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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード55-13
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五十嵐家 静流の部屋――
2-B教室でのメガネ騒動がひと段落し、追試が始まった。
今のやり取りをモニターで見ていた静流たち。
「ふぅ。 やっと始まったか……」
「やっぱり疑われましたね。 不可視化出来ればよかったんですが……」
「急ごしらえだったんだ。 贅沢は言えんよ」
静流と睦美がそんな話をしていると、真琴がイラついて二人に聞いた。
「ちょいとお二人さん? 私にもわかるように説明して欲しいんですけど?」
「え? ああ。 メガネの事?」
イラついた真琴が、身を乗り出して静流に迫った。
「それ以外に何かあるの? 大体あのメガネがそんなに重要なの?」
「わ、 わかった。 今説明するよ……」
真琴の迫力に驚きながら、静流は説明を始めた。
「実はあのメガネ、子ロディが変身してるんだ」
「何ですって? でも魔力キャンセラーに反応しなかったじゃない?」
真琴は首を傾げ、静流に反論した。
「子ロディのメガネは極微量の魔力で作動しているんだ。 キャンセラーにも掛からない位にね」
「って言うか、 そもそも何であの子たちがメガネに変身しなきゃいけないの?」
「百聞は一見に如かず。 ロディ、あれと同じものを出して」
「承知しました」ブン
静流に命令されたロディは、口で腕を噛みちぎると、見る見る内に瓶底メガネになった。
「かけて見な。 それでこの問題を見るんだ」
「え? わかったわよ……」
真琴は恐る恐る瓶底メガネをかけ、問題を見た。
「ん? 何これ? へぇー。 おもしろーい♪」
傍から見る真琴は、VRゴーグルを着けて遊んでいる様だった。
◆ ◆ ◆ ◆
国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――
例のメガネをかけた三人は、問題を凝視しているだけで、まだペンを走らせる仕草は見受けられない。
少しして先にペンを動かしたのは達也だった。
(見える……見えるぞ……俺にも見える)
達也はペンを持つと、淡々と答えを記入していく。
少しの時間差で蘭子とイチカがペンを取った。
(イケる。 イケるぞぉ……)
(フムフム。 楽勝だな♪)
三人が用紙に答えを書いていくのを見た先生が、見回りがてら三人の答案を覗き込んだ。
(うぉ? コイツら、 まともに計算してやがる……)
いつもの三人なら、途中式を省くと言うかろくに考えもせずいきなり答えを記入している所だが、今回は違う様だ。
用紙の端にある空白にまで数式がびっしりと書き込まれている。
達也が導き出した答えを見た先生は、思わず口に出しそうになって慌てて口を塞いだ。
(うっ!?……合ってる。 コイツら、 短期間にどんな勉強をしたんだ?)
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋――
「順調みたいですね?」
「クックック。 あの先生、 鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしていたぞ? 実に滑稽だ」
それを聞いた真琴が二人に説明を求めた。
「それで静流、 このメガネの事、 いい加減説明してもらえる?」
「そうだった。 どうだった? 使ってみて」
「ええと、 自分が問題を解いてる映像が浮かんでくる感じ?」
そう言って真琴は首をひねった。
「概ねそれであっている。 子ロディが見せているイメージは、問題を解くプロセスをナビゲートしているのだよ」
要約すると、子ロディが脳内のアーカイブから対象の問題に関する情報を引き出し、回答に至る過程を映像で脳内に送っている、との事らしい。
真琴はメガネを外し、眉間を揉む仕草をした。
「はぁ。 ちょっとかけただけでかなり集中力を使うね……」
「そうなんだ。 だから子ロディに個人にマッチした問題をチョイスさせているんだ」
「ふぅん……」
真琴はまだ納得していなかった。
「でも随分回りクドい事してるよね? 単純に子ロディが正解を教えてあげればイイんじゃないの?」
「それじゃあカンニングでしょ? 折角頭の中に詰め込んだんだから、使わない手はないでしょ?」
「つまり、子ロディはアイツらの頭の中を『最適化』しているって事?」
「左様。 答えが一つだとして、そこに辿り着く過程には個人差があるからな」
睦美たちの説明で一応理解した真琴は、モニターを見た。
先生が腕時計を見て、試験の終了を知らせる所だった。
◆ ◆ ◆ ◆
国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――
「そこまで! 両手を後ろに組むんだ」
そう言って先生が机の上の答案用紙を一枚ずつ集めていく。
「よし! 次は社会科だ! 10分後に席に着いている事。 解散!」
「「「うげぇぇ……」」」
解散と言われた瞬間、達也たちは机に突っ伏した。
達也は隣で呻いている蘭子に、かすれ気味の声で話しかけた。
「うぅ……お蘭、 どうだった?」
「……頭の中をこねくり回されている感覚は……地獄だ」
次に達也はイチカに声をかけた。
「篠崎、 生きてるか?」
「Gカップの重さは両方で1.5kg……ぷしゅぅ」
イチカは意味不明な事を口走ったあと、気を失った。
「おいっ! しっかりしろ! 次があるんだぞ!」
「う、 うぅ~ん……」
達也はイチカを揺り起こそうとするが、イチカは白目をむいている。
赤点が1教科だけだった蘭子は、うめきながら帰り支度を始めた。
「悪い。 アタイは帰らせてもらうぜ……」
「おう。 お疲れ」
蘭子は前かがみになり、具合悪そうな顔で右手をあげ、去り際に一言残して去って行った。
「……死ぬなよ」
何人か入れ替わった2-B教室。
達也はポケットから飴玉を出し、イチカに与えた。
「ホレ。 ブドウ糖補給だ」
「あむ……はっ!? ツッチー! 試験は!?」
飴玉を舐めて覚醒したイチカは、今の状況に困惑していた。
「難関の物理は終わった。 次は世界史だ」
「そう。 終わったのか……」
イチカはシュンと肩を落とした。
「問題は解けたんだろう? 次に備えて切り替えろ」
「そうだね。 わかった」
飴玉の糖分が脳に届いたのか、イチカの目に活力が戻って来た。
「暗記問題ならやれる。 どんと来い!」
「やれるな? よし!」
二人は臨戦態勢に入った。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋――
「蘭ちゃん、真っ白になってたね……」
「彼女の場合はまだ増しだ。 問題は……」
そういって三人は、モニターの中の達也たちを見た。
達也がイチカに飴を与えている所だった。
「飴を持たせて正解だった。 脳の回転には糖分が不可欠だからな」
静流は自分の傍で丸くなっている親ロディに聞いた。
「どうなのロディ? 物理の結果は」
「ボーダーは超えたと思います。 最善は尽くしました」
「篠崎は、 出来たのか?」
「数より質、 あえて得点の高い問題を狙ったようです」
「アイツめ……粋がりおって……」
親ロディの分析に、睦美は奥歯を噛んだ。
静流は心配そうにモニターに映る達也たちを見た。
「持ちますかね? 達也は世界史、 しののんは世界史と数学ですよね?」
「わからん。 アイツらだってここ数日、 対策して来たんだろう?」
真琴は溜息をつき、二人に言った。
「つまり、あとは二人の脳ミソ次第って事よね?」
2-B教室でのメガネ騒動がひと段落し、追試が始まった。
今のやり取りをモニターで見ていた静流たち。
「ふぅ。 やっと始まったか……」
「やっぱり疑われましたね。 不可視化出来ればよかったんですが……」
「急ごしらえだったんだ。 贅沢は言えんよ」
静流と睦美がそんな話をしていると、真琴がイラついて二人に聞いた。
「ちょいとお二人さん? 私にもわかるように説明して欲しいんですけど?」
「え? ああ。 メガネの事?」
イラついた真琴が、身を乗り出して静流に迫った。
「それ以外に何かあるの? 大体あのメガネがそんなに重要なの?」
「わ、 わかった。 今説明するよ……」
真琴の迫力に驚きながら、静流は説明を始めた。
「実はあのメガネ、子ロディが変身してるんだ」
「何ですって? でも魔力キャンセラーに反応しなかったじゃない?」
真琴は首を傾げ、静流に反論した。
「子ロディのメガネは極微量の魔力で作動しているんだ。 キャンセラーにも掛からない位にね」
「って言うか、 そもそも何であの子たちがメガネに変身しなきゃいけないの?」
「百聞は一見に如かず。 ロディ、あれと同じものを出して」
「承知しました」ブン
静流に命令されたロディは、口で腕を噛みちぎると、見る見る内に瓶底メガネになった。
「かけて見な。 それでこの問題を見るんだ」
「え? わかったわよ……」
真琴は恐る恐る瓶底メガネをかけ、問題を見た。
「ん? 何これ? へぇー。 おもしろーい♪」
傍から見る真琴は、VRゴーグルを着けて遊んでいる様だった。
◆ ◆ ◆ ◆
国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――
例のメガネをかけた三人は、問題を凝視しているだけで、まだペンを走らせる仕草は見受けられない。
少しして先にペンを動かしたのは達也だった。
(見える……見えるぞ……俺にも見える)
達也はペンを持つと、淡々と答えを記入していく。
少しの時間差で蘭子とイチカがペンを取った。
(イケる。 イケるぞぉ……)
(フムフム。 楽勝だな♪)
三人が用紙に答えを書いていくのを見た先生が、見回りがてら三人の答案を覗き込んだ。
(うぉ? コイツら、 まともに計算してやがる……)
いつもの三人なら、途中式を省くと言うかろくに考えもせずいきなり答えを記入している所だが、今回は違う様だ。
用紙の端にある空白にまで数式がびっしりと書き込まれている。
達也が導き出した答えを見た先生は、思わず口に出しそうになって慌てて口を塞いだ。
(うっ!?……合ってる。 コイツら、 短期間にどんな勉強をしたんだ?)
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋――
「順調みたいですね?」
「クックック。 あの先生、 鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしていたぞ? 実に滑稽だ」
それを聞いた真琴が二人に説明を求めた。
「それで静流、 このメガネの事、 いい加減説明してもらえる?」
「そうだった。 どうだった? 使ってみて」
「ええと、 自分が問題を解いてる映像が浮かんでくる感じ?」
そう言って真琴は首をひねった。
「概ねそれであっている。 子ロディが見せているイメージは、問題を解くプロセスをナビゲートしているのだよ」
要約すると、子ロディが脳内のアーカイブから対象の問題に関する情報を引き出し、回答に至る過程を映像で脳内に送っている、との事らしい。
真琴はメガネを外し、眉間を揉む仕草をした。
「はぁ。 ちょっとかけただけでかなり集中力を使うね……」
「そうなんだ。 だから子ロディに個人にマッチした問題をチョイスさせているんだ」
「ふぅん……」
真琴はまだ納得していなかった。
「でも随分回りクドい事してるよね? 単純に子ロディが正解を教えてあげればイイんじゃないの?」
「それじゃあカンニングでしょ? 折角頭の中に詰め込んだんだから、使わない手はないでしょ?」
「つまり、子ロディはアイツらの頭の中を『最適化』しているって事?」
「左様。 答えが一つだとして、そこに辿り着く過程には個人差があるからな」
睦美たちの説明で一応理解した真琴は、モニターを見た。
先生が腕時計を見て、試験の終了を知らせる所だった。
◆ ◆ ◆ ◆
国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――
「そこまで! 両手を後ろに組むんだ」
そう言って先生が机の上の答案用紙を一枚ずつ集めていく。
「よし! 次は社会科だ! 10分後に席に着いている事。 解散!」
「「「うげぇぇ……」」」
解散と言われた瞬間、達也たちは机に突っ伏した。
達也は隣で呻いている蘭子に、かすれ気味の声で話しかけた。
「うぅ……お蘭、 どうだった?」
「……頭の中をこねくり回されている感覚は……地獄だ」
次に達也はイチカに声をかけた。
「篠崎、 生きてるか?」
「Gカップの重さは両方で1.5kg……ぷしゅぅ」
イチカは意味不明な事を口走ったあと、気を失った。
「おいっ! しっかりしろ! 次があるんだぞ!」
「う、 うぅ~ん……」
達也はイチカを揺り起こそうとするが、イチカは白目をむいている。
赤点が1教科だけだった蘭子は、うめきながら帰り支度を始めた。
「悪い。 アタイは帰らせてもらうぜ……」
「おう。 お疲れ」
蘭子は前かがみになり、具合悪そうな顔で右手をあげ、去り際に一言残して去って行った。
「……死ぬなよ」
何人か入れ替わった2-B教室。
達也はポケットから飴玉を出し、イチカに与えた。
「ホレ。 ブドウ糖補給だ」
「あむ……はっ!? ツッチー! 試験は!?」
飴玉を舐めて覚醒したイチカは、今の状況に困惑していた。
「難関の物理は終わった。 次は世界史だ」
「そう。 終わったのか……」
イチカはシュンと肩を落とした。
「問題は解けたんだろう? 次に備えて切り替えろ」
「そうだね。 わかった」
飴玉の糖分が脳に届いたのか、イチカの目に活力が戻って来た。
「暗記問題ならやれる。 どんと来い!」
「やれるな? よし!」
二人は臨戦態勢に入った。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋――
「蘭ちゃん、真っ白になってたね……」
「彼女の場合はまだ増しだ。 問題は……」
そういって三人は、モニターの中の達也たちを見た。
達也がイチカに飴を与えている所だった。
「飴を持たせて正解だった。 脳の回転には糖分が不可欠だからな」
静流は自分の傍で丸くなっている親ロディに聞いた。
「どうなのロディ? 物理の結果は」
「ボーダーは超えたと思います。 最善は尽くしました」
「篠崎は、 出来たのか?」
「数より質、 あえて得点の高い問題を狙ったようです」
「アイツめ……粋がりおって……」
親ロディの分析に、睦美は奥歯を噛んだ。
静流は心配そうにモニターに映る達也たちを見た。
「持ちますかね? 達也は世界史、 しののんは世界史と数学ですよね?」
「わからん。 アイツらだってここ数日、 対策して来たんだろう?」
真琴は溜息をつき、二人に言った。
「つまり、あとは二人の脳ミソ次第って事よね?」
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