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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-16

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ゼフィランサスの間――

 睦美から解放された静流が真っ先に向かったのは、自分たちの部屋だった。

「みんな出払ってるのか……とにかく横になりたい」

 静流は部屋に入るなり、ベッドにダイブした。

「ふぅ……疲れた。 宴会まで寝るか……スゥ」

 静流は睦美の要求をこなし、疲労困憊の様子だった。
 ベッドに倒れ込んだ静流は、一瞬で眠りについた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



『キューティー・デビルズ』の部屋――

 隊員から『ママ』と呼ばれている『キューティー・デビルズ』の隊長。
 隊長は窓からのオーシャンビューを眺めながら、煙草を吸っていた。
 すると、隊員たちが息を切らせながら部屋に入って来た。

「ママ! 『帰還命令』ってどう言う事!?」ハァハァ
「何よ、 騒がしい……」

 帰って来たのはジョアンヌとカミラたちだった。
 隊長は動じず、煙草の煙を天井付近にふぅーっと吐いた。

「そのままの意味だけど? それが何か?」

 そうこうしている間に隊員が揃い、それぞれが隊長に不満をぶつけた。

「アタシらまだ、 仕事してないじゃん?」
「そうですママ! 説明を求めます!」

 喚き立てる隊員たちに、隊長は煙草を灰皿に押し付け、隊員たちに向き直った。

「作戦は中止。 今晩中に帰るわよ」

「「「「えぇ~!?」」」」

 隊員たちはあからさまに不服を唱えた。

「うっそぉ。 納得いかなぁーい!」
「何で? 折角の太客じゃないのさ!」
「こんな事になるんだったら、 イヴに仕事なんて入れなきゃ良かった!」
「ママ! キャンセル料ふんだくろうよ!」
「みんな! 落ち着いて」

 代表でジョアンヌが部長に聞いた。

「大体、 今晩中に帰還するなんて可能なんですか?」
「『夜間特別便』を寄こすって言うから、 お言葉に甘えたわ」
「幹事は三船八郎司令ですよね? キャンセル料は取れますか?」

 ジョアンヌの問いに、隊長は溜息をつき、質問に答えた。 

「実はね、 ギャラはもうもらってるの。 司令の奥様たちからね……」
「な、 何ですって?」ざわ…

 隊長の言葉に、隊員たちがざわめいた。

「つまり、 向こうの方が一枚上手だった、 って事よ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ジギタリスの間――

 睦美たち三年生の部屋には、楓花とイタ子、それに素子の三人がお茶を飲んでいた。
 ココにいない白黒ミサはグラビア撮影で、カナメはその付き合い。睦美は別行動だった。
 楓花がボソッと呟いた。

「ふぅ……暇ねぇ」
「前会長もカナちゃんと一緒に、 部長たちやメルクさんのグラビア撮影にお邪魔すれば良かったんじゃ?」

 そんな楓花に、素子が聞いた。

「私、 紫外線を浴びると死んじゃうから……」 
「あ! それわかります! 私も完全無欠のインドア派ですから!」

 素子はポンと手を打ち、楓花に同感した。
 楓花は、 お茶をすすりながら饅頭を食べているイタ子に話題を振った。

「イタ子はビーチには行かないの?」

 楓花がそう聞くと、イタ子は溜息混じりに二人に言った。

「私は……お見せ出来るようなボディ、 持ち合わせていませんから……」
「うっ! それを言っちゃあお終いよ……」
 
 イタ子の返事に、テーブルに突っ伏す素子。
 追い打ちをかけるかのように呟く楓花。

「最近改めて思うの。 静流キュンの周りにいる子って、 ビジュアル偏差値高めよね……」
「前会長!? 上乗せコンボで数え役満、もうオーバーキルですよぉ……」

 テーブルに突っ伏していた素子が、むくっと起き上がった。 

「カナちゃんは置いといて、 部長たちも一応アイドルですし、 シズムンとあのメルクさんですよ? 特にメルクさんが最高にセクスィーです! 女の私でもむしゃぶり付きたくなりますもん……ムフ」
「確かに。 薫子お姉様に少し似てて、 ムっちゃんのどストライクよね……」

 楓花はふと睦美の事が気になり、素子に聞いた。

「そう言えばムッちゃんはドコにいるの? あの子もインドア派よね?」
「今頃GMは、 静流様と交渉中たと思いますよ」
「交渉? 静流キュンと?」
「ええ。 何でも忘年会の余興で相談があるらしいですよ?」
「余興ねぇ……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



マンドレイクの間――

 アマンダ、リリィ、ルリは宴会の段取りを調整していた。

「ま、こんなものかしら?」
「そうですね。 あとはGMの交渉次第ですか……」

 アマンダとリリィが、メモ書きを見ながらそう言った。
 するとルリがその会話に割り込んだ。

「やはり、 私も付いて行けば良かったでしょうか?」
「イヤイヤ、行かなくて正解だから……」
「ふぇ? 何故ゆえに?」

 ルリは不思議そうに首を傾げた。
 リリィは苦笑しながらルリに言った。
 
「少尉殿が関わった時点で、静流クンが警戒しちゃうでしょうから……」
「け、警戒? ですかぁ!?」

 ルリは目を丸くして、リリィの言ったことに驚いた。

「アナタ、 たまに思っている事が口に出ている時があるわよ? 気を付けなさい?」

 アマンダはため息をつき、呆れ顔でルリに言った。

「そ、 それじゃあ静流様にとって私の認識って……」

 ルリの問いに二人は迷わず言った。

「変態ですよ」
「変態でしょうね」

「ガーン! ショックですぅ……」

 ルリの顔はみるみる青くなり、がっくりと肩を落とした。
 それを横目に、リリィはアマンダに聞いた。

「GM、 上手くやってくれるとイイけど」
「何とかなるわよ。 静流クンって、 あの先輩には素直に従う傾向にあるようだし」
「元々聞き分けがイイ子ですし、拝み倒せば大体の要求は通りそうですね……」

 暫しの沈黙ののち、マンドレイクの間に訪れた者がいた。

「皆さん! 朗報です!」

 睦美が興奮気味に入って来た。

「朗報って、 まさか……」
「静流クンと話が付いたって事?」

 アマンダとリリィが、驚きながら言った。

「肯定です! 殆どこちらの要求が通りました♪」

「「「よっしゃあ~!」」」

 三人はほぼ同時にガッツポーズを取った。

「よくやったわね。 で、 どんな技を使って交渉を成功させたの?」
「内容が内容だけに、それなりのテクニックが要ると思うのよね」

 アマンダたちは期待の目で睦美の答えを待っている。

「勿論、 伝家の宝刀『拝み倒し』を使いました!」グッ

 睦美は白い歯を見せ、親指を立てた。
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