二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

文字の大きさ
66 / 94
異世界。

予期せぬ旅立ち。

しおりを挟む

―シェンブルグ王国・王都「ミストラル」-

「エミリアン・・。エミリアンはいるか???」

宰相の執務室に、珍しく慌てた足取りの王カイザルがノックもなしに入室する。
いつも涼しい顔で、何処か冷めた王が焦りを浮かべた表情で書類が積まれた席までやって来る。

「どうした・・。王が、そんなに顔色を悪くして王城を闊歩するとあらぬ噂になるぞ。」

書類から顔を上げたエミリアンは、流れ込んで来た心を素早く知った様子で顔色が悪く
手は震えた状態でカイザルを見つめた。

「・・・まさか。あの人がアルベルディアへ??
でも、確かに・・。アルベルディア王家の出自だった。
申し訳ない!!・・・失念していた。
すまない、カイザル・・。確か、闇の魔術も使えはずだ・・。」

眉根を寄せて、赤紫の瞳が翳りを帯びた。

カイザルは、小さく頷いた。

「今、アルベルト達は王都「アリアドネス」に到着したようだ・・。
イムディーナから連絡を受けたのだ・・。王都で、気を感じるのだと。」


「すぐに、私が向かう・・・。
カイザル・・。すまない、また私の身内が・・。
お前だけでなく、息子にまで害なすなど。
あってはならぬ事なのだが・・。」

「お前のせいじゃない・・・。
いいから、そこは気に病むな。
22年前の黒い月が、その闇の魔術に関係があるとすればタロスの鏡と、
対のオルカの鏡を持っていると言うことだ・・・。
この世界の夜を司る神具・・。それを取り返せば、月の選択と彼女をエリカとアルベルトの
いる世界へと戻すことが出来る。」

「あの霧が晴れた日、ガリラディア神殿から消えたオルカの鏡は・・・。
あの人が持ってアルベルディアへ逃げたと考えれば筋が通る。
・・・カイザル、お前はどうする?」

表情を見なくても、自分も出ていく気がある王の心に驚いた。

王であり、祝福の子である人物。

神に選ばれた、抜群の力を誇る王。

蒼い瞳は、穏やかに微笑む。

にやっと笑うカイザルに、エミリアンは苦く笑う。

「予想通りだ。
・・・分かりました。
しかし、選択は神殿でなければ出来ない。
もし、タロスと、オルカの二枚の鏡を持ち・・。
器として、今回も美月が異世界から現れたとすれば・・・。
アルベルディアから、シェンブルグのガリラディア神殿に戻るだろうな。」

「・・・・だといいのだがな。
私には、腕のいい者を飼いならしているのでな。
アリアドネスに、瓜二つの「時の間」が存在するそうだ・・。
お前は、どちらにしろ・・。アルベルディアで決着をつけねばなるまい。」

「はい・・。では、先に向かわせていただきます、王。」

書類を机に戻して、部屋を退出しようとした瞬間・・。

カイザルは心の中で、エミリアンを呼び止めた。

ピクっと背中に強張りを見せる。

振り向かずに、驚きに一度動きを止めたままのエミリアンは息を大きく吐いた。

「そうですだったのですか・・。
いずれにせよ、過去の怨念に決着をつけて、選ぶべき未来の選択を自分の目で見届けて参ります・・。」

「ああ・・。気をつけて行けよ。
この国、シェンブルグの宰相はお前しかいない・・。頼んだぞ、エミリアン。」

長く揺れる漆黒の髪をなびかせて、マントを翻したエミリアンは行くべき場所へと向かう。

そこに待つ者は、自分のルーツを辿る者。

カイザルの先王・・。

民を顧みず、祝福の子の誕生に恐れカイザルの命を狙い続けた父を持つ。

自分の父を自らの手にかけた、エミリアンはシェンブルグの復興を願った。

愚王であった、エミリアンの父と共にいた妃・・・。

夫も、子供も見捨てて立ち去った、虚飾にまみれた母親の姿を思い出す。

眉根を寄せて、瞼がゆっくりと降ろされる。

そうして、シェンブルグの宰相エミリアンのアメジストの瞳は静かに閉じられた。

ギィィイ・・。

大きく重い執務室の扉が閉じた。

部屋に残されたカイザルの青い瞳は、痛みを耐えて大きく揺れていた。

「・・・エミリアン、お前はいつも私を孤独だと案じていた。
しかし、本当に孤独だったのはお前の方だったのに。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...