ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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飛び出した檻。

もう1人の天才。⑩

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シートに押し付けられたまま、頭を掴まれて固定された状態の私は反撃しようがなかった。


心臓がドキドキして、酸素さえも入ってこない口づけに身体が震えた。

「二条・・先生っ・。お願・・っ。止めて!!」

慧は、切なそうに私を見つめていた。

柔らかい舌のようなものが侵入して、初めての熱い感触にゾクッと身体が震えた。

私は驚愕の表情を浮かべて目で抗議する。

「このまま、全部奪ってもいい?我慢の限界なんだけど・・。」

「絶対ダメで・・す。何を言ってるかわからな・・いっ。」

車の中に響き渡る、唇を吸い上げる音や艶のある声、荒い呼吸の音。

全てがどこか、客観的に耳に入って来て自分が何をされているのか分からない。

「お願い・・。止めて。なんだ・・か体が可笑しいの・・。」

「そう・・。どう可笑しいの?」

一度唇を離して、私の様子を上から眺めて挑戦的な目線を向けた慧にグッタリとした私は潤んだ瞳で見上げる。

「熱い・・の。体が熱くて・・変な感じ。
お願い、もう勘弁して下さい。今日は・・もう・・。」

切ない吐息を吐いて上目遣いで慧を見上げた私は、涙目で荒く息を吐いた。

慧は、その言葉でハッとしたような表情で深くため息をつくと、私の肩を掴んで首筋に唇を当てて強く吸った。

ピリッとした熱い痛みが走り、同時に指の辺りに一瞬冷たい感触が当たる。

「痛っ・・。何するんですか?」

「ただのマーキング。キツイけど今夜はこれで我慢する・・。」

「何ですかマーキングって!?」

助手席のカギをカチャリと開け、ドアを開いた慧は苦い笑みを浮かべる。

「今なら、逃がしてあげる。でも、次は止まらないと思うから。」

「あの・・。だから、私貴方とは・・もうこんな風に会わないですって・・んんっ!!」

険しい顔で私の唇をキスで塞いだ慧に、何が起こったのか分からない私はパチクリと目を見開いた。

理解した瞬間に耳まで赤くなって慧をキツく睨んだ。

「俺は藤堂を許嫁の座から引きずり下ろす。
君は何の心配もしないで、俺に守られればいいよ。」

そう言うと、私の腰を掴みゆっくりと舗道に降ろして微笑んだ。

何故知っているの?どうしてこの人は・・・。

震える体を自分でぎゅっと抱きしめて立ち尽くす。

「また病院で。おやすみ美桜・・。」

バタンとドアが閉められ、車は数秒で見えなくなる。

「どうして・・。なんでなの・・。
あの人は何故私を理解してるような事を・・言うの・・。」

私は動けないまま茫然と去っていった方向を見つめていた。
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