二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

決意。

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アルベルディアの「アリアドネス」にある、王宮に到着したのは夕日が沈み
漆黒の月が輝く頃だった。

アラビアンナイトを彷彿させる、赤と白の奇抜な色彩の中に金色が映える。

庭も宮殿も広大な敷地を誇り、水が通る水路のような流れが四方へ線を伸ばし広がっていた。

すぐにノア王子の父である王、そして母である王妃と謁見することになった私たちは
疲労困憊の中で、更なる緊張を強いられる事になった。

静寂の町「デルメ」の爆発による損壊、鉱石場の崩落、魔法石に模した結晶の確認など・・。

エストラの最期も含めて、目まぐるしかった、アルベルディアでの旅の報告を行った。

魔法石に模した毒の結晶からウランの成分が検出され、すぐに近隣の魔法石の採掘を一時停止
する触れを出し、調査団が送られる事になった。

そして、エストラのしでかした罪とその背後にいる人物の特定を急ぐ事で話は終結した。

現実世界の過去と絡めた一連の事件に、酷く胸を痛めた私は謁見の後の会食をパスして
庭の花々に癒しを求めに来たのだった。

真っ赤な花や、白い花、ビビットなピンクの花・・・。

いい香りが庭園に吹き付ける風にのって広がる。

パシャ・・。

水の流れの中心に大きな噴水のある、線対称に花々が生けられた庭園で
椅子に座した私はその花々を眺めていた。

王都までの道のりでは、砂漠地帯を通過して来た事もあり疲れが半端ない・・。

アルベルトの事、エストラの事・・。

「夢みたいな世界で、私は自分の過去と向き合う・・。
イムディーナは言ってたわね・・。
愛した人に殺されるほど、愛されるか・・・。
愛する人を殺したいほど愛するか。
・・・ああ、死んでしまうほど愛するだっけ?
誰も好きにならないって決めて生きてきたのに、あっさり恋に落ちるなんて
私・・。簡単な女だったのね。」

ふふっと笑うと、涙が流れ落ちる。

アルベルトは、この世界の人間で別れが待っているのに・・。

誰かを好きになって、別れた時の心が死んでしまう感じ・・。
あの、心が凍るような冷たさをまた味わうことを考えると、足元からぶるりと震えた。

お母さんも、こんな不安を覚えたのかな・・。

アルベルト(パパ)との別れが怖くはなかったの?

「美月、ここにいたのだな・・。」

長い黒髪を揺らして現れたイムディーナは、私を見ると眉を下げて微笑む。

「泣いていたのか?すまないな、君をこの世界の戦いに巻き込んでしまって・・。」

金色の瞳は、悲しそうに細められる。

私は、青い瞳を揺らして驚いた。

そうだ・・。
この人なら知っているはずだ!!

「イムディーナ、私の母も・・。悩んだのですか?この世界で・・。パパとの未来や、命を
かけた選択も。」

ふっと表情を崩したイムディーナは、私の隣のベンチに腰を下ろした。

「・・・悩んだよ。毎晩我は、彼女の話を聞いた。
医術を世界に広め、診療所を作り・・。ルナの為にカイザルの背を押して、アルベルトに
届かぬ片思いをしていたんだ・・。アルベルトは、ルナを愛していたからな。」

「そう・・なんですか・・。信じられない!!
今では、あんなに熟年馬鹿ップル感が満載なのに・・。そんな時期があったことも
知りませんでした。父は、ルナ様を想ってたんですね・・。」

「でもな、アルベルトはエリカといるうちにエリカを好きになったんだ。
昔から、守りたいと思って大切にしていたルナよりも・・。
そして、自分が死んでもエリカとずっと一緒にいる選択をした。
エリカを愛してやまなかったアルベルトは、我に言ったんだ。
エリカと出会って良かったと・・。
彼女の側でなければ、もう自分は自分として生きることはできないと・・。」

私は、その言葉に涙が両目から溢れ出した。

自分を理解してくれて、安らぎを与えてくれる相手との出会い・・。

人生で1度あるかないかの、奇跡的な出会いを父と母はしたのだ。

「そうですか・・。なんだか、格好いいな。
ハッキリ言いきれるなんて。
私は・・・。本当はもう答えなんて出ているのに、その答えを口に出す勇気がない!!
だって、私・・・。家族も大切なんです・・。
だけど、離れたくない!!我儘で欲張りな自分に、腹が立つ・・。」

ぐしゃっと顔が歪められた私の頭をそっとイムディーナが撫でる。

「良かった・・・。君の時間は、動き出したようだね。・・・アルベルトが好きなのか?」


「はい・・。私にだけ口は悪いし、手は早いし、シゴキは厳しくて時々腹が立つんですけど。
でも優しくて・・。アルベルトの瞳を見ていると胸が苦しくなるんです。
時々、本当に死ぬかと思うくらい。」

涙を拭いながら、私はイムディーナの顔を見上げて笑った。

愛しい人との出会いから、今までが走馬灯のように蘇える。
ノアと出会って揺れ動いた心とも、違う温かい気持ちが芽生えた瞬間があった。

一緒にいた日々を積み重ねて、今の気持ちに確信を持ったのだ・・。

「ははははっ。エリカも、よく心臓止まるって騒いでいたよ?
母娘だな・・。血を感じるよ。美月・・。選択の時はもうすぐだ・・。
君は、「器」として、この世界に呼ばれた・・。
歌と、想いが神具を動かす。
後悔しない選択をしなさい・・・。」

「はい。どんな未来になろうとも、私は後悔のない選択を遂げます。
もう二度と、あんな思いはしたくない・・。」

首を上げて、銀色の月を見上げた。

私の中で漠然とある選択が胸を熱くする。

イムディーナがアルベルトの生まれた日に上げた月・・。

あの月が消える日を見届ける為に、私はぎゅっと唇を噛みしめた。

ふわっと笑ったイムディーナが、目を細めて私を見ていた。

「・・・・明朝、我と共に王都「アリアドネス」にあるコンビクションタワーへ
向かうぞ。そこに、全ての答えがある。」

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