僕と(私と)君と

羅糸

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ガリ勉君とスポ根少女と

一話

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 彼は高校生になりはじめて恋をした。
 よく周りからは冴えない男と言われ、女性経験はおろか、女性と話した事が家族を除けばほとんどない。そんな彼が異性を意識したのは、女性に慣れてない彼らしい単純な動機であった。
 
 まだ授業がはじまるには余裕がある早朝、すでに彼は学校に来ていた。とある目的で彼は新学期以降毎朝この時間帯に登校している。
 彼は校舎に入る前に必ずといっていいほどグラウンドの方を見る。グラウンドには運動部が彼が来るより、早くから朝練をはじめており賑わっていた。その中から彼は一人の少女を見つける。
 少女は走っていた
 100メートルの距離を全力で
 その速さは一般の女子高生どころか男子の平均よりも速いであろうか
 走ってる最中は茶色の短い髪が揺れ、胸が揺れ、見る人が見れば卑猥に思うかもしれない
 だが彼は違う。彼には少女が輝いて見えていた。
 
 少女は100メートルを走り終えた。息を切らし、練習着は汗でびっしょり濡れている。
 すると偶然少女の目が彼を見つける。それに気づいた彼は一瞬心臓が止まるかと思った。ずっと見続けていたのがバレたのではないかと内心慌てる。
 だが少女はそんなことは気付いていないかのように、こちらを見つけては笑顔で手を振った。
 
「松田君、おはよう!!」
 
 彼女は元気よく言った。松田君とは彼の名字だ。その笑顔に彼はどきんとする。
 
「お、おはよう永井さん……」
 
 お辞儀をしそれだけ言って彼は急いで立ち去る。ほんとはちゃんと会話をしたかったが、いきなりのことで彼の頭は追いつかなかった。
 
 彼は二年二組と書かれた自分の教室に入る。教室にはまだ誰も来ておらずシーンとしていた。自分の席につくと彼は鞄から教科書とノートを出し開く。
 もはや彼にとって朝から勉強するのは日課だった。元々勉強するのが好きだからであるが、他の人から見るとおかしくも思えるだろう。だがそれくらい彼は勉強熱心で真面目な訳があった。
 しばらくすると次第にクラスメイトが入ってきて教室が賑わってきた。そこに先ほど見た姿がある。
 さっき彼が見とれていた少女だ。彼女もまたこのクラスの生徒だった。練習着から着替えたであろう彼女は制服を着崩していた。
 
 彼女の名前は永井五十鈴(ながいいすず)
 陸上部に所属していて、一年の頃からエースとして活躍しているほど運動神経は抜群。スタイルもよく、誰にでも男女変わりなく平等に接してくれる元気で明るい女の子。
 そんな彼女だからこそ彼は五十鈴に憧れ、また恋をしていた。彼は人と話すのが得意ではない。そのため友人も少ない。だがクラスが一緒になったとき、普通に接してくれた唯一の女の子が彼女だった。
 彼にとってはそれだけで、彼女を意識するのは充分だった。もちろん、彼女にその気はないのは分かっている。だから下手に接しようとは考えてはいない。ただ彼女の姿を見るだけでよかった。
 
「まーた、永井のこと見てるのか」
 
 突然、一人の男が彼に話しかけてきた
  
「ち、違う!そういう訳じゃ……」
 
 彼は焦って否定した。否定はしたものの無自覚に見ていたのかもしれない。
 
「まぁ別に見てようが見てまいが関係ないけどな」
 
 幸い男はそこまで興味を示してはいなかったようだ。この男は一年の時から同じクラスであり、唯一まともに話せる友人だった。
 
「にしても永井なんかのどこがいいんだよ?髪も短くて男っぽいし」
「そんな事ないよ!永井さんは凄く魅力的で……」
 
 思わず口ごもる。これ以上言うのは恥ずかしいしほんとに好きだとバレてしまう。男はそれに気付いたようで、だがあえて触れないようにし話をする。
 
「わからなくもないけどな。あいつ胸でかいし、一度でいいからあんな胸揉んでみたいわ」
「僕はそんな理由で彼女が好きなわけじゃないよ」
「ほら、やっぱり好きなんじゃねーか」
「あっ……」
 
 しまった。はめられた。つい彼女の事を侮辱されたように思えて気付かずに言ってしまった。
 
「好きならさっさと告ればいいじゃねーか。案外OKもらえるかもよ」
 
 ニヤニヤと男は笑う。他人事とはいえこの男はよく簡単にそんな事が言えるなと彼は思った。
 
「僕みたいなのじゃ告白しても相手にしてもらえないよ……だいたいそこまで会話した事があるわけじゃないし」
「はぁ……そんなんじゃずっと告白できないで他の男に取られちまうぜ。お前はもっと積極的になれよ。別にすぐに告白しろとは言わねぇ、自分から話しかけてみたらどうだ」
「それは……」
 
 男の言うことはもっともだった。ほんとうに好きならば、それくらい積極的にやらねば到底恋人にはなれない。
 だが今の彼には五十鈴を見ることぐらいしかできなかったし、それで充分であった。
 
 
 六時間目の授業の事であった。
 今日のこの時間には中間テストの順位の結果が返ってくることになっている。
 
「松田」

 彼の名前が担任の先生に呼ばれる。彼は先生のいる教卓の前に立つ。
 
「今回も学年一位だ流石だな」
「あ、ありがとうございます……」
 
 彼はコクっとお辞儀だけをし席に戻る
 席に座ってまた改めて順位の結果を見た。どの教科も90点代をマークし中には100点の教科もあった。
 文句なしの学年一位だと言えるだろう
 
 だが彼にはこれだけでは満足いかなかった。彼には一つ目的があったから。その目的のためにはこれぐらいできて当然なのだ。
 彼はさっと紙を見ては机にしまおうとする。その時いきなりばん!と自分の机を叩かれる。

「松田君すごい!学年一位だなんて頭良いね!」
「なっ永井さん!?」
 
 目の前には彼が気になっている少女、五十鈴がいた。いきなりのことで彼は慌てて紙を落としそうになる。
 なにより顔が近い。顔と顔の距離が数十センチしかなかった。彼は椅子を少し引き距離を遠ざけた。彼女は気にしてないような顔でにこにこしている。
  
「うちも松田君みたいに頭良くなりたいなぁ」
「僕なんかまだまだですよ……あ、永井さんはどうだったんですか」
「え、うちっ?それは、あははは……」
 
 すると五十鈴は苦笑いをしながら目をそらす。まずい、話を繋げようとして聞いてみたもののデリカシーの無いことを言ってしまったのか。これは会話に不慣れな自分のせいかと彼は思う。
 
「す、すいません!変なこと聞いちゃいましたね……」
「いや、いいんよ。うちだって松田君の結果勝手に見たし……。仕方ない、うちのも見せてあげる」
 
 五十鈴はちょっぴり恥ずかしそうに紙を見せる。見てみるとテストの成績は赤点か赤点ギリギリの点数ばかりで順位も下の方であった。
 
「なんか……すみません……」
「そういうのやめて!そんな哀れむような顔しないで!」
「す、すいません!」
「……ぷっ、あははは!」
 
 そんなやりとりをしていると彼女は突然、腹を抱えて笑いだす。
 
「松田君面白い。さっきっからすいませんばっかり言ってる」
「すみません……」
「だからそれそれ!ふふっ」
 
 笑いの坪が入ったかのように彼女は笑うのをやめない。なんだか少し恥ずかしい。
 
「そんな謝らなくていいよ。松田君なにも悪くないし。それとさ、ちょっとお願いしたい事があるんだ」
「お願い、ですか」
「うん。うちね、この通り成績悪いでしょ。そのせいで赤点取った教科の追試受けることになったんだ。しかも追試合格するまで部活禁止って言われたし……」
 
 五十鈴はしょんぼりした顔をしている。彼女にとってはそれだけ部活が大事なようだ。
 
「だから松田くん頭良いし勉強教えてもらえないかなぁって……お願いっ!」
「それは……」
 
 五十鈴はすばやく手を合わせ頼んでくる。まさかこんな展開になるとは彼は思ってもいなかった。
 しかしこれはチャンスだと彼は考えた。勉強を教えるのに五十鈴と話す機会が多くふえる。それはお近づきになれるチャンスなのだ。
 
「僕でよければ」
「ほんと!やったー、これで追試もすぐに合格できるよ。ありがと!」
 
 彼女は満面の笑みを見せる。その笑顔は見てるこっちも幸せになれそうだった。
 下心ありで言ってはみたが受けて良かったと彼は思う。なにより彼女はこうなるほどほんとうに、部活が、スポーツが大好きなんだと。
 
「それじゃ連絡先交換しよ」
「れ、連絡先!?」
「うん、ずっとクラスメイトだから聞こうかなって思ってはいたけど聞けなかったし。これを機会にいいかなと思ってさ」
 
 五十鈴はスマホを取りだしそのまま電話番号教えてと言われ、彼は頭の処理が追いつかないままされるがままに連絡先を交換する。
 
「よし、と。今日からいきなりじゃ悪いし明日の放課後からいいかな」
「はい、大丈夫です……」
「もう、つれないなぁ……同級生なんだしタメ口でいいよ!」
「分かりまし……分かったよ」
「うん、よろしい!じゃ、また明日ね松田くん」
 
 そう言っては彼女は片目をウインクして自分の席へついていった。あれは無自覚なのかわざとなのか。それはわからないが彼をどきどきさせるには充分であった。
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