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番外編

【Twitter小話/上】お前が死んだら……。

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≪Twitterに乗せていた小話です≫



 薄明の空に、国近美斗は目を覚ます。
 傍らに見える寝顔は、おおよそ十日ぶりに見るパートナーのものだった。
 いったいいつ、帰ってきたのだろう。彼の目元を彩るくすんだクマの痕に、美斗は胸を痛めた。それでも規則正しい寝息と、シーツから伝わる体温にほっと息を吐く。まどろみが徐々に広がって、美斗は再び瞼をとじた。
 彼がいるときは、一人のときよりも毛布が温かく感じる。
(目が覚めたら……)
(もう、いなくなっているのかな)

(いやだな)

 たった十日をひとりで過ごしただけなのに、もうずっと長いこと話していないような気がした。



 パチり、と目を開ける。案の定空っぽになったシーツに、美斗はシュンと眉を下げた。
 気を落としたまま、最低限だけシーツを整えて、リビングへと向かう。

「おはよう」

 穏やかな声が響いた。目を丸くして、そちらに視線を向ける。美斗のパートナー。国近肇がキッチンに立っていた。

「朝、食べるだろ?」

 問いかけられる。なにやら調理中のようで、フライパンがじゅじゅうと音を立てていた。
 美斗は質問には答えず、キッチンの中へと入った。背中から彼のシャツの裾を、きゅ、と掴んで捕まえる。それに気がつくと、肇は淡く表情を緩めた。
「どうしたんだ、いきなり」
 変わらず穏やかな調子で問いかけられる。
「……前に」
「?」
「一回、帰ってきただろう」
 肇は目線を左上へと向けた。それがいつのことを指すのか分からないみたいだ。美斗が知らない間にも、彼は何度か帰ってきているのかもしれない。
「スーツ」
「ああ……」
 そこで、合点がいったようだった。
「泥だらけだった」
 仕事の過程で汚したのだろう。着替えるためだけに戻って、汚れた服は落ち着いた頃にでも処分しようと考えていたに違いない。けれど、それを美斗が見つけた。そのとき美斗がどんな気持ちだったのか、この男は知らないのだ。
「落とすのどれだけ大変だったと思ってる」
  結局手に負えなくて、クリーニングに出してやったのだけれど……。
「……ごめんな」
 軽い謝罪に、美斗はむ、と頬を膨らませた。けれど、フライパンの中身が食欲を刺激するものだから、美斗の意識はそちらに逸れた。覗き込めば、二人分のハムエッグが焼けている。ちょうどそのとき、チン、とトースターが食パンを吐き出した。

「バターでいいか?」
「……ジャムは?」
「イチゴと……リンゴがまだ残ってるかな」
「イチゴがいい。イチゴとバター」

「ああ、了解」

 料理が一つずつプレートへと乗せられていく。しばらくしたら、この男はそれを食卓に並べるだろう。

「はじめ」

 背中に向かって、美斗は呼びかける。

「死ぬなよ」
 美斗の目線の先にはちょうど、彼が美斗のために作った傷があった。こいつはすぐに無茶をするのだ。

「お前が死んだら俺も死ぬからな」

「……ああ。了解」

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