ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八

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一章 憎しみの魔女

32話 仲間への反抗

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 リオンとユルナの猛攻をかわし、反抗レジスト魔法で防ぐ。そんな戦いが五分ほど続いていた。
 ユルナの突き出す槍の切っ先が、幾度も服をかすめる。

 半身を捻ってかわし槍を掴むと、ユルナの手が止まった。

「ハァ……ハァ……」
「往生際の悪い奴だ……ッ」
「【火の精霊よ 立ち昇り燃やし尽くせ】」

 ユルナが身を引いたのとほぼ同時に、後方にいたリオンの詠唱が終わる。
 二人の連携は隙が無く、気を抜けばあっという間に倒されてしまうだろう。

「【炎の支柱フレイムバーン】!」

 俺の足下に詠唱紋が浮かび上がると、俺を中心にした三メートルほどの範囲が赤い光に照らされる。
 詠唱紋から抜け出すことは間に合わないと判断し、攻撃に耐えるためのイメージをする。

「【反抗レジスト】!!」

 体全体を水の手が覆った直後、視界全体をオレンジ色の炎が覆った。
 水は熱されやがて高温の湯になった。判断が遅ければ生きたまま火葬されるところだった。

 炎の柱が消え、俺を覆っていた水も弾け落ちた。
 びしょ濡れになった体から蒸気が立ち上る。肌は赤くなり軽い火傷になっていた。

 ここまでされても、俺はコイツら仲間に向けて攻撃することを躊躇してしまう。

「どうした? さっきまでのような攻撃をしてこないのか?」

 立ち込める水蒸気でむせ返る俺を見て、ユルナが煽ってきた。

 攻撃なんて出来るわけないじゃないか……。

「――貴方たちは仲間なのでしょう?! こんなことはもう……やめて下さい!」
「ユノウさん……」

 馬車の檻へ目を向けると、鉄格子にしがみついて説得しようとするユノウが怒った顔をしていた。
 俺と対峙していたユルナが檻を一瞥いちべつする。

「黙れ。お前もタクトもろとも処刑台に上げてやる」
「タクト。世界のために――死になさい」
「それがタクトに出来る唯一の善行ですよ」

 これ以上戦えば、俺はいずれ魔力を使い果たし倒れるだろう。そうなればユルナの言う通り処刑台に繋がれて、そのままあの世行きだ。

 これまで連発した反抗レジスト魔法によって、指先が痺れ始めていた。
 この痺れの感覚は覚えている。魔力が底を尽きかけている証拠だ。

「くっ!! せめて、三人だけでも浄化を――ッ」

 檻の中でユノウが神に祈りを捧げるポーズを取ると、詠唱を始める。

「【慈悲深き神よ 我らに降りかかる厄を祓い 恩寵おんちょうを与え給え】」

 本来ならば魔法を使う時、詠唱紋が浮かび上がったり、魔力による光の粒子が発生するのだが、ユノウの祈りは

「……な、なんで、どうして魔法が発動しないのッ?!」

 慌てふためくユノウを鼻で笑ったのはカナタだ。

「無駄ですよ。その檻には魔力を吸い上げる効果を付与されてますから」

 本来ならば、先程の詠唱で光魔法の【浄化】が発動する筈だったのだろう。震える両手を見つめて、ユノウは愕然とする。

「さあ、そろそろ諦めて倒されなさい」
「リオン……」

 こんな時に、初めて山でリオンと出会った時のことを思い出していた。
 熊に襲われて泣きじゃくるリオンに、ゲンコツを食らわせるユルナ。それを見て呆れるカナタ。

 ランクアップをして、ファイアーバードの群れをボロボロになりながら倒して、一緒に笑ったこと。

 そして、俺を冒険者に誘ってくれた。
 一緒に旅をして、任務をこなして、みんなで飯を食ったこと。

 記憶に残る彼女達は、いつも笑顔で輝いていた。

 まるで走馬灯だな。これじゃあ俺が死ぬみたいじゃないか。

 俺のせいで変わってしまった、変えてしまった三人をまた笑顔にしたい。
 その為には、彼女たちを傷付けないといけない。

 覚悟を決めるしかなかった。

「リオン。ユルナとカナタも。最後に言わせてくれ」
「命乞いでもする気?」
「魔女の言葉なんかに惑わされませんよ」

 俺は静かに右手を前に突き出し、手の平を三人に向けて構える。

「……こんなやり方でしか、お前達を救えない俺を許してくれ。ごめん」
「今更どんな攻撃をしようと無駄だッ!!」

 ユルナの槍はバチバチと目に見えるほどの雷光を発し、リオンの剣には炎が纏わり付く。カナタが空へ向けて伸ばした杖の先には、幾重にも重なった三日月状の刃がその力を溜めている。

 彼女達の怒りと憎しみが強ければ強いほど、反抗レジスト魔法の威力が増大していくのを手の平を通して感じ取り、悲しくなった。

 どんなに親しくても魔法一つでここまで人を変えてしまう。初めて魔法を憎らしく思った。

 開いた手の指先から徐々に感覚は薄れていく。
 暗く光も飲み込むほどの闇が手の先から広がっていた。それはまるで深い井戸の底のように周囲の空間を飲み込んでいく。

 詠唱を終えた三人の魔法が、一斉に闇に向けて放たれた。

「【雷光の槍ライトニングスピア】!!」
「【火焔刃フレイムスラッシュ】!!」
「【風刃乱舞ウィンドストーム】!!」

 眼前に迫る魔法には、明確な殺意が篭っている。
 これに対抗する為には俺が使える唯一の魔法を使うしかなかった。
 これまでの経験から分かっていた。これを今使えば相手の魔法はおろか、彼女達三人にも危害をくわえてしまうと。

「――ッ【反抗レジス】……」

 最後の一言が、どうしても言えなかった。
 そうしなければ死ぬかもしれないと分かっていても、彼女たちの笑顔が脳裏にチラついて俺は――詠唱を止めていた。

 三つの魔法が俺と重なった瞬間、視界は白色で埋め尽くされ一瞬にして暗転した。

* * *

「……ん」

 なんだろう。やけに騒々しい。
 歓声? 大勢の人の声が聞こえる。
 魔法を受けて、俺はどうなったんだ? ここはどこだ?

 チャリ ギッ ギッ

 なんだ? 手が動かない。頭も動かし難いな。
 全身が気怠い。酷い風邪を引いた時みたいに、骨が軋んで重い痛みがある。

 瞼を閉じていても分かるぐらいの眩い日差しを感じる。暖かい……とても心地がいい。

――タクトさん! 起きて!

 誰かが俺を呼んでいる。こんなに眠くて心地いいのに、起きるのが勿体ないじゃないか。

――起きて下さい! タクトさん! タクトさん!!

 この声は……ユノウさん? あれ、檻に入れられていたはずじゃ……
 一体どうなったんだ、俺は。

 ゆっくりと瞼を開くと、最初は世界が白んで見えた。眩しさにだんだん目が慣れてくると、輪郭がはっきりしてくる。

 視線の先には俺たちを見る多くの人、人、人。
 その全てが何かを叫び続けている。
 そして先ほどからずっと呼びかける声も、だんだんとはっきりとした音に変わっていった。
 声のする方へ向こうとするが、何かに押さえつけられているようで動かせない。

「……なん、だ? どうなって――」
「タクトさんッ! しっかりしてください!」
「ユノウさん? ここは、一体……」

 首輪の様に俺の頭を固定した木の枷。顔の横に自分の両手が同じように枷に嵌められている。
 視線だけを声のする方へ向けると、ユノウも同じ状態で俺を見つめていた。

 その表情は恐怖に怯え、目元には涙が浮かんでいる。

「周りを……見てください……」

 促され、動かせる範囲で顔と目を周囲へと向ける。

 大きな広間にいるようで、周囲は高い壁に囲まれていた。
 その壁の上は、まるでコロシアムの観客席のようになっており、なにやら歓声をあげる人で埋め尽くされていた。

 状況が掴めない俺に、力の無い声でユノウが呟く。

「ここは宮殿の……です」
「なっ……」

 気を失っている間。リオン達に倒された俺は宮殿まで運ばれ、今まさに『断罪の儀』が執り行われようとしていた。
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