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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-8

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インベントリ内 管理事務所――

「GM、お呼びでしょうか?」

 管理事務所に左京が顔を出した。

「頒布品の売れ行きはどうだ?」
「順調過ぎる位です! 予想ですと午後早いうちに完売するかと」
「結構。プレイルームの様子は?」
「そちらも概ね。今の所トラブルはゼロです」

 睦美は左京の話を真面目な顔で聞いている。
 並べたパイプ椅子に寝そべり、ダッシュ6の膝枕で耳掃除をされながら、であるが……。
 この時点でダッシュ6は、バニーガールからナース服に着替えさせられている。

「ご苦労だった。引き続き全体の状況を随時報告しろ」
「はっ、御意」

 そう言った左京が、少し不満そうな顔をしたのを睦美は見逃さなかった。

「左京、もう少しの辛抱だ。 耐えてくれ」
「わかっています。 この苦行を達成した暁にはGM、 お忘れではありませんね?」
「勿論。 私が今まで、 約束を反故にした事はあったか?」
「いえ、 皆無ですっ」
「結構。下がって良し」
「はっ!」シュタッ

 睦美との会話で気を取り直した左京は、うっすら笑みを浮かべながら管理事務所を後にした。

「次は反対の耳を頼もうか……」
「はい。睦美サマ」

 睦美はそう言うと、体を180度反転し、ダッシュ6側に顔を向けた。

「すぅー、すんすん。 むほぉ……脳内に広がる甘酸っぱいフレーバー。 くぅぅ、辛抱たまらん!」ガバッ

 睦美はそう言って、ダッシュ6の股間に顔をうずめ、尻をまさぐり始めた。

「睦美サマ、それでは耳掃除が出来ません。安静にして下さい」
「掃除はもうイイ。次はワカメ酒と洒落込もうか?」フガフガ

 今までのやり取りを一部始終見ていたカナメが、ため息混じりに言った。

「ムっちゃん、部下に辛抱させといて、自分は酒池肉林か? 相当えげつないな……」
「ん? そうか。 では交代は無しって事で――」
「ちょい待ち! それとこれとは違う! オレのは正当な報酬だ!」
「お互いに、な? クックック……疲れたろう? 今度は私がマッサージしてあげよう。 ジュルル……」
「マッサージならワタシが……」
「イイんだ。 では白衣を脱がせてやろう……ニュフフフ」
「コスチュームチェンジですね? お願いします」

 睦美はダッシュ6と瞬時にポジションを入れ替え、ナース服に手をかけようとしていた。
 ダッシュ6は抵抗する事も無く、ニコリと微笑みながら睦美の顔を見つめ、為すがままになっている。

「先に言うとくが、 全部剥くと空しくなるだけやぞ?」
「わかっている。要は『寸止め』が一番興奮すると言う事であろう?」

 睦美は手を止め、ダッシュ6の桃色の長い髪を撫で始めた。

「総合的な完成度は高いが、『ある部分』については今後の課題だな……」
「さっきバニーコス剥いた時、迂闊だったと後悔したんや……『南極ZX号』以下のディテールやったわ……」

 睦美はダッシュの白衣を脱がせ、パンティを指でずらし、確認した。

「うむ。 静流キュンにはもっと『女体の神秘』を学んでもらわんとな……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 休憩スペース VIP席 11:30時――

 ポケクリバトル会場では、二回戦が始まっていた。
 一回戦で勝ち抜いた者同士が対戦し、これに勝つと三回戦シードの者と三回戦を行う事となる。
 対戦を見守る静流は、思ったことを不意に口に出した。

「二回戦ともなると、相手の手の内がバレバレだね。これじゃあ泥仕合になっちゃうよ……」
「確かに。 ですがその代わり、『伝説級』などを禁止にしない事で、通常のバトルには無い盛り上がりですっ!」

 素子は静流の意見を肯定しながら、自分の意見を述べた。

「レアなポケクリ同士のガチ勝負……これほど熱い物は無いでしょう!」フー、フー

 プレイヤーはあらかじめチョイスしたポケクリを相手にオープンし、その内の3体をバトルに使うのだ。
 勿論その様子は、プレイヤー同士しかわからないように運営は配慮している。

「つまり、回数を勝ち抜く事がいかに不利か、って事だな?」
「そう言う事になりますね。 幸い我が蘭ちゃんは三回戦シード。 アドバンテージはこちらにありますっ!」フー、フー

 リナが要点をまとめ、素子が補足した。
 素子は何か思い出したように手をポンと叩いた。 

「それはそうと静流様、 昨日の団体戦で見せたバトル中にポケクリを進化させる兵法、 軒並み真似されてますね?」
「さっき見たけど、ちょっと恥ずかしいな……芝居がかってて……」

 一回戦を観戦していた時に、あるプレイヤーがバトル中に『進化の実』を使い、ポケクリを進化させる作戦を実践した者がいた。
 昨日団体戦で静流が見せた、メルク監修の『演出』で、インパクトは確かに大きかった。

「進化直後は『脱皮直後のエビやカニ』と同じような紙装甲なのに、何でリスクを負ってまでやるかなぁ……」
「ふふぅん……わかりませんか?」 
「ええ、 さっぱり。 皆目見当もつきませんよ……」

 首を傾げる静流に、素子はニヤリと笑みを浮かべて静流に言った。

「それは、静流様が超絶カッコイイって事ですっ!!」フー、フー

 素子は両手を握りしめ、両脇を開閉する『ワクワクのポーズ』をしながらそう言った。

「さっきまでお蘭さんびいきだったのに……調子狂うなぁ」
「個人戦もエントリーなされば良かったのでは?」
「無理無理。 CPU対戦でも勝てる気がしないよ……」

 静流は東Aブロックの二回戦に注目した。

「ええと、この『ソロ充』さんと、『後方彼氏面』さんのどっちかがお蘭さんと当たるんだよね?」
「ええ。 『ソロ充』はフェアリー系を使うみたいですね」
「『後方彼氏面』は火力重視型みたい。 HPモリモリでゴリ押しして来る感じだな……」

 静流と素子が腕を組み、対戦を見守っている。
 真琴はバトルについては素人なので、つまらなそうに静流に聞いた。

「蘭ちゃんの対戦相手で楽な方はどっち?」
「う~ん、そうだなぁ……お蘭さんはドラゴン系でしょ? フェアリー系と当たらなければそれほど脅威にはならないと思う」
「って事は、『ソロ充』と当たらなければイイの?」
「ですが、『後方彼氏面』の物理攻撃も侮れませんよ? 即死系の技を繰り出す可能性もありますし……」
「つまり、どっちが相手でも簡単には勝たせてもらえないって事?」
「まぁね。 ただ、三回戦は多分負けないよ。 肝心なのはその先」 

 静流は他の対戦で気になった者がいたのを思い出した。

「その先? 準決勝の事?」
「うん。 もっと気になるヤツがいるんだ。 西のBブロックに……」

 静流の顔がこわばったのを見て、素子は大きく頷いた。

「流石は静流様、やはり気付かれましたか?」
「うん。 『オリジナル笑顔』さんとは、なるべく当たりたくないね……」
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