神隠し ノコノコ ~迷い込んだ好奇心の化け物編~

みくたま

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30話 闇に溶けたのは…

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 ミカの冷酷で正しい指摘に「お前になにがわかるんだよ!」と言い掛けた怒りを飲み込んだカラス。この怒りは不甲斐ない自分の八つ当たりでしかない。
 二の句が繋げず押し黙るカラスを横目にミカは木製の立て付けの悪い扉を開いた。部屋の明かりのせいか視界の先には深く黒い世界が広がっている。


「壱さんのご両親はカラスさんが連れて来たのですか?」

「!?」


 彼女の観察眼は鋭く…そして何より賢かった。


「どこで気付いたんだい?」

「えっと、割と最初からというべきでしょうかね…。私はここに来る前に色々調査をしたおかげで前程知識があったので結論を出すのは簡単でしたので…」

「前程知識だって?」

「ええ…、私の訪れた【三本足の神社】ですが、日本で三本足の生物と言えば【八咫烏】ヤタガラスです。ヤタガラスは道案内をするとされる三本足のカラスのこと…つまりまつられていた神はあなたと関係が深い、またはあなたのことなのではないでしょうか?カラスさん」

「ああ、そうだよ。三本足のホラ吹きカラスさんと言ったらボクの事さ…。まぁ、ボクとしては別に隠してたわけじゃないんだよ…」


 カラスはミカの推理を肯定し、肩をすくめて返す。


「先ほどもカラスさんは嬉々として子供達と遊ぶのが好きと話してましたし、それはもうロリショタ好きの変態野郎なんだと私は理解しました」

「ちょっと待てっ!それは言い過ぎなんだよ!ボクは純粋で変な目で見た事はないんだよ!」

「あ、はいはい…信じま~す。子供をさらって連れ出したカラスさ~ん」

「バカにしてるよな?神隠しを下卑たお子様誘拐事件と同列に語らないで欲しいんだよ!」

「でもやってることは同じですし~。ほら、壱さんが起きちゃいますから落ち着いて落ち着いて…」


 騒ぎ立てるカラスにミカはしーっと口の前で指を立てて注意した。憎たらしい女である。


「あとは単純な推理ですよ。カラスさんは壱さんに対し妙な親心を感じましたし、それは愛なのか負い目からの行動なのか…負い目ならなんなのかと考えれば出てくる答えはそんな多くありません」

「お前は本当に聡しくて嫌な女で、ボクはお前が嫌いだよ」


 まるでヒナを守る親鳥のように壱を小さな身体で包み、ミカに対し威嚇行動を取るカラス。壱を大切に思う気持ちは本物なのだろう…。そして大切な彼を傷つけたくなくて、自分を傷つける存在になって欲しくないからこそカラスは全てを話すことを躊躇ったのだろう。


「それで…どうなさるつもりなのですか?この事を壱さんは気付いていないのか、気付かないフリをしているのかわかりませんがいずれお話してあげてもいいのではないでしょうか?」

「それはお前に…心配されるようなことじゃないんだよ…」

「そうですね。お二人の関係に足を踏み入れるのは無粋ですよね…失礼しました」


 ミカの声色には悲しげな匂いがした。それに気付いたのかカラスは反論はせず、ただただ無言でミカの責めるような謝罪を受け止めていた。
 そんな一拍の沈黙を経て「ですが」とミカが口を開く。


「私は納得していません。カラスさんや神様達が壱さんのことを思って掟を作ったのかもしれませんが、私自身は全く納得していません」


 ミカの強い意志に引かれカラスが顔を上げると漆黒に染まった瞳と目が合った。吸い込まれそうな光のない眼から目が逸らせなかった。


「大切に想う事と過保護は違います。だからせめて壱さんに選択する機会を与えてあげてください」

「…わかった…わかってるんだよ…」


 カラスの搾り出した返答に笑いかけ、ミカは踵を返した。一歩一歩闇に溶けていくミカの背中が消えるまで、カラスは見送っていた。
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