二者択一で転生した令嬢は将来も選択したい

館花陽月

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新たな真実。

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ルナ=フエナルディこと絵里香は、驚愕の真実を前に放心状態で立ち尽くしたままだった。

「真実を見つけて選択する?・・・でも、「彼」を助けてって・・あの言葉の意味は?
・・・分からないことだらけでどうしたら良いのかが分からない・・・。」

纏まらない考えと、ごちゃごちゃする脳内の情報に混乱していた。

気が付くと真っ赤に染まった空はとっぷりと夜空の様相に様変わりしていた。
さすがに心配になった兄と執事が探しに来てくれた。

ショールを巻いてくれた兄に心配をかけたことを詫びると伯爵邸へと静かに連行されたのだった。

私の様子を確認した兄はホッとした様子で、何も聞かないでくれた。
3人は星が輝く夜空の下を黙々と邸への道を歩いて戻ったのだった。

夕飯の晩餐は兄に伝えて辞退し、部屋に軽い物を運んでもらうように言づけた。
兄は私を気遣う様子で
「わかった。心配だから・・・。せめて食べたい物だけでも口にしてくれよ。」と秀麗な笑顔で眉を下げた。


部屋に戻り、メイドに命じて大好きなミルクティを所望する。

部屋の明かりを消して静かにミルクティを飲み干した。
先ほどの場所から持ち帰って来た透明な瓶を見つめながらため息をつく。

今日も月の光が綺麗だった。

こんな気もちの時に猫召喚のための肌寒い台詞を口にするのは気が乗らなかったのだが。
確認しなければいけない真実と向き合うためには、あの猫の力が必要なはずだ。

「ハチ公より、やっぱモヤイ・・・。」

大きな声は出なかったが、私の言葉を聞き届けた月がぐらりと揺れた。

開け放たれたベランダへと続く大きな窓へと丸い光のボールが降りてくる。
それはそっと部屋のベッドの上に降り立った。

光の粒が眩く霧散したのを確認し、私は椅子から立ち上がりベッドへとふらふらと
歩みを進めた。

悲しそうな顔で虹色の猫は私を見つめた。

「・・・・恵里香。」

猫が心配しているのは、今日のアルベルトとのことなのか、ルナのことなのか・・窺い知れなかった。

虹色の猫と目があった私は静かに問うた。

「ルナ=フェナルデイは、自ら死を望んだのですか?」

悲痛な面持ちでの問いかけに、猫も一瞬体をびくりと震わせた。

「・・・・・・。」

虹色の猫は何も答えなかった。

「この瓶の中身は。。。一体何ですか?私が舐めても良い物なのですか?」

猫は慌てて「どこでそれを??!」と慌てて私の手から瓶を取る。

「昨日、私がルナとして目覚めた場所を隈なく探したらこの瓶が落ちてたの。
でもこれはルナが落とした物なんでしょう? でも、どうして・・・・。」

涙が出そうになった。
猫は瓶をベッドに置き、ため息をついて静かに私に向き直った。

「その瓶には・・・多分毒薬が入っていた。そして、ルナ=フェナルデイはそれを一気に飲み干し
絶命しようとした。でもそれは、彼女が自分の心を守る為の選択だったのかもしれない。」

悲しそうな声で虹色の猫は答えた。

最悪の答えだった。

そうでなければ良いと思っていた。
しかし、今までの周りからの情報やルナの身体の反応や、心の動きがその真実を鮮明に表していたのだから。

「彼女は、あの人を・・ルナはカイザル=エレシュタットを・・。心から愛していたの?」

恐る恐る尋ねる。

「・・・・。君はルナの器に入ってそう感じたのかい?」

虹色の猫は少し寂しそうに呟いた。

「分かってはいたけど・・・。流石にきついな・・。」

・・・・どういう意味なんだろう?
その言葉の真意だけは、よく分からなかった。

でも、伝えなければいけないと思った。
ルナの必死で守っていた秘密を。

この世界に私を選んで転生させたこの猫にしか言えない事だった。

「カイザルに会ったときのルナの心の動きは尋常じゃなかったわ。
アルベルトと会っていても多少は反応は感じられたけれど・・・。
カイザルのあの言葉を聞いた時に、心の中のルナは大きな悲鳴をあげていたの。
「カイザル様・・・どうして来てくれなかったのって。」
ルナは、カイザルのことを殺したいほど愛していたの??
そう、でもルナは相手を不幸にしたいとは望んでいなかった。
アルベルトのこともちゃんと大切に思っていたのよね。本当の気持ちを伝えられずに、自分に嘘をつき続けて苦しんでいた彼女は・・・最後に自分のことを殺したいほどカイザルを愛してしまったから。
・・・・命を絶ってしまったのでしょう?」

嗚咽交じりに吐き出して、私の目には涙が溜まっていた。

その様子を見て心配したのか虹色の猫は私の傍へと駆け寄ってきた。

「・・・・・。ごめんね・・・恵里香、君は・・・。」

続かない言葉が物語る事実に一層呼吸が出来なくなった。

だけど・・・。

震えながら猫を抱きしめた。

「ねぇ、誰かを殺したいほど愛してしまう。殺されるほど愛される・・・。
全然違うようだけど、どちらも・・独りよがりで結局、誰も救われないんじゃないかな。」

そんな感情私はまだ知らない。
だけど、ルナの痛みは死ぬより辛いものだったのだろうか・・・。

少しだけ部屋に静寂が訪れた。色々な感情が私を駆け巡っていて言葉が出なかった。


「結末はまだ変えられるよ。」

静かに虹色の猫は私に告げた。
泣いている私の手をそっと振りほどき、猫は私に向き直り瞳を見合わせた。

綺麗な目。
金色と緑色の宝石のような輝きは美しかった。


どういう意味で
この猫の正体は一体何なんだろう・・・・。
でも・・・。

「だって・・!ルナは死んだのでしょう?だから私がその器に入って彼女の人生を続けているのよね?」
声が少し大きくなって、自分の動揺が伺い知れた。
そんな私に静かに猫は返答する。

「まだ、死んでいないとしたら?君はその器を手放して生き埋めエンドで恵里香の人生もルナの人生も終えるのか?もし、ルナが蘇ることが出来たとしても周りの状況は変わっていないんだ。
カイザルを選ぶ未来も彼女には選択が不可能なはずなんだ。・・・。」

絶望的な現状は打開されない。
ルナが生き返っても私がまだ知らない難問ばかりが立ちふさがっているのね。
そして美しく優しいルナ=フェナルデイは自死エンドを繰り返す。

でも・・・まだ?!!って言った?

ニヤリと笑った虹色の猫と目が合い驚きの声をあげる。

「・・・ねぇ・・まだって言った?」

緑色の目を大きく見開いて、猫に詰め寄る。

「未来は全て沢山の選択で出来ている。この世界の真実は君が見つけたルナの真実だけではない。
アルベルトの真実。カイザルの真実が合わさって現在がある。
その背景を、その未来を恵里香として君が照らしてあげることが出来れば。彼らの未来もルナの命も、もしかしたら違う未来へと行きつくかもしれない。」


得意げにそう言った猫に思い切り抱き着いて、嬉しくてついでに首絞めた。
・・・もー。滅茶苦茶 大変そうじゃないの。しれっと言うけどさぁ


「でも、違う未来に行き着くなら・・・。まだ私がルナ=フェナルデイとしてやることがあるってことね!!
自分がどうなるかとか、ルナがどうとかじゃなく。こんな納得出来ない真実をどうにかしなきゃね。
悔しいけれど、私、諦めは非常に悪いのよね。」

幼少期から勉強して女医になったの。
死ぬほど努力して最後まで諦めなかった。
人の命を救うのにも、迷いながらも色々な選択肢を考えて最期まで諦めないで命と向き合っていた。

執念深く、諦めが悪いとも言う。

「そう、まだ君はルナの未来を変えるためのスタート地点に立ったばかりなんだよ。君なら違う未来を選択出来る。僕はそう信じている。」


うーん。この猫は何でそんなに私を評価してくれるのだろう?

でもそんな疑問よりも、ルナの自死エンドの負のスパイラルは納得いかない。
アルベルトを知ること、カイザルを知ることでルナの未来は確かに変わるのかもしれない
可能性に懸けてみたい!!!

「やってやる!!ルナ=フェナルデイの自死エンドを断固回避して幸せにするぞーーー!!!」

久しぶりの恵里香口調は楽だな。
お嬢様言葉は肩凝るから、この猫はやっぱり私の癒しと安息のアイテム決定だな。
しんどい時は思いっきり、愚痴ろ。

そんな私の黒い考えも知らず。虹色の猫は

「おーーーっ」

と、鼓舞してくれる。
だけどそこは猫なんだから、ニャーだろうと、心の中で小さく突っ込みを入れるのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんなお祭り然になってしまった2階とはうって変わり。

一階の様子は静寂に包まれていた。

部屋には静かなランプの明かりが灯されていた。
書斎のカウチセットには、座り込んでいるサイラスと、フェナルデイ伯爵の姿があった。

ばさっ。

「これでどうだ?」

父が神妙な面持ちで、帰って来るなり分厚い紙束をサイラスに手渡した。
ちょっと嫌な予感がして目を通すと、表に大きく表題が書いてあり「アルベルト殿下完全殺害マニュアル」
と書かれ、ページを捲るとそこには詳細且つ綿密に暗殺計画が立てられていた。

帰りが遅いと思ったら、やはり本気で完全犯罪を狙った暗殺計画書を考案していたのだった。
我が父ながら分かり易い。

「・・・父上、今アルベルトに何かあったらすぐに父上か俺かが疑われ捕らえられてしまいますよ。」

静かに父に告げると、父は深い溜息をついた。

「そうだな。誰かを雇ってもきっと足がついてしまう。歯がゆいな。
・・・・・あああぁあ殿下め、大切な大切なルナを傷つけるなんて許せーーーーーーーん!!!
破談だ破断!!!もうルナもフェナルデイ家の墓に入れば良いのだーー!!」

・・・・言うと思った。
いつもの自分なら乗っかり、口汚くアルベルトを罵り、揚々と暗殺計画に加担して殺害後の家族での
末長い団らんを妄想して楽しむのだが・・・。

「父上、お気持ちは非常に・・・。アルベルトの件では、リリア様の言葉を借りて「滅しろ!!」とは思うんですが、今回の件はちょっとただの性欲が暴走した結果での一件ではさなそうなのです。」

「な、、なに?何だと言うんだ?まさか!殿下は間違って媚薬でも盛られたとでも申すのか?」

媚薬のほうが達が良い気がする・・・。
そんな分かりやすい物質によって齎された一過性の感情ならば楽なのに。

サイラスは深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
父は、少し動揺をしながらも、サイラスの考えを聞くために息子のほうへ向き直る。

「今回の件はルナの・・・カイザルへの想いによって引き起こされた一件ではないかと・・・。」

父の眉が一気に顰められた。

ガタッと椅子から立ち上がり父が息を荒げる。

「カイザル・・?! ルナとカイザルがなん・・なんだと言うんだ!!!?」

父の尋常ではない様子に、サイラスも動揺してしまう。
はぁ・・はぁと呼吸まで粗ぶっていた。

「父上・・・・???どうしたのです?顔色が悪いですよ?」

「だめだ・・・・」

サイラスは聞き取れず、父の方を訝しげに強い瞳で見つめる。

何故、父は普段は俺とアルベルトとカイザルを可愛がり、生徒よりも息子のように扱ってきた。
でもルナとカイザルの話になると・・・どうだったか。

しかし、幼いときから父はカイザルのルナへの一途な気持ちには絶対に気づいていた筈だ。
今までも、度々ルナとカイザルの縁談の話になるとその話は逸らしていたことに気付く。

「・・どんなことがあっても、ルナにはアルベルト様しかいないだろう・・。カ・・カイザルは、カイザルだけは・・・何としても駄目なんだ。。。」

絞り出すような声で項垂れた。
母が亡くなった時でさえ、父のこんな苦痛に満ちた表情は見たことがなかった。

サイラスはそれ以上は何も聞けなかった。
書斎のランプの明かりは、サイラスの不安と困惑の表情を静かに照らしていた。


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