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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-46

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宴会場『プロメテウス』の間

 忘年会が終わり、参加者たちは次々に部屋に帰って行く。
 睦美はレプリカたちの所有権を持つルリとニナを呼び止めた。

「そうでした! お二人にレプリカの取り扱いについて、ご説明する事があります!」

 ルリはダッシュ7に頭をポンポンと叩かれ、くしゃっと髪をいじられている。
 ニナはジンを自分の後ろに立たせ、バックハグのような状態になっていた。

「何か問題でも? 水に濡れると溶けてしまう、 とか? ムホッ」
「レプリカは防水ですので、 お風呂のお供にも最適ですよ♪」

 睦美がそう言うと、ニナがノリノリで言った。

「でも混浴ってあのスペースだけだよね? だったら内風呂でローションプレイとかはアリ?」
「ぐぼぁ!? あぁ……桃源郷がすぐそこに……」

 ルリは虚ろな目でぼぉっと天井付近を眺めている。

「まぁ、 その位なら問題無いかと……」
「フムフム。 面白くなって来たぞぉ♪」
 
 ニナはニヤつきながら顎に手をやり、何やら考え始めた。
 ふと我に返って睦美に聞いた。

「じゃあ問題って何? もしかして『稼働時間』とか?」

 ニナがそう言うと、睦美がピクリと反応した。

「鋭い! このレプリカたちの稼働時間つまり『ゴールデンタイム』、それは……日付が変わってから10分までです!」ビシッ

 睦美は決めポーズを取った。

「ほぉ……長いようで短い時間ですね……ヌフ」
「それだけあれば相当イジり倒せるね♪ フフフ」

 ニナの言葉に反応した睦美が忠告した。

「ニナさん? ご存じとは思いますが、『アレ』は付いていませんので悪しからず……」

 しかしニナは、全く動じなかった。

「付いてないだけで、行為自体はイイのよね?
「まぁ、 試してみる価値はありそうですね。 もっとも製作者の静流キュンの設定から外れていなければ、 ですけど?」

 睦美は『ヤれるもんならヤッてみろ』と言わんばかりにニナにそう言った。
 しかし、ニナは依然動じない。

「問題ないわよ♪ 『器具』の持ち込みはOKよね?」
「ええ。 た、 確かに……それならばあるいは可能かと……」

 ニナの本気度がわかり、睦美は苦笑いを浮かべた。
 そのやりとりを聞いていたルリは、今日イチの笑顔を浮かべた。

「成程……『アレ』を使えばイイのですね♡ フフ、 フフフフ……」 
「さぁて、 イジり倒すぞぉ~♪」

 それぞれのレプリカを生ぬるい視線で見ながら、二人はニヤついていた。
 用件が済んだ睦美は、若干引きながら二人に言った。
 
「で、 ではお二人共、 素敵なパートナーとの情熱的で魅惑的、 煽情的で蠱惑的な『聖夜』をご堪能下さい」



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 新たに薫子と忍がギャラリーに加わったキャリーたちのテーブル。
 いつの間にかマスターやホールスタッフの女子までシズルーたちの対局に興味深々だった。

「シズルー! やっておしまい!」
「完膚なきまでに叩き潰して差し上げなさい!」

 姉たちがシズルーに、彼女たちなりの声援を送った。
 キャリーはいぶかし気に姉たちを見て言った。

「なぁにこの小娘たちは? 失礼ね……」
「私の近親者だ。 大目に見てやってくれ」

 シズルーは仕方なさそうに姉たちをフォローした。

「そう言う事! べぇ~っ!」 
「とっととシズルーを返して『老害年増女』!」

「ぬぅわぁにぃ~!? 言わせておけば……」ギロ
「ママ!? 落ち着いて!」

 姉たちの挑発に、ブチ切れ5秒前のキャリー。
 部下たちがなだめようと必死になっている中、エスメラルダがキャリーに言った。

「この子たちはアタシの教え子でもあるんだ、 嚙みつくんじゃないよ?」
「ひっ!? こ、 これは失礼しました……」

 キャリーはエスメラルダをチラ見し、頭を下げた。

「中尉、 アンタの番だぞ?」
「わかってるわよ! もう……」 

 シズルーに促され、駒を1マス進めるキャリー。
 シズルーも1マスずつ淡々と左の駒を前に進めている。
 自陣に真っ直ぐに斬り込んでくる駒を見て、キャリーは黙考している。

(司令部狙いか? 多分佐官以上ね。 ここで倒しておくか? 何たって私の駒は『最強』なんだから!)

 自陣の駒を前に進め、敵陣の駒に乗せる。

「行くわよ? 勝負!」

 ジョアンヌが駒をめくった。

「オープン! 『大将』に、『スパイ』! シ、 シズルー様の勝ちです!」
 
 シズルーが前進させていたのは『スパイ』であり、迎え撃つ『大将』の唯一の弱点と言える。
 逆に『スパイ』は、大将以外には負けか相打ちしかない。

「くうっ……大将まで討ち取られるとは……こうなったらこれで……」ブツブツ

 キャリーは顎に手をやり、次の手を考えている。
 するとシズルーがキャリーに言った。

「おい……聞こえなかったか?」
「ん? 何よ、 今それどころじゃな――」
「貴君の負けだといったのだ!」

 シズルーの発した言葉に、いぶかし気な顔をするキャリー。

「は? 何でよ!? まだ司令部は占拠……はっ!」

 何かに気付いたキャリーの顔は、次第に焦りの色が濃くなっていった。

「今頃気付いたか? ローカルルールは貴君が了承した筈だな?」
「うっ……そうだった」

 事前にシズルーの方から勝利条件を通常の『司令部』の占拠ではなく、『大将』を討ち取った時点で勝敗が決まるローカルルールを提案し、これを適用していたのだ。


「「「「おぉ……」」」」


 突然訪れた結果に、マスターたちを含むほぼ全員から感嘆のが漏れた。
 キャリーの部下であるジョアンヌとカミラは、シズルーの勝利を称えた。

「やったぁ! シズルー様の勝ちだ♪」
「流石シズルー様……素敵です♡」

 ピョンピョン跳ねている部下たちを、キャリーは睨みつけた。

「アンタたち!? 何を喜んでるのよ! もう!」

 そこに今まで静観していたフジ子が、キャリーに話しかけた。

「キャリー? アナタ一体、 シズルー様と何を賭けたの?」
「フッ、 当然、 私が勝ったら彼の『初めて』を頂くつもりだったわよ?」


「「「「ぬわにぃ~っ!?」」」」


 キャリーのふてぶてしい態度に、薫子や忍と共に、フジ子とエスメラルダまで素っ頓狂な声を上げた。
 開き直ったキャリーは、薄笑いを浮かべ、蔑むような目でフジ子に言い放った。

「このコがDTだって聞いたら、 そりゃあロックオンするわよ……アンタも狙ってるんでしょ? フジ子?」

 それを聞いた一同が一斉にフジ子に視点を変えた。
 注目されたフジ子は、少しひるんだ後、キャリーに言い返した。

「わ、私は……アナタみたいに強引に奪うつもりは無いわ!」

 睨み合う二人に、エスメラルダはため息交じりに言った。

「見苦しいね! 黙って聞いてりゃ勝手な事ばかり言いやがって……」

「「ひいっ!」」

 エスメラルダに一喝され、二人はフリーズした。
 続けてエスメラルダはシズルーに聞いた。
 
「シズルーや。 お前はどうなんだい?」
「生憎だが、 今日は誰とも『生殖行為』を行う予定はない。 諦めてくれ」

 シズルーのこの一言で、全てにおいて決着が着いたと思われた。
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