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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-19

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ポケクリバトル会場 13:50時――

 グループ代表戦が始まり、蘭子たちC-2もポケクリが召喚した。
 しかし、フィールドに降り立ったC-2のポケクリは、ブルーアイズを除いて、全て進化前のポケクリだった。

「何かの作戦でしょうか? 注意深く見守りましょう!」

 クロミは、自分の予想が大幅に外れたせいか、困惑しながらスクリーンを見ていた。
 
「おーっと! A-3、ビランビーが大技を繰り出した!」 
〈ちょっとクロミ、真面目にやって!〉

「え? ああ、『引っ搔く』の最上級技ですね」
〈ごめん、ぼーっとしてた〉

 シロミに念話で叱られ、ハッとなったクロミ。
 それでもグループCに目が行ってしまうクロミだった。

〔散開する! 土屋、攪乱頼む!〕
〔オッケー!〕

 先ず元気よく飛び出したのは、水系の『タガメン』だった。
 タガメンは、敵の水系で上位種にあたる『ギョドン』に飛び掛かり、引っ搔いた。
 すると、HPゲージがみるみる減っていく。

「「「「お? おぉー!!」」」」

 上位のポケクリが下位に遅れを取るなど、通常は見慣れない光景に、観客は一瞬戸惑った。
 素子たちのポケクリも、同じような構図となっていた。

「一体どういうカラクリでしょう? どう思います? クロミさん」
「フフ。そう来たか」

 シロミのフリに、クロミはドヤ顔で解説を始めた。

「恐らくは、何らかの形で『進化キャンセル』をしているのでしょう!」

「「「「おぉー!!」」」」

 ポケクリ育成時に、進化してしまうとその種のステータスが初期値に下がってしまう為、または見た目が変わって欲しくない等の理由で進化をキャンセルする例は少なくない。 
 しかし、結局は上位種には敵わないので、仕方なく進化させる事が通常である。

「C-2のプレイヤーは、何らかの方法で進化を止めながら経験値を稼ぎ、技スキルを強化したのではないでしょうか?」

「「「「おぉー!!」」」」

 クロミの解説に、観客が頷いている。
 レベル差があるものの、上位種とほぼ互角で渡り合うメンバーたち。

「最早下位のポケクリの動きではありません! 巧みな連携で、C-4のアタッカーはいまだにブルーアイズに届かない!」

「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」

〔よし、ゲージがMAXになった。全員退避!〕

〔〔〔〔了解!!〕〕〕〕

 画面ではプレイヤーのやり取りは聞こえない。
 観客がC-2メンバーがフィールドから同時に離脱した事に違和感を感じた瞬間、異変は起こった。


〔出力最大!【ブラストバーン】!!〕ゴォォォ!


 ブルーアイズの口から、凄まじい熱線が扇形に放射され、全ての敵が瞬時に蒸発した。
 初戦で見せた【ブラストファイヤー】の上位攻撃であろう。


 ピピィ~!


 相手の残機がゼロになり、対戦が終わった。
 結果はまたもや蘭子率いる『ギャラクティカ・ソルジャーズ』の圧勝だった。

「強い!メンバー全員がほぼノーダメージ!C-2、完全勝利です!」


「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


 観客から歓声が上がった。

「他のグループは、まだ熱戦が続いています!」
「残るはグループD! 残りあと1分です!」

 他のグループはまだ決着が着いていなかった。


 ピピィ~!

 
 制限時間となり、全ての勝敗が出そろった。

「試合終了! 見事グループ代表になり、準決勝に進んだのは……A-3! B-4! C-2! 最後にD-2です!」
「えー、ここで30分の休憩を挟みます。14:30時にまたお会いしましょう!」



              ◆ ◆ ◆ ◆


献血カー内 13:35時――

 VIP用のソファーやテーブルが置かれた一角で、『ポケクリバトル団体戦』の生中継を見ている睦美たち。
 真琴は素直に蘭子を褒め称えた。

「ここまでは順調みたいですね? やるわね蘭ちゃん」
「相手が弱すぎる。見ててつまんない」   

 忍は退屈そうに呟いた。
 睦美とカナメは、腕を組み、しかめっ面をしながら話している。

「ここから先が勝負どころだろうね。見ただろ? カナちゃん」
「見た。AとDは要注意やな。素人とは思えん」
「どういう事ですか? 先輩方?」

 気になった右京が説明を求めた。

「先ず、Aのメンバーは、全員スーツ姿だった。恐らくソフトウェア関連の輩だろう」
「盛り上がらなかった時の『保険』かも知れんな。派手やけどそれなりに育成されとる良質なポケクリを出してくるあたり、ウケ狙っとる感アリアリやし」
「次にD。ノリの良い大学生風を装ってるが、私は『Yチューバー』と睨んだ」

 『Yチューバー』とは、『ニャンニャン動画』よりもメジャーな動画配信サイト『Y-TUBE』の配信者の事である。
 右京たちネット通たちは、『Yつべ』や『ニャン動』と呼称している。

「YつべにUPして、PVを稼ぐ算段でしょうか?」
「広告料が入るからな。Yつべは『シズルカ』の時にお世話になった」

 ここでふと真琴が何かを思い出した。

「あれ? と言う事は、シズムも『Yチューバー』って事?」
「そうなりますね。ウチの公式チャンネルでゲームの実況動画をUPしていますから」チャ
「GM、今回のバトル、ウチのチームも動画UPしません? 思わぬ収入があるかもですよ?」

 左京が扇子を口元にあて、睦美に聞いた。

「ふむ。監視衛星の映像がふんだんにあるしな。考えておこう」 
「ありがとうございます! ムフ」

 真琴がふと何かに気付いた。

「先輩、この情報、ユズルたちに伝えるべきでしょうか?」
「大丈夫だよ真琴クン。もっと正確な情報が勝手に漏れ出すだろうから。クックック」
「うん?」
 
 意味がわからなかった真琴は、首を傾げた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 14:05時――

 グループCの大型テントで、支給された飲み物を飲んで休憩しているユズルたち。

「次が準決勝か。トーナメント表だと何処と当たるの?」
「リーダーがクジを引くみたいですよ。ほら」

 素子がモニターを指した。
 達也が半笑いでユズルに話しかけた。

「ロクに調べてないから、敵の情報、ぜんっぜん、わかんねぇな?」
「向こうからは丸見えなのにね。ハハハ」

 そんな二人をよそに、蘭子はがっちり手を組み、指をポキポキと鳴らした。

「もう駆け引きは無しだ。ガチで当たる」
 
 するといきなりテントの出入口がバサッと開いた。


「「ジャーン!! 『ゼブラッチョ』が陣中見舞いに来ましたよぉ~っ!」」


 白と黒の着ぐるみに身を包んだ、白黒ミサたちだった。

「白黒ミサ先輩!?」
「部長、副部長!?」

 何やらポーズを取っているが、二人の顔が少し赤かった。

「『スパダリ』様、あまり直視しないで下さい……羞恥プレイは苦手です……はぁ」
「私の事は、もっと! もっと見て下さい……あぁ」

 茶番に付き合ってられないとばかりに、素子は溜息混じりに話しかけた。

「部長、陣中見舞いとは?」
「チッチッチ、今の格好の時は『シロミ』って呼んでね? 『メリーバッドエンド』さん?」ギロ

 シロミに睨まれ、顔から血の気が引いて行く素子。 

「シ、シロミちゃん? ご用件は何かしら?」
「ちょっとしたインタビューだよぉ♪」

 一瞬でにこやかな笑みを浮かべたシロミ。
 シロミはマイクを持っている様な仕草で、蘭子に近付いた。

「Cグループリーダーの『ツンギレ』さん? 今後の意気込みをお聞かせ下さいな?」
「お? おお。ウチは終始『当たって砕けろ』でやってるんで」

 その言い方にクロミがツッコミをいれた。

「またまたぁ? いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの『ギャラクティカ・ソルジャーズ』でござんしょぉ? 勝算はあるんですよね?」
「いえ、次からは全力でブチ当たります!」

 着ぐるみ二体に挟まれてインタビューを受けている蘭子が、傍から見て実にシュールだった。

「ツンギレさんは明日の『個人戦』にもお出になるらしいですね?」
「うす。そのつもりッス」
「ここでイイ所を見せておくと、イイ事があるかもよぉ?」

 クロミがニヤ付きながら蘭子に言った。
 クロミが何か口走ろうとした所を、シロミが慌てて止めた。

「こらクロミ、それはまだ告知前でしょう? ツンギレちゃん、気にしないでね?」
「は、はぁ……」

 すると今度は、天井を見ながらボソッと呟き始めた。

「……今から独り言を言うね♪ グループAの『ミラージュ・ナイツ』はね……」ゴニョゴニョ

 頼んでもいないのに、敵の情報を事細かく説明するクロミ。 

「何て事を……全て未確認情報です。鵜呑みにしないでねっ♪」

 手遅れながらフォローを入れたシロミ。

「貴重な情報、感謝します。副ぶ、クロミちゃん」
「え? ボクの心の声が聞こえたのぉ? キミ、エスパー属性あるんじゃなぁい?」
「そ、そうかもしれませんね。ハハハ」

 言いたい事を言って満足したのか、出入口に向かって歩き始めた二体。
 シズムに手を振り、ウィンクをした。

「じゃあねぇ~! 自サバ女ちゃん! ガンバってねーっ♪」
「ありがとう! ガンバるよ♪」

 二体が去った後、作戦会議が始まった。

「プロが混じってるなんて、チートどころじゃないだろ? ったくよぉ……」
「そう腐るなよ。スペックならコッチだって負けてないだろ?」
「よく言ったお静! なんせこちとらは、『生体』から抜いたデータだからな。たかがプログラムなんかにゃ負けねぇぜ!」
「だからユズルだって……もうイイや」
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