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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-14

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食堂 12:15時――

 インベントリ内の食堂で昼食をとっている一同。
 午後から始まる『ポケクリバトル』の団体戦について、運営からルール変更の通達が来た。
 要約すると、変更内容は以下のものだった。

・1プレイヤーが連れて行けるポケクリが4体から1体に変更。
・魔石のカウントは廃止。つまり、相手チームを全滅させるか、時間終了時の残りメンバーの数が多い方が勝ち。
・制限時間が10分から5分に変更。延長は2分ずつ

「GM、一試合ごとにポケクリの入れ替えは可能なのですか?」
「当初エントリーしているものなら可能らしい」
「ふう。予選しょっぱなから『推しクリ』を出す羽目にはならないんですね? 良かったぁ」

 不安げな顔だった素子は安堵した。
 蘭子と達也が相談し始めた。

「よし! 推しクリは決勝まで温存出来そうだな!」
「でもよぉ、ウチのチームって、推しクリ以外は育成がアベレージちょい上くらいだったよな? そんなんで予選、勝ち残れるのか?」
「ううっ! 確かに……」
 
 達也のひと言で、メンバーたちの表情が曇り出した。

「そこは考えてる。何も推しクリを出し惜しみするこたぁねぇだろ?」

 蘭子は動揺しながらも、次の一手を考えていた。
 ユズルは首を傾げ、蘭子に聞いた。

「つまり……どう言う事?」

「グループはAからDの4グループで、グループにはそれぞれ4チームだろ?」
「そうか。予選から決勝までが4試合だから、その試合に一体ずつ推しクリを混ぜて行くって事?」
「そう。当然勝ち続く限り、相手も強くなるだろ? そんで決勝で勢ぞろいって寸法よ」
「成程ね。それならバレも最小限で済むわね」
 
 蘭子の提案に、素子は素直に感心した。

「推しクリのそれぞれがレジェンド級なんだから、1体5でも負ける気がしねぇな」 
「確かに。ただ、油断は禁物だぞ? 相手がどんなのを連れて来るかわかんねえんだからよ?」
「まぁな。それで、どいつを出すかはその時の気まぐれなのか?」
「ああ。その方が面白いだろ? クックック」 

 不利なルール変更なのに、むしろ楽しんでいる様に見える蘭子を見て、達也は睦美に聞いた。

「そういやぁ、コレで優勝したら、何かあるんでしたっけ?」
「ありきたりな商品だね。『ジュンテンドースィッチ』本体と賞金5万円だと」

  それを聞いた達也は、首を傾げながら蘭子に聞いた。

「おいお蘭、こんなのが欲しくて優勝狙ってるのか?」
「ちげぇよ。そんなんじゃねぇ……」
「じゃあ何だよ?」

 達也がそう聞くと、蘭子は頬を指で掻きながら、照れくさそうに言った。

「言うなれば、『名誉』かな?」

「「「名誉?」」」

 それを聞いたメンバーは、全員首を傾げた。

「あんだよ、イイじゃねえかよ」
「イイと思いますよ? 私はあのソフト会社に一泡吹かせられれば御の字ですので。フフフ」

 顔を少し赤くして不貞腐れた蘭子に、素子はニヤつきながらそう言った。
 睦美が大きく頷きながら、締めに入った。

「目的は違えど、優勝が目標である事には変わらん。やるからには勝つ。そうだろう、みんな?」

「「「「はいっ!!」」」」



              ◆ ◆ ◆ ◆


ワタルの塔 2階 応接室―― 

 塔の応接室には、レヴィを始め、佳乃、みのり、萌、ルリが食後のお茶を飲んでいた。

「それでレヴィ殿、今日は凸しないのでありますか?」
「しますよ、当然」
「何か、腹案がありそうですね? 詳細キボンヌ。ヌフ♡」
「そのフレーズ、久々に聞きましたね……」
「ブツの取り置きは大丈夫ですよね? レヴィさん?」
「勿論! ヌカリはありません!」

 自信満々なレヴィに、佳乃が聞いた。

「頒布品を買いに行って、静流様のコスプレを鑑賞するのでしたら、開門ダッシュを決め込むとてっきり思っていたのでありますが?」
「それだけなら、ですけど、ね?」

 レヴィは悪戯を思いついた子供の様な顔で、佳乃に下手なウィンクをした。
 レヴィはノートPCを開き、瞬時にあるサイトを開いた。

「ん? 個人のブログでありますか?」
「この人は個人サークルのブースで売り子をしている方です。驚きますよ?……とくと見よ!」バッ!

 ドヤ顔のレヴィが、ノートPCの画面を一同に見せた。


「「「「は、はっふぅぅ~ん♡♡♡」」」」


 ノートPCの画面を見た瞬間、4人はもれなくのけ反った。
 画面には、顔を真っ赤に染め、虚ろな目をした『いかにもな』メガネ女子を『あすなろ抱き』している裸眼の静流が、にこやかに微笑んでいる写真だった。

「静流様?! ち、ちょっと、大丈夫なのでありますか!? メガネ、忘れてるでありますよ!?」
「うわ、この子、絶対漏らしてるわよ? 顔でわかりますもん……ヌフ」
「即死レベルのゼロ距離射撃!? はぁ……なんて羨ましい」
「思わぬところでご尊顔を拝見出来た……もう、お腹いっぱい……です」

 四人は思い思いの感想を述べ、ほぼ同時にティッシュを鼻に詰めた。
 レヴィが開いた個人ブログは、ナンシー関サバのものであり、昼前に撮ったものだった。

「驚いたでしょう? でも、これはまだ序の口。フッフッフ」
「これ以上に何が? って言うかこの猛者は誰!?」
「答えは下の書き込みにあります」
 
 ナンシー関サバが書き込んだ文面は、

『ヒャッホー!! ユズル様が静流様のコスプレでウチのブースに遊びに来てくれた!! 何と言う僥倖! 愉悦! 至福! マーヴェラス!!』

 であった。

「成程。つまり、シズム殿の兄上という位置のユズル殿が、静流様のコスプレをして会場に出没されている、という事でありますね?」
「たまたまの割には、えらく親近感ある写真ですね……面識のある我々を差し置いて……」
「裸眼はフェイク、と言う事ですね……少し残念です」
「ちなみにユズル様は、こちらです!」

 レヴィは、先ほどの書き込みの前にUPされていた、今朝のブログを開いた。


「「「「むっはぁぁ~ん♡♡♡」」」」


 ノートPCの画面を再び見た4人は、またもやのけ反った。

「こ、この方はいつぞやのカキコの……」
「この風貌……あの方に似ている……あぁ、ジン様ぁ……」
「ジン様……薄い本でよく静流様のお相手をされる方ですね?」
「宗方ドクターに聞いた事があります。『目を合わせただけで孕む』らしいです。ムフゥ」
「そして極めつけが、この写真です!」

 レヴィが次の写真を見せた。

「何ですコレ、クーポン券?」
「その裏面に、驚愕の内容が記述されているのです!」

 次の瞬間、クーポン券の裏面が映った。
 裏面の内容は、


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    『ポイントを集めて、お好みの静流様と癒しのひと時を……』

 ポイント毎の『癒し』

 ・100P  臨場感あふれる、究極の疑似体験(所要時間 3分) 
 ・300P~ 上記の他、三次元に降臨した様々な静流様との熱いひと時
       (握手、写真撮影、リクエストボイス等)追加毎に100P 

 主に予定しているキャスト

 ・オーソドックスな『受け』の『静流様』
 ・希少な『攻め』である『シズルー・イガレシアス大尉』
 ・オールマイティーな小悪魔系『シズベール・ゴクドー』
 ・男の娘キャラ『シズミ君』
 ・マニア垂涎の浪人ギア『ダッシュ7』 


       注)オーダーシートを記入の上、検閲後に接待となります。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 であった。


「「「「きゃっはぁぁぁん♡♡♡」」」」


 クーポン券の裏面を見た4人は、またもやのけ反った。

「あの意味深なカキコは、ココに繋がってたのね?」
「素晴らしい! なんて太っ腹な企画でしょう? 誰得!?」
「言わば『メタ彼』……イメクラの最上位互換でありますね」

 萌と佳乃が興奮しながら呟いた。    

「出血多量で死んでしまいそうです……体力持つかしら?」
「みのり殿、大丈夫です! その為のドクター配置ですから」
「あっ成程。今察しました。正に至れり尽くせりですね……ムハァ」

 レヴィを含め、5人が天井付近を虚ろな目で見ていると、ふいに佳乃が覚醒した。 
 
「はっ! レヴィ殿? それなら急がねばならないと思うのでありますが?」

 そう聞かれ、レヴィは落ち着きを取り戻し、みんなに打ち明けた。

「そこで、皆さんに相談があります」
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