バッドエンド予定の亡国公女は幼馴染の騎士様と王子様に困惑する。

館花陽月

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13歳の公女・・②

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庭園には赤や白を基調とした花々が植えられ、一面に広がる
緑色の芝生との美しい色のコントラストが華やかさを与えていた。
庭園には噴水と、石像が所々に置かれてそこに花壇が置かれている。
森へと続いて行く道は青色と白色のモザイクレンガで組まれ、
まるでそれ自体が芸術的な絵を描いているようだった。

「相変わらず、この庭は美しいわ・・。」

私はティーカップを持ちながら、兄とシオフィンとカイエンの剣技を
見守りつつ、手元にあったしっとりとしたマドレーヌを頬張る。
その一口で私はとても幸せな気分になって頬を緩めていた。

栗色の髪と、蒼い瞳を持つ落ち着いた男性が幸せそうに菓子を頬張る私の元へとゆっくりと近づいてきた。

「アイリス様、この度は13歳のお誕生日おめでとうございます。
我が愚息が先ほども気安い言葉をかけてしまっておりました・・。いつもながら、広いお心で受け止めて頂いて有難うございます。」

「まぁ、お兄様ったら・・。アイリスとカイエンの仲でしょう??
5歳の誕生日にアイリスの命を救ってくれたのは彼よ。幼馴染でもある彼には気安い言葉で関わってあげて欲しいのだけど?」

庭園に組まれた白亜のテーブルセットの私の横に座っていた母は珍しく声を上げて兄に意見をした。

この国に嫁いできた母はアメルディア王国の重鎮であり、王室騎士団を束ね代々騎士家系の系譜を持つエルダート侯爵家の出身だった。

私がカイと愛称で呼ぶ、カイエン=ステファン=エルダートはその公爵家の嫡男である母の兄の嫡男だった。

「おじ様・・!!
カイエンが丁寧な敬語を使ってしまったら大変なことになるの。
わたくし噴き出して、お腹を抱えて大声で笑ってしまうもの公務の害にしかならなそうです!!
シオフィンと、カイエンは私の気の許せる大切な存在です。
カイのあの乱雑で、偉そうで少々上から目線の態度は、親として気になる部分は多いと思います。
ですが、私と彼の仲に免じて。どうか、見逃して頂きたいです!!」

「・・・乱雑で偉そうだって。確かにね。」

何時の間に戻って来たのか金色の髪をかき上げる仕草を見せていた
シオフィンが大きなスカイブルーの瞳を細めて口元に手を当てクスクスと笑う。

レキオスお兄様とカイも熱そうにベストを脱いで白いシャツ姿で
手には冷たく冷やされた水を持っていた。

「は??悪かったな・・。
俺は王子様とは違って粗野に育っているんだよ。
でも、上から目線かなぁ??
俺はいつも・・。平行線のつもりだけどな。」

カイの言葉に冷たい水を飲んでいたシオフィンが水を
噴き出しそうになって激しく咽ていた・・。

母はニコニコと可愛らしい笑顔を振りまく横で
私とおじ様は苦笑いを浮かべていた。

「あはははっ!!
平行線てどんな目線だよ??
相変わらずだなぁ、カイは・・。」

懐かしいやり取りに私は気が付くと頬が緩んでいた。レキオスお兄様は、いつも私達と遊んでくれて和ませてくれるムードメーカーだった。

おっとりしているように見えながら笑顔の裏で頭が相当に切れる大国の王子のシオフィンと、その王子を護衛する騎士家系で育った口は悪いけど剣術や腕っぷしは強く面倒見の良いカイエン・・。

私達はこの湖の多く森が生い茂った美しいセレンダートの自然の中で沢山遊んだ。
着替えて来た3人を待って、父の「乾杯」の合図で
誕生日を祝う、ささやかなガーデンパーティは始まった。

この頃の世界情勢について頭を巡らせていた。
隣国のロンバビルス帝国との使節団交流は行われていたが、自国内の内政混乱が私が物心付いた頃から何度も起きていたと聞いていた。

この年の1年前・・。
私が12歳の頃に、ロンバビルス帝国の竜騎士を束ねていた第一王子が亡くなった。
その知らせは全世界を騒がせた。

「これで2人か・・。
この10年間で2人の王子が不慮の事故で亡くなったのだ。
12年前に起こった、ロンバビルス正教会の大司祭と数名の司祭、
帝国の有力貴族の4名が亡くなった血命のクリスマスイヴから、
一体何人の人間がこの世から消えたんだ。」

父は届けられた手紙を読みながら青ざめた表情でため息を吐いていた。

「あの・・。父上、今日はアイリスにあの話を・・。」

急に緊張した様子でゴホンと咳払いをしたシオフィンの声でハッと我に返る。
隣に座ってワインを楽しんでいた彼の父であるアメルディア国王は小さく頷くと、
姿勢を正してから私をチラリと見た。

<これ・・。
この流れは私とフィンの婚姻の打診の流れだわ。>

この後にアメルディア国王は父に私とフィンの婚姻の提案をする。
不穏な動きを見せているロンバルディア帝国を挟んでいる我が国と、アメルディア王国の互いの国の絆を強くする為の婚姻にする為に・・。

私は過去を思い出すとサーッと青ざめた。

「アイリス公女を我が息子シオフィンの妃として・・。
婚姻を申し入れたいと思うのだ。どうだろうか??
ロンバルディア帝国を挟んだ我らの国同士の絆を、
更に強固に結びたいと思っての婚姻なのだが・・。」

「出たぁ・・。そしてこの申し出をお父様はお断りできないわよね。」

私はボソッと呟いた。

私はアメルディア国王に無礼ながらも口を封じてしまおうかと思ったが自分の誕生日の席でそのような無礼には及ぶことは出来ずに、ただ参加者の表情を淡々と見つめていた。

以前の私は、意味が解らず首を傾げていただけだった。
パーティ後に庭園の薔薇園の前に呼び出された私は、フィンから手を取られて甲に口づけられて

「僕のお姫様初めて出会った日からずっと大好きだよ。僕と結婚しようよ。一生僕が君を守るから。」
と言われてあの色気を含んだスカイブルーの瞳に見つめられた。私は真っ赤になりながら涙目になって固まったこと。
その後、頬にもキスをされ棒のように動かなくなってしまった。
そんなこっ恥ずかしいことを思い出した。

<すごい計算されたプロポーズだったのね。
フィンて当時からマセてたのね・・。
何処であんな気障な台詞学んだのかしらね?>

嬉しそうに父を見るシオフィンと、
その斜めの席に座っていたカイは一瞬眉間に皺を寄せて下を向いた。

<この時ってそうだったんだ。カイは不快そうな顔をしてたんだ・・。>

私は初めてそれぞれのリアクションを客観的に見ていた。少しだけ思案すると、自分の手元に置かれていたカシスジュースを持ち上げてゴクゴクと飲みほした。

父はアメルディア国王と話をしている最中だったが
今は時と場合を選んでいる場合ではない。

破断になる予定の婚姻話を、私の目の前で結ばせる訳には行かないのだから!!

私は、右手をそっと挙げる。

「お父様!!私の婚姻を決める前に・・。
この場で1つだけ発言しても宜しいでしょうか??」

賑やかなお喋りが繰り広げられていたその場がシーンと静まり返った。
私が人前で意見を言うことがなかったから仕方がない。

当時の私は13歳の子供だったのだから・・。

「アイリス・・。
お前が意見を言うだなんて珍しいな。
何か考えがあるのなら言ってみろ??」

「お父様、どうも有難うございます。
あの、アメルディア国王やシオフィン王子から
誠に光栄なお話しを頂きましてどうも有難うございました・・。ですが・。当事者である私の意見としては、今回の婚姻話お断りさせて頂きたく存じます。」

シオフィンは不穏な私の動きに食い入るようにこちらを見ている。
カイエンは何が起きているのか解っていないのか・・。口を大きく開けたまま私を見ていた。

その場にいた大人たちは一気に静まり返っていた。
「アイリス、無礼だぞ。
・・・その発言の意図は??どういう意味なのだ??」

取り乱したように席を立った父は私に険しい表情で問いかけた。

「ああ、公女殿下が我が息子が貴方の夫として不足だと・・。そう申しているのであれば・・。」

隣で話し込んでいた筈のアメルディア国王も表情を変えて不快そうに
眉を寄せていた。

「そうではないのです!!
決して・・。シオフィン殿下が私に不足などという
そんな理由ではないのです。フィンは素晴らしい方です。今回の婚姻話はとても光栄だと。先ほど申した通りなのです。
ですが、お父様・・。
私にはもう1つ婚姻のお申し出を・・。
アメルディア王国よりも先に受けているはずです。」

努めて落ち着いた声で丁寧に言葉を紡いだ。

「お前・・。何故それを??」

私は椅子に座ったまま困惑した表情を浮かべる父を
アメジスト色の瞳を大きく見開いて父を真剣に見つめていた。

「わたくしとの婚姻を結びたいとの申し出が・・。
ロンバビルス帝国から先に、この国に届いていらっしゃいますよね??」

私の言葉にその場にいた全員が表情を変えた。

「嘘だ・・。そんな・・君に帝国が??・・まさか!?」

シオフィンは私の言葉に驚いて席を立ちあがった。

カイエンは茫然とした表情で言葉を失って宙を見ていた。隣に並ぶエルダート公爵が視線を彷徨わせて母を見る。

私の横に座る母の顔も見た事がないくらい曇っていた。

兄であるレキオスもその事実を知らなかった様子で
父の表情を確認するように息を殺すように視線を向けていた。
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