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2章 魔法使いとストッカー
47 晴れの日
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「このお花はどこに?」
「あぁ、それはあっちの侍女に聞いて。あぁ、それはこっちよ~」
お兄様の婚約式が明日に迫り、私とスーザンは王都屋敷の飾り付けで朝から働き詰めになっている。昼食中もサンドイッチ片手に準備を続けた。
「お嬢様、そろそろお時間です…ここは私がやっておきますので。あと半刻でロゼ領の領主様との最終確認がございます」
「えぇ? もうそんな時間なの? では、スーザンよろしく」
私は急いで庭園会場へ向かう。明日はガーデンパーティーで、現在、ケイトを中心に花をこれでもかと飾っている最中だった。
「素晴らしいわね。金木犀の枝木、花が付いているの、よく手に入ったわね」
「ふふふ。ここだけの話、ロダン様がお金に糸目はつけないと。半年以上前から計画的に育てたんですよ?」
「あら! そう。そんなに!! すごいわね」
「それはそうですよ。カイ様は我らがご主人様です。それに、ロンテーヌにとっては久しぶりの慶事ですからね!」
「そうね…」
…… 色々あったものね。
「あっ! いけない! スミス様と打ち合わせがあったんだ。また後でね、ケイト」
「はい。ん? お嬢様! 本日の警備は誰が?」
「あぁ。ここにアークが居るわ。もう直ぐランドも来ると思う」
と、私の影を指差す。
「… ふ~。本当に困った人ね。こんな日でも影に居るなんて」
呆れながら私の影を睨むケイト。
「あはは。しょうがないよ。シャイなんだから、ね?」
私はケイトと別れて庭園の奥へと進む。いくつかテーブルが設置され、近くには業者の者達とロダン、警備のチェックをしているリットと領騎士達、舞台の設置を指示しているクリス達がいる。
「お嬢様! こちらです!」
ユーリがぶんぶんと手を振って近くのテーブルの一角へ呼んだ。
「うわ~。綺麗に準備できているわ。ありがとう」
「いえいえ。お嬢様。あとはスミス様が到着しましたらお茶をお出しします。他に足りない物はございませんか?」
テーブルには、明日の招待客や食事のリスト、屋敷の地図、警備院の配置図などが並ぶ。その中でも一際目立つのは明日の目玉商品、『金木犀の花型サボン』が鎮座していた。
「う~ん、いい香り。ユーリ、他は大丈夫よ」
ユーリはニコニコと頷き厨房へ向かった。と、背後からスミス様がこちらへ歩いてきていた。うそ? もうそんな時間?
「あぁ、スミス様。お迎えが出来ませんで申し訳ございません」
「いやいや、少し早く着いてしまってね。勝手にお邪魔させて頂いたよ。ご機嫌よう、ジェシカ嬢」
「ご機嫌よう、スミス様。さっ、早速こちらへおかけ下さいませ」
スミス様は終始笑顔で会場を眺めながらテーブルに着く。
「素晴らしいね、流石は新興のロンテーヌだ。こんなにも花を惜しげなく飾るなど。この時期は手に入りにくいだろうに」
「ふふふ。皆、お兄様の事が好きすぎて、少々、いえ、大分張り切っているみたいです。なんせ、そんなお兄様が射止めたアンジェ様をお迎えするんですもの。領をあげて盛大に尽くしますよ」
「あぁ、ありがとう。アンジェは幸せ者だ。しかし、この分じゃぁ結婚式を想像するだけで随分派手になりそうだな、ははは」
「ふふふ。しかしですね、スミス様、残念な事に『結婚式は厳かにシンプルがいい』とお兄様とアンジェ様よりご希望がありましたので… せめて婚約式でも… 私のわがままでこの様に。ふふ、どうぞお付き合いをお願いいたしますね」
「いやいや、こちらとしてもうれしい限りだ。こんなにも歓迎されていると目で感じられる事が出来て、父親としては喜ばしい。あぁ、それより最終チェックでしたね」
「はい、こちらをご確認下さい。ユーリ、お茶をお願い」
ユーリがお茶を用意している間に、スミス様は資料に目を通している。いつの間にか、ロッシーニとランドが背後に立っていた。
「うんうん。いいよ、これで。で、コレが例のサボンだね?」
「えぇ。ぜひお手に取って下さい。あと、このガラスの容器に入れますので、ロゼ領のスペルと紋章の確認もお願いいたします」
「あぁ… う~ん、いい香りだ。香水ほど主張せず、かといって香りも薄くもない。紋章も問題ないようだ。しかし、この花の型どうやって? まさか、一つ一つ職人に彫らせたのかい?」
「ふふふ。それは… 秘密です。作業工程で簡単に造型する方法がありまして… すみません。特許関係でお話が出来ないんです」
「あはっ、やっぱりジェシカ嬢は一筋縄にはいかないな。浮かれついでにポロッと言うのを期待していたんだが…」
「もう! スミス様ったら。ふふふ。それなら、私の方こそ金木犀以外の成分が何かとっても気になってるんですよ?」
「ふふふ。そうだね~」
スミス様との最終チェックはスムーズに済んで、スミス様はそのままロダンに案内され、クリスと明日の打ち合わせをしに向かった。
「は~、一番の難関が終わったわ~。修正がなくてよかった~」
私はう~んと両手を上げて背伸びする。
「お嬢様。まだ、スミス様がいらっしゃいます。お席を離れ遠くに居るとはいえ… お控え下さい」
ロッシーニがすかさず小言を言う。
「はいはい。すみません。後は何かあったかな?」
「特には… 先ほどスーザンとケイトに確認しましたら、後は使用人達で事が足りるそうです」
「え? そうなの? う~ん、何しよう。みんなががんばってるのに何もしないのもなあ~」
「それでは、王都へ少し出ましょうか? 城内はどこもかしこも準備中ですので。城下町のお店にお顔を出されてはいかがでしょう?」
「あっ! それいいね! ロダンに聞いてくれる?」
「既に了承は得ています」
「おっ! やるな~ロッシーニ。主人の欲しがるモノを先に準備するとは… だんだん様になってきてるじゃない?」
「恐れ入ります」
ロッシーニは能面を装っているけど、口元が少しだけ綻んでいた。
「では、着替えたら行きましょうか? そうねぇ、半刻後に玄関ホールでいい?」
「かしこまりました。準備をしておきます」
ユーリと私はお出かけ用に着替えに部屋へ戻る。アークは影に居るから… ロッシーニはお出かけ準備に向かった。
ふふふ~お出かけ! 思わぬラッキー!
「あぁ、それはあっちの侍女に聞いて。あぁ、それはこっちよ~」
お兄様の婚約式が明日に迫り、私とスーザンは王都屋敷の飾り付けで朝から働き詰めになっている。昼食中もサンドイッチ片手に準備を続けた。
「お嬢様、そろそろお時間です…ここは私がやっておきますので。あと半刻でロゼ領の領主様との最終確認がございます」
「えぇ? もうそんな時間なの? では、スーザンよろしく」
私は急いで庭園会場へ向かう。明日はガーデンパーティーで、現在、ケイトを中心に花をこれでもかと飾っている最中だった。
「素晴らしいわね。金木犀の枝木、花が付いているの、よく手に入ったわね」
「ふふふ。ここだけの話、ロダン様がお金に糸目はつけないと。半年以上前から計画的に育てたんですよ?」
「あら! そう。そんなに!! すごいわね」
「それはそうですよ。カイ様は我らがご主人様です。それに、ロンテーヌにとっては久しぶりの慶事ですからね!」
「そうね…」
…… 色々あったものね。
「あっ! いけない! スミス様と打ち合わせがあったんだ。また後でね、ケイト」
「はい。ん? お嬢様! 本日の警備は誰が?」
「あぁ。ここにアークが居るわ。もう直ぐランドも来ると思う」
と、私の影を指差す。
「… ふ~。本当に困った人ね。こんな日でも影に居るなんて」
呆れながら私の影を睨むケイト。
「あはは。しょうがないよ。シャイなんだから、ね?」
私はケイトと別れて庭園の奥へと進む。いくつかテーブルが設置され、近くには業者の者達とロダン、警備のチェックをしているリットと領騎士達、舞台の設置を指示しているクリス達がいる。
「お嬢様! こちらです!」
ユーリがぶんぶんと手を振って近くのテーブルの一角へ呼んだ。
「うわ~。綺麗に準備できているわ。ありがとう」
「いえいえ。お嬢様。あとはスミス様が到着しましたらお茶をお出しします。他に足りない物はございませんか?」
テーブルには、明日の招待客や食事のリスト、屋敷の地図、警備院の配置図などが並ぶ。その中でも一際目立つのは明日の目玉商品、『金木犀の花型サボン』が鎮座していた。
「う~ん、いい香り。ユーリ、他は大丈夫よ」
ユーリはニコニコと頷き厨房へ向かった。と、背後からスミス様がこちらへ歩いてきていた。うそ? もうそんな時間?
「あぁ、スミス様。お迎えが出来ませんで申し訳ございません」
「いやいや、少し早く着いてしまってね。勝手にお邪魔させて頂いたよ。ご機嫌よう、ジェシカ嬢」
「ご機嫌よう、スミス様。さっ、早速こちらへおかけ下さいませ」
スミス様は終始笑顔で会場を眺めながらテーブルに着く。
「素晴らしいね、流石は新興のロンテーヌだ。こんなにも花を惜しげなく飾るなど。この時期は手に入りにくいだろうに」
「ふふふ。皆、お兄様の事が好きすぎて、少々、いえ、大分張り切っているみたいです。なんせ、そんなお兄様が射止めたアンジェ様をお迎えするんですもの。領をあげて盛大に尽くしますよ」
「あぁ、ありがとう。アンジェは幸せ者だ。しかし、この分じゃぁ結婚式を想像するだけで随分派手になりそうだな、ははは」
「ふふふ。しかしですね、スミス様、残念な事に『結婚式は厳かにシンプルがいい』とお兄様とアンジェ様よりご希望がありましたので… せめて婚約式でも… 私のわがままでこの様に。ふふ、どうぞお付き合いをお願いいたしますね」
「いやいや、こちらとしてもうれしい限りだ。こんなにも歓迎されていると目で感じられる事が出来て、父親としては喜ばしい。あぁ、それより最終チェックでしたね」
「はい、こちらをご確認下さい。ユーリ、お茶をお願い」
ユーリがお茶を用意している間に、スミス様は資料に目を通している。いつの間にか、ロッシーニとランドが背後に立っていた。
「うんうん。いいよ、これで。で、コレが例のサボンだね?」
「えぇ。ぜひお手に取って下さい。あと、このガラスの容器に入れますので、ロゼ領のスペルと紋章の確認もお願いいたします」
「あぁ… う~ん、いい香りだ。香水ほど主張せず、かといって香りも薄くもない。紋章も問題ないようだ。しかし、この花の型どうやって? まさか、一つ一つ職人に彫らせたのかい?」
「ふふふ。それは… 秘密です。作業工程で簡単に造型する方法がありまして… すみません。特許関係でお話が出来ないんです」
「あはっ、やっぱりジェシカ嬢は一筋縄にはいかないな。浮かれついでにポロッと言うのを期待していたんだが…」
「もう! スミス様ったら。ふふふ。それなら、私の方こそ金木犀以外の成分が何かとっても気になってるんですよ?」
「ふふふ。そうだね~」
スミス様との最終チェックはスムーズに済んで、スミス様はそのままロダンに案内され、クリスと明日の打ち合わせをしに向かった。
「は~、一番の難関が終わったわ~。修正がなくてよかった~」
私はう~んと両手を上げて背伸びする。
「お嬢様。まだ、スミス様がいらっしゃいます。お席を離れ遠くに居るとはいえ… お控え下さい」
ロッシーニがすかさず小言を言う。
「はいはい。すみません。後は何かあったかな?」
「特には… 先ほどスーザンとケイトに確認しましたら、後は使用人達で事が足りるそうです」
「え? そうなの? う~ん、何しよう。みんなががんばってるのに何もしないのもなあ~」
「それでは、王都へ少し出ましょうか? 城内はどこもかしこも準備中ですので。城下町のお店にお顔を出されてはいかがでしょう?」
「あっ! それいいね! ロダンに聞いてくれる?」
「既に了承は得ています」
「おっ! やるな~ロッシーニ。主人の欲しがるモノを先に準備するとは… だんだん様になってきてるじゃない?」
「恐れ入ります」
ロッシーニは能面を装っているけど、口元が少しだけ綻んでいた。
「では、着替えたら行きましょうか? そうねぇ、半刻後に玄関ホールでいい?」
「かしこまりました。準備をしておきます」
ユーリと私はお出かけ用に着替えに部屋へ戻る。アークは影に居るから… ロッシーニはお出かけ準備に向かった。
ふふふ~お出かけ! 思わぬラッキー!
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