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第(6/7)話: 新たなる宿敵
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クロスボーンズグレイブヤード
CROSSBORNS-GRAVEYARD
第(6/7)話: 新たなる宿敵
そう、突然の再会。
ンドゥールが騒ぐから何かと思って扉を開けて、彼と私は目を見合わせた。
「ユスフ・・・」
背筋が震える。
意思とは関係なく、ぶるりと仰け反る。
「ミーシャ・・・薬を・・・」
ユスフは鼻血を出して倒れ、私はすぐに駆け寄ってその身体を支えた。
「気を失ったか」
ンドゥールが言い、素っ気なく背を向けて部屋を立ち去る。
「後はお前が介抱してやれ」
それから後はタオルを熱いお湯に浸したり、絞ってユスフの額に宛てたり。
背中の傷を手でなぞり、物思いに耽ったりする日々が延々と続いていく。
(いつまでも終わらないでいて欲しい)
意識を失ったままの《彼》に語りかける。
「ねえ知ってる?あたしが今みたいな人間になった理由」
職務上必要な度合いを越えて取り締まりに励む私の姿を見て、まだまだオットリしていたかつてのピエールは言ったものだ。
(何が君をそうさせている?)
正確な答えをその時はまだ、自分自身も知り得ていなかった。
「昔、信頼を寄せていた人がひとり居てね」
私は語る。
「彼はあたしに果たすつもりもない約束をして、あたしの前から去っていったの」
やがて意識を取り戻したユスフは全身に汗を掻き、白目を剥いてガタガタと痙攣した。
私は彼を縄で縛り、ベッドから落ちないように押さえつけた。
「残されたあたしは悲しかった。そして何より、寂しかった。彼は津波のように爪痕を遺した」
糾弾されるパパと、自決したママン。
「ひとしきり泣いた後、考えを改めたわ。もうひとつの可能性があたしの心を支配した・・・」
憎しみ。
「その人は結局、束の間の幸せを与えて奪っていっただけ。あたしを自分と同じ目に遭わせたかっただけなんじゃないかって」
だから私は冷徹に、執拗に、追跡を繰り返してきた。
がむしゃらに仕事に精を出した。
私に振られたピエールもまた、捜査の鬼と化す。
「歯車の調子が狂って、坂を猛スピードで走り抜ける馬車みたいに」
私の世界は壊れてしまった。
そんな私を受け止めてくれた男が、一人だけいる。
「ンドゥール」
彼が私の思想を変えた。
「殆んど面識が無かったにも関わらず、あたしは彼のことを誤解していたの。他の人が言うようにね。つまり、極悪非道の冷血漢だって」
それは間違いだった。
彼ほど人情に厚く、平和主義者の男はいない。
「あたし、とっても幸せだったのよ」
ユスフが現れるまでは。
快方へと向かうユスフは栄養価の高いお茶のようなものをお椀で飲んで、しばらく咳き込む。
「ごほ、ごほ」
相変わらず、血走った射るような視線が私を捉えた。
★
「見せてあげよう」
ギギギギギ・・・
錆びついた牢屋の錠を開けて、ンドゥールが言う。
ユスフは何も答えずにのそりのそりと歩き出した。
汚れていて、汗くさい。
「お散歩の時間よ」
私は奴隷に言うのと同じような優しさでユスフに接する。
懐かしいと共に、不思議な感じもする。
大人になったユスフには人を寄せ付けない排他的なオーラと、誰もが魅了されるカリスマ性とが同居していた。
ずん。
一歩一歩を踏み出す度に、そんな音がするように思える。
ずん!ずん!ずん!
前へ進む。
「覚悟はいいか?」
螺旋階段を上り詰め、たどり着いた暗い部屋でンドゥールが問う。
ユスフは顔をあげて答えた。
「とっくに出来てる」
そうは言っても、どうだろう。
ンドゥールは黒いカーテンをむしり取った。
まぶしい日射しが目を焼いた。
「さあ!見るんだユスフ!これがお前のやってきたことの結果だ!」
それでも、見る。
外の世界が窓から見える。
真っ赤な砂漠が蜃気楼のように立ち上がった。
「なんだこれ・・・」
さすがのユスフも絶句する。
大地を染める赤いものの正体が頭の中に入ってくる。
「お前の血、お前たちの血だ」
思わず手を顔に宛てる。
震えさえ来ない。
誰も立っている者はいない。
仲間たちが、死んでいた。
私もつられて嗚咽をもらす。
「うええ・・・」
だが、上じゃない。
下だ。
「自分たちだけが特別な人間で、恵まれない境遇に産まれたのだと思い込んではいやしないか?だから仕方ないのだと、言い訳をしていないか?」
水は常々、上から下に流れ落ちる。
下で澱んで、渦を巻いてやがて腐る。
泳ぐ魚も、海草も死に絶える。
(立っている者は誰もいない)
「残念だが、ミーシャ」
ンドゥールは続けた。
「お前もこいつと同類だよ」
ガシャン!
仕掛け板が開いて、私たちは床下に落とされた。
「絶対的な平和には、湖底が見えるくらいに綺麗な水が必要だ。でもその為には先ず、泥を含んで淀んだ水を取り替えなくちゃならないだろ」
ユスフは黙って立ち上がる。
ママンが刺した背中の古傷が開いていた。
泣いていると、ユスフが手を差し伸べる。
その腕を掴んで、私もしかと立ち上がった。
「この先に何が待ってる?」
聞かれても、私には分からない。
でも、はっきりとした口調で答えることにする。
「何であろうが、切り抜けるわよ」
指と指が触れあう。
どちらともなく、ぎゅっと握った。
★
ザン!ザン!ザン!
金属が打ち付けられる音!音!音!
「これより入場するのは、彼の血を真っ赤に染め上げた恐怖の帝王、誰もが震え上がる屈強な殺人マシーン!史上稀にみる豪傑、ディヤーブ・カースィム・マヌワーン!」
濠、と沸き立つ群衆の熱狂。
目を閉じる。
汗は瞼を押し退けて眼球の中に入ってくる。
網膜の傷がズキズキと染みた。
「対するは、公安当局に潜入していた裏切者!仲間の死をものともせず、ただ突き進む孤独な女狐!我々に隠れて上院議員に手を下した張本人!ミーシャ・D・オルインピアダ!」
扉が開かれ、広間の中に放り出される。
膝をつくと砂ぼこりが舞った。
取り囲むように隊列を組んだ銀色の甲冑。
逃げ出せない、ここは別名・処刑場・・・娯楽のために席が作られたコロシアムだ。
「静粛に!静粛に!」
拍手喝采が鳴り止むのを見計らって、金の王座から小柄な男が階段を降りてくる。
「今夜は特別な夜になる」
黒いマントを翻すと、男は数回咳をして蠅を振り払うような仕草をした。
「ここにいるユスフ・・・ディヤーブ・カースィム・マヌワーンとは、少なからず因縁があってね」
見覚えのない男だった。
声はかすれ、男にしては高音である。
「私は戦争を生きてきた・・・寝ても覚めても大虐殺、血沸き肉踊る狂乱の最中さ」
細い目に大きな隈が出来ている。
額には殴られて出来たような瘤があった。
「ふと目が覚めて、ある日思った。どうして私はこんな世に生まれ、こんな定めに従っているのか」
瞳の奥を見ようとしても底無しで、何を考えているか分からない。
「親父は戦場で砲撃に倒れ、私の腕の中で死んだ。私は言った。何故、どうしてこんなことになってしまったんだと」
嘆いても無駄だ。
「死に際に、親父はこう答えた。お前の祖父が祖母を孕ませ、そのまま戦地に置いてきたからだとね・・・」
いつの間にか小男は泣いていた。
泣きながら、涙も堪えず、笑っていた。
「疑問に思ったよ。じゃあその祖父は何処へ消えたのか。戦場で産まれた私のルーツは何処にあるのか」
話は止まらない。
雲が陰り、太陽が姿を消した。
「3年かけて私は祖父を捜し、やっとのことで見つけ出した。会いに行こうとすると、彼は私を拒絶した・・・」
手に入れた平穏を乱されなくなかったのだろう。
「彼は土地も持っていたし、小間遣いも、奴隷も沢山所持していた。鉄鋼の仕事で儲けていたのさ。それなのに身内の私には、びた一文も渡さなかった」
これを世間では、はた迷惑な逆恨みと言うのだろう。
「私は夜道を尾行して、路地裏で彼の腰を打ち砕いた」
私はユスフと目を合わせる。
まずい敵と遭遇してしまったものだと互いに思う。
「私の名前はサルバドール・ドゥプリュ。ここにいるディヤーブ・カースィム・マヌワーン・・・ユスフは私の祖父に可愛がられていた、そうだよな?」
ミスター・ドゥプリュは撃たれただけでは死ななかった。
しぶとく生きて、サルバドールの悩みを長引かせた。
「終わるべき命を終わらせて何が悪い、滅びゆく国は滅びるべきだし、廃れた思想は朽ち果てるべきだ」
憎しみはやがて、炎に変わる。
「私は村を燃やすように命令し、壊滅させた」
根絶やしにするつもりだった。
「それでも彼は生き延びて、私の前に立っている」
ユスフ。
「人には、出会うべくして出会う人がいる。敵も味方も、その定めには逆らえない」
私は唾を呑み込んだ。
未曾有の嵐が迫っている、そんな予感が胸を締め付け、離さない。
「長く続いた戦争も、今夜終わる。この場所で、私が終わらせる。それは私の死を意味するかもしれない」
塀に足をかけ、そのまま闘技場に降りてきた。
「戦場で私は自分を知った。ここが私の産まれた場所であり、生き様そのものなのだとね」
槍を手に持ち、語りかける。
「さあ、武器を取れマヌワーン!取らねばこの場で女を殺すぞ」
私の足は鎖で繋がれていた。
ユスフは答える。
「ミスター・ドゥプリュは、お前の祖母を愛していた。・・・戦争がふたりを引き裂いた・・・それだけのことだ」
剣と盾を、手に取った。
サルバドールは肩を竦める。
「分かっていないようだな、マヌワーン。愛は単なる概念にすぎない。大切なのは何を思ったかではない。何をしたかだ」
生ぬるい風が2人の間をすり抜けていった。
始まる・・・。
「さあ!来るなら、来い!」
【つづく】
次回予告!
血に飢えたサルバドールの槍が空を切り裂く!
弾けるユスフの剣捌き!
鎖ひとつで戦うミーシャ!そして、動き出す世界の上層部!
築かれる真の平和と、清算される過去の怨恨・・・悲惨な世界の物語、ここに完結!
ONE MORE FINALE!!!!
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第(6/7)話: 新たなる宿敵
そう、突然の再会。
ンドゥールが騒ぐから何かと思って扉を開けて、彼と私は目を見合わせた。
「ユスフ・・・」
背筋が震える。
意思とは関係なく、ぶるりと仰け反る。
「ミーシャ・・・薬を・・・」
ユスフは鼻血を出して倒れ、私はすぐに駆け寄ってその身体を支えた。
「気を失ったか」
ンドゥールが言い、素っ気なく背を向けて部屋を立ち去る。
「後はお前が介抱してやれ」
それから後はタオルを熱いお湯に浸したり、絞ってユスフの額に宛てたり。
背中の傷を手でなぞり、物思いに耽ったりする日々が延々と続いていく。
(いつまでも終わらないでいて欲しい)
意識を失ったままの《彼》に語りかける。
「ねえ知ってる?あたしが今みたいな人間になった理由」
職務上必要な度合いを越えて取り締まりに励む私の姿を見て、まだまだオットリしていたかつてのピエールは言ったものだ。
(何が君をそうさせている?)
正確な答えをその時はまだ、自分自身も知り得ていなかった。
「昔、信頼を寄せていた人がひとり居てね」
私は語る。
「彼はあたしに果たすつもりもない約束をして、あたしの前から去っていったの」
やがて意識を取り戻したユスフは全身に汗を掻き、白目を剥いてガタガタと痙攣した。
私は彼を縄で縛り、ベッドから落ちないように押さえつけた。
「残されたあたしは悲しかった。そして何より、寂しかった。彼は津波のように爪痕を遺した」
糾弾されるパパと、自決したママン。
「ひとしきり泣いた後、考えを改めたわ。もうひとつの可能性があたしの心を支配した・・・」
憎しみ。
「その人は結局、束の間の幸せを与えて奪っていっただけ。あたしを自分と同じ目に遭わせたかっただけなんじゃないかって」
だから私は冷徹に、執拗に、追跡を繰り返してきた。
がむしゃらに仕事に精を出した。
私に振られたピエールもまた、捜査の鬼と化す。
「歯車の調子が狂って、坂を猛スピードで走り抜ける馬車みたいに」
私の世界は壊れてしまった。
そんな私を受け止めてくれた男が、一人だけいる。
「ンドゥール」
彼が私の思想を変えた。
「殆んど面識が無かったにも関わらず、あたしは彼のことを誤解していたの。他の人が言うようにね。つまり、極悪非道の冷血漢だって」
それは間違いだった。
彼ほど人情に厚く、平和主義者の男はいない。
「あたし、とっても幸せだったのよ」
ユスフが現れるまでは。
快方へと向かうユスフは栄養価の高いお茶のようなものをお椀で飲んで、しばらく咳き込む。
「ごほ、ごほ」
相変わらず、血走った射るような視線が私を捉えた。
★
「見せてあげよう」
ギギギギギ・・・
錆びついた牢屋の錠を開けて、ンドゥールが言う。
ユスフは何も答えずにのそりのそりと歩き出した。
汚れていて、汗くさい。
「お散歩の時間よ」
私は奴隷に言うのと同じような優しさでユスフに接する。
懐かしいと共に、不思議な感じもする。
大人になったユスフには人を寄せ付けない排他的なオーラと、誰もが魅了されるカリスマ性とが同居していた。
ずん。
一歩一歩を踏み出す度に、そんな音がするように思える。
ずん!ずん!ずん!
前へ進む。
「覚悟はいいか?」
螺旋階段を上り詰め、たどり着いた暗い部屋でンドゥールが問う。
ユスフは顔をあげて答えた。
「とっくに出来てる」
そうは言っても、どうだろう。
ンドゥールは黒いカーテンをむしり取った。
まぶしい日射しが目を焼いた。
「さあ!見るんだユスフ!これがお前のやってきたことの結果だ!」
それでも、見る。
外の世界が窓から見える。
真っ赤な砂漠が蜃気楼のように立ち上がった。
「なんだこれ・・・」
さすがのユスフも絶句する。
大地を染める赤いものの正体が頭の中に入ってくる。
「お前の血、お前たちの血だ」
思わず手を顔に宛てる。
震えさえ来ない。
誰も立っている者はいない。
仲間たちが、死んでいた。
私もつられて嗚咽をもらす。
「うええ・・・」
だが、上じゃない。
下だ。
「自分たちだけが特別な人間で、恵まれない境遇に産まれたのだと思い込んではいやしないか?だから仕方ないのだと、言い訳をしていないか?」
水は常々、上から下に流れ落ちる。
下で澱んで、渦を巻いてやがて腐る。
泳ぐ魚も、海草も死に絶える。
(立っている者は誰もいない)
「残念だが、ミーシャ」
ンドゥールは続けた。
「お前もこいつと同類だよ」
ガシャン!
仕掛け板が開いて、私たちは床下に落とされた。
「絶対的な平和には、湖底が見えるくらいに綺麗な水が必要だ。でもその為には先ず、泥を含んで淀んだ水を取り替えなくちゃならないだろ」
ユスフは黙って立ち上がる。
ママンが刺した背中の古傷が開いていた。
泣いていると、ユスフが手を差し伸べる。
その腕を掴んで、私もしかと立ち上がった。
「この先に何が待ってる?」
聞かれても、私には分からない。
でも、はっきりとした口調で答えることにする。
「何であろうが、切り抜けるわよ」
指と指が触れあう。
どちらともなく、ぎゅっと握った。
★
ザン!ザン!ザン!
金属が打ち付けられる音!音!音!
「これより入場するのは、彼の血を真っ赤に染め上げた恐怖の帝王、誰もが震え上がる屈強な殺人マシーン!史上稀にみる豪傑、ディヤーブ・カースィム・マヌワーン!」
濠、と沸き立つ群衆の熱狂。
目を閉じる。
汗は瞼を押し退けて眼球の中に入ってくる。
網膜の傷がズキズキと染みた。
「対するは、公安当局に潜入していた裏切者!仲間の死をものともせず、ただ突き進む孤独な女狐!我々に隠れて上院議員に手を下した張本人!ミーシャ・D・オルインピアダ!」
扉が開かれ、広間の中に放り出される。
膝をつくと砂ぼこりが舞った。
取り囲むように隊列を組んだ銀色の甲冑。
逃げ出せない、ここは別名・処刑場・・・娯楽のために席が作られたコロシアムだ。
「静粛に!静粛に!」
拍手喝采が鳴り止むのを見計らって、金の王座から小柄な男が階段を降りてくる。
「今夜は特別な夜になる」
黒いマントを翻すと、男は数回咳をして蠅を振り払うような仕草をした。
「ここにいるユスフ・・・ディヤーブ・カースィム・マヌワーンとは、少なからず因縁があってね」
見覚えのない男だった。
声はかすれ、男にしては高音である。
「私は戦争を生きてきた・・・寝ても覚めても大虐殺、血沸き肉踊る狂乱の最中さ」
細い目に大きな隈が出来ている。
額には殴られて出来たような瘤があった。
「ふと目が覚めて、ある日思った。どうして私はこんな世に生まれ、こんな定めに従っているのか」
瞳の奥を見ようとしても底無しで、何を考えているか分からない。
「親父は戦場で砲撃に倒れ、私の腕の中で死んだ。私は言った。何故、どうしてこんなことになってしまったんだと」
嘆いても無駄だ。
「死に際に、親父はこう答えた。お前の祖父が祖母を孕ませ、そのまま戦地に置いてきたからだとね・・・」
いつの間にか小男は泣いていた。
泣きながら、涙も堪えず、笑っていた。
「疑問に思ったよ。じゃあその祖父は何処へ消えたのか。戦場で産まれた私のルーツは何処にあるのか」
話は止まらない。
雲が陰り、太陽が姿を消した。
「3年かけて私は祖父を捜し、やっとのことで見つけ出した。会いに行こうとすると、彼は私を拒絶した・・・」
手に入れた平穏を乱されなくなかったのだろう。
「彼は土地も持っていたし、小間遣いも、奴隷も沢山所持していた。鉄鋼の仕事で儲けていたのさ。それなのに身内の私には、びた一文も渡さなかった」
これを世間では、はた迷惑な逆恨みと言うのだろう。
「私は夜道を尾行して、路地裏で彼の腰を打ち砕いた」
私はユスフと目を合わせる。
まずい敵と遭遇してしまったものだと互いに思う。
「私の名前はサルバドール・ドゥプリュ。ここにいるディヤーブ・カースィム・マヌワーン・・・ユスフは私の祖父に可愛がられていた、そうだよな?」
ミスター・ドゥプリュは撃たれただけでは死ななかった。
しぶとく生きて、サルバドールの悩みを長引かせた。
「終わるべき命を終わらせて何が悪い、滅びゆく国は滅びるべきだし、廃れた思想は朽ち果てるべきだ」
憎しみはやがて、炎に変わる。
「私は村を燃やすように命令し、壊滅させた」
根絶やしにするつもりだった。
「それでも彼は生き延びて、私の前に立っている」
ユスフ。
「人には、出会うべくして出会う人がいる。敵も味方も、その定めには逆らえない」
私は唾を呑み込んだ。
未曾有の嵐が迫っている、そんな予感が胸を締め付け、離さない。
「長く続いた戦争も、今夜終わる。この場所で、私が終わらせる。それは私の死を意味するかもしれない」
塀に足をかけ、そのまま闘技場に降りてきた。
「戦場で私は自分を知った。ここが私の産まれた場所であり、生き様そのものなのだとね」
槍を手に持ち、語りかける。
「さあ、武器を取れマヌワーン!取らねばこの場で女を殺すぞ」
私の足は鎖で繋がれていた。
ユスフは答える。
「ミスター・ドゥプリュは、お前の祖母を愛していた。・・・戦争がふたりを引き裂いた・・・それだけのことだ」
剣と盾を、手に取った。
サルバドールは肩を竦める。
「分かっていないようだな、マヌワーン。愛は単なる概念にすぎない。大切なのは何を思ったかではない。何をしたかだ」
生ぬるい風が2人の間をすり抜けていった。
始まる・・・。
「さあ!来るなら、来い!」
【つづく】
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血に飢えたサルバドールの槍が空を切り裂く!
弾けるユスフの剣捌き!
鎖ひとつで戦うミーシャ!そして、動き出す世界の上層部!
築かれる真の平和と、清算される過去の怨恨・・・悲惨な世界の物語、ここに完結!
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