二者択一で転生した令嬢は将来も選択したい

館花陽月

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君の志。

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数日に渡る王妃陛下の生誕祭の催し物の数々も順調に終わりに近づいていた。

遠方からの使者はだいたい1週間から10日程は王宮に滞在し、催しなどが無い日は観光見物や町への買い物に降り各々が楽しんでいた。

「アルベルト、すまないが、私は席を外す。ルナ姫の手伝いに行って来る。」

護衛騎士として側にいてくれるカイザルが、最近休憩時間の度に王宮に滞在しているルナの元へ
足繁く通っている。

「あ、俺も!!丸太頼まれてたんだ!!カイザルーー!!一人じゃ無理だから運ぶの手伝ってくれ。」
そんなやり取りもまた・・・アルベルトには羨ましい話だった。

「僕も行きたいなー。最近のルナは朝、昼、夕方のちょっとした時間に診てくれるだけで、すぐに王宮の青空診療所の方に行って戻って来ないし・・。みんなもルナの手伝いで一人ぼっち。執務室の椅子に固定されてるばかりじゃつまらなーい・・・。」

最近のアルベルトは王子様然としていた以前の彼の様相が崩れてきた。と専らの王宮ゴシップの種だった。


「はーい、体の位置を変えますね。王子様でも患者は患者なので、言いたいこと言えばいいんですよー。もし、痛かったら痛いって言ってくださいね!!」

「う、い、痛いっ・・・!!」

「もう、我慢してくださいよ!大の男がっ。はい!もう終わりますからね。」

「・・・ねぇルナ、言ってることと、言ってることが違う。」

ルナとアルベルトのやり取りを見た女官達は驚き、二度見してしまう事態が起きていた。

「アルベルト様は病の峠を越えられて別人のようになってしまった!」
「あまりの高熱で頭がやられてしまったのではないか・・。」「アルベルト殿下が甘えん坊になった!(ルナ姫限定)」など憶測が所々で建てられ、サイラスはその噂の収拾活動に執務以外でも労力を取られるのであった。

「ねえ、ルナの青空診療所に僕も一度行ってみたいのだけど、良いかな?」

カイザルが驚いた顔で「ああ。担いで行こうか?」と言われ、ガックリ項垂れる。
第一王子であるアルベルトが、カイザルに担がれて診療所に行けば、そのまま診療台行きだ。

ルナの迷惑になりたくもないし、そんな醜態は曝せないか。
僕は王子なのだから。

「あれ?アルベルト様?! どうしたんですか?」

「ルナ?!昼じゃないのにどうしたの?」いつも昼食の時間に執務室に寄って軽い食事を食べた後、診察をして帰る彼女が、午前の中途半端な時間にふらっと訪れてくれたのが嬉しかった。

「あ、これをお持ちしました!もう、これがあれば歩けるかなーと思いまして。」
カラン。
2本の木の棒に小さな短い足が4つついたものがアルベルトの眼前に現れた。

「何?この木の棒・・・。これで歩くの?足の下に敷くの??」
初めて見た松葉杖に驚いていた。

アルベルト様の反応も、王宮医師達と同じだわ・・・。こりゃ医学は進まないわ。

「松葉杖 と申す物です。アルベルト様は背丈もしっかりなさっているので4点法の松葉杖を応用して
考案してみたんです!!アルベルト様オリジナルの品なんですよ。」

アルベルトは、自分のためにルナが一生懸命考えてくれた事に喜びを感じていた。

「こう使うんですよ。」とルナは実演してみる。

アルベルトの体重をしっかり支え、少しずつスムーズに歩けたアルベルトは瞳をキラキラさせて
「すごい!!これ魔法みたい!」ピョンピョン、兎のように跳ねたりしている・・・。

カイザルもまじまじと何の変哲もない二本の杖を見つめて驚いている様子だった。

「さ、これでアルベルト様も歩けますね?!リハビリがてら診療所に一度いらしてみます?」

キラキラ子供のような笑顔で「行くよ!!これなら行ける。・・・すごいなー。ルナは魔法使いみたいだ。」
そう言いながら調子に乗って跳ね回ってすっ転んでしまった。

そんなアルベルトを見ると、心から「アルベルト殿下=愛玩動物」という単語が頭に浮かぶのだった。


青空の下で、大きな白いテントが王城の入場門の傍に建てられていた。
小さな子供から、老人まで沢山の民が列を成していた。

「これは・・・沢山病や怪我をしている民がいるのだな。驚いた。」

戦に使う野営用のテントを制作している工房に発注をして、大きく丈夫な屋根があるテントを特注で作らせた。
町に降りて、緊急性が高いのにお金の事情で治療が受けられない民を王城へ運ばせ、治療を受けさせるシステム作りをしていた。

伯爵令嬢とは思えない簡素なドレスと帽子を被り、早朝と夕方に町へ降りていき、民からの情報を頼りにトリアージを行う仕事と、王宮医師に治療法を伝授することが最近のルナの日課になっている。

「ルナ様、この病の場合、どの薬が宜しいでしょうか?」

「あ、ちゃんと書いてねー。風邪とかにはこの薬草じゃないかなー。ルナが症状毎に薬を分けてくれていたんだけど、喉を見て赤いか赤くないか確認してみて!」

「そうなんですね。風邪・・えーと喉を見る。赤かったら・・この薬・・。っと」

必死に書記をしながら、聞き取っている彼は王宮医師の師長リオンだったのに、アルベルトは驚いた。

「ええっ。リオンが信頼して、女性であるルナにあんなに熱心に教えを乞うなんて・・・。明日は豪雨に違いない。」

「そうだな。姫がお前を助けたことと、青空診療所を一人で初めて、必死に民を助けていたのを見て変わっていったんだ。・・・以前のルナは花で例えると百合のような姫だったが、サイラス曰く今の姫は向日葵のようだと言っていた。言い当て妙だと思った。」

カイザルは次々テキパキと40以上も年上のリオンに指示している姿をみながら笑顔になっていた。

「そうか、確かに頭を打ってからのルナは儚さや、しなやかさは全く片鱗も感じないな。でも、今のルナといると自由になれる感じで何でも出来そうな気がする。」

僕もあの夜、一回死んだのかもしれないな。

「最近のアルベルトは、憑き物が落ちたみたいだな。よく笑うようになったな。」

カイザルが嬉しそうに笑った。

今のルナは・・一緒にいると楽しかったり、安心したり、言いたい事を言えて楽だったり・・・。

彼女といると、今までの自分では有り得ない事ばかりだ。
王子様のイメージが崩れてることは自覚があるのに、自由で、楽しい!

王子様としての自分じゃなく、生き生きとした感情を見せてくれるルナが益々好きになった。

そんな風に感じている自分に初めて気が付いたのだった。


門扉の傍から黄色い声が聞こえ、嫌な予感しかしないので急いで駆け付ける。

「アルベルト様、カイザル様ー!!お手伝いに参りましたー。落ち着いたら一緒にお茶にいたしましょう?東方から美味しい茶葉が届きましたの。」「サイラス様は中におられますかー??クッキー焼いて差し入れに参りました。是非、ご一緒に召し上がりたいなと思って。」
ヒラヒラのドレスに、バッチリお化粧をした令嬢達が押しかけてきた。

今までは絶対零度の対応はカイザルの役得だったが。
アルベルトも同じような反応で汚い物でも見るような視線を向けてしまう。

「君たち、その恰好で手伝いに来たの?それとも患者とルナの仕事の邪魔しに来たの?」

我ながら酷い言動だと思ったが、ルナや患者を自分が守らなければと思っての言動だった。
しかし、自分よりも屑を見るような恐ろしい反応が隣から令嬢たちへと鋭く突き刺す。

「目に入れるのも、同じ空気も吸いたくもない程、低脳で罪深い令嬢達だな。病を患い苦しむ民へお前たちの存在自体が冒涜であると気が付かないのか。・・・愚かしい。」

尊敬するほどの絶対零度の虫けら扱いでその場の令嬢は失神しルナ達に逆に迷惑をかけてしまったのである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

騒がしい城外の光景を窓から紫色の涼やかな瞳が見下ろしていた。

「ふーん。・・・・医術か。あの令嬢、やはり面白いな。」

聞いていた月の女神の例えよりも、太陽の女神の方が相応しい。不思議な魂の色をした姫。

「さて、どうしょうか・・・。」

落ち着いた声音で、面白い玩具を見つけた子供のようにクスリと笑った。
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