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一章 憎しみの魔女
17話 リーフィリア(2)
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「よっこら……しょ」
気絶したリーフィリアをユルナが背に抱える。流石にそのまま放置も可哀想なので、目を覚ますまで家に入れることにしたのだ。
運び入れる途中、ユルナが不思議そうに首を傾げていた。
「まさか雨を利用するなんて。降るのが分かってたのか?」
「天気が分かるわけないじゃないですか。リオンですよ」
ちょうどその時、カナタの作戦の為に、家の裏手にこっそりと移動していたリオンが戻ってきた。
「上手くいった?」
「ええ、助かりました」
何の事か分かっていないユルナに説明してあげよう。
「リーフィリアにバレないように、リオンには水魔法を使ってもらったんだ。空に向けて、ね」
「じゃあ、あの雨は人工的に?」
ユルナの問いにカナタが頷く。
「風魔法の【竜巻】は雨天時にのみ使える魔法です。竜巻の種が出来てしまえば、あとはタクトの魔法で水を増やしてもバレにくくなる、と思ったのです」
俺は内心ホッとしていた。
雨の降るタイミングもギリギリだったけど、また火の鳥の時みたいに最大威力でやっていたら、リーフィリアは大怪我をしていたかもしれない。
魔導具が威力を抑えてくれたから良かったけど……人に向けて魔法を使うのは、どうにも気が引ける。
「あとは、リーフィリアが俺の魔法に気付いて無ければいいんだけど……」
気絶したリーフィリアが目を覚ましたのは、翌朝になってからだった。
* * *
「くッ……! 殺せ!」
「いやいや……たかが勝負の一回、負けたぐらいで大袈裟な……」
なだめようとした途端、詰め寄られて胸ぐらを掴まれた。
リーフィリアはその目に涙を浮かべ、頬を赤く染めながらも俺を力強く睨みつけた。
「ランクAが勝負をふっかけておいて、ランクEの新参冒険者に負けたなんて……これ以上ない辱めだ!! きっと私は後ろ指差され、嘲笑される人生を送ることになる……それならばいっそここで殺せ!!」
なんだろう。この人からは何処となく、カナタと同じ雰囲気を感じる。
ふと隣のカナタに視線を向けると、いつものジトっとした目をさらに細めている。
無言のまま「失礼な」、と目で訴えているようだった。
「お、落ち着いてください! 私たち別にリーフィリアさんに勝ったなんて言いふらさないですし……タクトを離してください!」
リオンの言葉でやっと俺の胸ぐらから手が離れた。
リーフィリアは目を覚ましてからずっとこの調子だ。しかし、今度は急にしょげた顔をする。
「すまない……取り乱してしまった。しかし、格下相手に粋がって慢心し……さらに家まで失った私は、自分で自分が許せないのだ……」
「家失ったのは、お前のだらし無さのせいだから当然だけどな?」
「――くっ!!」
ユルナはリーフィリアに白い目を向けて正論をぶつける。この二人はどうにも馬が合いそうにない。
「殺してくれぬのなら……いっそ自分でッ!」
リーフィリアは置いてあったリオンの剣を手に取り、自分の首元へその切先を向けた。これには流石にユルナも慌てたの止めに入った。
こんなところで自決されたら、本当のいわく付きになってしまうじゃないか。勘弁してほしい。
剣を取り上げて三人掛かりで床に抑えつけると、身動きが出来なくなった彼女は徐々に全身から力が抜けていった。
――すると、今度は突然泣き出した。
「……うぅ……じゃあ、私はいったいどうしたらいいのよぉお!! うわぁーん!!」
先ほどまでのキツイ口調から一転して、少女のように泣きじゃくる。
リオンが頭を撫でてやるとポツポツと語り始めた。
「ぐす……私が弱いって知ったら、きっとみんな離れていく……」
「そんなことないと思いますよ? リーフィリアさんは凄い成績ばかりじゃないですか」
「使える魔法がちょっと人より特殊だっただけ……気付いたら、どんどんランクは上がっていっちゃうし、周りはあれもこれもって任務を渡してくるし……」
ああ、この人はずっと強がってるタイプだったのか。
あの威圧的な態度と性格は、周りの期待に答えようと虚勢を張り続けていたのか。
「リーフィリアなら一人で大丈夫、とか言われてパーティは組んでくれないし。私だって一人じゃ怖い時もあるのに……」
強いからこそ、周りから距離を置かれてしまう。そして強がってまた一人になる。
孤独のループの中で、彼女はずっと一人で抱えていたのだ。
「私も、皆みたいに『普通の冒険者』になりたかった……ッ」
両手で顔を塞ぎ、わんわんと泣き散らす彼女はとても弱々しく思えた。
「……はぁ、『深緑の魔女』様がなにみっともない姿晒してんだよ」
壁にもたれ掛かって話を聞いていたユルナが、突然リーフィリアの胸元に掴みかかった。
「ちょっとユルナ!」
「リオンは黙ってな!」
リーフィリアの顔を引き寄せて、鼻先を突き合わせる形でユルナは口を開いた。
「自分の気持ちを口に出さないお前を、誰が信用するんだ? 仲間ってのは信頼と信用で成り立ってんだ。個人の力の強さなんて、仲間に求めてねーんだよ」
「……」
「力が弱くたって……信頼する仲間と一緒なら、どんな敵でも困難でも乗り切ろうって思える。お前が昨日の勝負で負けたのは魔法の強さだけじゃない、仲間を助けようとする信頼の強さだ」
ユルナはそう言い放つと、突き飛ばす様に手を離した。
普段のリーフィリアなら言い返すところだろう。だけど彼女は何も言わずに、床に座り込んだまま俯いていた。
「――だから、本音をちゃんと伝えた相手にぐらい、甘えてもいいんじゃねーの?」
「――ッ!」
ユルナの手が、リーフィリアに向けて差し出されていた。
笑顔で手を伸ばすユルナに、リーフィリアは一瞬戸惑った表情を見せる。
「こんな私でも仲間ができるのか……?」
「ツンツンしてるより、今のお前のほうが親しみやすいと思うぞ」
そっと差し出されたユルナの手をリーフィリアが掴むと、ぐんとひっぱり上げ立たせた。
リーフィリアは涙を拭うと、その顔はとてもすっきりとした様子だった。
そして、今まで言えなかったであろう言葉を口にした。
「私を、パーティに入れてくれないか……?」
「ごめん! それは無理だ!」
誰しもが想定していた美談を、ユルナは一言で覆した。
驚きのあまり他の三人は、口をぽかんと開けて固まっている。俺も例外ではない。
「今のところパーティメンバーは四人で足りてるし、リーフィリアは私たちのランクと離れすぎてるからな! でもその調子で声掛けてけば、きっと仲間は見つかるさ!」
ぐっと親指を上に向けて、健闘を祈るポーズをする。
突然の掌返しを食らって、リーフィリアはまた泣くか、怒るか……。
「――私を弄んだな」
掴んでいたユルナの手を払い退けて、以前までの怖い顔つきへ変わる。どうやら怒るルートに入ったらしい。
「……この羞恥、絶対に許さないからなッ! カナタ、タクト! 貴様らも覚悟しておけ!」
「俺たちなんにも言ってないぞ!?」
「うるさいうるさい! 覚えていろよ!」
身を翻し凄まじい速さで家を飛び出したリーフィリアを、止める人はいなかった。
「うんうん、元気になったみたいだな。これで家も守れたし、いわく付きも解決!」
本当に解決したのか不安でしょうがない俺たちは、深くため息をつくのだった。
気絶したリーフィリアをユルナが背に抱える。流石にそのまま放置も可哀想なので、目を覚ますまで家に入れることにしたのだ。
運び入れる途中、ユルナが不思議そうに首を傾げていた。
「まさか雨を利用するなんて。降るのが分かってたのか?」
「天気が分かるわけないじゃないですか。リオンですよ」
ちょうどその時、カナタの作戦の為に、家の裏手にこっそりと移動していたリオンが戻ってきた。
「上手くいった?」
「ええ、助かりました」
何の事か分かっていないユルナに説明してあげよう。
「リーフィリアにバレないように、リオンには水魔法を使ってもらったんだ。空に向けて、ね」
「じゃあ、あの雨は人工的に?」
ユルナの問いにカナタが頷く。
「風魔法の【竜巻】は雨天時にのみ使える魔法です。竜巻の種が出来てしまえば、あとはタクトの魔法で水を増やしてもバレにくくなる、と思ったのです」
俺は内心ホッとしていた。
雨の降るタイミングもギリギリだったけど、また火の鳥の時みたいに最大威力でやっていたら、リーフィリアは大怪我をしていたかもしれない。
魔導具が威力を抑えてくれたから良かったけど……人に向けて魔法を使うのは、どうにも気が引ける。
「あとは、リーフィリアが俺の魔法に気付いて無ければいいんだけど……」
気絶したリーフィリアが目を覚ましたのは、翌朝になってからだった。
* * *
「くッ……! 殺せ!」
「いやいや……たかが勝負の一回、負けたぐらいで大袈裟な……」
なだめようとした途端、詰め寄られて胸ぐらを掴まれた。
リーフィリアはその目に涙を浮かべ、頬を赤く染めながらも俺を力強く睨みつけた。
「ランクAが勝負をふっかけておいて、ランクEの新参冒険者に負けたなんて……これ以上ない辱めだ!! きっと私は後ろ指差され、嘲笑される人生を送ることになる……それならばいっそここで殺せ!!」
なんだろう。この人からは何処となく、カナタと同じ雰囲気を感じる。
ふと隣のカナタに視線を向けると、いつものジトっとした目をさらに細めている。
無言のまま「失礼な」、と目で訴えているようだった。
「お、落ち着いてください! 私たち別にリーフィリアさんに勝ったなんて言いふらさないですし……タクトを離してください!」
リオンの言葉でやっと俺の胸ぐらから手が離れた。
リーフィリアは目を覚ましてからずっとこの調子だ。しかし、今度は急にしょげた顔をする。
「すまない……取り乱してしまった。しかし、格下相手に粋がって慢心し……さらに家まで失った私は、自分で自分が許せないのだ……」
「家失ったのは、お前のだらし無さのせいだから当然だけどな?」
「――くっ!!」
ユルナはリーフィリアに白い目を向けて正論をぶつける。この二人はどうにも馬が合いそうにない。
「殺してくれぬのなら……いっそ自分でッ!」
リーフィリアは置いてあったリオンの剣を手に取り、自分の首元へその切先を向けた。これには流石にユルナも慌てたの止めに入った。
こんなところで自決されたら、本当のいわく付きになってしまうじゃないか。勘弁してほしい。
剣を取り上げて三人掛かりで床に抑えつけると、身動きが出来なくなった彼女は徐々に全身から力が抜けていった。
――すると、今度は突然泣き出した。
「……うぅ……じゃあ、私はいったいどうしたらいいのよぉお!! うわぁーん!!」
先ほどまでのキツイ口調から一転して、少女のように泣きじゃくる。
リオンが頭を撫でてやるとポツポツと語り始めた。
「ぐす……私が弱いって知ったら、きっとみんな離れていく……」
「そんなことないと思いますよ? リーフィリアさんは凄い成績ばかりじゃないですか」
「使える魔法がちょっと人より特殊だっただけ……気付いたら、どんどんランクは上がっていっちゃうし、周りはあれもこれもって任務を渡してくるし……」
ああ、この人はずっと強がってるタイプだったのか。
あの威圧的な態度と性格は、周りの期待に答えようと虚勢を張り続けていたのか。
「リーフィリアなら一人で大丈夫、とか言われてパーティは組んでくれないし。私だって一人じゃ怖い時もあるのに……」
強いからこそ、周りから距離を置かれてしまう。そして強がってまた一人になる。
孤独のループの中で、彼女はずっと一人で抱えていたのだ。
「私も、皆みたいに『普通の冒険者』になりたかった……ッ」
両手で顔を塞ぎ、わんわんと泣き散らす彼女はとても弱々しく思えた。
「……はぁ、『深緑の魔女』様がなにみっともない姿晒してんだよ」
壁にもたれ掛かって話を聞いていたユルナが、突然リーフィリアの胸元に掴みかかった。
「ちょっとユルナ!」
「リオンは黙ってな!」
リーフィリアの顔を引き寄せて、鼻先を突き合わせる形でユルナは口を開いた。
「自分の気持ちを口に出さないお前を、誰が信用するんだ? 仲間ってのは信頼と信用で成り立ってんだ。個人の力の強さなんて、仲間に求めてねーんだよ」
「……」
「力が弱くたって……信頼する仲間と一緒なら、どんな敵でも困難でも乗り切ろうって思える。お前が昨日の勝負で負けたのは魔法の強さだけじゃない、仲間を助けようとする信頼の強さだ」
ユルナはそう言い放つと、突き飛ばす様に手を離した。
普段のリーフィリアなら言い返すところだろう。だけど彼女は何も言わずに、床に座り込んだまま俯いていた。
「――だから、本音をちゃんと伝えた相手にぐらい、甘えてもいいんじゃねーの?」
「――ッ!」
ユルナの手が、リーフィリアに向けて差し出されていた。
笑顔で手を伸ばすユルナに、リーフィリアは一瞬戸惑った表情を見せる。
「こんな私でも仲間ができるのか……?」
「ツンツンしてるより、今のお前のほうが親しみやすいと思うぞ」
そっと差し出されたユルナの手をリーフィリアが掴むと、ぐんとひっぱり上げ立たせた。
リーフィリアは涙を拭うと、その顔はとてもすっきりとした様子だった。
そして、今まで言えなかったであろう言葉を口にした。
「私を、パーティに入れてくれないか……?」
「ごめん! それは無理だ!」
誰しもが想定していた美談を、ユルナは一言で覆した。
驚きのあまり他の三人は、口をぽかんと開けて固まっている。俺も例外ではない。
「今のところパーティメンバーは四人で足りてるし、リーフィリアは私たちのランクと離れすぎてるからな! でもその調子で声掛けてけば、きっと仲間は見つかるさ!」
ぐっと親指を上に向けて、健闘を祈るポーズをする。
突然の掌返しを食らって、リーフィリアはまた泣くか、怒るか……。
「――私を弄んだな」
掴んでいたユルナの手を払い退けて、以前までの怖い顔つきへ変わる。どうやら怒るルートに入ったらしい。
「……この羞恥、絶対に許さないからなッ! カナタ、タクト! 貴様らも覚悟しておけ!」
「俺たちなんにも言ってないぞ!?」
「うるさいうるさい! 覚えていろよ!」
身を翻し凄まじい速さで家を飛び出したリーフィリアを、止める人はいなかった。
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