん張りだ。このあと殺陣をやるから、好きなだけ見てってくれ」
「え? イイんですかぁ?」パァ
「勿論、キミなら大歓迎だ」

 殺陣、とは実際にヒーロー役がコスチュームを装着し、敵役と格闘するシーンの事である。
 通常、コスチュームを付けるのは、運動能力抜群のスタントマンである。
 ユズルたちの前で、歴代のライダーが数十人単位で並んでおり、スチール撮影をしている。

「うわぁ、コレだけ揃うと、壮観だなぁ」
「そうでしょう? 何せ、『レジェンド』ですから」
「あれ? Vシネでしか出てこないライダーもいますよ?」
「当然です♪ 例外は無し、ですからね!」

 次々にライダーを言い当てるユズルに、周りのスタッフも感心している。

「大したもんだ。ウチに欲しいね」

 年配のスタッフがそう言うと、中堅のスタッフが右京に耳打ちした。

「右京ちゃん、しっかりキープしとくんだぜ?」コソ
「んもぅ、ユズル様はそんな方じゃありません!」コソ

 そんなやり取りをしていると、ユズルが首を傾げている。

「どうしたんです? ユズル様?」
「うーん、あのデザイン、どっかで見たなぁ……」
「わかるかい? 実はね、アレは今回の目玉、完全新作のライダーのひとりなんだよ!」
「新作? でも、これに似た設定画を見た記憶が……」
「コレだろう? キミが言ってるのは」

 そのやり取りを見て、下屋敷Pが資料をユズルに渡した。
 後輩である荒木・姫野コンビと、学園の生徒サラ・リーマンで共同制作した薄い本『無免ライダー8823ハヤブサ VS サムライレンジャー』であった。

「こ、コレは、僕の後輩たちが作った『薄い本』……」
「そうだったのか? 偶然にしちゃあ出来過ぎだね。ハハハ」
「まさか、完全新作って?」

 ユズルは額にうっすら汗がにじんだ。

「そう。『無免ライダー 8823ハヤブサ』」だよ」

「うえぇぇぇ!?」

 それを聞いたユズルは、驚きで後ろにのけ反りそうになった。

「まぁ、主役は別に用意してあってね、出番はほんのチョットで、変身後だけなんだけど」
「ん? 確かに見たこと無いライダーもいますね」
「今回、新ライダーを一般公募したんだ。8823も選出された内のひとりって事」
「いつの間に応募したんだ? あの子たちは……」
「いや、8823は他薦、というかスタッフからのイチ押しでね」
「そうだったんですか。喜ぶぞ、あの子たち」
「じゃあ、『アノ集団』と知り合いなのかい? キミは」
「え、ええ。まぁ」
「版権とかの交渉も、若いのに手慣れたもんだったって言ってたよ。商才あるんじゃない?」
「は、はぁ、どうも」
(この手回しの良さ……さては、睦美先輩とリリィさんだな?)

 顎に手をやり、黙考していると、スタッフから更に驚く話を聞いた。

「ライダーも去る事ながら、サムライレンジャーの方がむしろ注目されてるよね?」
「な、何ですって?」
「何でも、アメリカの一部で自然発生したらしいんだよ『サムライブーム』がね」
「そ、そうなんですか?」
(あ、アンナの実家の件か……)

 以前、アメリカの田舎町にある、アンナの実家のファミレスで強盗騒ぎがあった時、『浪人ギア』を使って犯人を制圧したことがあった。
 ユズルは、ミフネの梨元のように顔から冷や汗がどっと噴き出ている。

「それで、あちらの制作会社から映像権を買いたいって、ウチにメールが来たらしいんだけど、とりあえず保留にしてあるんだ。折角のチャンスだからね、『違います』って即答は出来なかったみたいだよ」
「それはまた、随分スケールが大きい話ですね?」
「ああ。コレが実現したら、ものスゴい事になるだろうな」
「スゴいじゃないですか!? ワクワクしちゃいますぅ」

 今の話を聞き、右京も興奮してクルクル回っている。

「プレゼンは成功だったんだ。 ああ、素晴らしい!」
「マズいですよ、あんなもんが海外で!? ありえませんって、プレゼン?」
「リリィ殿、向こうのプロデューサーにPVを送ったらしいですよ?」
「アレを!? あんなもの、お茶の間にはふさわしくないです! 18禁でもおかしくないのに……」

 ユズルの顔面が青く変わり、冷や汗が止まらない。
 そんなユズルに、右京は自信たっぷりに言った。

「フッフッフ。ユズル様、その点は問題ありませんよ♪」
「何でそんなに余裕なんです? 右京さん?」
「アチラが騒いでる方は『別テイク』なのですから。ンフ」
「別テイク、ですか?」
「日本の戦隊モノを海外に輸出する場合を想い浮かべて下さいよ」
「あ、そうか。変身前は外人さんがやってて、変身後の戦闘シーンは日本のに替えるパターン、ですね?」
「そうです!『別テイク』のPVは、アノ動画に少々手を加えて、ユーザーの趣向に合わせたものになっています」
「アレを子供向けにアレンジしたのか。どんなのか気になりますね」
「突貫で作ったので、いろいろツッコミはあると思いますが、手ごたえアリだと思いますよ? ご覧になりますか?」
「ええ。是非ともご覧になりたいです」

 複雑な表情でそう言ったユズルに、右京は少し引き気味に言った。

「で、データ、メールしときますね。 観た後、感想などもお願いしたいです」

 右京にこれまでの話を聞いて、ユズルはリリィたちの思惑に、やっと気付いたようだった。

「つまり、表向きはソッチの設定で、本来の設定は『二次創作』扱いになるわけだ」
「そうです。そこがミソなのです! 絶妙に計算され尽くした、どちらもウィンウィンの関係なのです」
「なるほど。僕にとってもソッチの方が都合がイイですね。さすがです」
 
 ユズルは、睦美たちの手腕に、尊敬を通り越し呆れるほどであった。

「お子様風情に、我らが静流様を晒すなど言語道断ですから!」フンッ
「右京さん、それって解釈次第ではヒドくないですか? ちょっと傷付きましたよ……」
「ユズル様? 曲解しないで下さいね、静流様の素晴らしさを理解するには、お子様にはまだ早いと言う事ですよ?」
「お子様に見せられないヒーローなんて、ちょっと複雑ですよ……」

 ユズルはそう言うと、先ほど迄のテンションが通常のレベルまで下降した。  

「大丈夫。支持層の年齢が若干高いだけです! とにかく、静流様は二次創作でなければならないんです!」フーフー
「わ、わかりましたから。そう熱くならずに」

 熱っぽく語る右京や、周りのスタッフたちに、ユズルはクリエイターたちの創造力の凄さを垣間見て、圧倒されっぱなしであった。

「これが『ものづくりの力』か……」
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