ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八

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一章 憎しみの魔女

13話 盗賊

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「よく飽きないですね」

 馬車に乗って町を出てから二日、俺は飽きもせず右腕に着けた魔導具を眺めて、撫でて、また眺めるを繰り返している。

「憧れてたんだよこういうの。どんな感じなのか早く試してみたいな!」
「アークフィランに着いたら、近場でモンスター狩りの依頼でも受けてみようよ」
「冒険者ランクも上がったし、報酬がどんなもんか気になるな」
「私は大図書館の魔術書が読んでみたいです。きっと、私にも覚えられる魔法があるはずです」

 それぞれが様々な思いを胸に、浮き足立っていた。そんな中、ユルナが何かに気付き声をあげた。

「ん? 皆、ちょっと!」

 手綱を握っていたユルナが、馬の足を止めた。何事かと荷台から顔を出すと馬車の進路上、道に横たわる人に気づいた。
 辺りには果実や野菜が散らばり、うつ伏せのままその人は動かない。

「だ、大丈夫ですか?!」

 驚き声を上げたリオンが荷台から飛び降りた。俺もすぐにそのあとを追った。
 リオンが倒れた人物を慎重に抱えおこすと、その人は小さなうめき声をもらした。

「うっ……と、盗賊が……」
「どこか痛むのね? 無理に動かないで、すぐ治癒魔法を……」

 見たところ狩人の装備をした冒険者のようだ。暴行を受けたのか衣服は破け、土汚れが顔を汚している。

「――ちょっ! なんですかあなた達は……うぐっ!!」

 背後からカナタの叫ぶ声が聞こえた。振り返るとそこには、カナタの首を腕で締め上げる女が立っていた。

「カナタッ!!」
「暴れんじゃないよ!!」

 もがくカナタの頬にナイフが突きつけられる。分かりやすい脅しに、カナタはそれ以上抵抗するのをやめたようだ。

 その時、周辺の茂みが不自然に揺れた。
 まるで見計ったかのようにぞろぞろと十数人が出てきて、俺たちを取り囲んだ。

 倒れていた人物が言った『盗賊』が脳裏をよぎった。
 
「タクト……この人達は……ッ」
「おっと人質は黙ってて貰おうか。アンタ達冒険者だよねぇ? 金目の物全部置いて行きな。さもないと……」

 刃物の切先がカナタの頬に当たると、赤い雫が刃先を伝った。
 気づけば倒れていた狩人も周囲の盗賊達に加わっていた。

「騙したんですね……」
「こんなに掛かってくれるなんて、新米冒険者かしら?」

 頬に付いていた土汚れを拭って、狩人の姿をした盗賊は鼻で笑った。その女を筆頭に他の盗賊達からも、嘲笑の声が湧き起こる。
 ジリジリとにじみ寄られて、いつの間にかユルナも俺たちの元へ誘導されていた。


 稼ぎの良い冒険者という職業は、しばしばこういう輩に狙われるのだと後に知った。
 どんな世の中でも不平があり、貧富の差は存在する。
 魔法が使えることで女性優位な世の中になると、次に起こるのは"女性の中での優位付け"だ。

 優秀と見なされた者は冒険者や貴族に。
 劣っている者は男と同じく簡単な仕事にしか付けず、うだつの上がらない日々を送る。

 そもそも魔法が使えない男の俺ですら、不平不満を抱えてきたのだ。魔法が使えるのにも関わらず"使えない奴"というレッテルを貼られた人たちは、より根深い鬱屈うっくつ感を感じるのだろう。
 その結果、こういう輩が少なからず存在する。


「逃げる気が無いなら、ちょっと痛い思いしてもらおうかッ!」
「【火の生霊よ 此の者達を焼き貫け】」

 すでに盗賊の一人が詠唱を始めていた。
 これにリオンが対抗し、すぐさま詠唱を唱える。

「【水の生霊よ 我らを包み災いから身を守れ!】」

 二つの魔法が発動したのは、ほぼ同時だった。

「【炎の槍ファイアランス】!」
「【水の手ウォーターハンド】!」

 俺たちの周囲を巨大な水の手が包み込んだ直後、一直線に飛んできた炎の槍とぶつかり合い、水蒸気が湧き上がった。槍は途中で燃え尽きて跡形もなく消えたが――。

「どうするユルナ!? こいつら本気だよ!」
「――ッ!! カナタが人質に取られてちゃこっちからやり返すわけにも……」

 身動きもとれず反撃もできない状況で、俺は二の足を踏んでいた。

 盗賊の敵視が向けられている今なら、反抗レジスト魔法は発動するだろう。しかし、それがどれだけの規模になるのか検討がつかないからだ。

 下手をすれば魔法の効果によってリオン達にも被害が及ぶかもしれないし。これだけの人数に俺が魔法を使えると知られれば、面倒なことになるのは明白だ。

 だったら……バレにくいこれで……ッ 

 俺はカナタを人質にとる盗賊に向けて、周囲には聞こえないよう小さく呟いた。

(【敵視ヘイト】ッ)

 一瞬、ビクッと体を震わせた盗賊が、捕まえていたカナタを横に放り捨てた。突然の行動に他の盗賊も驚いたようだ。

「ちょっと、人質はちゃんと抑えとかないと……」
「――うるさい。退きな」

 抗議する盗賊仲間を押し退けて、俺に向けて怒りをあらわにする。

「こんなかったるいさっさと終わらせよう。そこのガキ一人、痛めつけるだけなんだからさッ!」

 盗賊は腰から剣を抜いて駆け出した。一度大きく振りかぶると、その表情から水の手もろとも俺を斬ろうとしているのが分かった。

 敵視が俺に向いたことでカナタは解放されたが、まさか突っ込んでくるとは思っていなかった。

 まずいッ反抗レジスト魔法を――。

 こうなってはもう隠していられないと思い、俺は詠唱を叫ぼうとした。が、俺と盗賊の間にユルナが割って入った。

 ユルナの構えた槍は持ち手の方を盗賊に向けている。フッと短く息を吐き出すと同時に、槍の石突いしづき部分が盗賊の腹にめり込んだ。

「かはッ!!」

 押し突かれた盗賊は元いたところまで吹き飛ぶと、何度か地面を転がって横たわった。起き上がるそぶりもない事に、やや不安が募る。

「強く突き過ぎじゃ……」
「大丈夫。死にはしない……はず」

 とっても不安なことを言うユルナに青ざめる。
 それに、俺たちが反撃したことでこいつらも一斉に襲って……こない?

 突き飛ばされた仲間を見て取り囲んでいた盗賊達は、徐々に俺たちと距離を取り始めていた。
 盗賊の一人が手を振ると、それが何かの合図のように一斉に森の中へ消えていく。
 吹き飛ばされて倒れていた盗賊もちゃっかり回収されていた。

「な、なんだったんだ……?」
「助かった……の?」
「三人とも、無事ですか」

 カナタが服に付いた埃を払いながら、俺たちの元へ歩いてきていた。

「カナタこそ大丈夫なの? 怪我は?」
「平気です。むしろあの人たちは私に危害を加えるつもりはなかったようです」
「は? どういうこと?」
「――あの人たちは、です」

 カナタが読み取った思考によると、さっきの人たちは盗賊に扮した冒険者らしい。ギルドからの依頼によって、なぜか俺を襲うことになっていたようだ。
 任務達成条件は、『冒険者パーティにいる男の行動・言動の記録』だという。

「タクト。おそらく、あなたの魔法に感づいている人がいます」

 カナタの話で可能性として真っ先に思い浮かんだのは、ギルドの競技で不正をした冒険者達アイツらだ。
 あの三人には口外しないように、と脅しをかけていたが……正直、信用はしていない。
 むしろ腹いせにいろいろやってきそうな奴らだし。

「まあいつか、バレる日は来るだろうけど……」
「あまり呑気には考えていられないかもですね」

 今後、今みたいなことが頻発するようなら、対抗策を考えないと。
 仲間の三人に迷惑はかけたくない。

* * *

 ――冒険者ギルド、任務受付カウンターにて。

「リーフィリアさんの、水晶玉で映像は記録してきましたよ」
「そうか。これが報酬だ、受け取れ」

 私は複数の冒険者グループに依頼をかけて、カナタと男の身辺調査をさせた。金銭の受け渡しと契約書完了受諾のサインをする。
 ふと、十数人の中で一人だけ、仲間に担がれてグッタリしている者に目が止まった。

「そいつはどうした? 反撃でも食らったか?」
「ああ……彼女は魔術師の女を人質にしてたんですがね、急に一人で突っ込んで行ったんですよ。勝手な行動した報いですね」

 水晶玉に映った映像を見ていると、カナタを放り出して斬りかかろうとする彼女の姿が写っていた。
 突然豹変した様子に違和感を感じた私は、本人に直接聞いてみることにした。

「おいお前。なぜ男に突っかかっていった?」
「自分でもよく分からないんです……なぜか急に彼が憎く感じて……」
「男と面識はあったか?」

 彼女は首を横に振った。初対面の相手をそこまで憎むような事は普通考えられない。
 もう一度水晶玉の映像で男に注意して見てみる。

 彼女が豹変するほんの少し前に、男が何かを呟いているように見えた。そしてわずかだが、右の掌に不自然な動きも見てとれる。

「これは……」

 ありえない。と頭では分かっているが、どうしてもその考えに至ってしまう。

――彼は、魔法を使えるのでは、と。
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