ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八

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一章 憎しみの魔女

31話 再会

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 西の居住区へ向かっている途中、進行方向から爆発音と火柱が上がったのを見て、なんとなく嫌な予感はしていた。

「リン……」

 辿り着いた視線の先に、地面に横たわる少女の姿があった。
 着ていた衣服は燃え、周囲の地面は雑草を残らず消していた。

 近寄るとまだ辛うじて息がある。酷い火傷を負い、虫の息と呼べる状態だった。
 そっとリンの頬に触れて私は治癒魔法を唱える。

「【この者に癒しを 痛みを振り払え】」
「――ッ何をしているの! そいつは魔女の手先よ!」

 背後から聞こえた声を無視して治癒に専念する。
 リンの体を緑色の光が覆い、徐々に火傷で膿んでいた肌が再生されていく。
 少しは呼吸も落ち着いてきたようだ。

「この……ッ 無視してんじゃないよ!」

 ぐっと肩を掴まれた瞬間、反射的に髪を操りその手の主を縛り上げた。
 振り解こうともがく人物をまるで小石でも投げるかの様に遠くへと振り飛ばす。

「……貴様ら、洗脳されてるとはいえ一人の少女相手にやり過ぎなんじゃないか?」

 私の取った行動にざわめき出す群衆。ギルド衛兵達の目つきが変わった。

「……冒険者ランクAの……リーフィリア」
「『深緑の魔女』は、ただの通り名じゃなかったのね! あなたも魔女の仲間ってわけ?!」
「洗脳だがなんだか知らないけど、『断罪の儀』の邪魔をしようというなら、容赦しませんよ」

 口々に発せられる敵意のある言葉を聞いて、私は振り返る。
 魔力は毛根から毛先にかけて流れ、その長さと硬度をより強める。浮き上がる深緑色の髪が植物のつるのごとく周囲に立ち込めて、馬車の行手を阻んだ。

「……貴様らは全員ぶちのめして、そこの聖女様は返してもらう」

 宙をうごめく髪は様々な武器を象る。
 槍、剣、斧、鉈、槌。それらがバチバチと音を立てると、炎に包まれていく。

「……ここは任せます。私たちは迂回して宮殿へ向かいますので」

 檻を見張るローブを纏った冒険者が衛兵達に指示を出した。

「――行かせるかよッ!!」

 檻の前に立つ人物目掛けて槍を突き出すが、瞬時に出現した水の壁に阻まれた。槍は炎と威力を失い檻には届かなかった。

彼女リーフィリアへの対抗策は水魔法です。水が得意な者を前衛に出して戦いなさい」
「了解」

 たった一度の攻撃で私の弱点を言い当てられたが些細な事だ。水で冷やされるよりも強く、大きく燃え広がればいいだけのこと。
 沸き立つ怒りに呼応して炎は勢いを増す。私はありったけの魔力を髪と炎に注いだ。

 衛兵達が私と馬車を隔てる壁のように陣形を取り、その間に馬車は回り道で進んでいく。

「貴様らを倒して、すぐに馬車も止める」
「いくらランクAだとしても、この人数差で簡単にやられないわ!!」

 たしかに、私の想定よりこの衛兵達は実力者揃いのようだ。私を見て戦う気があるなら気概は充分。冒険者ならばランクB以上にはなっているだろう。

 魔法を使いこなせる衛兵達と一対六で戦うのは、正直かなり不利な状況だとでは考えていた。

 しかし、私より実力も経験もない少女リンがたった一人でコイツらに立ち向かったのだ。
 どれだけ不安で、どれだけ怖かっただろう。
 それでも恐怖に打ち勝ち挑んで、倒れたリンの為にも――

「私が――諦めるわけにはいかねぇだろがッ!!」

 咆哮を上げた刹那、魔法がぶつかり合う音が居住区に響き渡った。

* * *

 魔法石に乗って西の居住区へと向かっている途中、手にしたリーフィリアの糸がまた新たな挙動をみせた。

 これまで西へ指し示していた糸が少し向きを変えて伸びている。

「これは? こっちに行けってことなのか?」

 その糸が指すのは宮殿がある方角だった。
 まさか、すでに馬車は居住区を抜けたのか?

 もし、リーフィリアが馬車を止められなかったとすれば、居住区に向かっていると間に合わない可能性がある。

「……行ってみるか」

 魔法石の進路を宮殿方向へ変え、速度を上げた。

 結果的にその判断は正解だったといえる。
 五分ほど進んでいると、丘を越えたところで大きな檻を積んだ馬車が見えた。

「――止まれッ!!」

 俺は馬車の行手を阻むように前へ飛び出した。
 三人の冒険者は黙ったまま俺に体を向ける。

 黒いローブを身に纏い表情は見えなかったが、すぐに武器を手に取った様子から、敵視されているのは間違いない。

 一対三なんて、前の街でランクアップの不正をした奴らを相手にした時以来だ。

「タクトさん!!」

 俺に気づいたユノウが檻にしがみついて叫んでいる。
 ユノウは額から血を流し、全身傷だらけになっていた。その痛ましい姿に、俺は怒りを覚える。

「聖女は……ユノウさんは関係ないだろう?! 憎むなら俺を憎めばいい!! 彼女を解放しろッ!!」

 俺の宣言を聞いても三人は無言のままだ。
 馬車から降りて、それぞれ剣、槍、杖を構える。

「【風の精霊よ その身を刃に変え切り刻め】」

 返答すらなく、紡がれた詠唱に俺は身構えた。
 問答無用ってことかよッ!

「【風の刃ウィンドシュート】!!」

 周囲の風が杖の先に収束し、三日月状の刃となって飛んできた。
 敵視を向けられているなら、俺にだってやりようはある。右手を前に突き出し、目の前で起きた事をそのままイメージする。

「【反抗レジスト】!!」

 手の平に集まった風が同じく三日月状の刃を象り、射出された。
 二つの刃は宙空でぶつかり合うと、互いを引き裂いて弾け消える。

 よし、反抗レジスト魔法は使える。だったらこれで檻から引き離して――。

 立て続けに俺は反抗レジストを唱えた。
 手の平から火球ファイアボールが三つ射出され、三人の足元に向けて飛んでいく。

 これであいつらが避けて、檻を水の手ウォーターハンドで掻っ攫えば――。

「【水の精霊よ 火を包み鎮めなさい】」

 突如地面から湧き上がる大量の水。それがまるで意思を持った様に湧き上がった。

「【水の手ウォーターハンド】」

 大きく透明な三本の手の平は火球を包み込むように握り受け止める。
 ジュウウという音と水蒸気を発生させて消えてしまった。

「くそッ!!」
「あなたの考えている事は手に取る様にわかります。私のの前で、策は無意味です」

 読心魔法……それにこの声。

 ハッとして三人の持つ武器を見る。剣も槍も杖も、俺が物だった。

「お前らは……」
「『二度とこの街に近寄るな』と言った筈です」
「私たちの前に再び現れたということは、殺される覚悟があって来たんだろうな」
「魔女の魔法……なんと醜いものですか」

 三人がローブを捲り顔を曝け出した。

 オレンジ色の髪に一束だけ薄黄色が混ざっている剣士。
 水色の長い髪と、ややつり目の長身な槍術師。
 黒髪で俺より小柄な読心魔法を使う魔術師。

「リオン、ユルナ、カナタ……」

 久しぶりに会えた仲間は別れたあの日と同じく、憎悪に満ちた目をしていた。
 感動の再開とは程遠い対面に、悔しさとも悲しさとも言えない感情を抱いた。

「ちょうどいい。お前も捕まえて、このと一緒に処刑してやる」

 槍を構えたユルナが地面を蹴り、突き進んでくる。

「ま、まてユルナ!!」
「問答無用ッ!」

 間一髪のところで槍の突きを避けたが、頬を掠めた切先からパチッという小さな音が聞こえた。
 口の端を歪ませて俺を睨むユルナの顔にゾッとする。

 まずい、これは――

「【放電スパーク】!!」

 槍が一瞬黄色く光ると、切先の近くにいた俺に電気が流れた。

「ぐがぁあああああ!!」

 筋肉が痙攣し、全身が痛みに震える。僅か数秒だったが、立っていることが出来なくなり、その場に膝を付いた。

 不規則に筋肉が伸縮を繰り返して、思うように手足を動かすことができない。
 呼吸すら上手くできない中、なんとか振り絞って詠唱を口にする。

「……れ、【反抗レジスト】ォ!!」
「――ッ?!」

 俺の詠唱を聞いて警戒したのか、後ろへ距離をとったユルナだったが、俺がイメージしたのは【治癒ヒール】だ。

 全身を緑色の光が覆うと、徐々に痺れがとれてフラつきはするがなんとか立ち上がることができた。

 敵視を向けられている状況なら、俺のイメージした通りの魔法は発動できる。
 相手の敵視で自分自身に反抗レジスト魔法が使えるのか分からなかったが、ぶっつけ本番ながら成功したようだ。

「厄介ね、あの魔法は」
「三人で攻めれば対処出来ないだろ。次は一斉に行くぞ」
「私があいつの思考を先読みして伝えます」

 さすが、ずっと一緒にパーティやっているだけある。息がぴったりの三人を微笑ましくすら思う。

「……頼む。ユノウさんを返してくれ。お前らとは戦いたくない」

 俺は本心を口にする。
 仲間と戦う為に来たんじゃない、俺は仲間を救う為に来たんだ。

「戦いたくない? 舐めたこと言わないで」
「口が利けるぐらい回復されたか」
「……頼むよ……もう、やめてくれ」

 俺の言葉は三人の耳には届かなかった。

 彼女達の攻撃が俺に向かって放たれた。
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