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番外編

カンデレラ

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*シンデレラのパロディです。

カンデレラ→神崎亨
姉→白石桂樹・森沢朝日
魔法使い→白石桂樹
王子→白石十樹
家来→橘サトル

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 昔、ある貴族のお屋敷に、可愛い女の子が生まれました。女の子はすくすくと育ち、やがて不気味な娘になりました。
  けれども、幸せは長くは続きませんでした。
  優しいお母さんが病気で死んでしまったのです。

  お父さんは、女の子の為に新しいお母さんを迎えました。
  そのお母さんは娘を二人(桂樹・朝日)つれてきます。

    三人とも、とても欲張りで意地悪でした。
  お父さん(神崎父)はそのことに気付いていなかったのです。
  最も、カンデレラは、自身も欲張りで意地悪だということに気付いていませんでしたが……。

「(神崎亨)父さん! 父さん、しっかりして下さい。このままじゃ、僕の地位は地に落ちたままです!」
 「(神崎父)カンデレラ、父さんはカンデレラが、この屋敷を大きくしてくれると期待している。
 父さんが死んでも、この地位を向上させる様……げほげほ」
 「(神崎亨)僕に全ての責任を被せておいて、その言い様はないでしょう。第一、この性格の悪い奴等をつれてきてどうするんですか!」

  カンデレラは、二人を指差して言った。

 「(桂樹)性格悪いのはカンデレラの方だろ? 失礼な奴だな」
 「(朝日)そうです。カンデレラは私の命令を聞いていれば良いのです」
 「(神崎父)カンデレラ……グッドラック」

  お父さんは、最後だけカンデラの幸せを願って死んでしまいました。

               ☆

 次の日から、カンデレラは朝から夜更けまで働かされました。

 「(朝日)カンデレラ、ここの隙間にホコリがあります。ちゃんと掃除して下さい。それから、このご飯ですが全く美味しくありません。私はもっと美味しいものを食したいと思います」
 「(桂樹)そーだぞカンデレラ。オレのゴキブリすら、このご飯は受け付けないと言っている」
 「(神崎亨)それなら君達が作りたまえ!(怒)」

  ある時、この国のお城でダンスパーティーが開かれることになりました。
  王子(十樹)さまのお嫁さんを選ぶためです。
  二人の意地悪な娘は、お化粧をしたり、綺麗なドレスを着たりして大騒ぎです。

 「(桂樹)ははは! この衣装で王子の心を射止めてやるぜ! そして一攫千金を狙ってやる!」
 「(朝日)残念でしたねお姉さま、いえ、オネエ様。私はこの惚れ薬を王子に与えるのです。王子は
私のものになります」

  お姉さんたちは、そう言って楽しそうにしています。

 「(桂樹)カンデレラ、怠けないで働くんだぞ!」
 「(朝日)美味しいご飯を食したいと思います」
 「(神崎亨)とっとと行け!」

  お姉さん達がお城へ出掛けてしまうと、カンデレラはしばしの自由に、口笛を吹きました。
  しかし、その口笛の効果で、魔法使いのおばあさんが立ってしまいました。

 「(桂樹)その口笛をやめろ、カンデレラ」
 「(神崎亨)お前は城へ行ったんじゃなかったのか(怒)」
 「(桂樹)うるせー、一人二役なんだよ。めんどくせーけど、これも仕事の内。きっと後で給料が……」

  おばあさんは魔法の杖を持ち、頭をぽりぽりかきながら言いました。

 「(桂樹)オレの言う通りにすれば、城のパーティーに潜り込めるぜ」
 「(神崎亨)ふん、僕は、金と地位以外は別に興味もないが、まあいい。その案に乗ってやろう」
 「(桂樹)随分、偉そうな物言いだな。面倒だからさっさとやっちまうか。ええと、このダンボールが使えるか。あとはゴキブリ一匹と飛樹一人……」

  カンデレラは嫌な予感がしました。

 「(神崎亨)お、おい、お前に任せて大丈夫なんだろうな?」
 「(桂樹)オレに任せとけ」 

  自信満々に言い切るおばあさんに、カンデレラは余計に不安になりました。
  おばあさんが、魔法の杖で触ると、ダンボールは大きなダンボール箱に、ゴキブリは巨大ゴキブリに、飛樹は御者の格好に着替えました。

 「(神崎亨)うっ」

  巨大ゴキブリを見て気分を悪くしたカンデレラは、壁に手をつきました。
  そして、カンデレラにも杖が触れると、奇抜なドレスを来たお姫様になりました。

 「(神崎亨)これは、夢だ。悪夢に違いない……」
 「(桂樹)これでばっちりだ。頑張って王子(十樹)の心を射止めてくれ、じゃあな」
 「(神崎亨)待て! 靴がボロボロなんだ!」
 「(神崎)しょーがねーな」

  おばあさんがそう言ってシンデレラの靴に杖を振りました。すると、ボロボロの靴は新品の革靴になりました。

 「(神崎亨)服と合っていない気がするが……」
 「(桂樹)生憎、この魔法しか使えなくてな」

  革靴は新品になっただけなので、カンデレラの足にぴったりと合いました。

 「(桂樹)いいか、十二時の鐘が鳴り終わると、魔法は消えるぜ! その前に帰ってこねーと責任持てねー からな」
 「(神崎亨)アフターサービスはないのか!」

  カンデレラは、おばあさんに毒を残して出掛けました。
  ダンボールで出来た、馬車ならぬ、ゴキブリ車は、とても乗り心地の悪いものでした。
  ゴキブリが飛ぶ度、ゴキブリ車が跳ね上がるからです。
  カンデレラは「ひいい」と悲鳴をあげました。

  カンデレラがお城につくと、皆はびっくりしました。
  それもそのはず。
  カンデレラは奇抜な衣装を着て、靴は革靴、そしてカンデレラの体格を見て、皆は「変態だ。変態が来たぞ」とざわめきました。

                  ☆

「(橘)大変です王子、あれを見て下さい」
 「(十樹)なんだい? 私はお嫁さん探しなんてどうでもいいんだ。妹さえ居ればそれでいい……」
 「(橘)いえ、駄目です。王子たるともいじめを黙認しては」
 「(十樹)いじめ?」

  家来の言う事に、王子が大広間を見ると、奇抜な衣装を着た変態らしき人物を、皆が遠巻きに見ている。

 「(十樹)よく、職務質問されなかったね」
 「(橘)そういう問題ではありません。皆があの娘を避けている。これは由々しき事態です」
 「(十樹)私にどうしろと?」
 「(橘)あの娘とダンスを踊って、彼女のイメージを変えましょう」
 「(十樹)……私は、どうも気乗りしないんだが……」
 「(橘)何を言ってるんです。さあ!」

  王子は家来の言う通り、渋々広間に出て、カンデレラに手を差し伸べました。

 「(十樹)……踊る気はありますか?」
 「(神崎亨)来たな! 王子!」

  その様子を見て、一人のお姉さんとオネエさんが言いました。

 「(桂樹)王子……趣味悪い男だな、あぁ、オレの一攫千金の夢が」
 「(朝日)私というものがありながら、許せません!」

 「(神崎亨)二人共、良く見たまえ! 王子は僕の虜だ!」

  ふははは、と不敵に笑うカンデレラを見ても、眼鏡を外していたため、オネエさん達はカンデレラだと気付きませんでした。

 「(十樹)私は、王子という地位が嫌になってきたよ……」

  周囲の好奇な目で見られる中、王子は渋々カンデレラとダンスを踊りました。
  しかし、どうも様子がおかしい。

 「(十樹)いた……っ!」
 「(神崎亨)……」
 「(十樹)いた……っ!」
 「(神崎亨)……」

  カンデレラは、ダンスが踊れない為、何度も足を踏んで王子を苦しめました。

 「(十樹)そろそろ十二時です。カンデレラ」

  痛みに耐えかねた王子は、カンデレラにさり気なく時間を知らせました。

 「(神崎亨)何!?」

  急いで帰らなければ、魔法が消えてしまう。

 「(神崎亨)帰る手段がなくなるじゃないか!」

  カンデレラは広間を走りぬけ、お城の階段を駆け下りました。
  革靴であった為、ダッシュで逃げるような形で、ゴキブリ車に乗り込みました。

  こうして、カンデレラのお城デビューは終わりました。

                 ☆

「(十樹)あの娘をどうしても探し出してほしいんだ」

  王子は家来達に命令しました。

 「あの階段に落ちていた、このガラスの靴が、あの娘のものだと思うんだが……この靴が履ける娘を探し出してくれるかい?」
 「(橘)分かりました」

  家来達は国中を訪ね歩いて、最後にカンデレラの家にやってきました。
  ガラスの靴は大変小さいので、どの家の娘も履けなかったのです。
  一人の娘は、ぎゅうぎゅうと足を押し込みましたが、足が大きすぎて入りません。
  もう一人の娘は、靴ががばがばでした。

  最後の望みをかけていた家来達はがっかりしました。

 「(橘)他にお嬢さんはいませんか?」

  お城の家来達は、困り果てた様子で聞きました。
  その時、カンデレラの目がきらんと光りました。

 「(神崎亨)僕にも履かせてくれないか?」

  カンデレラは思いました。
  この靴が履けたら、この生活から抜け出し、ある程度の地位を約束させることが出来る、と。

 「(桂樹)カンデレラには無理じゃね?」
 「(朝日)王子(十樹)は私のものです」

  二人のオネエさんたちは怒ってやめさせようとしましたが、お城の家来は、

 「お嬢さん、(多分無理だと思いますが)履いてみてください」

  カンデレラは、ガラスの靴に足を差し込みます。

 「(神崎亨)ふんっ!」

  ばきっ!

 「(神崎亨)……っ!」
 「(橘)ああ……っ!」

  カンデレラが勢い良く足を突っ込んだ為、ガラスの靴は、粉々に割れてしまいました。
  家来達は、二度がっかりです。


 「(橘)王子、申し訳ございません。ガラスの靴は割れてしまいました」
 「(十樹)ああ、いいんだよ。足の治療費を請求しようかと思ったが、どうやら私の見当違いだった
 ようだしね」
 「(橘)は?」
 「(十樹)あのガラスの靴は、どうやら妹のものだったらしい」
 「(橘)そうでしたか……安心しました」

  こうして王子のお嫁さん探しは、終わったのである。




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