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2章 魔法使いとストッカー

49 婚約式

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「「「おめでとうございます!!!」」」

 早咲きの金木犀が香りを放つ会場に、大きな祝福の声があふれる。

「お兄様、アンジェ様、いえ、お義姉様ねえさま。本日はおめでとうございます」

 マーメイドタイプのドレスに包まれたアンジェ様が、頬を少し赤らめながらお兄様の顔を見て微笑んだ。

「ありがとう、ジェシカ様… ジェシー。これからよろしくお願いします」

「ふふふ、お願いしますって。今日からは家族になったんだもの、気軽にして欲しいな。だから、遠慮なく何でもお願い・・・してね。お義姉様」

「ええ、ふふふ」

 これでやっっっっっと、アンジェ様が正式に家族になった。いやっほい。

「ジェシカ嬢、アンジェの事をよろしく頼むよ。貴領は国の端っこだ、いくら人気上昇中のロンテーヌ領でも目が届かない。それに色々・・気苦労が多い・・・・・・だろうからね」

 アレコレを知っているスミス様は、笑顔で娘を心配しながら私たちに釘を刺す。

義父上ちちうえ、大丈夫です。私が必ず守ってみせます」

「まっ今回の事はアンジェのわがままだからな。まだ婚約だと言うのにロンテーヌ領へついて行くなど、まったく… 本当に頼んだよ」

 お兄様とスミス様はそのまま少し話があるようで、二人で離れたベンチへ移動して行った。

「お義姉様、最後にスミス様と私からと言うか、ロゼ領とロンテーヌ領の最高傑作の、例のお披露目があるじゃないですか? 突然で申し訳ないんですが、その代役をお願いしてもいいでしょうか? 私、今日はこのまま下がろうかと思って」

「え? どうしたの? あんなに張り切っていたのに。私がしてもいいのかしら… 何か理由が?」

「えぇ、水を刺すのが嫌だったので黙っていたのですが… 朝から体調が思わしくなくて。少し熱が…」

「そう。それは仕方ないわ。大丈夫よ、私もロンテーヌの一員になったのですもの。ちゃんと宣伝をしておくわね」

 と、お義姉様はウィンクしてくれた。

「では、私はこれで… お兄様は了承して下さっていますので。また、明日にでも」

「えぇ、ちゃんと休んでね。ジェシーの事だからベッドの上でも何かしてそうだわ」

 ギクッ。

「ほほほほほ、流石に… 大人しくしてますよ」

 式の最後まで、この幸せな空間にいたかったのに… 昨日の事があったからね。今日はお客様も多いし…
 って事で、今日は私はこのまま部屋で軟禁状態になる。

「ケイト、一応お兄様に部屋へ下がる事をお伝えしておいて」

「かしこまりました。少しだけお待ち下さい」

 私の護衛は影にアーク、ランド、リット、ケイトになっている。ガチガチに固めてるよ。会場にも警備が必要なのに… 申し訳ない。ロゼ領も協力してくれてるし、なんとか乗り切れるかな?

 ケイトが戻ってきたのでそのまま私たちは静かに会場を後にした。


 
「ふー。って、ランドもリットも部屋までじゃないの? 会場警備は大丈夫なの?」

「あぁ、問題ない。このままお嬢様が視角に入る距離で護衛をする」

 ランドがピリピリした感じで返答しながら、私の部屋のソファーに座った。

「お嬢。久しぶりだよなこの感じ。ケイトとランドと俺とお嬢」

 気をつかてくれているのか、ちょっと陽気な感じで場を和ませてくれるリット。相変わらず優しい。

「そうね、あなた達がうちに来た時以来かな? 懐かしいね。ケイトもこっちに来て座って?」

「いえ、私は…」

「いいよ、ケイト。俺たちがいるんだ。座るのがあれなら、夕食とかの指示を今の内にしてくれよ。今は・・大丈夫だ」

 と、リットが声をかけた途端、ケイトは少しほっとしのか緊張していた肩の力が抜けている。

「かしこまりました。半刻ほど席を離れて本当に大丈夫ですね?」

「あぁ、問題ない」

 と、ランドも賛同する。
 するとケイトは、あれもこれもと一編に色々と済ますのだろう、ブツブツ言いながら早足で部屋を出て行った。

「よしアーク、出てきてドアの前に居ろ。椅子に座ってていいから」

 ズズズと私の影から出てきたアークが無言でドアへ向かって行く。心なしか元気がない。

「で? お嬢、これからどうする?」

「そうねぇ、部屋でできることは~、そうだ、あれから村へ行った人はいる?」

「俺がスルーボードで行ってきた。存分滑りやすかったぞ。それに一時間ちょっとで往復できたし。団員もそんなぐらいだったと言ってたな」

「って事は片道半刻か。ちょっとは近くなったかな? 冬とかどうしようか?」

 あれからとは、ついこの間、この輪っかがつく前に、時間とみんなが揃った事があったのでサクッと領へ転移してきたのだった。
 村と城下町をつなぐ農道を整備したのだけれど、意外に、と言うか私の魔力量がおかしいのか、すぐに作業は終わってしまったけど。

「冬か… まぁ、雪があるからな、今まで通り歩きじゃないか?」

「どうにかならないかな。みんなには工場があるでしょ? ソリとか作る? いやいや、除雪機の方がいいのか」

「除雪機?」

 会話を静かに聞いていたランドが口を挟む。

「前世でね、雪かきをする機械、魔法具みたいなのがあったのよ。それがあれば冬でもスルーボードが使えるでしょ?」

「次から次に… しかもそんな大型の魔法具など。お嬢様は少し自重したらどうだ?」

 聞いてきたくせに、ランドは呆れている。むむ。

「だって、便利な方がいいじゃない。時間の節約にもなるし。余った時間で他の事ができるじゃない」

「例えば?」

「え? た、例えば~… ゆっくり寝られるとか?」

「ぷはっ寝坊かよ。いいね~」

「何よ! 例えばよ、例えば。時間の使い方なんて人それぞれよ。母親たちは時間に余裕ができたら、朝の準備とか楽になるし、時短はいい事なの!」

「寝たいとか、それでこそお嬢だ」

 ケラケラと笑っているリットと呆れているランドを見ていると何だか落ち着いてきた。魔法が使えないってだけで結構不安になるからね。

「昨日の夜、試してみたけどやっぱり『光』でさえ出なかったわ。一生、この輪っかが取れないなんてことはないよね?」

「ん? 大丈夫だろ。マーサがいるんだし」

「でも、学校は? もうすぐ始まっちゃうよ」

「それな~。それこそ病弱設定の出番じゃないか?」

「あぁ、そう言えばそんな設定もあったわね。お兄様、てか、ロダンはどう考えているのか… ねぇ、ロッシーニ? あっ、そうだった…」

 と、いつもの調子で声をかけてしまった私はシュンとなる。ロッシーニは今日は会場でウェイターのような真似事をさせられていた。しばらくは私から外れるそうだ。

「気にするな」

 と、ランドが励ましてくれる。

「悪い事をしたわ。ロッシーニにとっても想定外だったのに」

「いや、話だけを聞いても確認作業の詰めが甘い。しょうがない」

 ランドに同調してうんうんと頷くリット。ドアの前ではアークがちょっとだけビクッとなっている。あ~あ。

「まぁ今はもう後の祭りよね。それよりこのまま半軟禁? 領へ帰るのかな?」

「いや、領へ帰るかは不明だ。敵がこちらの事をどこまで把握しているのかによる。敵の思惑通りに領へ帰ったとしたらマズイからな。今後の事は上のおじさま達が考えるだろうよ」

「おじさま達って、まさかロダンとかクリスの事? 怒られるわよ」

「いいって。オヤジなのは本当の事だし」

「もう、リットったら」
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