バッドエンド予定の亡国公女は幼馴染の騎士様と王子様に困惑する。

館花陽月

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13歳の公女・・①

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白い靄の中を歩いていた。
天上を見上げても、下を見ても雲のような靄がかかった
道なき道を私は歩いていた。

目を覚ました時にはあの呼吸が出来ないような
地獄のような息苦しさは無くなっていた。

「アイリス、こちらにいらっしゃい。」

私の目の前には真っ白なドレスを身に纏った
美しい金色の波打つ長い髪を持つ女神が立っていた。

瞳は様々な色味が刻まれた私やカイエンと同じアースアイを
持ち一度見たら忘れられないくらいの美しさに目を奪われた。

「貴方は??」

「ふふっ・・。
「虹色の瞳を持つ女神」と言えば解る?
歴史で学んできたんじゃないかしら。
私は、この世界の創世に関わる者。
そしてこの世界に干渉出来る存在の内の1人。
貴方が生まれてからずーっと、貴方たちを見守ってきたわ。
アメルディアの王宮で毒を飲まされて死んじゃうまでね・・。」

「私はやっぱり死んだんですね・・。
何故、聖女セアラはあんなに私を憎んでいたんでしょうか?
初めて会った彼女に向けられた憎しみの意味が理解できなくて。」

死ぬ前に、憎しみの籠った琥珀色の瞳で凄まれた時の記憶が
蘇る。

あんなに何かを憎むには理由があるはずだ。

「あら?自分が死んだと知ってショックじゃないの?
「死にたくなかった・・!!」
「生き返らせて欲しい!!お願い女神様!!」
・・とかないのかしら??」

ふわっと軽やかに白いドレスの裾をなびかせて
宙に浮かんだ女神様が私の真ん前に現れた。
柔らかそうなウエーブがかかった足元まで伸びる長い髪を触りながら
呆れたような表情で笑っていた。

「最後に会いたかった人とか。・・いないの??」

「そうですね、今は亡きお父様やお母様・・。
それにレキオスお兄様。
祖国セレンダートの民たちに会いたかったです。」

私は、かつてのセレンダートの美しい湖畔の公国に思いを馳せる。
森林と広い湖が広がる、神話の世界そのままのような美しい国。

「んもう・・。
アイリスは固いわね。全然駄目よ!!
全く色気がないものっ!!
貴方・・。
大事な人を忘れているわよ??
貴方の幼馴染の2人に会いたいでしょう?」

少し怒ったような表情の女神様は呆れたような顔で私を睨みつける。
私は女神の砕けた言葉に虚をつかれたような表情で首を傾げた。

「ああ、そ、そうですね・・。
ですが、祖国を亡くし民や親兄弟に殉ずることが
出来なかった私の人生が漸く終わったようなので・・。
彼等には私のことは忘れてもらって
前を向いて明るく末永く幸せに生きて欲しいですね!!」

懐かしい過去を振り返って目を細めて笑う。
三人で湖で泳いで、森の中でかくれんぼをしていた。
懐かしい故郷での日々に想いを馳せると終わりとばかりに目を閉じた。

「はぁ?ちょっとちょっと!!
勝手に自己完結しないでちょうだい!
簡単に忘れられる関係性じゃないでしょうっ??
あの子が貴方のために何をしたのか解っているのかしら・・。」

キッパリと言い切った私に女神様は驚いたような
表情で私を叱りつけた。

感情的になった女神様にポカンとした表情を浮かべると
女神様はハッと現実に戻ってくるとゴホンと咳払いをした。

「よーし、決めたわ!!
今回は貴方だけに記憶を授けるわ!
どうも守られてばかりいるのは好きじゃないようだから・・。
彼等の記憶は覚醒するまで封印するわね。
次は彼等が過去の記憶を思い出すタイミングはずっと先になるわよ。
今度は、貴方自身が自分の人生を選択するといいわ!!」

「記憶ですか・・??・・次って??
女神様、失礼なのは承知で申し上げますと・・。
全てにおいて仰っている意味がよく解らないんですが!?」

死んだ筈の自分の事を言われているのだろうけど、
意味が解っていない私はアホ面のままで女神様を見上げていた。

女神様は美しい金色の珠と銀色の珠を胸元から
取り出すと手の平に乗せて私に見せた。
何故か懐かしい温かさを持つその光に私は息を飲んだ。

「もう、解らなくていいのよ!!とにかく・・。
貴方は守るべきものを今度こそ自分の手で守ればいいのよ。
次こそは目覚めるのよ。
きっと、貴方にしか出来ない事があるわ
それをあの石頭に分らせてやってね。」

女神様の横に温かく大きなエネルギーを感じて私はその姿を
確認しようと目を細めた。
私の視界には美しい七色の光が広がっていた。

次の瞬間、女神様の持つ珠から真っ白な閃光が放たれた。

女神様が言っていた「あの石頭」って誰のことかしら??
その質問が頭に浮かんだまま
私の意識は再び意識の底へと沈んで行った・・。




次に目を開くと
私は見覚えのある光景が広がっていた。

幼少期に使っていたセレンダートの王城にある自室の
白いサテンのシーツに、円柱で囲まれた天蓋建てのベッド。
犬や猫のぬいぐるみが並べられてあった。

「嘘ぉっ!?
・・ここは昔の私のお部屋じゃないの!?」

懐かしい感覚にベッドから飛び起きた。

「あら・・。お目覚めになりましたか??
もう、姫様ったら起き掛けですのに・・。
相変わらずお言葉遣いが乱暴で私は朝から残念な気分です。」

幼い頃からアメルィアに行くまで傍で仕えてくれていた
年配の侍女エリンが少し疲れたような緑色の瞳を瞬かせる

私の大きな声に一瞬だけ驚いて溜息をついた。

「お庭の方に、姫様に会いに他国から
お客さま方がいらっしゃっておりますよ。
姫様の13歳のお誕生を祝うためにと遠路遥々お越しになって・・。」

「13歳の誕生日・・!?7年前と言うことね。」

私は、ベッドから急いで降り立つと肌触りの良い小さな靴を履いて
小さくなった身体に多少違和感を抱きながらも
王城にある二階の端にあった日当たりの良い部屋の窓辺へと走り出した。

――バンッ!!――

大きな出窓を開けると懐かしい景色が広がっていた。
白い寝間着姿で顔を出すと、柔らかい陽射しと花の匂いが広がる。
花畑が立ち並ぶ美しい庭園で楽しそうに笑う少年たちの声が聞こえてくる。

「あれは、レキオス・・お兄様!?」

私の視線の先には、私と同じプラチナブロンドの髪と
父と同じエメラルドの瞳を持つ懐かしい兄の姿が見えた。

覚えていたよりも少し背の低いシオフィンと一緒に
楽しそうに会話をしながら木刀を握って軽く打ち合いをしている。

さっきのエリンの言葉から私が13歳だとすると・・。
お兄様は15歳になる年だ!!

部屋をそのまま飛び出そうとすると、首根っこをエリンに掴まれた。
説教を受けながらも、比較的動きやすいドレスに着替えさせられた。

長いプラチナブロンドの髪を2つに編み込んで、
薄いブルーのドレスに身を包むと広い庭園へと向かって駆けだした。

「これでいいでしょう!?私、お庭に行ってくるわね!!」

「もう!!お嬢様ったら・・。
走ってはいけません!!転んでもしりませんからね!!」

エリンの大きな怒鳴り声に怯まずに、廊下を走って兄の元へと
小さな体で走り出した。

エントランスの階段を降りようとした時に、目の前から柔らかい
声が聞こえてきた。

「まぁ、アイリス!!
廊下は走るものではないわ。お転婆もほどほどにしないとね?
貴方は13歳になったのよ。
王家として縁談を決めて・・。この年で嫁ぐ者だっているのよ。」

私の髪色と同じ色を持つお母様が走っていた私を見つけて
呆れたように、肩を落としてから少しだけ笑って言った。

「・・お母様!?お元気そうで・・。生きていらっしゃる!?」

私は14歳でアメルディア王家に預けられたので記憶の母は
その年までしか記憶していない。
ほとんど、最後に会った母と変わらない様子に
私は大きく瞳を揺らして涙を浮かべながら母を見上げた。

「まぁ、どうして泣いているの??怖い夢でも見たのですか??」

失礼な言葉と、相反して涙を流す娘のチグハグな様子に
困ったように眉根を寄せる。

隣に並んで歩いていた父に目配せをした。
父も普段は厳しいが家族の前では気さくな笑顔を見せる。

「お父様もお母様も元気で健勝だぞ?
可愛そうに・・・。悪夢を見たようだな。
王宮の廊下は王族や貴族達が歩くのだ。
元気なのはいいが、怪我でもしたりさせたら大事だ。
落ち着いて歩きなさい。」

立派な髭を触りながら私の頭をポンと大きな手で撫でた。

母の肩ぐらいある今の私の身長よりも大きな父と
私が亡くなる前なら、ほぼ変わらない身長に成長していた。

その姿を見せられずに無念にも祖国が滅びてしまったことを
思い出すと、私は父と母に泣きながら抱き着いた。

「お父様、お母様・・。
私、ずっとお二人に会いたかったです・・。」

「アイリス??何があったんだ、大丈夫か??」

「・・どうしたの??そんなに怖かったの??」

お父様は困惑した表情で私を見下ろしていた。
お母様は心配そうに私の頭を優しく撫でてくれる。

廊下で父と母に両手を広げて泣きついている公女の
様子に、みんな何事かと振り返っていた。

「おい、アイリス!!どうした・・!?
また、走ってすっ転んだのか??」

私の背中の方から、聞き覚えのある声がした。

覚えている声よりも、まだ高さが残るその声音に
驚いて私は振り向いた。

木刀を右肩に抱えて、白いシャツに茶色のベストとズボンに
黒いブーツ姿の男の子が立っていた。

シルバーブロンドの髪は前髪だけサラッと耳の長さ近くまで伸びていた。
まだ後ろ髪は長さを持たずにさっぱりと後ろで切り揃えられていた。

カイは母親のドレスにしがみ付いたまま目を真っ赤にした私を見ると
一瞬困ったような表情を浮かべて近づいてきた。

「カイエン??・・カイなのね!!」

「何だよ?元気そうじゃないか!!
春以来だな。お前に会いに来てやったぞ・・。
13歳の誕生日おめでとう、アイリス。」

青みが強いアースアイを好奇心旺盛さを隠さずに輝いていた。
まだ幼さが残るカイの整った顔を見て泣き止んだ私は今度はカイに抱き着いた。

「カイ・・。来てくれて嬉しい!!会いたかったよ!!」

「・・お、おう!!
でもお前さ、ちょっと重くなってないか??」

困ったように距離を少し取って私の身体をどかそうとするカイの困惑ぶりに
私は頬を膨らましたままで睨みつけた。

「もうっ!!カイは相変わらず顔に似合わずデリカシーがないんだから!!
その乱雑な言葉遣いを直さないと婚姻に差し障りがあると思うよ??」

「はぁ・・。
その言葉、そっくりそのままお返しするけどな!!」

カイは私の言葉に呆れたように
ポンと私の頭に少しだけ大きくなった手を置いた。

遠くなってしまった彼との距離を思い出して嬉しくなった。
何気ない会話の懐かしさに私の想いは溢れて大きな声で笑い合った。
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