ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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飛び出した檻。

もう1人の天才⑧

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帰りの車の中は不思議と、どちらともなく話を切り出す事はなかった。

私は窓の外に輝くネオンの光をぼーっと見つめていた。

「疲れたか?そうだ、来週提出の論文は大丈夫?」

「今朝、書き上げて教授にメールしておきました。後はチェックを待つだけです。」

「もう出来あがったようなものだな。
流石だな・・。仕事もちゃんとしながら、良く頑張ったな。」

運転席の慧がほっとした表情で笑った。

その嬉しそうな彼の綺麗な横顔に、私はドキリと胸が高鳴る。

「ひとつ聞いていいか。今までどうして藤堂との婚約関係を解消しなかったんだ?」

「えっ・・。どうしてそんな事聞くんですか?」

「君は、あいつが好きではないと言うし、8年も会わずに、実家に頼らず一人で逞しく東京で生きてきた。
そんな君が、どうして許嫁関係を解消しようとしなかったのか不思議なんだ。」

私は、一瞬過去の記憶が過って胸が傷む。

深い溜め息をついて、運転席の慧を見上げた。

「許嫁を解消するのは、あの海君や、うちの両親と戦わないといけなかった。
その労力ったら半端なものじゃないんです。
今こうして、家から離れて暮らせるだけでも苦労して来たんです。
それに、今まで心惹かれる相手との出逢いも残念ながら無かったわ。」

「そうか。俺は君が今まで、心惹かれる相手との出逢いが無かった事に感謝しなきゃな。」

ふっと口角を上げて、前を向いた慧に私は動揺していた。

楽しく過ぎた時間が長く重なれば重なるほど、慧と離れる事が難しくなる・・。

誰かを信じるのも、その人がいなくなる辛さを知っていれば容易に出来なかった。

そうして、いつも私は傷つくのを恐れて誰かを好きになれなかった。

「あの・・!!二条先生、お気持は嬉しいんです。
だけど、私は貴方とは付き合えない!!
無理なんです。
今日はとても楽しかったです。
一緒に過ごしてみて思ったの、貴方には私なんかより素敵で、お似合いの良い女性との出逢いがあると思うわ・・。
だからもう、こうやって二人だけで会うのは止めにしたいんです。」

   < キキイ・・。>

車が私のマンションの前に停まる。

車内には、張り詰めた緊張感が漂う。

慧は、静かにパーキングにギアを合わせて私を見つめた。

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