ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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飛び出した檻。

もう1人の天才。⑨

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停まった車の中に嫌な沈黙が流れた。

物凄く不安になった私は、膝の上に置いてあった鞄を握りしめて退出しようとした。

「二条先生、今日は本当に有難うございました。
こんな素敵な誕生日は初めてです。
沢山のプレゼントよりも、あのピアノとおめでとうって言葉・・。本当に嬉しかったです。」

私は助手席のレバーに手をかけた。
その瞬間だった。

「・・待てよ、美桜。駄目だ!逃がさない。」

急にカチャリと鍵がロックされて、ガシッと腕を掴まれる。

目の前の出来事に焦りを感じて、慧を見ると真剣な表情で私を見下ろしていた。

大きな瞳が激しく揺れている。

「言ったよね。何があっても諦める気はないと・・。」

「あの・・。二条先生!?
お願いです、手を離して下さい。困ります!」

私は、胸がドキドキ高鳴り煩い鼓動と掴まれた手の熱さに混乱していた。

「不安な気持ちは理解出来る・・。
どんな化け物とでも、俺は戦う。
君がそれで手に入るなら、俺はどんな相手だって恐れない。
だから君はもう、誰かを無理に遠ざけたり、1人で諦めたり・・・。怖がらなくていいんだ!!」

私は、驚愕の表情で慧を見る。

「なんで・・?私は別に・・。
1人でも大丈夫です!!何も怖くなんかないわ・・。」

ポロリと零れた涙を見た慧は、ピクリと頬を動かしてシートベルトを外した。

そのまま、助手席に身を乗り大きな手で私の肩を掴んだ。

そのまま、覆いかぶさるようにがばっと大きな腕で私を抱きしめた・・。

「ちょっと、何するの!?止めてください!お願い・・離して!!」

大きな身体に抱きしめられて、男らしい香水の香りがして鼓動が高まる。

涙を流したまま、慧の肩を掴んで離そうとするのにビクともしなかった。

「大丈夫だ。君が不安に思う物は全部引き受ける。
・・だから、もう自分の気持ちから逃げるな。」

抱きしめられたまま、私は目を大きく見開いた。

「離して・・。もう、私には関わらないで・・。私は1人で生きていくの。放っておいてくださ・・」

「俺がそれは嫌なんだ。我儘なんでね・・。
好きになったら一途だと言っただろ?」

少しだけ離れた身体に、少し安心した私は慧を見上げた。

微笑んだ慧に、不思議と懐かしい安心感を感じる。

優しい色の瞳を見つめていると、クスッと笑う慧が一気に距離を詰めて私の眼前で笑んだ。

「好きだよ、美桜。他の誰よりも、君だけを好きだ。軽い気持ちなんかじゃない・・。だから、俺を選んで。」

上がりきった心拍数と、美しい顔が目と鼻の先に現れた私は、焦って離れようと腰を浮かせた。

その動きさえも先回りされて、シートに押し付けられて唇を奪われてしまった。                
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