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カイザル=エレンシュタット。
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妹大好き拗らせシスコンのサイラスは、騎士の詰め所まで戻ると昨日のアルベルトの取り乱し様を
思い出し、ものすごーく不安になった。
「おい、カイ!やっぱり心配だから傍で聞き耳を立てようぜい。」の一言で同じく不安そうな様子だったカイザルに声をかけて執務室のある王宮の廊下へと戻って来ていた。
丁度自分も同じことを考えていたので、サイラスの提案に乗ってみたが・・・。
執務室の近くまで来た時に、ルナの悲鳴と大きな叫び声にギョッと目を合わせたカイザルとサイラスは
王子の執務室の扉をバキバキに破壊して侵入した。
押し入った先で見た光景は余りにも衝撃すぎた。
ソファの上に横たえられたルナの姿と、伸し掛かるアルベルトの姿・・・。
ルナの腕はリボンで結わえてあり、肝心の彼女は叫んだ後で意識を失い
真っ白な顔色の状態でいつもは美しいエメラルドの目は完全に閉じていた。
シスコン歴はもう19年余りに及ぶサイラスと、ルナへの片思い歴10年近くの二人は大切なルナの変わり果てた
容貌と、顔に色味を無くし意識を失っている状態の彼女を一目見た瞬間・・・・。
ブチン!!と何かが切れたような音がした。
サイラスが動くよりも早くカイザルはアルベルトに掴みかかり、ルナから引っぺがし
吹き飛ばされたアルベルトの上に乗り殴り掛かった。
ドカッ!!バキッ!!!次々に繰り広げられる暴力がもう自分の意志では止められなかった。
殴っている手の痛みも、泣きそうな心も。
そして殴られたままでいるアルベルトの痛みも全てを理解しているのに・・・止まらなかった。
全部、私のせいなのに。
アルベルトをここまで追い詰め、こんな行動に走らせてしまったのは自分のせいだと分かっている。
だけど、変わり果てた姿を見た瞬間にもう押し込めていた自分がどうにもならない状態で開放されて
しまったのだった。
殴る蹴るを繰り返し、いつもは厳かな雰囲気を醸し出していた執務室は椅子やテーブルが倒れて書類が床に散乱しているような惨状へとたった数分の間で変貌してしまっていた。
サイラスは、自分の上着をルナにかけ「おいカイザル!!!落ち着け。こんなことしても誰も報われない・・・。アルベルトだってきっと分かっているはずだ!!もう止めろ。」サイラスが体当たりで暴れまわる
私を止めにかかる。
「今は・・・隣室のリリア様の元へルナを運ぶぞ。こんな所にこんな姿で置いてはおけないだろう!!」
その言葉にハッとする。
アルベルトも同様にルナの今の状態を誰かに見せる訳にはいかないと思ったようだった。
サイラスに手を貸そうとルナの近くへと足を運ぶ。
ソファの下に、見覚えのある物を見つけてサッと拾いポケットへと収める。
「・・・・すまない。」アルベルトの言葉にカイザルはチッと舌打ちをした。
そして、アルベルトの言葉に自分の今働く回路のありったけで返答した。
「許したくない。何よりルナ姫が傷ついたのだろう。結婚前に無理やりなんて・・どうかしてる!!
心から信頼していたアルベルトに手を出されそうになったのだからな。ルナ姫の今までの信頼を裏切ってまで・・今・・だったのか?」
サイラスとルナを抱きかかえ、絞り出すような声で親友であるアルベルトに問う。
「そうだな・・・。婚約を解消して欲しいと言われたよ。その瞬間、自分の物にしてしまうか
一緒に死んでしまおうか・・・。この2択しか僕には浮かばなかった・・・。お前に奪われる怖さが過って・・・もう自分でも止められなかった。お前に僕を殴らせてしまってすまなかった。」
頽れていたアルベルトは肩を揺らして泣いていた。
その言葉も、アルベルトの泣いている姿が痛々しい。
気持悪くなるほど、胸が酷く痛んだ。
ルナを抱えながら出て行こうと扉に手をかけたサイラスは振り向き在間に
「アルベルト、話は後程だ。今はこの状態のルナを一分一秒でもここに置いておきたくない。ではな。」
歪んだ扉がバタンと歪な音を立てて閉じられた。
さっきまで一緒にいたルナはもう別の場所へと運ばれた。
愛しているといいながら自分の都合で傷つけてしまった。
アルベルトはボコボコになった身体の傷の痛みよりも、どうにもならない心の痛みに苦しんでいた。
大切な、初めて会った時から特別だった小さな7歳のルナの笑顔を見た時に守りたいと思った。
そんな彼女を自分の手で傷つけてしまったのだと。
それなのに、幼いころからの親友であるカイザルやサイラスの心も同時に傷つけてしまった。
一枚のヨレヨレになった紙切れを胸ポケットから取出し、握りしめる。
’今・・・しかなかったのか?’
「・・・・それをお前が言ってしまうのか。でも全部僕が悪い。結局、僕の存在がルナとお前を苦しめているんだ。」
閉ざされた扉を呆然と只一度見上げながら、アルベルトは凄惨な現場へと変わった執務室でただ一人
声を殺して泣いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルナが目を覚ますまでの時間は長く感じた。
彼女を運びこんでから何時間経ったのだろう。
二人は何も言葉を発しなかった。
リリア付きの女官がテーブルに新しい紅茶を差し出すがカイザルはそれを片手で制止して、ただ黙って目を瞑っていた。サイラスは勧められたお茶をティーカップに入れてもらうと、それを無言で喉へ流した。
日が落ちて夕日が差し込む時間になって漸くルナとリリアの声が聞こえてきた。
カイザルはルナの声を確かめると顔を上げ、少し安堵の笑みを浮かべた。
リリアとの会話が聞こえてきて、サイラスとカイザルは少しホッとしていた。
カイザルが徐に立ち上がり、扉の前でリリアに声をかけた。
その声に返事があり、すぐにリリアが入室して来た。
リリアの表情は硬かった。
「そうか・・・・。ルナはその・・ショックを受けたと思うけど。今は?」
サイラスがリリアに問う。カイザルもリリアの表情を見てサッと顔色が悪くなった。
「いいえ・・。多分今はカイザル様にも、お身内であるサイラス様にもお目にかかりたくないと
そう思いますわ。私も同じ状況でしたら、殿方とのお目通りは今は辞退させて頂きたいですもの・・・。」
リリアは泣きそうになりながら、サイラスに伝えた。
そう言いながら「お兄様なんて早く滅してしまえばいいのよ!」とも呟いていた。
滅する・・・は手厳しいけれど、誰もが言葉が出なかった。
そんな時にガチャリとリリアの寝室へと続くドアノブが動いた。
一同にその方向へと視線を動かすと、ルナが儚い表情でこちらへとやって来た。
サイラスもカイザルも視線を向かすのには躊躇したが、心配だったのでルナの方を見やる。
「お兄さま、・・・カイザルさ・・ま。ご心配とご心痛をかけてしまい申し訳ありませんでした・・・。」
カイザルはその言葉に驚いてルナの瞳を見下ろした。
なんで・・・。自分が誰よりも傷ついているのに・・・・・。
この姫はいつもそうだ。だから私は・・・彼女をどうしても諦められなかった。
何度も何度も諦めようと試みては駄目なのだ。
心からの笑みを見せる、くしゃっと笑ったルナが大好きだった。
カイザルの胸は痛みに耐えていた。
「馬鹿な。お前が謝る必要などないだろう。アルベルトの暴走が原因でお前が一番傷ついているのだから。
それよりも、大丈夫か?もし、身体も大丈夫になったなら安心出来る邸に一緒に帰らないか?」
サイラスの申し出にリリアは深く相槌を打ち、
「そうですわ。王城では何かと…不安でしょう。お義姉様さえ動くのに支障がなければ、私のドレスをお貸ししますのでお着換えをして、安心できるお家へお帰りになられた方が良いかと思いますわ。」
ルナは静かに頷いた。
「私は大丈夫です。・・・そうね、動けますから・・・帰りましょうか、お兄様。」
兄とリリアを見つめ小さく笑った。
カイザルは何も言わない。
ただ、部下に指示をし、フェナルデイ伯爵家の馬車を至急入口に用意させるよう命じた。
すぐに寝室へと戻り、着替えを終えて戻ってきたルナはリリアに礼を言って帰ろうと支度を始めた。
私はポケットに入っていた小さな真珠の釦を何度も握りしめていた。
「それでは・・・。今日は失礼します。」と頭を下げて帰ろうとしたルナの腕を気付くと掴んでしまっていた。
サイラスは何も言わず「従者と話しをしてくる。」と言って控えの間を出て行き、リリアは「晩餐の用意が
出来たようなので失礼いたします。」と告げ、部屋を辞した。
「カイザル様?・・・・どうしましたの?」不安そうにルナがこちらを見る。
静かに目を閉じて心を落ち着ける。
「ルナ姫、これをお渡ししたかったので呼び止めてしまいました。どうぞ、貴方の母君が気に入って着ていた
そのドレスのボタンです。今は心の底から見たくない物なのかもしれませんが。
貴方のお母さまがお父様であるフェナルデイ伯爵からの結婚の申し込みの時に着ていた大切なドレスだと以前に貴方から伺っていたもので・・・。」
私の手にころん。と白い真珠の釦が置かれた。
「ありがとう・・・。覚えてくれていて、嬉しかったわ・・・。」
カイザルはルナの震える声にハッとして顔を上げた。
ルナが目に涙を湛えていたことに気が付き、狼狽してしまう。
「申訳ない。あなたを・・・泣かせたい訳ではないのに。いつも私は貴方を笑顔にすることが出来ないのだな・・。」
「カイザル様は馬鹿ね。」
馬鹿とは言われなれてない言葉だったのでびっくりした様子だったが、ルナは続けてこう言った。
「ルナはね、嬉しくて泣いているのよ。カイザル様は人を温めることが出来る方なのですね。」
ルナは涙を流しながら大好きなあの笑顔を見せた。
涙ながらにカイザルの大好きな笑みを・・・くしゃっと笑ったのだった。
そう言うと、ルナは満足そうに踵を返し部屋を出てこうとした。
まだ伝えなければいけないことがあることに気が付いた私は、ルナに心から謝った。
「ルナ姫!!!昨日はいつもの場所に訪れることが出来なくて申し訳なかった。
本音を言えば行きたかった。でも会ってしまえばもうこの気持ちが止められぬと思って・・・・。
でも結局は結果としては最悪な方向へ行ってしまい。・・・貴方を傷つけてしまった。本当にすまなかった。」
頭を下げて静かに動かなかった。
その言葉にルナはビクッと足を止めた。そして涙が更に溢れてその場に頽れたのだった。
どうしたのだろう?何かまた気に障る言葉を発してしまったのかと不安になった。
カイザルはルナの傍に来て手を貸そうと近づいた。
しかし、差し出される予定だった手はルナを掴むことは無かった。
ルナは自らの力で立ち上がり、泣きながら部屋を飛び出し
王城の出入り口のほうまで思い切り駆け抜けていったのだった。
思い出し、ものすごーく不安になった。
「おい、カイ!やっぱり心配だから傍で聞き耳を立てようぜい。」の一言で同じく不安そうな様子だったカイザルに声をかけて執務室のある王宮の廊下へと戻って来ていた。
丁度自分も同じことを考えていたので、サイラスの提案に乗ってみたが・・・。
執務室の近くまで来た時に、ルナの悲鳴と大きな叫び声にギョッと目を合わせたカイザルとサイラスは
王子の執務室の扉をバキバキに破壊して侵入した。
押し入った先で見た光景は余りにも衝撃すぎた。
ソファの上に横たえられたルナの姿と、伸し掛かるアルベルトの姿・・・。
ルナの腕はリボンで結わえてあり、肝心の彼女は叫んだ後で意識を失い
真っ白な顔色の状態でいつもは美しいエメラルドの目は完全に閉じていた。
シスコン歴はもう19年余りに及ぶサイラスと、ルナへの片思い歴10年近くの二人は大切なルナの変わり果てた
容貌と、顔に色味を無くし意識を失っている状態の彼女を一目見た瞬間・・・・。
ブチン!!と何かが切れたような音がした。
サイラスが動くよりも早くカイザルはアルベルトに掴みかかり、ルナから引っぺがし
吹き飛ばされたアルベルトの上に乗り殴り掛かった。
ドカッ!!バキッ!!!次々に繰り広げられる暴力がもう自分の意志では止められなかった。
殴っている手の痛みも、泣きそうな心も。
そして殴られたままでいるアルベルトの痛みも全てを理解しているのに・・・止まらなかった。
全部、私のせいなのに。
アルベルトをここまで追い詰め、こんな行動に走らせてしまったのは自分のせいだと分かっている。
だけど、変わり果てた姿を見た瞬間にもう押し込めていた自分がどうにもならない状態で開放されて
しまったのだった。
殴る蹴るを繰り返し、いつもは厳かな雰囲気を醸し出していた執務室は椅子やテーブルが倒れて書類が床に散乱しているような惨状へとたった数分の間で変貌してしまっていた。
サイラスは、自分の上着をルナにかけ「おいカイザル!!!落ち着け。こんなことしても誰も報われない・・・。アルベルトだってきっと分かっているはずだ!!もう止めろ。」サイラスが体当たりで暴れまわる
私を止めにかかる。
「今は・・・隣室のリリア様の元へルナを運ぶぞ。こんな所にこんな姿で置いてはおけないだろう!!」
その言葉にハッとする。
アルベルトも同様にルナの今の状態を誰かに見せる訳にはいかないと思ったようだった。
サイラスに手を貸そうとルナの近くへと足を運ぶ。
ソファの下に、見覚えのある物を見つけてサッと拾いポケットへと収める。
「・・・・すまない。」アルベルトの言葉にカイザルはチッと舌打ちをした。
そして、アルベルトの言葉に自分の今働く回路のありったけで返答した。
「許したくない。何よりルナ姫が傷ついたのだろう。結婚前に無理やりなんて・・どうかしてる!!
心から信頼していたアルベルトに手を出されそうになったのだからな。ルナ姫の今までの信頼を裏切ってまで・・今・・だったのか?」
サイラスとルナを抱きかかえ、絞り出すような声で親友であるアルベルトに問う。
「そうだな・・・。婚約を解消して欲しいと言われたよ。その瞬間、自分の物にしてしまうか
一緒に死んでしまおうか・・・。この2択しか僕には浮かばなかった・・・。お前に奪われる怖さが過って・・・もう自分でも止められなかった。お前に僕を殴らせてしまってすまなかった。」
頽れていたアルベルトは肩を揺らして泣いていた。
その言葉も、アルベルトの泣いている姿が痛々しい。
気持悪くなるほど、胸が酷く痛んだ。
ルナを抱えながら出て行こうと扉に手をかけたサイラスは振り向き在間に
「アルベルト、話は後程だ。今はこの状態のルナを一分一秒でもここに置いておきたくない。ではな。」
歪んだ扉がバタンと歪な音を立てて閉じられた。
さっきまで一緒にいたルナはもう別の場所へと運ばれた。
愛しているといいながら自分の都合で傷つけてしまった。
アルベルトはボコボコになった身体の傷の痛みよりも、どうにもならない心の痛みに苦しんでいた。
大切な、初めて会った時から特別だった小さな7歳のルナの笑顔を見た時に守りたいと思った。
そんな彼女を自分の手で傷つけてしまったのだと。
それなのに、幼いころからの親友であるカイザルやサイラスの心も同時に傷つけてしまった。
一枚のヨレヨレになった紙切れを胸ポケットから取出し、握りしめる。
’今・・・しかなかったのか?’
「・・・・それをお前が言ってしまうのか。でも全部僕が悪い。結局、僕の存在がルナとお前を苦しめているんだ。」
閉ざされた扉を呆然と只一度見上げながら、アルベルトは凄惨な現場へと変わった執務室でただ一人
声を殺して泣いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルナが目を覚ますまでの時間は長く感じた。
彼女を運びこんでから何時間経ったのだろう。
二人は何も言葉を発しなかった。
リリア付きの女官がテーブルに新しい紅茶を差し出すがカイザルはそれを片手で制止して、ただ黙って目を瞑っていた。サイラスは勧められたお茶をティーカップに入れてもらうと、それを無言で喉へ流した。
日が落ちて夕日が差し込む時間になって漸くルナとリリアの声が聞こえてきた。
カイザルはルナの声を確かめると顔を上げ、少し安堵の笑みを浮かべた。
リリアとの会話が聞こえてきて、サイラスとカイザルは少しホッとしていた。
カイザルが徐に立ち上がり、扉の前でリリアに声をかけた。
その声に返事があり、すぐにリリアが入室して来た。
リリアの表情は硬かった。
「そうか・・・・。ルナはその・・ショックを受けたと思うけど。今は?」
サイラスがリリアに問う。カイザルもリリアの表情を見てサッと顔色が悪くなった。
「いいえ・・。多分今はカイザル様にも、お身内であるサイラス様にもお目にかかりたくないと
そう思いますわ。私も同じ状況でしたら、殿方とのお目通りは今は辞退させて頂きたいですもの・・・。」
リリアは泣きそうになりながら、サイラスに伝えた。
そう言いながら「お兄様なんて早く滅してしまえばいいのよ!」とも呟いていた。
滅する・・・は手厳しいけれど、誰もが言葉が出なかった。
そんな時にガチャリとリリアの寝室へと続くドアノブが動いた。
一同にその方向へと視線を動かすと、ルナが儚い表情でこちらへとやって来た。
サイラスもカイザルも視線を向かすのには躊躇したが、心配だったのでルナの方を見やる。
「お兄さま、・・・カイザルさ・・ま。ご心配とご心痛をかけてしまい申し訳ありませんでした・・・。」
カイザルはその言葉に驚いてルナの瞳を見下ろした。
なんで・・・。自分が誰よりも傷ついているのに・・・・・。
この姫はいつもそうだ。だから私は・・・彼女をどうしても諦められなかった。
何度も何度も諦めようと試みては駄目なのだ。
心からの笑みを見せる、くしゃっと笑ったルナが大好きだった。
カイザルの胸は痛みに耐えていた。
「馬鹿な。お前が謝る必要などないだろう。アルベルトの暴走が原因でお前が一番傷ついているのだから。
それよりも、大丈夫か?もし、身体も大丈夫になったなら安心出来る邸に一緒に帰らないか?」
サイラスの申し出にリリアは深く相槌を打ち、
「そうですわ。王城では何かと…不安でしょう。お義姉様さえ動くのに支障がなければ、私のドレスをお貸ししますのでお着換えをして、安心できるお家へお帰りになられた方が良いかと思いますわ。」
ルナは静かに頷いた。
「私は大丈夫です。・・・そうね、動けますから・・・帰りましょうか、お兄様。」
兄とリリアを見つめ小さく笑った。
カイザルは何も言わない。
ただ、部下に指示をし、フェナルデイ伯爵家の馬車を至急入口に用意させるよう命じた。
すぐに寝室へと戻り、着替えを終えて戻ってきたルナはリリアに礼を言って帰ろうと支度を始めた。
私はポケットに入っていた小さな真珠の釦を何度も握りしめていた。
「それでは・・・。今日は失礼します。」と頭を下げて帰ろうとしたルナの腕を気付くと掴んでしまっていた。
サイラスは何も言わず「従者と話しをしてくる。」と言って控えの間を出て行き、リリアは「晩餐の用意が
出来たようなので失礼いたします。」と告げ、部屋を辞した。
「カイザル様?・・・・どうしましたの?」不安そうにルナがこちらを見る。
静かに目を閉じて心を落ち着ける。
「ルナ姫、これをお渡ししたかったので呼び止めてしまいました。どうぞ、貴方の母君が気に入って着ていた
そのドレスのボタンです。今は心の底から見たくない物なのかもしれませんが。
貴方のお母さまがお父様であるフェナルデイ伯爵からの結婚の申し込みの時に着ていた大切なドレスだと以前に貴方から伺っていたもので・・・。」
私の手にころん。と白い真珠の釦が置かれた。
「ありがとう・・・。覚えてくれていて、嬉しかったわ・・・。」
カイザルはルナの震える声にハッとして顔を上げた。
ルナが目に涙を湛えていたことに気が付き、狼狽してしまう。
「申訳ない。あなたを・・・泣かせたい訳ではないのに。いつも私は貴方を笑顔にすることが出来ないのだな・・。」
「カイザル様は馬鹿ね。」
馬鹿とは言われなれてない言葉だったのでびっくりした様子だったが、ルナは続けてこう言った。
「ルナはね、嬉しくて泣いているのよ。カイザル様は人を温めることが出来る方なのですね。」
ルナは涙を流しながら大好きなあの笑顔を見せた。
涙ながらにカイザルの大好きな笑みを・・・くしゃっと笑ったのだった。
そう言うと、ルナは満足そうに踵を返し部屋を出てこうとした。
まだ伝えなければいけないことがあることに気が付いた私は、ルナに心から謝った。
「ルナ姫!!!昨日はいつもの場所に訪れることが出来なくて申し訳なかった。
本音を言えば行きたかった。でも会ってしまえばもうこの気持ちが止められぬと思って・・・・。
でも結局は結果としては最悪な方向へ行ってしまい。・・・貴方を傷つけてしまった。本当にすまなかった。」
頭を下げて静かに動かなかった。
その言葉にルナはビクッと足を止めた。そして涙が更に溢れてその場に頽れたのだった。
どうしたのだろう?何かまた気に障る言葉を発してしまったのかと不安になった。
カイザルはルナの傍に来て手を貸そうと近づいた。
しかし、差し出される予定だった手はルナを掴むことは無かった。
ルナは自らの力で立ち上がり、泣きながら部屋を飛び出し
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