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元公女は毒を飲まされる。
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いつもなら、侍女のシェリルが起きて来る時間なのにも関わらず、
忠実な侍女であった彼女はその日の朝は部屋に姿を現さなかった。
「ご用意した貴賓室の方にこちらでご用意した衣装のご用意があります。
簡単なデイドレスに着替えていただければ・・。
身支度などは私達王宮の者がお手伝いしますので。」
私は、その言葉に頷くと王宮から遣わされた侍女に身支度
を手伝ってもらった。
コツリ・・。
長らく履いていなかったヒールの靴の踵を鳴らす。
軟禁状態だった特別室から一歩を踏み出した。
塔の階段の要所にある窓からは明るい光が差し込む。
街の風景は太陽の光に照らされ金色に輝いていた。
西の塔の長い階段を2年ぶりに降りていた。
下で見張っている筈の衛兵の姿が見えなかったことに
少しだけ驚きと違和感を覚えた。
黙ったままで前を歩く侍女に質問をすると、
その侍女は少しだけ口角を上げて笑った。
「今日は王太子殿下と聖女様の結婚式なので
警備はそちらに大幅に割いているようです。
こちらの警備が手薄になってしまっているようですね・・。」
<そんな事あるのかしら・・。フィンは昔から用心深い人だわ。
絶対に外に出るなと昨日もあんなに言っていたのに・・。
警備の配置を怠るなんて可笑しいわね。>
西の塔から少し歩いた先に王城の左翼に通じる通路が見えて来た。
私は久しぶりに見る大きなアメルディア王国の白亜の王宮を見上げた。
「アイリス公女、どうかされましたか??」
侍女の言葉にハッとした私はそそくさと王城に続くドアから中へと入った。
朝早くはあるけれど、それにしても侍女や王宮の護衛騎士などが見張りを怠る
訳はないのに誰ともすれ違うこともなく、指定された部屋の前へと着いた。
白い大きな扉は金色の縁取りをされていて貴賓を持て成すような
豪華な作りの金で出来た取っ手が取り付けられていた。
侍女はゆっくりとそのドアを開けると、奥にある赤いソファへと案内した。
大きな暖炉と、シャンデリアが4つ並ぶ大きな部屋だった。
私は、国を挙げての挙式を行う予定の城の中は静けさに包まれている。
そのことが私の違和感を大きくしていた。
不穏な雰囲気と違和感に私は胸がザワザワしていた。
「何かおかしい・・。
ここから離れた方がいいわね。」
ガタッとソファから立ち上がった時だった。
入ってきた白い扉とは違う別のドアから、先ほど案内してくれた侍女が
ストロベリーブロンドの美しい髪の女性を携えて現れた。
その少女は、美しい琥珀色の瞳を細めて遠目から私を見つめていた。
ゆっくりとシオフィンの瞳の色である目を引く青いドレスを身に纏って
いた。
「アイリス公女殿下、初めまして。
わたしはこの国で聖女と認定され、シオフィン殿下の妃となることが
決まりましたセアラ=パットナムと申します。
どうぞよろしくお願い致します。」
鈴を転がすような軽やかな声とともに
テーブルの前に来ると裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をした。
新聞で見たままの妖精のような小柄で可愛らしい聖女の姿に
私は一瞬だけ見惚れてしまう。
「いえ、こちらこそ・・。
このような軽装で失礼します。
私はもう公女ではありません。
どうぞ、アイリスとお呼びくださいね。
聖女様、本日はシオフィン王子殿下とのご結婚
誠におめでとうございます。どうぞ末永くお幸せに。」
「まぁ、有難うございます。
元公女様に祝福してもらえるなんて嬉しいですわ。
王子ったら、貴方の前で誓いたいのだと頑なで・・。
アイリス様のお気持ちを察したら
針の筵のような物だと私は何度も殿下にお伝えしていたんですよ?
かの国から幾度に渡る催促にも殿下ったら・・。
知らぬ存ぜぬで貴方の居場所を秘匿しておりましたのよ。」
頭を垂れた私に、微笑んだままのセアラは侍女に目配せをすると
ティーセットを用意するように合図を送った。
「はぁ、そうでしたか・・。」
セアラの言葉に違和感を覚えた私は運ばれてきたティーソーサー
に手を伸ばさず
正面に座って温かい紅茶を飲むセアラの表情をジッと見つめていた。
私には何故だか聖女である彼女の言葉に悪意が混じっているように
聞こえていた。私とシオフィンの話を探るように聞いてくる聖女の瞳は
笑っていないように見えた。
<まだ朝も早い時間としても、結婚式の当日だというのに準備もせず・・。
私とお茶など飲んでいて良いのかしら?>
「セアラ様、挙式のご準備は大丈夫なのですか??
式は午前中に執り行われるご予定なのでは・・」
「ええ、もう少しだけ!!
あら・・。せっかくうちの自慢の侍女がいれたお茶なので
美味しい内に頂いて欲しいわ。」
「恐縮ですがお茶は結構です。
朝はいつも果実水を頂いているので水分は取って参りましたの。
お式に参列したらすぐに失礼する予定なので・・。」
嫌な予感を感じていた。
私がお茶を飲まず、ソファから立ち上がろうとすると
セアラは硬い表情になる。
私の背後に立っている侍女をちらりと見た。
「な・・っ!?」
合図を受けてすぐに、部屋を辞そうとした私は勢いよく背後から
強い力で絨毯を敷いた床の上に体を押さえつけられる。
両腕に物凄い力が加わると強い痛みを覚えた私は
眉をしかめたまま立ち上がっていたセアラの方を見た。
後ろに居たはずの侍女が私の腕を掴んで絨毯の上に押し付けている
姿に、面白そうに腕組みしたままで扇をパンと閉じて琥珀色の瞳を眇める。
虫けらでも見るように見下ろすと、
ピンク色の唇は薄く気味の悪い笑みを浮かべていた。
「何を?・・何をするのですか!?」
「知ってる??貴方の祖国はね、
証を持って生まれた貴方のせいで滅びたの。
それなのに・・。
他国の王子に囲われてのうのうと生きているなんて
恥さらしもいい所ね!!
このっ、見た目だけは美しい泥棒猫が!!
貴方達の存在が私を不幸に突き落としたの。
貴方はこの世界から消えなければいけないのよ。
そしたら私は幸せになれるんだから・・。
とっとと消えてよ。亡霊姫・・!!」
聖女とは思えない憎しみの籠った視線と
耳を疑う罵詈雑言に私は大きく目を見張った。
侍女が私の首を強い力で絞め上げた。
「ウッ・・ぐっ・・。はな・・し・・」
両腕にゆっくりと力をかけると
半月のような瞳を細めて楽しそうに笑って見せた。
「私ね、この日を夢見て生きてきたの・・!!最高!!
ねぇ、聞きなさい??
貴方達は生まれてきたこと自体が罪なの!!
さぁ、貴方の死体はちゃんと彼等に見てもらうわね。
毒に苦しんで藻掻いて醜く逝った貴方の顔を見せてあげるの。
心底絶望してくれるかしら??
あはははっ、あはははははっ!!」
首を絞められ、意識が遠のいて行く中楽しそうに笑う
セアラの狂気の言葉が遠くに聞こえていた。
首を絞められて口が開ききった私の咥内にドロリと
した液体が注がれた。
涙目で見上げると、侍女が瓶に入った紫色の液体を
私の口一杯に注ぎ込む。
苦しい・・。
苦くて、体中が痺れていく。
琥珀色の瞳は楽しそうに弱っていく私を覗き込んで
満面の笑みを浮かべた。
「もう、さようならの時間よ。
アメジスト色のアースアイのお姫様。
予言は成就しないのよ。
何故かわかる?私がその芽を必ず潰すから・・。」
「予・・言・・!?」
さっきからセアラの言葉の意味が理解出来ないでいた。
だけど、初めて会ったはずの聖女の心根の醜さと
自分へと向けられた強い憎しみの感情を
死ぬ間際になって嫌というほど思い知っていた。
暗闇に落ちていく意識の中・・。
金色の光を放つアッシュブロンドと、
銀色に輝くシルバーブロンドを持つ幼馴染の二人が姿が
薄くなる意識の中で浮かんだ。
あの招待状は、シオフィンからのじゃなかった。
「フィン・・ごめん・・さい。」
あの部屋から出ないと何度も約束をした。
貴方は嘘偽りなく私を守ろうとしてくれていたのに。
帝国に留学すると言って私の前から姿を消した
もう1人の幼馴染を思い出す。
カイ・・。
貴方に一目でいいから会いたかった。
瞼が重く目を開く力さえ失っていく。
ゴホッ・・。
私は最後に血を吐き出して絨毯に黒い染みを作った。
私の意識はそこで途絶えた。
バンッ!!!
「こちらです!!
この部屋で間違いないです!!
・・アイリス様っ、どこですか!?」
張り詰めた女性の声と共に重い扉がこじ開けられる。
何か激しい音を立てて数人の足音が部屋に雪崩込んでくる音が
地鳴りの音のように響いていた。
悲鳴を上げながらも、叫び続ける聖女セアラに剣先が
向けられた。
隣の続き部屋の扉が開かれて別方向から
駆けつけた足音が聞こえる。
激しい言葉の応酬と激しい剣戟の音が響き渡っていた。
絨毯に倒れているアイリスの姿を見つけた美しい銀色の髪が剣先と共に
踊るように光を放ちながら彼女へと続く道を憚る敵を刹那に吹き飛ばしていく。
黒い騎士服を身に着けた一際背の高い男性はアイリスの変わり果てた
姿に走り寄って傍に跪くと震える声で囁いた。
「会いたかった。ずっと君に会いたかった・・。
俺がいない方が君は無事だと・・。
それなのにごめん・・。苦しかっただろう・・!!」
長い睫毛に包まれたアメジスト色の瞳はうっすら涙を浮かべて
苦しそうな色を映したままだった。
彼女の冷たくなった頬にそっと触れると
男性は、開かれたままの目を片手で優しく閉じた。
蒼白の顔で剣戟の真っただ中でアイリスの身体を
強く抱きしめて涙を流していた。
数刻の後。
王宮の部屋の中は、眩い銀色の閃光に包まれた・・。
王城から銀色の巨大な竜が飛び立つ姿を見たのだと
アメルディア王国の城下町に暮らす民の間ではそんな噂が広がったのだった。
忠実な侍女であった彼女はその日の朝は部屋に姿を現さなかった。
「ご用意した貴賓室の方にこちらでご用意した衣装のご用意があります。
簡単なデイドレスに着替えていただければ・・。
身支度などは私達王宮の者がお手伝いしますので。」
私は、その言葉に頷くと王宮から遣わされた侍女に身支度
を手伝ってもらった。
コツリ・・。
長らく履いていなかったヒールの靴の踵を鳴らす。
軟禁状態だった特別室から一歩を踏み出した。
塔の階段の要所にある窓からは明るい光が差し込む。
街の風景は太陽の光に照らされ金色に輝いていた。
西の塔の長い階段を2年ぶりに降りていた。
下で見張っている筈の衛兵の姿が見えなかったことに
少しだけ驚きと違和感を覚えた。
黙ったままで前を歩く侍女に質問をすると、
その侍女は少しだけ口角を上げて笑った。
「今日は王太子殿下と聖女様の結婚式なので
警備はそちらに大幅に割いているようです。
こちらの警備が手薄になってしまっているようですね・・。」
<そんな事あるのかしら・・。フィンは昔から用心深い人だわ。
絶対に外に出るなと昨日もあんなに言っていたのに・・。
警備の配置を怠るなんて可笑しいわね。>
西の塔から少し歩いた先に王城の左翼に通じる通路が見えて来た。
私は久しぶりに見る大きなアメルディア王国の白亜の王宮を見上げた。
「アイリス公女、どうかされましたか??」
侍女の言葉にハッとした私はそそくさと王城に続くドアから中へと入った。
朝早くはあるけれど、それにしても侍女や王宮の護衛騎士などが見張りを怠る
訳はないのに誰ともすれ違うこともなく、指定された部屋の前へと着いた。
白い大きな扉は金色の縁取りをされていて貴賓を持て成すような
豪華な作りの金で出来た取っ手が取り付けられていた。
侍女はゆっくりとそのドアを開けると、奥にある赤いソファへと案内した。
大きな暖炉と、シャンデリアが4つ並ぶ大きな部屋だった。
私は、国を挙げての挙式を行う予定の城の中は静けさに包まれている。
そのことが私の違和感を大きくしていた。
不穏な雰囲気と違和感に私は胸がザワザワしていた。
「何かおかしい・・。
ここから離れた方がいいわね。」
ガタッとソファから立ち上がった時だった。
入ってきた白い扉とは違う別のドアから、先ほど案内してくれた侍女が
ストロベリーブロンドの美しい髪の女性を携えて現れた。
その少女は、美しい琥珀色の瞳を細めて遠目から私を見つめていた。
ゆっくりとシオフィンの瞳の色である目を引く青いドレスを身に纏って
いた。
「アイリス公女殿下、初めまして。
わたしはこの国で聖女と認定され、シオフィン殿下の妃となることが
決まりましたセアラ=パットナムと申します。
どうぞよろしくお願い致します。」
鈴を転がすような軽やかな声とともに
テーブルの前に来ると裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をした。
新聞で見たままの妖精のような小柄で可愛らしい聖女の姿に
私は一瞬だけ見惚れてしまう。
「いえ、こちらこそ・・。
このような軽装で失礼します。
私はもう公女ではありません。
どうぞ、アイリスとお呼びくださいね。
聖女様、本日はシオフィン王子殿下とのご結婚
誠におめでとうございます。どうぞ末永くお幸せに。」
「まぁ、有難うございます。
元公女様に祝福してもらえるなんて嬉しいですわ。
王子ったら、貴方の前で誓いたいのだと頑なで・・。
アイリス様のお気持ちを察したら
針の筵のような物だと私は何度も殿下にお伝えしていたんですよ?
かの国から幾度に渡る催促にも殿下ったら・・。
知らぬ存ぜぬで貴方の居場所を秘匿しておりましたのよ。」
頭を垂れた私に、微笑んだままのセアラは侍女に目配せをすると
ティーセットを用意するように合図を送った。
「はぁ、そうでしたか・・。」
セアラの言葉に違和感を覚えた私は運ばれてきたティーソーサー
に手を伸ばさず
正面に座って温かい紅茶を飲むセアラの表情をジッと見つめていた。
私には何故だか聖女である彼女の言葉に悪意が混じっているように
聞こえていた。私とシオフィンの話を探るように聞いてくる聖女の瞳は
笑っていないように見えた。
<まだ朝も早い時間としても、結婚式の当日だというのに準備もせず・・。
私とお茶など飲んでいて良いのかしら?>
「セアラ様、挙式のご準備は大丈夫なのですか??
式は午前中に執り行われるご予定なのでは・・」
「ええ、もう少しだけ!!
あら・・。せっかくうちの自慢の侍女がいれたお茶なので
美味しい内に頂いて欲しいわ。」
「恐縮ですがお茶は結構です。
朝はいつも果実水を頂いているので水分は取って参りましたの。
お式に参列したらすぐに失礼する予定なので・・。」
嫌な予感を感じていた。
私がお茶を飲まず、ソファから立ち上がろうとすると
セアラは硬い表情になる。
私の背後に立っている侍女をちらりと見た。
「な・・っ!?」
合図を受けてすぐに、部屋を辞そうとした私は勢いよく背後から
強い力で絨毯を敷いた床の上に体を押さえつけられる。
両腕に物凄い力が加わると強い痛みを覚えた私は
眉をしかめたまま立ち上がっていたセアラの方を見た。
後ろに居たはずの侍女が私の腕を掴んで絨毯の上に押し付けている
姿に、面白そうに腕組みしたままで扇をパンと閉じて琥珀色の瞳を眇める。
虫けらでも見るように見下ろすと、
ピンク色の唇は薄く気味の悪い笑みを浮かべていた。
「何を?・・何をするのですか!?」
「知ってる??貴方の祖国はね、
証を持って生まれた貴方のせいで滅びたの。
それなのに・・。
他国の王子に囲われてのうのうと生きているなんて
恥さらしもいい所ね!!
このっ、見た目だけは美しい泥棒猫が!!
貴方達の存在が私を不幸に突き落としたの。
貴方はこの世界から消えなければいけないのよ。
そしたら私は幸せになれるんだから・・。
とっとと消えてよ。亡霊姫・・!!」
聖女とは思えない憎しみの籠った視線と
耳を疑う罵詈雑言に私は大きく目を見張った。
侍女が私の首を強い力で絞め上げた。
「ウッ・・ぐっ・・。はな・・し・・」
両腕にゆっくりと力をかけると
半月のような瞳を細めて楽しそうに笑って見せた。
「私ね、この日を夢見て生きてきたの・・!!最高!!
ねぇ、聞きなさい??
貴方達は生まれてきたこと自体が罪なの!!
さぁ、貴方の死体はちゃんと彼等に見てもらうわね。
毒に苦しんで藻掻いて醜く逝った貴方の顔を見せてあげるの。
心底絶望してくれるかしら??
あはははっ、あはははははっ!!」
首を絞められ、意識が遠のいて行く中楽しそうに笑う
セアラの狂気の言葉が遠くに聞こえていた。
首を絞められて口が開ききった私の咥内にドロリと
した液体が注がれた。
涙目で見上げると、侍女が瓶に入った紫色の液体を
私の口一杯に注ぎ込む。
苦しい・・。
苦くて、体中が痺れていく。
琥珀色の瞳は楽しそうに弱っていく私を覗き込んで
満面の笑みを浮かべた。
「もう、さようならの時間よ。
アメジスト色のアースアイのお姫様。
予言は成就しないのよ。
何故かわかる?私がその芽を必ず潰すから・・。」
「予・・言・・!?」
さっきからセアラの言葉の意味が理解出来ないでいた。
だけど、初めて会ったはずの聖女の心根の醜さと
自分へと向けられた強い憎しみの感情を
死ぬ間際になって嫌というほど思い知っていた。
暗闇に落ちていく意識の中・・。
金色の光を放つアッシュブロンドと、
銀色に輝くシルバーブロンドを持つ幼馴染の二人が姿が
薄くなる意識の中で浮かんだ。
あの招待状は、シオフィンからのじゃなかった。
「フィン・・ごめん・・さい。」
あの部屋から出ないと何度も約束をした。
貴方は嘘偽りなく私を守ろうとしてくれていたのに。
帝国に留学すると言って私の前から姿を消した
もう1人の幼馴染を思い出す。
カイ・・。
貴方に一目でいいから会いたかった。
瞼が重く目を開く力さえ失っていく。
ゴホッ・・。
私は最後に血を吐き出して絨毯に黒い染みを作った。
私の意識はそこで途絶えた。
バンッ!!!
「こちらです!!
この部屋で間違いないです!!
・・アイリス様っ、どこですか!?」
張り詰めた女性の声と共に重い扉がこじ開けられる。
何か激しい音を立てて数人の足音が部屋に雪崩込んでくる音が
地鳴りの音のように響いていた。
悲鳴を上げながらも、叫び続ける聖女セアラに剣先が
向けられた。
隣の続き部屋の扉が開かれて別方向から
駆けつけた足音が聞こえる。
激しい言葉の応酬と激しい剣戟の音が響き渡っていた。
絨毯に倒れているアイリスの姿を見つけた美しい銀色の髪が剣先と共に
踊るように光を放ちながら彼女へと続く道を憚る敵を刹那に吹き飛ばしていく。
黒い騎士服を身に着けた一際背の高い男性はアイリスの変わり果てた
姿に走り寄って傍に跪くと震える声で囁いた。
「会いたかった。ずっと君に会いたかった・・。
俺がいない方が君は無事だと・・。
それなのにごめん・・。苦しかっただろう・・!!」
長い睫毛に包まれたアメジスト色の瞳はうっすら涙を浮かべて
苦しそうな色を映したままだった。
彼女の冷たくなった頬にそっと触れると
男性は、開かれたままの目を片手で優しく閉じた。
蒼白の顔で剣戟の真っただ中でアイリスの身体を
強く抱きしめて涙を流していた。
数刻の後。
王宮の部屋の中は、眩い銀色の閃光に包まれた・・。
王城から銀色の巨大な竜が飛び立つ姿を見たのだと
アメルディア王国の城下町に暮らす民の間ではそんな噂が広がったのだった。
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