バッドエンド予定の亡国公女は幼馴染の騎士様と王子様に困惑する。

館花陽月

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婚約の申し出はお断りします。

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私の誕生日祝いのパーティの席は静かな混乱が起きていた。
給仕の手を動かしながら侍女達も不安そうな表情で話に聞き耳を立てている様子だった。

「じ、事実なのか??
ロンバビルスから・・。アイリス公女との婚姻の申し出が
私の申し出よりも先に届いているという話は・・。」

アメルディア国王は慌てた様子で声を荒らげた。
「ああ、事実だ・・。」
父はため息交じりに短く返事をすると
肩を落としたまま真剣な表情で私を見た。

「そうか・・。
お前が知っているなら話は早いのかもしれんな。
帝国は、内乱のために粛清や貴族や司祭だけに留まらず王族にまで被害が出ている状況だ。
あちらからの申し出を受けるとすれば、まだ幼いお前の身を危険に晒してしまう。
我が国はお前を売り渡すような事は出来ないのだ。
私は親としてもその決断が未だに出来ぬままなのだよ・・。
それならいっそ、アメルディアのシオフィン殿下の申し出を受けた方が幸せに暮らせるのではないか・・と。
お前の親としては私は、その選択肢を取りたいと思ってしまう。」

父親としての愛情や私を慮る気持ちは痛いほど理解していた。
私は前の世で仕えてくれていた侍女のシェリルから、一度だけ聞いたことがあった。
何故、ロンバビルス帝国は祖国に攻め入ったのか。

父が再三の帝国からの婚姻の申し出にのらりくらりと返事をせず
急にアメルディアの王子との婚姻を強引に決めると、私を隠すようにアメルディアに強引に送ってしまったこと。
その申し出は、私が生まれてすぐに申し込まれていて13年も待った挙句の裏切りのような暴挙に、帝国は我が国に軽んじられたと激怒したのだと。

祖国が亡国となり、私自身の身分も宙ぶらりんになった挙句、フィンとの婚約は一方的に破棄されて妾に落とされそうになるなんて・・。

この頃は誰も知らない。
自分の祖国と、自分の身を守れるのは私しかいない・・。
私は今こそ自分の言葉で伝えると決め!!

「お父様のお考えは分かりました。
しかし、わたくしはその考えには賛成しかねます!!」

鋭く睨むような父の視線に負けずに、私は息を軽く吐いて言葉を続ける。

「私の平穏な婚姻と申しますが・・。
帝国からの婚姻の申し出をお断りする方が・・。
分断のリスクは高くなると思います。
わたくしが望むのは1つです。
それは祖国の平和です・・。
同時に近隣諸国の平和もまた望んでおります。
もしも、先の申し出を断ってアメルディアに嫁いでしまったら帝国の怒りは我が国だけに留まるのでしょうか??答えは否でしょう。」

「そ、それはそうかもしれん・・。
だが・・。
お前が無事でいる保証などないのだぞ?」

「私も許可できませんわ!!
ロンバビルス帝国に娘を一人で嫁がせるなんて!!
耐えられません。アイリスも馬鹿な考えは捨てて頂戴・・!!
あの国は危険です。
今までも私達がどれ程の煮え湯を飲まされたか・・。1枚岩ではないのです。
王と現王妃はそれぞれの意思持ち、国は2分されています。幼い貴方など赤子同然なのですよ!?」

母が涙目で私の肩を掴むと説得するように窘める。
兄も俯き加減で思案しているようだった。

「お母様・・。
もし、祖国が戦火に晒されるような事になれば、
私も殉じるつもりですが、それでも宜しいのですか??お二人のお気持ちは嬉しいです。
ただし結果、私は民が苦しむ最悪の結末が訪れる
可能性だってあるのですよ??
私はセレンダートの姫として、ロンバビルス帝国に嫁ぐことを望みます。」

キッパリと言い切った私に、辺りは静まり返っていた。13歳の子供の熱のこもった演説に大人たちは皆驚いたような表情を浮かべて茫然としている。

「で、・・それに伴ってですが。
レキオスお兄様!!」

「は、はいっ!!」

急に話を振られたお兄様は慌てて椅子から落ちそうになった。
表情は固いまま、ゴクリと喉を鳴らしながら私を見つめていた。

「貴方はアメルディア王国の第一王女のソフィア様
を我が国の公妃に迎え、両国の絆をより固く結んでください。
セレンダートとアメルディアを繋ぐ為の重要な婚姻となるでしょう。それで宜しいですね??」

「いや・・。俺は結婚とかまださぁ・・。
政務の勉強や外交も学ばないといけないしね。
それに、ソフィア王女はまだ9歳だぞ??
流石にさぁ・・。」

「えーと・・。お兄様が狙・・、失礼いたしました。想いを寄せられているジュリア様は、オルディス伯爵と半年後に結婚のご予定です。
次に狙・・想いを寄せるシルビア様も、他国の貴族と来月にはご婚約を結ばれます。
もしも、この国自体が存続出来ないような惨事が起きた場合ですが、美しい妻も持たず、若くしてお一人で孤独死ですが。それでも宜しいのですか??」

畳みかけるような私の言葉に、兄は顔を赤くして
苦悶の表情を浮かべていた。
「嘘だろ?ジュリアは俺が一番だって言ってたのに!!」
「シルビアは貴方のために薬指は空けておきますって・・」などと、ブツブツひとり言がうるさい。

私は過去に、侍女のシェリルから残念そうな表情で
兄の恋愛遍歴と結末を教えてもらっていたのだった。

父と母は呆れたような表情で目を見合わせていた。
レキオス兄様は、祖国が滅ぼされるまで妃を一人に決められず一人身のまま亡くなっていたのだった。

「しかし、今のはアイリスの希望であって
アメルディア王家としては、まだ幼いソフィア王女を我が国の妃に寄越すなど考えも及ばなかった事だろう・・。」

困り果てた表情で兄が大きな声を上げると再びその場はシンと静まり返った。

「あははははっ・・。まさかこんな展開になるとはね。」

緊張感を破った笑い声は、シオフィンの物だった。
何が楽しいのか、蒼い瞳は好奇心を映して私を見つめていた。

「ど、どうした??何か不味い物でも食したのか・・??」

不安気に傍に座っていたカイエンが、シオフィンを覗き込むと首を横に振って口角を上げたままでゆっくりと椅子から立ち上がった。

「・・いいよ。
うちのソフィアを、両国の架け橋としてセレンダートの公妃として送ろう。
我が国としては、堅固な絆を結びたい一心の
婚姻の申し出でしたからね・・。
それでいいですよね、父上???」

未だに困惑した表情のアメルディア国王に向かって
フィンは落ち着いた表情で問う。

「お前がそれでいいのなら・・。
我が娘のソフィアをレオキス公子の妃として、
貴国にお預けすることはやぶさかではないぞ。
それよりも、セレンダート国王はその決定でいいのか??」

「アイリスが・・それを望むのなら。」

父はその言葉に項垂れたまま苦し気に眉を寄せていた。

兄も何故か指を折って何かを数えながら・・。
ブツブツとひとり言を言っていた。

ふと視線を感じて振り向くと、
カイエンの瞳は何か言いたそうな表情で私を見ていた。

「・・駄目よ!!絶対に駄目です。
あの子のように・・惨たらしく殺されてしまうのですよ!?あの国だけには渡さない・・。」

母は困惑した表情で私の肩を掴んで立ち上がった瞬間に
グラッと態勢を崩した。

次の瞬間、ガタッと椅子が倒れ青ざめた母が芝生に倒れ込んだ。母の腰までの長いプラチナブロンドの髪が芝生に広がっていた。

「お、お母様・・!?」

「きゃあぁぁあぁぁ・・!!公妃殿下っ・・!!」

騎士や侍女達が駆けつけると宮廷医の元へと急ぎ母を運んで行った。

私の誕生日の宴はそこでお開きとなったのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

母は宮廷医から薬を処方されて大事を取って休んでいた。
その後、国王や貴族の重鎮たちは議会室へと入り、今後の対応について真剣に相談を始めた様子だった。

その頃の私は、何故か過去シオフィンに呼び出された薔薇の庭園に再び呼び出されて向かい合っていた。

「驚いたよ・・。君があんなに破滅的な選択をするなんて」

「破滅的??建設的な選択だと思っておりましたけど・・。フィンの申し出はとても嬉しかったです。
私は祖国と近隣諸国に波風を立てない選択をしたいと思っただけですから。」

夕暮れの赤い光がシオフィンの金を鮮やかに照らしていた。

蒼い瞳は少しだけ翳りを見せていた。

「アイリス・・。
君は女神のような容姿だけでなく、素晴らしい頭脳の持ち主だったなんてね。益々惚れちゃったよ。」

「そんなこと言わないで・・。
貴方には、アメルディアにとって確かな利益を齎してくれる人が現れると思う。
その相手が私ではなかっただけよ。」

「今日、この場に入れて心底思ったよ・・。
帝国に君が嫁ぐならさ、僕があの国ロンバビルスごとこの手に入れてみせるよ。」

フィンの言葉に私は弾かれるように顔を上げた。
真剣な表情で告げた言葉の意味が一瞬理解出来なかった。

眉を顰め、苦しそうに唇を噛みしめるフィンは両腕を私へと伸ばした。
気が付いた時には、甘いシトラスの香りを身に纏ったフィンの腕の中に私はいた。

「フィン??」

私の問いかけにより抱きしめた腕を強くした。
身動きが取れない私は混乱の中にいた。

「渡さないから・・。
アイリスはあの国にも、誰にも渡さない。
僕から君を奪うものを・・。僕は容赦しない。」

前の世では無理やり口づけられた事もあって何故か免疫がある私は、悲しそうなフィンを突き飛ばして逃げる事も出来た。

だけど、泣いているように震えるフィンの腕の中でただそのまま彼に抱きしめられたままになっていた。

彼の背中に手を廻す事は出来ず・・。
私の腕は肯定出来ないまま、宙に浮いて止まった。
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