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「あんな乱暴なこと、しちゃだめだよ」
お弁当を食べ終えたあと、スカイの強い希望で、私は彼に膝枕をしていた。
木陰のやわらかな風が頬を撫で、太ももに乗る彼スカイの頭の重みがじんわりと伝わってきて、落ち着く。
「そう? 僕としては、あの程度くらいだよ。本当は、あの臭い女も投げてやりたかったんだけどね」
喉をゴロゴロと鳴らしながら、耳をぴくぴくと動かすスカイ。
気持ちよさそうに目を細めているのに、言っている内容は物騒すぎる。
「“臭い女”って……シナのこと?」
「名前なんてどうでもいいよ。あの女、あの男とかなり前から関係を持ってる。匂いが濃く染みついてた」
「そう、だったんだ……」
スカイの嗅覚に嘘はない。だから、きっと本当なのだろう。
「ルビーと婚約してる間も、ずっと身体の関係はあったよ。匂いの染み方が、そうだった」
「そっか……」
何をどうしても、私たちの婚約は壊れる運命だったのかもしれない。
この人となら幸せになれる、そう思って選んだのに、見る目がなかった自分が、愚かだわ。
「私のために、あんなこと言ったんでしょ?」
私があえて、スカイと幼なじみだということを隠していたことだ。
そっと、彼の耳を撫でる。
付け根をくすぐるように指先でなぞると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「わかってくれた? 嬉しいなぁ。だってさ、ルビーは僕が嫌がること、絶対にしないって知ってるもん。だから、僕と幼なじみってこと、内緒にしてたんでしょ? 言ってたら紹介してって言われる。あの男に言われたら、断れないでしょ?だから、先に釘を刺したかっただけ」
全部、見透かされている。
そう、私は、スカイを守りたかった。
ダットのためじゃない。
スカイを困らせたくなかった。
「ありがとう。でも、おじ様の流れで紹介されること、あるでしょ?」
「それは仕方ないよ。父上の立場もあるからね。あ、あと“おじさん”のときもあるよ。ルビーの家族も、僕にとってはすごく大事だから」
私の言う“おじ様”はスカイのお父様。
スカイの言う“おじさん”は私のお父様。
お父様ったら、ちゃっかりしてるわね。
耳を撫でる指に、スカイの体温がじんわり伝わる。
耳の先から首元まで丁寧に撫でると、スカイはとろんとした顔で私を見上げてきた。
どうして、そんなに甘いの。
そんなふうに優しくされたら、私はいつまで経っても、この気持ちを断ち切れない。
「ねえ、スカイ。私、考えたの」
さらさらの髪を撫でながら、私は思い切って言った。
「……恋人になろうかな」
「えっ!?」
ガバッと勢いよく跳ね起き、私を見つめる。
「僕と!?本当に!?嘘じゃないよね!?」
不安と期待が混じった顔。
けれど耳もシッポもぴんと立ち、嬉しさを隠しきれていない。
「嘘じゃ、ないよ」
私は静かに、けれど優しく微笑む。
「恋人になろう。そうしたら、その……身体の関係も問題ないでしょ?でもね、お互いに好きな人や、相応しい人が現れたら、その時は別れよう。それまでの、繋ぎ、ということ」
私なりに出した、精一杯の妥協案。
本音を隠した、逃げ道。
気持ちを整理するための、期限付きの関係。
スカイは驚いたまましばらく固まっていたが、やがて満面の笑顔を浮かべた。
「いいよ、それで!だって、ルビーが僕と恋人同士になるんでしょ!?僕だけのルビーになるんだもん!」
嬉しそうに耳とシッポを揺らしながら、ぎゅっと抱きついてくる。
私はその頭を、また優しく撫でた。
胸が、痛い。
私は嘘をついた。
スカイと離れたくなかった。
ただ、それだけの理由で、こんな都合のいい提案をした。
自分の気持ちに、抗えなかっただけ。
スカイは私を“好き”でいるのではなく、雛鳥が親を求めるように依存しているだけかもしれない。
それでも、
今は、これでいいんだよ。
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
二人の関係の始まりは、ただの“恋人ごっこ”。
いつか壊れる。
終わる。
消えていく。
でも、それでもいい。
この想い出さえあれば、私は生きていける。
頭を撫でられながら、スカイはさらに強く抱きしめてくる。
「恋人になったなら、ルビーが僕に気を遣わないでほしいんだ。だからね、週末は僕とずぅーっと一緒にいてほしいな。ずっと一緒にいたいんだ」
「ずっと?」
「うん。僕たちが、その……身体の関係を持ったのは、父上も母上も知っちゃってる。喜んでたよ。だからね、その……」
声のトーンが、少しだけ蠱惑的に変わる。
「これからは、週末はずっと、僕と一緒に過ごそう」
耳とシッポが嬉しそうにぴこぴこと動く。
嫌な予感がした。
「……それって、エッチするの?」
「イヤ?」
覗き込むように私を見る。
私の答えひとつで揺れる、不安げな瞳。
私は首を横に振った。
イヤなわけない。
ずっと好きだったから、嬉しい。
「……イヤじゃないよ。だって、恋人になったんだもん」
「ありがとう! 僕、1週間自慰せずに我慢するよ!」
「……え……?」
「たっぷり、じっくり、激しく愛してあげるよ。ルビーの身体の隅々まで、ちゃんと大事にするね!」
その言葉に、別の意味で背筋が寒くなる。
しまった。
性欲強め、つまり、絶倫だった。
「いや……我慢せずに、していいから」
「ヤダ。僕、ルビーに全部あげるって決めたんだ」
真顔で言われて、言葉を失う。
「僕はね、ずっと、ずぅーっと昔からルビーしか見てない。恋人なんだから、僕のことちゃんと受け止めてね。僕は我慢せずに、甘えさせてもらうから」
そう言って、軽く甘いキスを唇に落とした。
その笑みはどこか悪魔のように妖艶で、しかも冗談ではないと分かるからから、ぶるりと寒気がした。
もう少し時間を置いてから、恋人になるべきだったかもしれない。
後悔したのは、言うまでもない。
お弁当を食べ終えたあと、スカイの強い希望で、私は彼に膝枕をしていた。
木陰のやわらかな風が頬を撫で、太ももに乗る彼スカイの頭の重みがじんわりと伝わってきて、落ち着く。
「そう? 僕としては、あの程度くらいだよ。本当は、あの臭い女も投げてやりたかったんだけどね」
喉をゴロゴロと鳴らしながら、耳をぴくぴくと動かすスカイ。
気持ちよさそうに目を細めているのに、言っている内容は物騒すぎる。
「“臭い女”って……シナのこと?」
「名前なんてどうでもいいよ。あの女、あの男とかなり前から関係を持ってる。匂いが濃く染みついてた」
「そう、だったんだ……」
スカイの嗅覚に嘘はない。だから、きっと本当なのだろう。
「ルビーと婚約してる間も、ずっと身体の関係はあったよ。匂いの染み方が、そうだった」
「そっか……」
何をどうしても、私たちの婚約は壊れる運命だったのかもしれない。
この人となら幸せになれる、そう思って選んだのに、見る目がなかった自分が、愚かだわ。
「私のために、あんなこと言ったんでしょ?」
私があえて、スカイと幼なじみだということを隠していたことだ。
そっと、彼の耳を撫でる。
付け根をくすぐるように指先でなぞると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「わかってくれた? 嬉しいなぁ。だってさ、ルビーは僕が嫌がること、絶対にしないって知ってるもん。だから、僕と幼なじみってこと、内緒にしてたんでしょ? 言ってたら紹介してって言われる。あの男に言われたら、断れないでしょ?だから、先に釘を刺したかっただけ」
全部、見透かされている。
そう、私は、スカイを守りたかった。
ダットのためじゃない。
スカイを困らせたくなかった。
「ありがとう。でも、おじ様の流れで紹介されること、あるでしょ?」
「それは仕方ないよ。父上の立場もあるからね。あ、あと“おじさん”のときもあるよ。ルビーの家族も、僕にとってはすごく大事だから」
私の言う“おじ様”はスカイのお父様。
スカイの言う“おじさん”は私のお父様。
お父様ったら、ちゃっかりしてるわね。
耳を撫でる指に、スカイの体温がじんわり伝わる。
耳の先から首元まで丁寧に撫でると、スカイはとろんとした顔で私を見上げてきた。
どうして、そんなに甘いの。
そんなふうに優しくされたら、私はいつまで経っても、この気持ちを断ち切れない。
「ねえ、スカイ。私、考えたの」
さらさらの髪を撫でながら、私は思い切って言った。
「……恋人になろうかな」
「えっ!?」
ガバッと勢いよく跳ね起き、私を見つめる。
「僕と!?本当に!?嘘じゃないよね!?」
不安と期待が混じった顔。
けれど耳もシッポもぴんと立ち、嬉しさを隠しきれていない。
「嘘じゃ、ないよ」
私は静かに、けれど優しく微笑む。
「恋人になろう。そうしたら、その……身体の関係も問題ないでしょ?でもね、お互いに好きな人や、相応しい人が現れたら、その時は別れよう。それまでの、繋ぎ、ということ」
私なりに出した、精一杯の妥協案。
本音を隠した、逃げ道。
気持ちを整理するための、期限付きの関係。
スカイは驚いたまましばらく固まっていたが、やがて満面の笑顔を浮かべた。
「いいよ、それで!だって、ルビーが僕と恋人同士になるんでしょ!?僕だけのルビーになるんだもん!」
嬉しそうに耳とシッポを揺らしながら、ぎゅっと抱きついてくる。
私はその頭を、また優しく撫でた。
胸が、痛い。
私は嘘をついた。
スカイと離れたくなかった。
ただ、それだけの理由で、こんな都合のいい提案をした。
自分の気持ちに、抗えなかっただけ。
スカイは私を“好き”でいるのではなく、雛鳥が親を求めるように依存しているだけかもしれない。
それでも、
今は、これでいいんだよ。
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
二人の関係の始まりは、ただの“恋人ごっこ”。
いつか壊れる。
終わる。
消えていく。
でも、それでもいい。
この想い出さえあれば、私は生きていける。
頭を撫でられながら、スカイはさらに強く抱きしめてくる。
「恋人になったなら、ルビーが僕に気を遣わないでほしいんだ。だからね、週末は僕とずぅーっと一緒にいてほしいな。ずっと一緒にいたいんだ」
「ずっと?」
「うん。僕たちが、その……身体の関係を持ったのは、父上も母上も知っちゃってる。喜んでたよ。だからね、その……」
声のトーンが、少しだけ蠱惑的に変わる。
「これからは、週末はずっと、僕と一緒に過ごそう」
耳とシッポが嬉しそうにぴこぴこと動く。
嫌な予感がした。
「……それって、エッチするの?」
「イヤ?」
覗き込むように私を見る。
私の答えひとつで揺れる、不安げな瞳。
私は首を横に振った。
イヤなわけない。
ずっと好きだったから、嬉しい。
「……イヤじゃないよ。だって、恋人になったんだもん」
「ありがとう! 僕、1週間自慰せずに我慢するよ!」
「……え……?」
「たっぷり、じっくり、激しく愛してあげるよ。ルビーの身体の隅々まで、ちゃんと大事にするね!」
その言葉に、別の意味で背筋が寒くなる。
しまった。
性欲強め、つまり、絶倫だった。
「いや……我慢せずに、していいから」
「ヤダ。僕、ルビーに全部あげるって決めたんだ」
真顔で言われて、言葉を失う。
「僕はね、ずっと、ずぅーっと昔からルビーしか見てない。恋人なんだから、僕のことちゃんと受け止めてね。僕は我慢せずに、甘えさせてもらうから」
そう言って、軽く甘いキスを唇に落とした。
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