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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード52-18
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インベントリ内 食堂 12:45時――
「……ってつまらねぇ話だ」
長い回想が終わり、リナが締めくくった。
「でもでも、蘭ちゃんにとっては忘れられないエピソードですよ! レトロゲームが繋いだ縁、 感動しました!」
素子は両手を頬に当て、悩める乙女のポーズをやった。
「リナらしいわ。色恋沙汰には程遠いわね」
しゃべり終えたリナに、雪乃は苦笑いで感想を述べた。
「お茶が不味くなる。 思い出したくもねぇや……」
リナがそう言うと、蘭子は席を立った。
「アネキ! 少なくともアタイには、 忘れられない出来事でしたよ?」
「ん? 悪りぃ、 おめぇと初めて会った日、だもんな……」
リナが涙目になっている蘭子を必死になだめた。
「あの後アネキは国尼に入学して、二年の時の交換留学に行ったまま、 行方不明になっちまった……グス」
「この間、 説明したじゃねぇか? 違う世界線に飛ばされたって……」
「いつしかヤスとかサチコ先輩が、アネキの事を思い出せなくなっていった……ヒック」
「そうだったのか……つれぇ思いさせちまったな……」
ついに泣き出してしまった蘭子を、リナは懐に抱き、頭を撫でてやった。
「あのあと『モナカ』は閉店して、『アドワーズ』も次の年に閉店しました」
ここで静流が口を挟んだ。
「確かに南口は何軒かゲーセンがあったなぁ。 今は『SOGA』だけだもんね?」
「そうか……あの街もつまんなくなっちまったもんだな……」
蘭子を撫でながら、リナは寂しげな顔になった。
潤んだ目をした蘭子が、リナを真っ直ぐ見て言った。
「アネキ、戻って来るんですよね? こちらに」
「ああ。そのつもりだ」
「ヤスたちに会ってやってください。 そうすればアイツらも思い出しますよ」
「わかった。 全てがクリアになった時、必ず戻る」
蘭子は落ち着いたようで、席に座り直してお茶を飲んでいた。
「その片桐がここに……因縁めいたものがあるのか?」
「どうでしょうね。彼が『オリジナル笑顔』本人だとしたら、『イベント荒らし』の可能性もあるかと……」
素子が顎に手をやり、考察し始めた。
「『オリジナル笑顔』はいろんなゲームイベントに顔を出し、 場を乱す常習犯です。 今回出場がOKになった経緯は不明ですが……」
「つまり、『ラスボス』と言う事だな?」
「そうでしょうね。 間違いなく決勝に残るでしょう」
リナは蘭子に聞いた。
「蘭子、大丈夫か?」
「格闘ゲーなら無理でも、ポケクリなら充分勝算はある、と思います」
「フフ。 そう言やぁおめぇ、 格闘ゲーはからっきしだったな?」
「ええ……サチコ先輩にもほとんど負けてましたし……」
今までのやり取りで、蘭子に不安要素を抱かせてしまったようだ。
するとリナがポンと手を打った。
「よーし静坊、 お前、 セコンドに付け」ビシィ!
「うぇ? お静を、ですか? アネキ?」
「へ? セコンド? って、付き添いみたいな?」
いきなり指を指された静流が、あたふたと返事した。
蘭子も慌ててリナに聞き返す。
「おう。 支えてやれ」
「フム……確かに、控え室まではサポート要員をひとり付けられますね……」
素子は何処からともなくバトルの規約が書いてある小冊子を取り出し、確認した。
静流は少し考えてから、リナに進言した。
「僕よりは素子先輩の方が適任じゃないの? 『努力値の振り分け』なんて僕にはちんぷんかんぷんだし……」
「そ、そうだぜアネキ、 アタイなら一人で充分やれますぜ!」
静流の進言に蘭子が乗っかった。
二人が手をブンブンと振っているのが絶妙にシンクロしている。
「いえ、ここは静流様がサポートしてあげて下さい!」
「「素子先輩?」」
素子の発言に、二人は驚いて顔を持合わせた。
「静流様は、傍にいるだけでイイのです! それがパワーの源なのですから! フンッ!」
「ち、ちょっと先輩!? どう言うつもりだ?」
「いるだけって……素子先輩、意味が良くわからないんですけど……」
真っ赤な顔の蘭子は、あたふた度がピークに達しそうになっている。
静流はと言うと、発言の意味がわからず、首を傾げている。
「個人戦って、結構メンタルに来るんだぜ。 静坊、付いててやれって」
「ふぅん。 そんなもんかねぇ……」
リナは穏やかな顔で静流に言うと、静流は蘭子に向き直った。
「お蘭さん、 リナ姉がこう言ってるんだけど、 どうする?」
「……し、仕方ねぇな。 アネキがそう言うんなら、 付き合ってもらおうか?」
蘭子はそわそわしながら静流に言った。
「よくわかんないけど、わかった」パァァ
「ふぁう、よ、よろしく頼むぜ、 お静」
静流の屈託の無い笑顔に、蘭子はよろめいたが、平静を装った。
そのやり取りを見ていた真琴は、隣のシズムに聞こえるかどうかの声量で呟いた。
「静流の……バカ」
「え? マコちゃん、 何か言った?」
「何でもない! フン、 聞こえてるクセに……」
シズムにからかわれ、真琴はそっぽを向いた。
◆ ◆ ◆ ◆
ポケクリバトル会場 控室 12:50時――
大型テントの控室は、マンガ喫茶の一区画程の広さにパーテーションで区切られ、プレイヤーの個室となっている。
控室には『オリジナル笑顔』こと片桐英二と、舎弟のクニヒコがいた。
「アニキ、 この調子なら優勝間違い無しだぜ!」
「おう。任せろ」
二人でロケ弁をかきこみながら、何やら話している。
「アニキ、 賞金で『JKリフレ』行くんスか? クゥ、たまんねぇなぁ……」
「そんな低俗なトコ行くかよ? 行くんなら……」
「行くんなら、ドコにいくんスか?」
クニヒコは期待を込めて片桐に聞いた。
「決まってんだろ? 『ノーパンしゃぶしゃぶ』によ♪」
「うはぁ、 オプションで『ワカメ酒』追加したいッス!」
クニヒコは緩んだ顔でそう言ったが、急に真顔になった。
「そう言えばアニキ、 東Aブロックの奴、 どっかで見たような感じなんスよね……」
「お前も気付いたか。 確かに見覚えはある。 懐かしいなぁ、 クニヒコ」
「えと、 誰でしたっけ?」
首を傾げて悩んでいるクニヒコに、片桐はドヤ顔で言った。
「アイツは間違いない。 『篠田サブリナ』の子分だ」
それを聞いてもパッとしないクニヒコ。
「……誰です? サブリナって?」
「てめぇ! 忘れたのか? 俺の愛しのリナを!」
「ああ! 一日に一回は口にする『リナの姐御』の事か!」
クニヒコは手をポンとつき、片桐に言った。
「アニキの妄想が作り出した『理想の嫁』ッスね?」
「バカ! 妄想じゃねぇよ!」ゴンッ
「痛ぅ……」
クニヒコに拳骨を見舞った片桐は、徐々に『アノ顔』になった。
「感じる、 感じるぞ……イイ匂いだ……狂気を含んだイイ匂い。 待ってろよ、リナ」
「……ってつまらねぇ話だ」
長い回想が終わり、リナが締めくくった。
「でもでも、蘭ちゃんにとっては忘れられないエピソードですよ! レトロゲームが繋いだ縁、 感動しました!」
素子は両手を頬に当て、悩める乙女のポーズをやった。
「リナらしいわ。色恋沙汰には程遠いわね」
しゃべり終えたリナに、雪乃は苦笑いで感想を述べた。
「お茶が不味くなる。 思い出したくもねぇや……」
リナがそう言うと、蘭子は席を立った。
「アネキ! 少なくともアタイには、 忘れられない出来事でしたよ?」
「ん? 悪りぃ、 おめぇと初めて会った日、だもんな……」
リナが涙目になっている蘭子を必死になだめた。
「あの後アネキは国尼に入学して、二年の時の交換留学に行ったまま、 行方不明になっちまった……グス」
「この間、 説明したじゃねぇか? 違う世界線に飛ばされたって……」
「いつしかヤスとかサチコ先輩が、アネキの事を思い出せなくなっていった……ヒック」
「そうだったのか……つれぇ思いさせちまったな……」
ついに泣き出してしまった蘭子を、リナは懐に抱き、頭を撫でてやった。
「あのあと『モナカ』は閉店して、『アドワーズ』も次の年に閉店しました」
ここで静流が口を挟んだ。
「確かに南口は何軒かゲーセンがあったなぁ。 今は『SOGA』だけだもんね?」
「そうか……あの街もつまんなくなっちまったもんだな……」
蘭子を撫でながら、リナは寂しげな顔になった。
潤んだ目をした蘭子が、リナを真っ直ぐ見て言った。
「アネキ、戻って来るんですよね? こちらに」
「ああ。そのつもりだ」
「ヤスたちに会ってやってください。 そうすればアイツらも思い出しますよ」
「わかった。 全てがクリアになった時、必ず戻る」
蘭子は落ち着いたようで、席に座り直してお茶を飲んでいた。
「その片桐がここに……因縁めいたものがあるのか?」
「どうでしょうね。彼が『オリジナル笑顔』本人だとしたら、『イベント荒らし』の可能性もあるかと……」
素子が顎に手をやり、考察し始めた。
「『オリジナル笑顔』はいろんなゲームイベントに顔を出し、 場を乱す常習犯です。 今回出場がOKになった経緯は不明ですが……」
「つまり、『ラスボス』と言う事だな?」
「そうでしょうね。 間違いなく決勝に残るでしょう」
リナは蘭子に聞いた。
「蘭子、大丈夫か?」
「格闘ゲーなら無理でも、ポケクリなら充分勝算はある、と思います」
「フフ。 そう言やぁおめぇ、 格闘ゲーはからっきしだったな?」
「ええ……サチコ先輩にもほとんど負けてましたし……」
今までのやり取りで、蘭子に不安要素を抱かせてしまったようだ。
するとリナがポンと手を打った。
「よーし静坊、 お前、 セコンドに付け」ビシィ!
「うぇ? お静を、ですか? アネキ?」
「へ? セコンド? って、付き添いみたいな?」
いきなり指を指された静流が、あたふたと返事した。
蘭子も慌ててリナに聞き返す。
「おう。 支えてやれ」
「フム……確かに、控え室まではサポート要員をひとり付けられますね……」
素子は何処からともなくバトルの規約が書いてある小冊子を取り出し、確認した。
静流は少し考えてから、リナに進言した。
「僕よりは素子先輩の方が適任じゃないの? 『努力値の振り分け』なんて僕にはちんぷんかんぷんだし……」
「そ、そうだぜアネキ、 アタイなら一人で充分やれますぜ!」
静流の進言に蘭子が乗っかった。
二人が手をブンブンと振っているのが絶妙にシンクロしている。
「いえ、ここは静流様がサポートしてあげて下さい!」
「「素子先輩?」」
素子の発言に、二人は驚いて顔を持合わせた。
「静流様は、傍にいるだけでイイのです! それがパワーの源なのですから! フンッ!」
「ち、ちょっと先輩!? どう言うつもりだ?」
「いるだけって……素子先輩、意味が良くわからないんですけど……」
真っ赤な顔の蘭子は、あたふた度がピークに達しそうになっている。
静流はと言うと、発言の意味がわからず、首を傾げている。
「個人戦って、結構メンタルに来るんだぜ。 静坊、付いててやれって」
「ふぅん。 そんなもんかねぇ……」
リナは穏やかな顔で静流に言うと、静流は蘭子に向き直った。
「お蘭さん、 リナ姉がこう言ってるんだけど、 どうする?」
「……し、仕方ねぇな。 アネキがそう言うんなら、 付き合ってもらおうか?」
蘭子はそわそわしながら静流に言った。
「よくわかんないけど、わかった」パァァ
「ふぁう、よ、よろしく頼むぜ、 お静」
静流の屈託の無い笑顔に、蘭子はよろめいたが、平静を装った。
そのやり取りを見ていた真琴は、隣のシズムに聞こえるかどうかの声量で呟いた。
「静流の……バカ」
「え? マコちゃん、 何か言った?」
「何でもない! フン、 聞こえてるクセに……」
シズムにからかわれ、真琴はそっぽを向いた。
◆ ◆ ◆ ◆
ポケクリバトル会場 控室 12:50時――
大型テントの控室は、マンガ喫茶の一区画程の広さにパーテーションで区切られ、プレイヤーの個室となっている。
控室には『オリジナル笑顔』こと片桐英二と、舎弟のクニヒコがいた。
「アニキ、 この調子なら優勝間違い無しだぜ!」
「おう。任せろ」
二人でロケ弁をかきこみながら、何やら話している。
「アニキ、 賞金で『JKリフレ』行くんスか? クゥ、たまんねぇなぁ……」
「そんな低俗なトコ行くかよ? 行くんなら……」
「行くんなら、ドコにいくんスか?」
クニヒコは期待を込めて片桐に聞いた。
「決まってんだろ? 『ノーパンしゃぶしゃぶ』によ♪」
「うはぁ、 オプションで『ワカメ酒』追加したいッス!」
クニヒコは緩んだ顔でそう言ったが、急に真顔になった。
「そう言えばアニキ、 東Aブロックの奴、 どっかで見たような感じなんスよね……」
「お前も気付いたか。 確かに見覚えはある。 懐かしいなぁ、 クニヒコ」
「えと、 誰でしたっけ?」
首を傾げて悩んでいるクニヒコに、片桐はドヤ顔で言った。
「アイツは間違いない。 『篠田サブリナ』の子分だ」
それを聞いてもパッとしないクニヒコ。
「……誰です? サブリナって?」
「てめぇ! 忘れたのか? 俺の愛しのリナを!」
「ああ! 一日に一回は口にする『リナの姐御』の事か!」
クニヒコは手をポンとつき、片桐に言った。
「アニキの妄想が作り出した『理想の嫁』ッスね?」
「バカ! 妄想じゃねぇよ!」ゴンッ
「痛ぅ……」
クニヒコに拳骨を見舞った片桐は、徐々に『アノ顔』になった。
「感じる、 感じるぞ……イイ匂いだ……狂気を含んだイイ匂い。 待ってろよ、リナ」
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