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第8章 冬が来る前に

エピソード47-4

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ダーナ・オシー駐屯地内 第九格納庫――

 シズルーたちは、竜崎ココナが手掛けていた計画、『プロジェクト・モビル・ドラグーン』の試作機を見学していた。
 そこで、ありえない事が起こったようで、万里がうろたえている。

「おかしい、ぜーったい、おかしい!」
「万里、どうしたの?」
「ナッキー、コイツが起動するなんて、絶対ありえないのよ……」

 二人が話している所に、アマンダは割り込んだ。

「私も技術少佐の端くれ。この状況、わかるように説明してくれるかしら?」
「は、はい。実はですね……」

 万里はアマンダに説明した。

「フム。確かにあり得ないわね……」 

 万里の説明を聞き、アマンダは顎に手をやり、そう呟いた。
 操縦席に座っているシズルーが、アマンダに聞いた。

「少佐殿、どう言う事だ?」
「先ず、動力源であるリアクター、原子炉が接続されていないの」
「では、何で動いているのだ?」
「恐らく、魔力でしょうね」
「ですが、おかしいっすよ」

 万里の意見にかぶせて、アマンダは続けた。

「次に、起動しないはずの不完全なOSが起動した事」
「それなんですが、さっきコイツは大尉殿の事を『マスター』と呼びましたよね? それがあり得ないんす!」
「搭乗するパイロットは皆、マスターなのでは?」
「そんな甘っちょろい事じゃねぇんす。コイツとシンクロするには、搭乗者の体内にナノマシンを注入しないとリンク出来ないはずなんす」

 万里はバタバタと手を振りながら、解説した。

「そうか。ナノマシンでこのインターフェイスとリンクして、意思疎通するのね?」
「そうなんす! そこが大事な所なんすよ」

 二人のやり取りを見て、シズルーはある事を試してみた。

「おい、何か喋れ」
「…………」
 
 シズルーがAIに話しかけたが、反応は無かった。

「でしょう? さっきのはマグレ? そんなワケ……」

〔ピー、マスター、質問が抽象的過ぎます。回答不能〕

「しゃ、しゃべった……」

 万里は小さく首を振り、状況を理解出来ないでいる。シズルーが質問を続ける。

「お前の名前は、何て言うのだ?」
〔識別番号004989、シクハック〕

「確かに、姫様は『シクハック』と呼んでいました……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 その後も、シズルーとAIのやり取りは続いた。

「所属部隊は?」
〔ガレリア星団 極東支部 特殊部隊X-1〕
「大江君、こんな事を言っているが?」
「聞いた事無い部隊名ですね……何がなんやら、さっぱり」
「何かの手がかりになる。どんどん聞いて」

 アマンダは、いろんな質問をシクハックにするようシズルーに命じた。

「製造年式は?」
〔不明……です〕
「破損状況を確認しろ」
〔頭部稼働率約65%、頭部以外の部位、損傷大。大破……です〕
「修復は可能か?」
〔自己修復機能、完全に停止。修復不可能……です〕

 シズルーは一旦質問を止め、万里に確認した。

「ここまで聞き出したが、何かの参考になるだろうか?」
「なりますなります。むはぁ、物凄い発見ですよぉ、自己修復機能があった、って事だもんね?」
「他に何か、聞いておく事はあるか?」
「う~ん、そうですね。インプット時、マスターは間違いなく姫、隊長だった。改めて聞いてもらえませんかね、この子のマスターは誰なのか?」
「わかった。 聞いてみよう」

 シズルーはシクハックに話しかけた。

「お前のマスターは、竜崎ココナ大尉か?」
〔いいえ、私のマスターは、五十嵐和馬サマ、です〕

「「「はぁ!? 五十嵐、だって!?」」」

 シクハックは、とんでもない事を口走った。

「ん? カズマ? 聞かん名だな……」
「へ? アナタのマスターは、五十嵐家の人間? 桃髪家の!?」

 アマンダは思わず1オクターブ高めの奇声を上げた。

〔はい。私のマスターは、五十嵐和馬サマ、です〕

 今度ははっきりと聞き取れた。間違いでは無さそうだ。

「どういう事? 何で五十嵐家の名前が出るのよ?」
「わからん。近親者である私を誤認しているのだろうか?」
(バレてる? 機械にはお見通しってか?)

 シズルーは顎に手をやり、黙考していると、シクハックは勝手に回答した。

〔ええ。お見通し、です。生体解析の結果、五十嵐和馬サマの遺伝子情報に酷似。マスター認証完了〕
「む? 私の思考が読めるのか?」
(うひゃあ、マズいな)
〔マズくはありません。システム異常なし。オールグリーン、です〕

 シズルーとシクハックのやり取りが、周りの者から見ると異様に映った。

「大尉殿? コイツと何を話してるんです?」
「他愛のない事だ。気にせんでくれ」
(バレるとマズいんだ。上手く合わせてくれないか?)

〔御機嫌よう、シズルー大尉殿〕

 シクハックは、静流の指示に従ったようだ。

「上手く認識したようだ」
(サンキュー、恩に着る)

〔礼には及びません〕

 万里は少し興奮気味に言った。

「驚く事ばかりだわさ。この子はまだ会話出来るレベルでは無かった筈なんすよね」

 シズルーは、肝心な事を今更ながら聞いた。

「ところで、お前の電力は何処から供給されているのだ?」
〔マスターの魔力を、電力に変換して使用しています〕

「どうやって? そんな回路、積んでない……ん? アレ、かな?」
「思い当たる所があるの?」
「私たちが、ブラックボックスと呼んでいるものが、確かにありますね……」

 万里は、顎に手をやり、考えを整理している。

「大江軍曹、未知の回路があるって事は、この機体はゼロから組み上げた物ではないわね?」
「流石は技術少佐殿。 鋭いですね。 ええ。これは発掘したものをベースに開発しています」 
「この機体のマスターは、静流クンの御先祖様って事かしら?」
「今までのやり取りを総合すると、どうやらそうらしい、ですね」

 アマンダは、何かに気付いたようだ。
「さっき聞いたけど、この機体の身体もどこかにあるのね?」
「あるにはあるんですが、損傷がひどくて、修復を断念して新たに設計していたんですよね……」

 そう言うと万里の顔が曇った。
 アマンダは手をポンと叩いた。

「この計画、何とかなるかも知れないわよ?」
「え? 本当、ですか?」
「まぁね。乗りかかった船よ。でも、先ずは隊長さんを何とかしないとね」
「はい! よろしくお願いしますっ!」

 先ほど迄の、浮いた感じだった万里が、真剣な顔でアマンダに最敬礼した。
 それを見て、夏樹と瞳、ケイが続いて最敬礼した。

「ふう。驚き桃の木山椒の木ってね」
「万里、これって、もしかして……」
「うん。イケるかも、ね!」
「うわぁい、姫様、喜ぶぞぉ♪」

 ココナの部下たちは、新たな可能性に、ひと時の喜びをかみしめていた。
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