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第8章 冬が来る前に

エピソード47-2

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ダーナ・オシー駐屯地内 診療所 ココナの病室――

 覚醒し、何者かに憑依されているココナは、シズルーに聞いて来た。

「そなたは、ドラゴンスレイヤー殿か?」
「何だ? それは」
「竜をほふった事があるか? と聞いておるのだ」

 ココナの問いに、夏樹たちが反応した。

「ドラゴンスレイヤーですって? 大尉殿が?」コソ
「静流様以外にも、存在したのですか? 少佐殿?」コソ
「アナタたち、静流クンを知っているの?」コソコソ
「リリィ殿に聞きました。大丈夫です、極秘情報なのは承知しております」コソコソ 
「アイツめぇ。大尉は五十嵐家にゆかりのある人よ」コソ
「えっ? 成程」コソ

 シズルーに対し、意味不明な事を言うココナにの前に、ルリが割り込んだ。

「ココナ! 私よ、ルリ。わかる?」
「む? お前か。器の記憶には確かにいるな。だが今はお前に用は無い。下がっておれ」
「ココナ? 本当にどうしちゃったの?」
「ええい、やかましい! 私はこの御仁に用があるのだ」
「くっ!」

 ルリは一瞬迷ったが、一旦引く事にした。
 目の前にいた障害物がいなくなったと見て、ココナはシズルーを見て言った。

「もう一度聞く。そなたはドラゴンスレイヤー殿か?」

 ココナは品定めをする様に、シズルーを舐める様に見た。

(ん? 確かにあるな。レッドドラゴンを討伐した経験が……)
 アスガルドでの一件を思い出した静流。

「あるとしたら、何だ?」
「私と……勝負をしろ」

 ココナは、腰に手をあて、自信満々にそう言った。
 シズルーは鼻で笑い、ココナに言い放った。

「フッ、あいにく病床でふせっている者と勝負する趣味は無い。他を当たってくれ」

 シズルーはそう言って、きびすを返し、病室を出ようとした。

(良し! 決まったぞ! さぁて、逃げるか)

 クールに決めたつもりの静流だが、内心は心臓バクバクであった。

「ま、待て、待ってくれ」

 するとココナは、必死にシズルーを引き留めようとした。

「何だ? まだ私に用か?」
「そなたに、頼みたい事がある。何、簡単な事だ」
「聞くだけなら構わん。言ってみろ」
「感謝する。ドラゴンスレイヤー殿」 

 シズルーはココナの前に立った。

「頼む、私を殺してくれ!」
「何、だと?」
「楽になりたいのだ! 頼む!」

 状況が目まぐるしく変わり、周りの者も思考が追い付かない状態であった。
 アマンダがシズルーに『耳を貸せ』と呼び寄せ、ごにょごにょと耳打ちした。
 周りの者が『???』の状態の中、シズルーはココナに向き直った。

「おお、その気になってくれたか。とっとと済ませてくれ」
「済まん、さっきのは嘘だ。私はドラゴンスレイヤーとやらではない」
「何ぃ!? しかし、そなたのオーラ、確かにかつて感じたものだ……」

 ココナは、ワナワナと狼狽している。

「私は、生まれてこの方、ドラゴンなどと言ったものにはお目にかかった事は無い。残念だったな」
「そんな筈は無い! そなたはドラゴンスレイヤー殿に違いないのだ!」

 なおも食い下がるココナの横に、夏樹が近付いた。

「姫様、お許しを!」
「うぐっ!?」

 夏樹は、睡眠薬が入った注射針をココナの首筋に刺した。

「はぐぅ、おのれぇ、私は、諦めんぞ……」ガク

 ココナはそう言って気を失った。

「姫様、いえ隊長は【スリープ】ではすぐに目が覚めてしまいますので、睡眠薬を使っています」
「魔法より科学が役に立つケースもある、と言う事ね」

 夏樹は、ココナの乱れたアッシュブロンドの髪を手ぐしで整えてやり、手を組ませ布団の中に入れた。
 ココナは穏やかな顔で、静かな寝息を立てている。

「姉さん、どう思う?」
「そうね。医学的には何とも。神父? アンタの見立ては?」
「う~ん。確かに何者かに憑依されている様ですが、縛っているのはココナ様の方では?と感じました」

 カチュアの問いに、ジルは率直な感想を述べた。

「何ですって? 姫様が!? あり得ません!」
「で、ですからそう感じた、と言うだけです」

 夏樹がジルに迫ると、ジルはワタワタと弁明した。
 アマンダがジルに聞いた。

「神父様、ココで霊体を本体から引きはがすのは可能かしら?」
「それは危険です! 第一、こうなった状況がわかりませんので、無理やり【浄化】しても、ココナ様の精神に何らかの支障をきたす恐れが……」

 それを聞いた夏樹が、ジルたちに言った。

「あるサイコドクターも、それに近い事を言っていました。神父様、取り乱して申し訳ありませんでした……」
「いえ。それだけ部下に慕われているお方です。ココナ様にも、何かお考えがあったのではないでしょうか?」

 ジルがそう言うと、夏樹は瞳と頷き合い、アマンダたちに向き直った。

「皆さんに、お見せしたい物があります」 
 



              ◆ ◆ ◆ ◆




国分尼寺魔導高校 2-B教室――

 組ごとに各教室を見て回り、自分のクラスに戻って来た静流たち。

「ふう。やっと見終わったか……」
「あとは、自由時間に体育館を見ればコンプリートだ」

 教室が展示会場になっている為、生徒たちはところどころの床に新聞紙を敷き、そこに体育座りをしている。
 静流たちの所に、イチカが突然現れた。シュバッ!

「やっほうシズルン、真琴、ツッチーも♪」 
「イチカ!? アンタどこ行ってたのよ?」
「おわっ! おどかすなよ、篠崎?」
「しののん、生徒会のお使い?」
「うん、そんな所。それよりシズルンの絵、大好評だよ?」
「え? そんなに受けてるの?」
「それはそれは。オークションになりそうだって、殿下が言ってたよ」
「睦美先輩が?」
「うん。明日からの一般観覧次第だって」
「どれだけ跳ね上がるか、楽しみだな! おい」
「ふん、そう上手く行くかね?」

 静流は、いまだに自分の作品が高評価を得ている事が、不思議で仕方が無い。

「自由時間に、早速見に行こうぜ、巨匠♪」
「巨匠って……茶化すなよ達也、運よく大金が入って来ても、おごってやらないからな?」
「それは困る。機嫌直してくだせぇ、旦那ぁ」

 達也がもみ手をしながら、静流をいじり始めた。

「旦那ぁ、肩凝ってますねぇ?」
「イテテ、止めろって、わかった、わかったから」

 男同士でじゃれ合っている姿を見て、真琴は溜息をついた。

「何バカやってんのよ、もう」 
「イイなぁツッチー、羨ましい……」

 真琴たちの後ろにいた者が、ぼそっと呟いた。

「旦那様……か」

「「蘭ちゃん!?」」

 蘭子は、遠くを見ている様な目つきで、静流を眺めている。

「おい真琴、旦那様ってよぉ、つまり夫? 主人? 配偶者? 伴侶? ハズバンド? パートナー? って事だよな?」ハァハァ
「そ、そうだけど、相手を持ち上げる時にも使うよね?」
「そうか。そうだな。って、ち、違うぞ? アタイはそんな事、望んじゃいねぇって……」

 蘭子は顔を真っ赤にして、手をバタバタさせた。

「蘭ちゃん? あたし、まだ何も言ってないケド?」
「蘭ちゃん? 『お静ちゃん』は競争率、高いヨ?」
「う、うるせぇな……」

 真琴たちにからかわれ、蘭子は膝に顔をうずめた。
 



              ◆ ◆ ◆ ◆



体育館――

 自由時間となり、体育館に行く。静流たち一行は達也、真琴、シズム、朋子のレギュラーメンバーに加え、何故か蘭子が付いて来ていた。
 イチカは気が付くと、どこかに行ってしまっていた。 
 達也は体育館に着くなり、ドヤ顔でみんなに言った。

「どぉだい? スゲェだろ? 美術部の花形部長の作品だ!」

 体育館に入って先ず目に入るのは、高さ3mはあろうかと言う彫刻であった。

「ゲッ、あ、アレって!?」
「そう。お前と石動先輩がモデルをやった時のやつだ」

 彫刻は、古代ギリシャ人風の衣装を着けた静流と石動が、社交ダンスで言う『キメ』のポーズのようになり、見つめ合っている。
 当然攻めは石動で、受けが静流であった。
 この彫刻は以前、美術部の部長である花形実から、常時発動型魔法【魅了】LV.0 を抑え込めるコンタクトレンズを報酬に、モデルのバイトをやった時のものである。

「どうして、コレが出品されてるんだ?」

 花形の正確な技法で、あからさまに自分と石動だとわかる彫刻に、静流は困惑した。
 そして、この男もそれは同様だった。

「フム。俺にもわからんのだ。何故、俺がキミとあんなポーズを取っているのか……」
「い、石動、先輩!?」

 いつの間にか静流たちの近くで、腕を組んで彫刻を見ている石動あきらがいた。
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