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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-25

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ポケクリバトル会場 14:53時――

 決勝戦も中盤に差し掛かった所で、ユズルが【進化の実】をフィールドに投げ入れた。
 まばゆい光に包まれ観客の前に姿を見せたのは、イワオよりも二回りほど大きく、精悍な顔つきのポケクリだった。
 肩にガトリング砲を二門載せ、体は宙に浮いている。

「あのような個体は見た事がありません……クロミ、どうなってるの!?」
「不覚ですが、私のアンチョコでも確認出来ません! まさか……『新種』でしょうか!?」

 シロミが運営サイドを見ると、スタッフがバタバタしている。
 スタッフにADが呼ばれ、カンペを渡されている。
 絶句しているクロミに、ADが耳打ちした。

「ちょっと待って下さい……な、何ぃ! ちょっとそれ、ホントなの?」
「どうしたの? クロミ?」

 ADに聞かされた事が衝撃的だったのか、10秒ほど間があり、クロミはしゃべり出した。

「皆さん、衝撃の事実が発覚しました。運営から報告があり、このポケクリは『メルクリア・ノヴァ』新種として公式に認定されました!」


「「「「お、おお……うおぉぉぉぉぉー!!」」」」


「これが新種であるなら、正真正銘この世に一体! いわば『極レア』でしょう! マーヴェラス!」


「「「「うおぉぉぉぉぉー!!」」」」


 決勝の土壇場で、まさかの新種認定を得たユズル。

「おーっとメルクリア、進化にHPを半分程消費してしまった! 結果はマイナスか!?」

 シロミの心配は、杞憂だったようだ。
 メルクは六連装二門の銃口を、クラブガンナーに向けた。


〔行くぞ!【メテオ・バースト】!〕キューン、バババババ…


 メルクがガトリング砲を発砲、高速で回転する銃口からおびただしい銃弾がクラブガンナーに向け飛んで行く。
 被弾しているクラブガンナーは、回避行動もとれずにHPをゴリゴリ削られて行く。

「クラブガンナー、メルクのガトリング掃射に、一瞬でハチの巣に変わる!」


「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」 


 しかし、トドメは刺せず、ミリ単位のHPを残した所で砲撃が終わる。 
 動けるようになったクラブガンナーは、たまらず距離をとる。

「おっと、すんでの所で逃げられた! オーバーヒートでしょうか?」
「わざと逃がしたんですよ。多分」

 他の戦闘に視点が変わる。
 試合開始からずっと一方的にノーマル攻撃を当てていたペカチュウが、技を発動した。
  
〔いくよぉー! 【ナックル・サンダー】!〕

 電気を帯びた手で高速拳を放つペカチュウ。
 ズワースは反撃の機会を得られないまま、消滅した。

「おーっと! ついにペカチュウ、ズワースを仕留めた!」

「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」 

 ペカチュウが次の相手を探してキョロキョロしていると、いきなり衝撃が走った。

「ペカチュウ被弾!! これは……【サイコカッター】、ミャウツーZです!」

「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」 

 進化前で、さらに初期レベルのペカチュウは、そこそこの技でも致命傷になる。

〔すまねぇシズムちゃん、テレポートで逃げやがった!〕
〔ドンマイ、ツッチー。まだ動けるよ♪〕

 達也のブルーアイズとシズムのペカチュウが、ミャウツーZに予測不能の攻撃を当てられ、苦戦している。
 また場面が切り替わり、ドラゴン系とフェアリー系のバトルが映し出された。

「さぁて、レジェンド級ドラゴンとフェアリーの戦いは? おや? どうなっているのでしょう?」
「恐らく、大将戦に移行させようと、気を遣ったのではないのでしょうか?」
「成程……憎い演出ですねぇー」

 ギシアンがサーバインに【風の傷】を放ち、ヘイトを誘う。

〔あとは任せます、存分にやっちゃってくださいね♡〕
〔わかった。ありがとう先輩!〕

 場の演出をお互いに理解したのか、フェアリー系たちは両ブラッカラムから離脱し、同族対決に持ち込んだ。
 フィールドに立ち、睨み合う二体のブラッカラム。

「さあ! 同族同種のぶつかり合いです! ここからは予測不能だ!」


「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」 


 先に仕掛けたのはAブラだった。
 
「おーっとAブラ、【テトロドトキシン】をCブラに放射する!」
「しかし通らない! Cブラの【デンドロトキシン】が放射される! これも効果は今一つだ!」

 その後も毒属性の技の打ち合いがあったが、当然の如くほとんど効かなかった。
 業を煮やしたAブラが、Cブラに突進した。

「おっとAブラ、属性攻撃を捨て、【噛みつく】をCブラに当てる!」
「負けじとCブラ、【引っ搔く】をAブラに当てた!」

 レジェンド級ドラゴン同士がノーマル技で戦っている様子は、かえって新鮮に映った。

「やっちまえAブラ!」
「いけぇ、Cブラ!」

 予想外の肉弾戦に、シロミや観客たちが大将戦に目が離せなくなっていた。

「ガチの殴り合いが続き、流石にHPもあとわずかです!!」
「このまま決着が着いてしまうのか!?」


「「「「うぉぉぉぉぉぉー!!」」」」 


 他のメンバーたちも、戦いの最中であるにも関わらず、手を止め、数秒間大将戦に見入っていた。
 その時、ユズルのメルクリア・ノヴァが動いた。

〔技ゲージが満タンになった! みんな、離れて!〕

〔〔〔〔了解!!〕〕〕〕

 殴り合っていたCブラを始め、他のグループCメンバーがフィールドから離脱した。
 メルクの全身が、青いオーラに包まれている。


〔行くぞ! 【ハイパー岩石落とし】!!〕ドォーン、バラバラバラ…


 天に向けた両手をメルクが振り下ろすと、空から大粒の岩石が大量に降り注いだ。
 呆気に取られていたグループAの面々は、振って来た岩石に押し潰され、あっという間に全滅した。


 ピピィ~!


 試合終了のホイッスルが鳴った。  

「な、何と……グループA全滅! 勝者、グループC!!」


「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」


「よって優勝はグループC、『ギャラクティカ・ソルジャーズ』です!!」 


「「「「うぉぉぉぉぉぉー!!」」」」


 こうして、蘭子たちは優勝した。
 


              ◆ ◆ ◆ ◆



アスガルド駐屯地 魔導研究所――

 ラプロス壱号機にAPCを運ばせる段取りが終わり、膜張に向かうレヴィたち。
 APC内にある無線で、コクピットのココナに連絡を入れたレヴィ。

「大尉殿、準備OKです!」 
〔わかった。テイクオフ!〕ブンッ

 萌が窓から外を見て、興奮気味に言った。

「うわ、浮きましたよ。振動とか全然無いんですね?」

 ラプロスは、推進装置等で『飛ぶ』のではなく、重力操作で『浮く』という表現の方が近い。

「上手く調整出来るものね。この中の重力は変わってないもの」

 アマンダは『モブ子変装セット』のカツラを調整しながら呟いた。
 調整したカツラをすぽっと被ったアマンダに、ルリが感想を述べた。

「ほぉ。悪くないですね、健康的で。真冬ですけど」
「しょうがないでしょう? 全身塗りたくるワケにはいかないもの」

 ダークエルフの特性が強く出ているアマンダやカチュアは、褐色の肌をしている。

「うわぁ、編み込みグリグリの、ネイティブ系モブ子ですか?」
「少佐殿、南国少女みたいでカワイイのであります」
「姉さんも駆り出されてるらしいから、この位すっ飛んでないと直ぐにバレちゃうもの……」

 佳乃にカワイイと言われ、アマンダは少し照れた。

「ねえねえ、私はどう? 上手く化けられた?」

 仁奈は自信満々でポーズをとった。

「ゴスロリ系ですね? これなら仁奈先輩とは気付かれないのであります」
「仁奈先輩、私とペアなら、効果倍増ですよ? ほら」

 系統が似ている萌が並ぶと、共通の趣味で来ている一般参加者に良く見えた。
 ふと窓の外を見たみのりが、一同に伝えた。

「おや? もう会場に来ていませんか? ほら」
「ホントだ。一分も経ってないよね?」
「【ワープ】を使ったのよ。全くもう……」ブツブツ…

 アマンダのぼやきが始まった所で、ココナからの無線が入った。

〔指定の座標に着いた。間もなく着陸する〕

 膜張メッセの上空に、ドラゴン型MTが不可視化して宙に浮いているが、誰も気付かない。
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