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第8章 冬が来る前に

エピソード44-4

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ダーナ・オシー駐屯地 司令室――

 クリス司令と会談を始めるアマンダたち。

「今回の訪問は、初回の前の事前ヒアリング。内容によっては、辞退する事も了承していますね?」
「十分、承知しています。でも。こうして入札して下さった」
「他の業者は入札後に即辞退してるみたいね。まるでココに獲らせようとしているみたいに」
「そちらもある程度抵抗なさったみたいですが、どうして受ける方向になったんです?」

 クリスとアマンダの、腹の探り合いが始まった。

「気まぐれ? かしら? ココは何せ、閣下の御心次第ですから。フフフ」

 アマンダは、勝ち誇ったような振る舞いで、そう答えた。
 
「私どもは、とにかく閣下のお力をお借りしたい一心で、仕組ませて頂きました」

 そう言ってクリスは、エスメラルダに頭を下げた。

「ああ、そうかい。で、何をやらせようって言うんだい?」
「へ? お聞きになっていない……のですか?」

 クリスの顔はみるみる青くなり、冷や汗が噴出している。

「何だって言うの? だって詳細は非公開だったでしょう?」

 アマンダも状況が把握できず、焦りが混じった顔になる。

「太刀川の、宗方ドクターには、ウチの者に説明させたはずなのですが……」
「そう言えばごにょごにょ言ってたわね……すっかり忘れてたわ」
「では、内容については?」
「全く。回復術のサポート以外に、何をやらせようとしてるの?」
「じ、実は……」

 クリスは、今回の依頼についての詳細を説明し始めた。




              ◆ ◆ ◆ ◆




厚生施設内 喫茶『アッセンブルEX-10』

 部下たちも今回の依頼の詳細を聞かされていた。

「ふむ。隊長さんがそんな事に……」
「いつぞやにお見かけした際は、その様なそぶりは微塵も感じませんでしたが……」

 レヴィは以前、MTの技術交換研修に付いて行った事があり、その際に『カラミティ・ロージーズ』たちの模擬戦を見かけている。
 対戦相手は、郁や澪のいる、『ブラッディ・エンジェルス』であった。
 大将戦でわずかに勝っていた郁に、軍配が上がった。

「3,4年前の模擬戦? いらしたのですか? いやぁ、お恥ずかしい限りです」
「ご謙遜を。こちらのMTは、四つ足タイプ、ビースト系でしたよね? 他のMTとはまた違った運動性能でしたよ?」
「それで、あれからまた派生が誕生して、今は『ドラゴン系』の開発が盛んになっています」
「ドラゴン? と言いますと、二足歩行に飛行性能を兼ね備えた? とか? MT専門誌『二重丸』にもそのような記事は覚えがありませんが?」
「当然です。何せ『機密』ですから」
「でもさぁ、ウチ、『魔導研究所』にもそんな情報来てないよ。一応兵器開発もやってるんだけどなぁ」

 リリィには初耳だったようで、少し悔しがっていた。

「そちらだって、いろいろありますでしょう? リリィ殿? ムフ」
「な、何……かなぁ? 多すぎてわかんないや」

 そんなリリィに、瞳はニタリと微笑みながら、一枚のチラシをリリィの前に出した。

「コレを見ても、シラを切れますかね?」
「ん? どひぃ! どうしてコレを? 正式な配布はまだ先のハズなんだけど……」
「私にも、ツテはあるんです。ムフフ」

 瞳が見せたチラシは、例の隊員募集のA4サイズのチラシである。
 静流が戦闘ヘリ『ジェロニモ』の席に立ち、ヘルメットを小脇に抱え、桃色の髪をなびかせている写真である。

「五十嵐静流様、で間違いありませんね? リリィ殿?」
「え? さぁて誰だろう? あ、ほら、ここに書いてあるじゃんよ、注釈」

 リリィが指摘したのは、このポスターを巡り、郁が上層部と掛け合って付け足した一文、『このキャラクターはフィクションです。実在の人物・団体等とは、全く関係ありません』と言う、ドラマ等でよく見る文言であった。

「彼は、『ドラゴンスレイヤー』ですね?」

 瞳は、自分の情報に確信をもっているようである。
 夏樹がその後に付け足す。

「アスガルド駐屯地において、『レッドドラゴン討伐作戦』に従事された民間人、ローレンツ閣下の秘蔵っ子とも言われていますが?」

 これらの指摘を受け、リリィは溜息をつき、お手上げのポーズをとった。

「そこまでわかっちゃってるんなら、隠す必要無いか。うん。静流クンで間違いないよ♪」
「やった! 噂は本当だった!」
「これで、『姫様』にご報告が出来る!」

 夏樹たちは手を取り合って、喜んでいる。

「『姫様』?」
「リリィ殿、こちらの隊長さんの事ですよ」

 今のやり取りを見ていたケイが、そのチラシをふと見た。

「ん? あ、神様だ! 私、この子に会ったよ♪ 太刀川でね」


「「「「な、何ぃぃぃぃ!!」」」」


 ケイの上司二人に加え、リリィたちも驚愕の声を上げた。

「ど、何処で会ったのかな? ケイちゃん?」
「太刀川駅の近く。私が酔っぱらってたのを助けてくれたの。女神様みたいだったよ。桃色のオーラがポワァ~って」

 ケイの発言から察したリリィたちは、素の静流に実際に遭遇したらしいと判断した。

「す、スゴくラッキーだったね。静流クンって、巷では『歩く都市伝説』って言われてるくらい、ミステリアスボーイなんだよ?」
「しかも、『施術』を受けたようですね。その後の体調は如何ですか?」
「それがね、魔力が増えたり、苦手だった基礎回復魔法が上達したの♪」

 そう言ってホクホク顔のケイに、夏樹は問いただした。

「それは、シズルー大尉殿の施術でしょう? そんな話、初耳ですよ!?」
「それ、シズルー大尉が基地に来る前だもん。あ、報告してなかったかも?」

 首を傾げているケイに、ヘッドロックをかます瞳。

「ケイ!? アンタって子は!」 
「ず、ずびばぜん」

 瞳にグリグリやられているケイに、リリィは聞いてみた。

「とにかくそれで、『奇跡』を起こそうと仕事の依頼をしたんだね? ケイちゃんは」
「そ、そうであります。ぐぇ」




              ◆ ◆ ◆ ◆



司令室――

 クリス司令から仕事の詳細を聞かされたアマンダたち。

「如何でしょう? 受けて頂けるのでしょうか?」

 若干不安そうなクリスに、アマンダは前もって決めていた合図をエスメラルダに送る。
 すると、エスメラルダはゆっくりと口を開いた。

「ウチの息子たちを貸すんだ。それ相応のもの、用意出来るんだろうね?」

 アマンダと前もって決めていた定型句を、エスメラルダは正確に発した。

「ええ。ご満足いただけるかと」

「そうさねぇ、MTを一台都合してもらおうか?」

「試作機であれば。勿論武装は外しますが、整備は万全です! 通常の土木工事や、災害時の救助活動にも、大いに役立つと思います!」

 予想をはるかに超えたクリスの発言に、エスメラルダはフリーズしている。
 すかさずアマンダは念話を繋ぐ。

〔私の言う通りに言いなさい〕
〔御意〕

「そこまでの覚悟、気に入った。受けてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」

 エスメラルダの返事に、クリスは感激の余り、泣きそうになっている。

「だだし、こっちにも条件がある」
「何でしょう?」
「この案件、魔法関係は勿論、医療、はてはオカルトのスペシャリストを招集する。追加予算、覚悟しときな」
「ははぁ、肝に命じます」

 かくして、発注を正式に受諾する事となり、立ち上げ後、初仕事となったPMC『ギャラクティカ・ミラージュ』の運命は如何に?
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