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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-2

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――

 二学期末のテストを教壇にドサっと置いたムムちゃん先生が、ニコニコしながら生徒たちに告げた。

「ムフゥ。 これからお待ちかねのぉ、 期末テストを返しまぁーっす!」


「「「うげぇぇ……」」」


 緊張と落胆で、教室の空気が一気に重くなった。
 ムムちゃん先生に席の順番で呼ばれ、テストを受け取って一喜一憂する生徒たち。
 シズムの番になり、立ち上がって教壇の前に立つ。

「はーい、井川サンはクラス総合1位でーっす!」

「「「うぉぉーっ!!」」」パチパチパチ
「「「きゃあーっ!!」」」パチパチパチ

 それを聞いた瞬間、男子、女子が同時に拍手と歓声を上げた。

「へへ。 ありがとう♪」ペコリ

 ぺこぺこと頭を下げるシズムは、悪く言えば媚びを売っている様にも見えた。 
 それを見ていたムムちゃん先生は、眉間にしわを寄せてシズムに聞いた。

「井川サン! ぶっちゃけ、手を抜いてるでしょぉ?」
「ええ? そんな事、 してませんよぉ~」
「アナタだったらダントツで学年1位取れるでしょうに。 ケアレスミスがわざとらしいのよねぇ……」

 ムムちゃん先生は何を企んでいるのか?
 シズムが『聖遺物』のロディだと言う事は百も承知の筈だ。

「だって、 ホントにわかんないんだもん!」

 疑って来る先生に、シズムは頬を膨らませて拗ねた。

「う~ん、 どうも怪しいのよねぇ……」

 ジト目になっているムムちゃん先生に、他の生徒から声が上がった。

「ムムちゃん先生~っ、 あとがつかえてまっせ?」
「おっとイケナイ! 次は……」

 生徒に促され、ふと我に返ったムムちゃん先生。
 シズムは疑いの目から解放され、ホッとした顔で席に戻って行った。

「次、加賀谷サァーン」
「う、うーっす……」

 蘭子の順番となり、重々しく席を立つ蘭子。
 足取りも重く、見ていて痛々しかった。
 答案を受け取った蘭子に、ムムちゃん先生はニッコリと微笑んだ。

「う~ん惜しい! 今回はレッド1枚よぉ♪」

「「「お、おぉ~!?」」」

 言われた蘭子自身も含め、一同がどよめいた。
 恐らくひとつの教科で赤点を取ったという事だろう。

「マジ? ですか?」
「マジも大マジ♪ アナタはやればできる子なの! 三日後に追試だから、頑張って♪」
「は、はい! ありゃーした!」

 ムムちゃん先生に褒められ、頬を薄っすら赤くした蘭子は、行きの倍の速さで自分の席に戻った。

「よかったなお蘭! レッド1枚で済んで」
「ああ。 三枚は覚悟してたんだ……良かった」

 達也に声をかけられ、蘭子はホッと胸を撫で下ろした。

「冬休み、何かあるんだよな?」
「ああ。 アネキに会いに行くんだ。 だから絶対に追試は落とせない!」

 蘭子が言う『アネキ』は、薫子たちと共に『流刑ドーム』にいるリナこと篠田サブリナである。
 リナは薫子、忍、雪乃の四人で構成される『国尼四羽ガラス』と呼ばれている。

「あの『伝説のゲーマー』な。 前に会ったときゃビビッて近寄れなかったぜ……」
「内心は温厚な方だ。 キレた時はヤバいらしいがな」

「次 土屋クゥーン……」
「ほーい」

 達也を読んだ声が、心なしか低いトーンだった。

「キミはことごとく期待を裏切るわね。 追試落としたら、 冬休みは無いと思いなさい?」
「ぐぼはぁっ!?」

 ムムちゃん先生からの見えないパンチに腹をえぐられた達也は、苦悶の表情を浮かべてよろけた。
 よろよろと頼りない足取りで自分の席に戻った達也は、席に着くなり、青い顔で小刻みに震えていた。
 近くにいた蘭子は、状況を察知したのか青ざめた顔で達也を見守っていた。

「おい! どうした達也! しっかりしろよ」

 堪らず静流は達也に声をかけた。

「あぁ静流か……ヤバい、 俺の冬休みが……」
「まさか、お前のレッドクリフが?」
「陥落……した」

 これも恐らく、赤点を取ったという事だろう。
 それを聞いた直後、静流がムムちゃん先生に呼ばれた。

「次、五十嵐クゥーン!」
「は、はい!」ガタッ

 ムムちゃん先生の口調は、今までの誰の時よりもトーンが強く、明るかった。
 総合得点は事前に知っているが、まだ安心出来ない。
 静流は緊張しながら、教壇に立っているムムちゃん先生の方に近付いた。

「五十嵐クン! よく頑張りましたね! クラスで総合2位よぉ!」
「えっ!?」

「「「うぉぉーっ!!」」」
「「「きゃあーっ!!」」」

 ムムちゃん先生がニッコリと微笑みながらそう言うと、男子と女子が、ほぼ同時に歓声を上げた。
 するとムムちゃん先生は、静流に耳打ちした。

「放課後、職員室に来て頂戴。 幾つか聞きたい事があるの」コソ
「は、はい。 わかりました」
 
(絶対疑われてるな……どう弁明すればイイんだろ……)

 自分がムムちゃん先生に呼ばれた理由を考えながら席に戻る静流。
 その結果、周りできゃあきゃあ騒いでいるギャラリーは無視されていた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 帰りのHRが終わり、帰り支度を始める生徒たち。
 達也はいまだにフリーズしたままだった。

「おい達也、帰らないの?」
「お先真っ暗だ……朋子にも愛想尽かされちまったし……」

 静流が辺りを見回すと、真琴の手を引き、ズンズンと教室を出て行く朋子が見えた。
 その後ろを申し訳なさそうに右手で『スマン』のポーズをした蘭子が付いて行った。
 静流は達也の前の席に座り、達也に聞いた。

「レッドゾーンはちなみに、 どの教科だ?」
「現代文と魔法物理と世界史……くぅぅ」
「何だって? どれもヤバい教科じゃんか! 追試落としたら『鬼レポート』の絨毯爆撃だぞ?」

 達也の衝撃発言に、さしもの静流ものけ反った。

「頼む、 静流ぅ、 勉強手伝ってくれぇ……」
「そう言われてもなぁ……ちょっと考えとくから、 もう帰れよ。 僕、 ムムちゃん先生に呼ばれてるから行くな?」
「何だよ? お前が呼び出しって、 表彰でもされるのか?」
「違う、逆だよ多分。 不正を疑われてるんだ……」
「何ィ? でも、やってねぇんだろ?」
「勿論。 女神に誓うよ」
「ならば堂々としてろ。 ビビってると余計疑われるからな!」
「何で上から目線!? でもわかった。 サンキューな」

 ムムちゃん先生に呼ばれた件で、放課後に教室を出て行く静流。
 正直達也をひとり残していくのは、後ろ髪を引かれる思いだった。

「職員室に行くんでしょ? 一緒に行こ♪」

 静流が教室から出て来るのを待っていたシズムが、静流の横にピタッと着いた。

「シズム? お前もムムちゃんに疑われてるのか?」
「ううん。 静流クンの弁護に行くの♪」

 果たして、シズムが静流の容疑を晴らしてくれるのだろうか?
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