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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-40

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インベントリ内 プレイルーム――

 ルームCに入ったのは、ココナとジルだった。

「入るぞ、シズベール!」
「おおお、お邪魔……します」
「うわ……もう役になりきってる。しかも二人相手か……」

 シズベールは面倒そうないかにもなヘビーユーザーが二人も来た事に、顔をひきつらせた。

「こ、子ネコちゃんたちの願いは何かな?」
「これだ! とくと見よ!」ビシィ

 ココナがオーダーシートをシズベールに突き付けた。

「ふむふむ。コロネちゃんとギルバート、君?」

 シズベールは眉間にしわを寄せ、ギルバートを見た。
 一応解説すると、ジルベールはフランス語圏での呼び方で、英語圏ではギルバートで呼ばれる。 
 
「お察しの通り、コイツは『男の娘』だ。可愛がってやってくれ」
「ギル、です。よ、よろしくお願いします……」

 ギルはぺこりと頭を下げた。

「ま、まぁボクのお客さんは千差万別・十人十色だからね。全然問題無いよ♪」 
(とは言ったものの、非常にマズいな……)

 若干引きつりながら、シズベールは微笑み、オーダーシートに目を通した。
 
「んと、コロネちゃんのオーダーは、『逆リフレ』? 何、それ?」
「シズベールは寝ているだけで良い。サービスは私がやるっ!」

 リフレとはライトな風俗にある、きわどいマッサージや添い寝等を行う業種である。
 料金次第では最後の一線も超えてしまうような違法風俗もあるらしい。

「寝ているだけでイイの? 何か申し訳ないなぁ……」
「イイのだ! お前は今まで、何人もの相手をしていたのだろう? 私が癒してやろう」

 コロネはやる気満々で腕をぐるぐると回した。

「で、ギル君のオーダーは……『ジン様に会いたい』か。 知ってるの?」
「はい! 朔也とは学び舎が一緒でしたから」パァァ
「へぇ。本名も知ってるんだ」
「え? ええ……」

 ギルは変装の事も忘れ、バカ正直に答えた。

「へぇ。世間って狭いよね。ボクの知ってる人も、そんな事言ってた。ある学園の神父さんなんだよ?」

 シズベールの発言を聞き洩らさなかった二人は、顔を見合わせた。

「勝った! 私たちは勝ったのだ! ハッハッハ」
「声、大きいですよ!」

 自分たちが『当たり』を引いたと確信したコロネは、早くも勝利宣言した。

「ハッハッハ! 徳がある事はある意味罪だな!」
「何を言うのです! 『徳』とは、日々の行いの積み重ねです!」

 ドヤ顔のコロネをしかりつけるギル。

「そのお説教の仕方、誰かに似ているなぁ……」

 シズベールが考え込むのを見て、コロネが慌てた。

「そんなことはどうでも良い! 早く横になれ!」
「ま、いっか。 はい、どーぞ」ふぁさ
  
 シズベールはコロネの言われるまま、ベッドに横になった。

「先ずはじめは全身マッサージからだな。これは邪魔だ」パサッ

 コロネはシズベールに跨り、ワイシャツを剥ぎ取った。

「おっと……お手柔らかに頼むよ?」
「今すぐ楽にしてやる。むほぉ、スベスベだな……それに、この得も言われぬ色香」ハァハァ

 シズベールの身体をまさぐり、匂いを嗅ぎまくるコロネ。

「スゥ……ハァ……くぅ、たまらん♡」
「アハハハ ちょっと、くすぐったいよ」
「あぁ……脳天を貫く快感……よし、次は膝枕だ!」 

 そう言ってコロネは、ベッドに腰かけ、太ももにシズベールの頭を置いた。

「ギル、耳かきを取ってくれ」
「コロネさん、早く代わって下さい。私の時間が少なくなってしまう……」
「硬い事ぬかすな! 聖職者だろう?」
「ち違います。少なくとも、今は……」

 そう言ってギルは、頬を膨らませながら耳かきをコロネに渡した。

「コ、コロネちゃん、大丈夫? 痛くしないでよ?」
「大丈夫だ! 痛いのは最初だけだ!」

 それを聞いたシズベールの顔が、次第に青くなっていった。
 そんな事はお構いなしに、耳掃除を始めるコロネ。

「……どうだ? 上手いもんだろ?」
「ホントだ……気持ちイイ」

 大雑把に見えて、意外と繊細な作業もそつなくこなすコロネ。
 心地よい状況に、完全に主導権をコロネに渡すシズベール。

「ほれ、大物が取れた。シズベールは耳クソもピンク色なのだな?」
「え? うわ、直ぐに捨てて」
「ダメだ。これは戦利品として私が頂く!」
「ゲェ……そんなもん、何に使うの?」
「お守りとして肌身離さず持つ事にする。弾除けになるかもしれん」

 耳掃除が終わり、解放されたシズベール。

「恥ずかしいからあんまり人に見せないでよ?」
「そんな事するか! 薬効が薄れてしまうでは無いか!」
「薬効? 何それ?」
「コホン。何でもない。気にするな」

 シズベールの耳クソを袋に入れ、抱きしめるコロネ。

「宝物が一つ増えた。礼を言う。待たせたな、ギル」

 ホクホク顔のコロネが、ギルと交代した。

「ギル君お待たせ。うろ覚えだから違ってたらゴメン」パチン

 シズベールが指パッチンすると、七本木ジンこと荻原朔也に変身した。

「声の感じ、こんなだったよな?」

 夢で朔也に会った時の声を再現したつもりの朔也。

「さささ、朔也ぁ~♡♡」ガシィ

 目の前のジンを見た瞬間、ギルは泣きながらタックル気味に抱き付いた。

「朔也ぁ、朔也ぁ……」
「おいおいギル、泣いてないで僕に顔を見せてくれよ」
「朔也……グス」

 顔を上げたギルを、紫色の瞳で真っ直ぐに見た朔也。

「朔也ぁ……」
「よし。 イイ子だ」
 
 朔也はギルを胸に抱き、優しく頭を撫でた。
 少し落ち着いたギルは、朔也を上目づかいでチラチラ見ながら、顔を赤くして言った。

「朔也、久しぶりにアレ、イイかな……?」

 ギルは俯いて、腰をくねらせている。

「ん? アレって何だっけ?」
「忘れたの? そうだよね……120年以上前の事だもんね……」

 ギルは目の前の朔也が本物だと信じて疑わない。
 困った朔也は、素直に聞いた。

「で、何をすればイイ?」
「……鼻舐め」カァァ

 そう言うとギルの顔は真っ赤に変わった。

「ふむ。わかった。やってみるよ」クイ

 そう言って朔也はギルの顎をくいっと持ち上げた。
 同時に朔也の手に紫の霧が発生し、ギルに押し当てた。

「本当はアウトなんだけど、特別サービスだよ。むちゅ~」
「あ、あぁ……」

 朔也はギルの鼻を口に含み、舌で舐め回した。 

「じゅぼ、じゅぼぼ~」 
「お゛ごっ♡、ん゛ごぉっ♡」

 やがてジルは昇天した。

「もうダメ、朔也ぁぁぁ~♡」

 ギルの目が♡マークになり、フリーズした。

「う…うぅ…ん」

 放出した後の余韻に浸っていると、いきなり声をかけられた。

「おい! ギルバート! 帰るぞ! 起きろ!」 
「う、ううん……え? はて、私は今まで朔也と……」

 イライラしながら、コロネが怒鳴った。
 状況を把握していないギルが、周囲をキョロキョロと見回すと、後ろから朔也が『あすなろ抱き』してきた。

「イイ所で気絶するんだもんなぁ、どう? イイ夢、見れた?」
「あ、あわわ……夢?」

 至近距離でそう言う朔也に、ギルの目は泳ぎだした。

「えーっと、オーダーは以上だね。ご利用ありがとう♪」
「邪魔をした。 さらばだ!」

 コロネがギルの首根っこを掴み、引きずりながら出口用ドアを開け、出て行った。
 それを見送った朔也は、ため息混じりに呟いた。

「ふぅ。『鼻舐め』なんて、検閲に引っかかるのわかってるだろうに……」



              ◆ ◆ ◆ ◆


インベントリ内 医務室――

 ルームBで気絶して医務室に担ぎ込まれたルリ子とミノーリ。

「はっ! ココは!? ネバーランドですか?」

 目が覚めたルリ子は、がばっと上体を起こした。
 すると目の前に、腕を組んで怖い顔をしているカチュアがいた。

「アンタたち、やってくれたわね?」ギロ
「ドドド、ドクター・如月!? はっ」

 NGワードをうっかり口に出してしまい、口を塞いだルリ子。

「小芝居は不要よ。この私にそんなの通用しないんだから!」
「しゅ、しゅいましぇん……」ペコリ

 観念したルリは、深々とカチュアに頭を下げた。 

「……全く、とんでもないことを考えたわね?」
「興味本位でした……ただ単に全身が『アソコ』になれば、静流様と『疑似チョメチョメ』でき、快感も何十倍に膨れ上がるのでは? と」

 二人が飲んだサプリは、ルリが独自に調合したものだった。

「……シナプスの活性化が……ニューロン、ドーパミン……」ブツブツブツ……

 ルリが念仏の様な独り言を言い出したので、カチュアは放置した。

「半端に医学的な知識を持つからこんなバカな事を思いつくのね……ふぅ」

 時間差でみのりの目が覚めた。

「知らない天井……はっ! ココは!? ニライカナイですか?」

 目が覚めたみのりは、がばっと上体を起こした。
 すると目の前に、腕を組んで怖い顔をしているカチュアがいた。

「ここは理想郷でも桃源郷でもないわよ!」
「ひぃっ、ドクター如月……ルルル、ルリ子、さん?」

 みのりは隣でうなだれているルリに声をかけた。

「全部バレてます……激ヤバです」
「うひゃあ……仲間に会わせる顔が無いじゃないですか……」
 
 二人でうなだれていると、カチュアがニヤついた顔で話しかけてきた。

「で、どうだった? 気持ちよかったの? ヌフ」
「……そりゃあもう、『昇天』と言う意味が先ほど、はっきりわかりました。 ヌフゥ」
「男性経験はそこそこありますが、これほどのエクスタシーを味わったのは……初めて、です」

 二人はさっきの絡みを思い出し、うっとりと天井付近を呆けた顔で見ている。

「相談があるの。返答次第ではこの事、黙っててもイイわよ?」

 そんな二人に、カチュアは提案を持ちかけた。
 それを聞いた二人の顔が素に戻り、カチュアに向き合った。

「何でもしますっ! ですからなにとぞ……」

 必死に頭を下げ、懇願する二人を優しく撫でたカチュア。

「そのサプリの成分、私に教えなさい。改良の余地がありそうね? フフ、フフフフ」
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