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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-57

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保養施設内 宿泊棟 『デルフィニウムの間』

 後始末を終えたシズルーは、部屋でノビている者たちを自分らの部屋に運ぶのと、この部屋に壁を急造し、二つの部屋にする為のスタッフが来るのを待った。
 程なくスタッフがゾロゾロと駆け付けた。

「失礼しまぁす! 何でも急病人が出たとか?」

 先頭にいたスタッフがシズルーに聞いた。

「いや、 施術中に寝てしまっただけだ。 軽い状態異常だろう」

 そう言ってシズルーは、親指を後ろのベッドに向けた。

「むぅ……成程。 こりゃあ直ぐには起きませんね……はっ!?」 

 覗き込んだスタッフが目にしたものは、意識が戻ったエスメラルダを除くすべての者が、両目がハートマークになって薄笑いを浮かべていた。
 スタッフはエスメラルダを見た途端、背筋がピンと伸びた。

「あたしゃあ自力で部屋に戻るよ。 ついでにコイツも引き取る」

 エスメラルダはそう言って、隣で気持ちよさそうに寝ているラチャナを揺り起こした。

「ラチャナ! 起きんか!」
「ん?……う、 うにゅうぅ? か、閣下!?」
「ほれ! あたし部屋に行くよ!」
「ふぇ? 閣下のお部屋に、 ですか?」

 ラチャナはキョトンとしてエスメラルダを見た。

「お前の事だ。 どうせ部屋など取っておらんのだろう?」
「あ、 そうでした……へへ」

 呆れ顔のエスメラルダに、ラチャナは苦笑いした。

「このリストの通りに運んでくれ」
「はっ! かしこまりましたっ!」

 シズルーはあらかじめ用意したメモをスタッフに渡した。
 スタッフの口調が、明らかに変わっていた。
 
「野郎ども! お客様を丁重に運べ!」

「「「へいっ!」」」

 スタッフはキャリーとその部下二人をキングサイズのベッドに寝かせ、それ以外を担架に乗せて部屋から出て行った。
 壁構築係のスタッフが設置位置を確認し、ベッドやテーブルを移動した。

「では、 壁構築を始めますっ!」
「ああ、頼む」

 二人のスタッフが床に手をつき、呪文を唱えた。

「「【ビルド・ウォール】!!」」パァァァ

 すると、床から壁がせり上がり、程なく天井まで到達した。
 既存の壁と色やデザインが統一され、全く違和感は無かった。

「へぇ。 大したもんだね」コンコン
「お褒め頂き、 光栄に御座います!」

 エスメラルダはスタッフの手際の良さに感心し、壁の出来を確かめた。 
 褒められたスタッフたちは、満面の笑みで部屋を後にした。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設 ラウンジ

 ジンのレプリカに突如異変が起き、まるで魂が宿ったかのように動き出した。

「ボクは荻原朔也、 またの名を七本木ジン……悠久の時を超え、 今、 ここに参上!」パチ

 そしてジンはピース敬礼をし、白い歯を見せてウィンクした。


「「「「ぱぱぱ、 ぱっふぅ~ん♡♡♡」」」」


 不意を突かれ、一同は卒倒しそうな勢いで大きくのけ反った。
 数分後に回復したシレーヌがジンに詰め寄った。

「ねぇ朔也、 一体どう言うカラクリなの? 説明して?」
「うーんと……実はね、 みんなが察してる通り、 ボクの実体は別の所にあるんだ」

 詰め寄られたジンは、グイグイくるシレーヌに少し引き気味に話し始めた。

「上手く説明できないんだけど、 今、 ボクは何かに取り込まれて身動きが取れない状態なんだ。 ココがどこの星なのかもわからない……でもね」

 神妙な顔つきだったジンが、少し顔をほころばせた。  

「最近になって意識を飛ばす事が出来る様になった。 それは静流のお陰なんだ!」
「静流クン?」「静流様?」
「そう。 彼、 静流の成長にはいつも驚かされるね。 こうしてレプリカを構築したり、 不完全ながら【転移】だって使える」

 そう言ったジンに、カチュアは疑問を抱いた。

「フム。 まるで、 静流クンの様子がライブで見えてるみたいね?」
「ああ見てた。 色々な『目』を使ってね」

 ジンは大きく頷いて説明を始めた。

「最初は静流の夢枕に立つ事から始まって、その内虫や小動物の目を借りて静流の成長を見守っていたんだ」 
「フムフム……成程」

 それを聞いて、ジルは手をポンと叩き、何かを思い出していた。

「そう言えば、 朔也は【陰陽道】の心得がありましたね? 折り鶴に術を掛けて職員室を覗いたりしていました」
「そうそうそんな感じ それで、 この身体を遠隔で操作するのに必要な条件が揃って今に至るって事♪」

 それを聞いたニナとルリが、顔を青くしながら恐る恐るジンに聞いた。

「ジジ、 ジン様? と言う事は、 つい先ほど迄の黄金風呂での行為は?」
「ま、 まさか……『男体盛り』の時から?」

 するとジンが、後頭部を搔きながら気まずそうに言った。

「残念ながら、 一部始終把握してるよ……」
「「ひぃぃ……」」

 ニナとルリはイスから立ち上がり、飛び上がったと思ったらそのまま土下座した。
  
「ジン様に対し、 数々の許し難き大罪……」
「感情に溺れ、欲望のままにジン様を狼藉・凌辱・蹂躙エトセトラエトセトラ……」

「「誠に、 申し訳……ございませんでしたぁぁぁ!」」

 床に額をこすりつけながら必死に謝罪する二人を、他の者は冷ややかな目で見つめた。

「止めてくれ。 止めてくれないと逆に……怒るよ!」
「「はひぃ!?」」

 ジンの言葉に思わず顔を上げ、キョトンとしている二人に、ジンは言った。

「キミたちの性癖? とかはさておき、 ボクはむしろ安堵してる……」
「えっ!? それはどういう……」

 ジンの言い草に、目をぱちくりしている一同。

「ボクが『慰め』に使われている事ってつまり、 ボクにはまだ『居場所』があったんだって、 嬉しかったよ……」

 頬を指で掻きながら、ジンは照れくさそうに言った。


「「「「「きゃきゃ、 きゃっふぅ~ん♡♡♡」」」」」


 それを聞いた全員が、頬に両手をあて、『恋する乙女ポーズ』になって大きくのけ反った。
 暫くしてフロントの受付が申し訳なさそうに一同に声を掛けた。

「あのぉ……お取り込み中すみませんが……お部屋の準備が出来ました」

 そう言って受付は、四枚のカードキーを代表のニナに渡した。
 
「ご説明した通り、入口とトイレ、内風呂は共同ですので。 ではごゆっくり」 

 受付はジンの方を何度もチラ見しながら、早口で説明してその場を去って行った。

「お部屋の準備、 出来たって……どうしよう?」
「皆さんどうします?」

 ルリが一同を見渡すと、ジンが口を開いた。

「行こう! そこに静流がいる筈だ!」
「静流クンが? 何でわかるんです?」

 ニナは首を傾げてジンに聞いた。

「これだよ! 『アノクタラ……ソワカ』!」パァァ

 ジンが何やら呪文を唱えると、今までフリーズしていたダッシュ7の身体がビクンと跳ねた。

「む? ココは!? おかしい……姐御と連絡が取れなくなったと思ったら次は何だ!?」

 目に生命力が宿り、キョロキョロと辺りを見回すダッシュ7。

「今この子に低級精霊を宿した。 さっきまでボクの目になってくれていたハエ君だ♪」
「は!? 何ですとぉ?」
 
 あっさりと言い放ち、驚く一同。
 ジンに肩を叩かれ、挙動不審になっているダッシュ7。

「少し手伝ってくれ。 悪いようにはしないから」パチ
「だ、 ダンナ……承知!」

 ジンにウィンクされ、ダッシュ7は戸惑いながらも応じた。
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