ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八

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一章 憎しみの魔女

26話 誰が手に

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 太陽が沈み、灯りが少なくなった頃、俺たちは村の近くに潜伏し様子をうかがっていた。

 人がまばらになるのを期待していたのだが、どうも村の様子がおかしい。松明やランプを持った村人が、慌ただしく走り回っている。

 村の入り口には、二人の門番のような監視役が居て、キョロキョロと視線だけを動かし何かを警戒しているようだった。
 そこへ一人の男が駆け足で近寄っていく。

「異常はないか?」
「ああ、しかし本当か? が居たってのは」
「間違いねえ。村長の息子が見たって言ってんだ」

 村人達の会話を聞いて、この騒ぎは俺が来たことによるものだと理解した。

 こんなに村が警戒するのは、近くに熊モンスターが出た時ぐらいだ。俺はモンスターと同じ扱いなのか……。

「ここまで強力な魔法だったとはな。つくづく不憫ふびんに思うよ」

 そう言うリーフィリアに俺は苦笑いを返すしかない。まさか光魔法で浄化するまで、ずっとこのままなのか?
 自分の魔法で自分の首を締めていることにやるせなくなる。

「おい、タクト……」
「ん?」

 リーフィリアが指差す方には、なにやら人集りが出来ていた。
 村の中心。噴水広場に大人達が二十人ほど集まって話し合っている。

「皆、今から話すことをよく聞いてくれ!」

 噴水の前に立つ一人の人物に視線が集まる。その人物は夕方に森の入り口で出会った男、村長の息子だ。
 村人たちが静かになるのを待ってから、怪訝けげんな面持ちで口を開く。

「俺は森の入り口でタクトに会った! 奴は女冒険者を連れて森へ入ろうとしていた」

 彼の言葉に呼応して、大人達の罵声が飛んだ。

「村を追い出された復讐に来やがったか?!」
「クソッたれ! あいつがいなくなって清々してたのによッ」
「やっぱりあの時、殺しておくべきだったのよ」

 次々と沸き起こる罵詈雑言ばりぞうごんに、俺は耳を覆いたくなった。もちろん、ここまで恨まれるような事をした覚えはない。

「酷い言われようだな」

 きっと敵視ヘイト魔法のせいだ。そう思わないと、心が折れそうになる。

 村人達の不満の声が収まってくると、群集の前に一人の老婆が歩み出た。
 白銀の髪を後ろで結い、背中が丸くなりつつあるあの人は――村長だ。
 痩せて窪んだ目には、昔のような優しい感じはなく、ただ憎しみの色を濃くして小さく光っていた。

「ばあちゃん……」

 良く笑い、誰にでも分け隔てなく接する村長を、親しみの気持ちからそう呼んでいた。

 畑仕事をする俺たちに、いつもおにぎりを振る舞ってくれた。
 怪我をした者がいればずっと心配して、元気になれば誰よりも喜んでくれた。

 いつも村中の人を「私の家族だ」と、笑顔で話していたばあちゃんが、今は頬を震わせ、目を血走らせている。

「皆、よく聞きなさい。あのタクトが帰って来た。もし、アイツがこの村へ立ち入ろうとしたならば、誰でもいい――」

 一度、口をつぐんで最後の言葉へ力を溜める。
 俺の知る優しいばあちゃんなら、絶対に言わない言葉を発した。

あやつタクトを――

 村人達からは狂気ともいえる歓声が上がった。その異様な光景と、優しかったばあちゃんの変わり様に、俺は一歩後ずさる。

「――ぅ、ぁ」

 言葉がでない。村中から向けられる敵視に、半年前のトラウマが蘇る。膝が震えて、その場に立っていることもやっとだった。
 今にも倒れそうになった時、リーフィリアがそっと俺の体を引き寄せ、抱きしめられた。

「……リー、フィリア?」
狼狽うろたえるなタクト。あいつらは魔法でおかしくなっているだけだ」

 この場から逃げ出したい気持ちを、リーフィリアの言葉ではっと踏み止まる。そうだ、優しいばあちゃんがそんな事を言うはずがないんだ。
 これは魔法だ。みんなされているだけなんだ。

 リーフィリアから離れて、一度大きく深呼吸をする。乱れていた胸の鼓動はゆっくりになり、だんだんと気持ちも落ち着いてきた。

「ごめん……ばあちゃんからの言葉があまりにショックで……」
「大丈夫か? なんなら私だけで杖を探して……」
「ううん。そういうわけにはいかないよ。元は俺が悪いんだ」

 リーフィリアは少しうれいた顔をしたが、彼女に全てを任せるわけにはいかない。

 「これは魔法のせいだ」と心で念じ、もう一度群集に目を向けると、ばあちゃんが持っている物に気を取られた。

 ばあちゃんが高らかに掲げている物……それは足腰の悪い老人が持つ杖にしては大きく長い、いびつな形をしていた。

「あれは……」

 杖の先は途中で二又に分かれて、先端でまた繋がる。ひし形を象った中心にさらにひし形が、三重に構成されている。

 ばあちゃん……あんな杖持ってたっけ……。

「タクト、あの老婆の持つ杖からお前と似た魔力を感じるぞ」
「俺は何にも感じないけど……」
「魔力は匂いみたいなもんだ。自分の匂いは分かりにくいものだからな」

 俺の匂い魔力ってどんな感じなんだろう? いや、今はいいか。とにかく俺と同じ魔力を持つ杖なら、あれが魔女の杖である可能性が高い。

 問題はどうやって取り返すか、だが。

 思案していると、群衆の中に二人の見知った顔があることに気づいた。

「親父……母さん……」

 親父はくわを手に、母さんは冒険者の装備に身を包み、剣を掲げている。
 あの剣で俺は……母さんに殺されそうになった事を思い出した。
 剣に炎を灯し、何の迷いもなく俺を斬ろうとした、母の目はとても冷たかった。あの目は忘れようがない。

 二人を凝視していると、リーフィリアの手がそっと肩に触れた。

「ご両親か……肉親にまで敵意を向けられるのは辛いな……」

 村を追い出される最後の別れ際、二人から言われた言葉が呪詛じゅそのように頭の中で響いた。

『あんたのような子を持った事……一生の恥だわ』
『お前などもう息子ではない! 今すぐ村から出て行け!!』

 村を追い出され、行く当てもないまま森を彷徨い、本当に死ぬかもしれない体験をした。

 親からそんな言葉を言われて、生きる希望も失って、いっそ死んで楽になろうとさえ思った。

 ――でも、そんな時にあの人達に出会ったんだ。でなければ、俺は本当に死んでいたかもしれない。

 町で俺を住み込みで働かせてくれたおじさん、おばさん。それにリオン達がいなければ自暴自棄じぼうじきになっていただろう。

 俺はみんなに支えられて今を生きている。こうして今も、俺の肩を持って優しくしてくれる人がいる。
 仲間の事を考えていると、先程までのような暗い気持ちにはならなかった。

「……大丈夫。二人ともあんな酷いことを言う人じゃないって分かってる。だって、俺を十五年も育ててくれたんだから」
「ふふ。やっといつものタクトに戻ってきたな」
「いつもの?」

 リーフィリアは「なんでもない」と言って笑顔を見せた。
 ちょうどその時、噴水前の群集も俺を探すためか、各方面に散っていったのが見えた。

 村長のばあちゃんは杖を片手に、ゆっくりとした足取りで家へと向かっている。

「タクトはここにいろ。私が行って取り返してくる」
「え?! 俺も一緒に行くよ!」
「お前は村人全員に顔が割れている。私は村長の息子にしか見られていないからな。アイツにさえ見つからなければ、たまたま居合わせた冒険者で通せるだろう」

 たしかにリーフィリアの言う通りかもしれないが……全てを彼女に任せることになるのは……。
 言葉に詰まっていると、わしゃわしゃっと頭を撫でられた。

「大丈夫、上手くやるさ」

 そう言ってリーフィリアは、草陰から飛び出して行ってしまった。
 せめて俺も近くに居よう。
 俺は見つからないように森の中を迂回して、村長の家へと向かった。

 撫でられた頭は、なんだかむず痒かった。
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