ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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飛び出した檻。

もう1人の天才⑪

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「ああぁああっ!!なんなの。私、あんな強引な俺様タイプの男に・・、こーんなに!弱かったっけ!?」

叩いたテーブルの天板が浮き上がり激しい音を立て、ポテトチップスの袋が一瞬宙を舞った。

「もう、人ん家に来て早々、ビールを飲んで叫ぶ女もあんたくらいよね・・。」

呆れた顔で、ビールを片手につまみを食べている理央が笑っていた。

「それよりさ、凄い男だね・・。なんか、映画の世界みたい。プリティウーマンみたいな?」

「あのブランドのワンピース、10万円は下らないと思う。明日から頑張って節約しなきゃ!!」

「返さなくていいって言われたんでしょ?誕生日プレゼントなんだろうしさ。
気持ちごと、受け取っておけばいいんじゃない?」

あはははと楽しそうに笑っている理央は、なだめるように明るく励ましてくれる。

私は、お通夜のように真っ青な顔で理央を見つめる。

「え、何よ?どうしたの!?・・・他にも何かあった?」

私は、自分のバッグからポーチを取り出してそこのポケットからある物を抜き出した。

コロンと、テーブルの上に転がり虹色の光を放つ石が台座に嵌めてある銀色のリングが転がった。

慌てて理央がリングを掴んで、目の前に持って来て確認する。

「ちょっと・・・これダイヤじゃない?どうしたのこれっ!!」

甲高い声が部屋中に響いた。

「指に嵌ってたの。・・降りてから気づいた。もう何て男なのあいつー!!」

車から降りた後、左手の薬指に輝く物が目に入った私は驚いて二条慧にすぐに電話をかけた。

「ああ、それ俺の覚悟の証だから。」と言われた。

「何の覚悟なわけ?!明日絶対、病院で会ったら即返すわ。もー・・。何で私、あの人にこんなに振り回されてるんだろう・・。
こんな事今まで無かったのに・・。」

理央は、空けたビールをテーブルに置いた。

「あんたが意識的に男を遠ざけて来たからでしょう?鉄壁の防壁も二条慧の前ではただの板みたいなもんね。でもね、私はいい傾向だと思うよ?」

「何でよ・・。許嫁もいるし、問題は山積みなんだよ!?二条慧なんて苦手なタイプだし・・。」

「そうかなー。あんたが好きでもない男に二回もキスされるなんて考えられないけど?
本当に嫌ならそんなに近寄らせない筈でしょう?
只者ではなく、強者である事は確かだと思うけどねー。」

「嫌いではないわよ・・。俺様だけど、優しいとこあるし。・・尊敬する部分はたくさんあるわ。」

理央の言葉はもっともで、正論だった。

「ほらね・・。焦らなくてもその内に答えは出ると思うよ。ただでさえ美桜は昔から恋愛系は鈍感だしね・・。」

「ど、鈍感じゃないわよ。そんな次元で生きてこなかっただけだよ・・。」

私には恋愛とかそんな余裕もなかった。

決められた強い力に抗うだけで、精一杯で・・・。

戻される事を拒み続けて8年。

だけど、いつかは無理やり連れ戻されるかもしれないそんな不安はいつもある。

私は、ぐーっとビールを飲み干した。

その日は久々に酔っぱらってしまったのだった。        
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