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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか
主人として
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その後、今回戦いに参加したヴェルダンディ、ルキノ、リムミント、下僕の四人とセルラン、ステラ、アスカ、クロートで一度反省会を大会議室ですることとなった。
まずはセルランが口火を切る。
「さて、まずは騎士の目から見させてもらったが、騎士の練度が悪すぎる。ヴェルダンディもルキノも何をシュトラレーセの騎士ごときに手こずるのだ」
「いやいや、二人の上級騎士と互角なら問題ないだろ。セルランなら一人でもっと倒せるかもしれんが、俺は俺で頑張ったぞ」
「ヴェルダンディは一人で突っ込みすぎです。わたしと二人で戦えばもっと上手くいきました」
「ルキノはトロいんだよ。もっと前に出てくれれば俺も戦いやすいのに」
三人が自己主張するため空気が悪い。
己の実力に自信があるため、先ほどの戦いに間違いはなかったと二人は考えている。
「二人とも実力があるのですから、もう少し周りを生かす戦い方をしてください。セルランみたいに鬼神の強さを出す必要はございません」
「甘いことを言うな、ステラ。マリアさまの護衛騎士たる者全ての騎士の模範となる強さを見せつけねばならない」
「それはあなただけの理屈です。今回は勝つことが目的なのですから、騎士の矜持は二の次に考えてください!」
「何を言っている。騎士の矜持も勝利も二つあって意味があるものだ」
ステラとセルランの意見も対立が起き始め、このままだとあまりよろしくない結果になる気がする。
それを思ってか、クロートが一度止めに入る。
「いい加減にしてください。マリアさまの前ですよ。一度冷静になってください」
騎士たちはハッとなり、心を落ち着かせる。
クロートは次にリムミントに今回の反省点を促す。
「今回感じたのは、やはり個々の魔力差ですね。こちらが二つの駒を染めている間に相手に三つの駒を染められてはどうにもなりません」
「確かに魔力の差は大きな差ですからね」
わたしは同意の声をあげた。
この差をどうにか縮めないことにはどうすることもできない。
「わたしはそれ以前の話だと思っています」
クロートの発言にみんながクロートを見る。
「まず指揮系統を作らないとどうにもなりません。相手は常に何かしら作戦のもとに行なっていました。こちらも全体を見られる指揮官を立てないことにはどうにもなりません。正直今のリムミントでは荷が重いでしょう。まだわたしの弟の方がいい指示を出すでしょう」
「その愚図がか? 笑わせる。だれがそいつの指示なんて従うんだ。もしわたしがその場にいたら、間違いなく従わんな」
「ええそうでしょう。だからもっと適任なお方がいるではありませんか」
クロートが誰を言っているのかわたしは思い付かなかった。
全員が同じ考えである。
セルランはクロートのことを鼻で笑う。
「ほう、では聞かせてもらおうか。その優秀な人間を。リムミントより賢い文官がいるのなら側近に推薦を出さなければな」
「文官ではありませんよ。もちろん騎士でも侍従でもありません」
クロートの言葉にセルランは怪訝な顔をする。
そしてなにかを思いついたのか次第に顔を怒気で紅くする。
わたしは誰のことを言っているのかわからない。
次第に側近たちも気付いたのか、セルランとステラがクロートを責める。
「ふざけるな! 学生の遊びとはいえ本気で考えているのか」
「そうです。ただでさえ、騎士以外の女性の参加はほとんどないのに、そのような危険なことはさせられません!」
「何を言っているのですか。それを守るのが騎士の役目でしょう。姫さま以上にリーダーが務まる者はいませんよ」
「……ふぇえ?」
思わず変な声が出た。
今何を言ったのかゆっくり反芻する。
……聞き間違いかしら?
わたしはクロートにもう一度確認する。
「クロート、大変申し訳ございません。ちょっと聞き間違えたのかもしれないけど、わたくしをリーダーっておっしゃいました?」
「はい。今回は姫さま主導での領地改革。それでしたら姫さまがリーダーとして出るのはおかしい事ではありません。これを機会に他の貴族たちにも示しましょう。マリア・ジョセフィーヌは本気で領地発展を目指しているのに、その下にいる者たちが指を咥えるだけで恩恵に預かろうするのかと」
クロートの言葉に納得できるが前代未聞だ。
当主候補生及び領主候補生の令嬢が季節祭の戦いに参加するのは、淑女の嗜みに反するという共通認識がある。
だが一番の問題はわたしに策を立てる戦略がないことだ。
「今回姫さまは季節祭を優勝させるお考えがあるのですよね?」
クロートの顔が愉快げに見える。
しかしここで否定もできない。
クロートにすべて任せる作戦は、パラストカーティとの話し合いの時点で潰れている。
わたしは頷くしかない。
「も、もちろんですわよ。最高の策がありますわよ。いい機会ですから誰が主人かをお伝えしましょう」
どうもクロートの手のひらで踊らされている。
だがもう乗るしかない。
もうわたしではこの筋書きを変えられない。
「マリアさま、お考え直しください。クロート、今回のは騎士祭ではなく魔法祭だ。キングのルールはない」
……お願い、助けてセルラン!
わたしは自分が出ないでいい方法がないかをセルランに託す。
だが無常にもクロートは言い返す。
「別にキングのルールがあろうとなかろうと姫さまが指揮官として参加できないわけではありません」
「それに試合中ではわたしがマリアさまを守れない」
「それならヴェルダンディとルキノがいます。二人の実力なら変わりない働きをするでしょう」
セルランの睨みにも動じず淡々と返す。
クロートが爵位の差を物ともせずに言い返すその姿を、セルランは疎ましく思っているだろう。
次第にその目は熱を帯び始めている気がする、
「そんなに姫さまを信用できないのですか?」
クロートの言葉にセルランは凍りつく。
わたしもその言葉に何かモヤっとしたものが心にまとわりついているような気がした。
セルランは一瞬呆けたかと思ったが、すぐに激情を表す。
「お前、よくもマリアさまに不信感を煽るようなことを言ってくれたな。今日という今日は許せん」
「許さないからどうしたというのですか。いい加減あなたとのやり取りもうんざりですよ」
クロートも激情をのぞかせる
このまま、二人を喧嘩させてはいけない。
その時思いがけない人物が声を荒げる。
「い、いい加減にしてください! クロート、セルラン、決めるのはマリアさまです! お互いの意見を通してほしいならマリアさまにお伺いしてください! マリアさまは本気でこの領土を発展させようとしているのにお役に立てないでどうしますか!」
普段は頼りない下僕が声を荒げる。
初めて聞いた下僕の怒りに誰もが目を大きく開ける。
……下僕。
クロートはお父様の臣下であるため強く言うことができるが、下僕はそれがない。
下僕の代わりは他にもいる。
彼はまさに命をかけて言ったのだ。
……わたしは
そこで夢の中でわたしは望まれて死ぬという。
それは誰からも生きてほしいと思われなかったからだ。
あの時、わたしのために命をかけていた者はいたのだろうか。
もし、手紙の通りにしなければわたしはいつものように季節祭は不参加だっただろう。
わたしは側近たちから見て良き主人だろうか。
しかし、セルランにはさらに神経を逆撫でしたようだ。
「なっ、下僕の分際でこのわたしに意見などっ!」
「いい加減にしなさい! 」
セルランが矛先を下僕に変えた時、わたしは下僕の勇気ある言葉で目が醒める。
今は保身に走っている場合ではない。
自身の命の危険は、自分で取り除かねばならない。
それなのに今逃げている場合ではないのだ。
出来る手をすべて打ってでも、わたしは自身の命を守ってみせる。
わたしはもともと自分の運命に翻弄される女だったわけではない。
「セルラン、あなたがわたくしを心配してくれているのはわかります。ですが、決めるのはわたくしです。それとクロート、セルランはわたしを信用していないわけではありません。彼は立派な騎士です。二度目の侮辱は許しません。全員に周知します。わたくしは勝つためなら何でもします。わたくしの手を煩わせるかどうかを議論の中心に置くのを禁じます。わたくしは誇り高き五大貴族の次期当主、マリア・ジョセフィーヌ、この名を持って命じます。わたくしを天より向こうの頂きに連れていきなさい!」
全員が椅子から降りて、膝を突いてわたしに再度忠誠を誓う。
わたしはこの者たちの主人として、導かねばならないと強く実感する日であった。
まずはセルランが口火を切る。
「さて、まずは騎士の目から見させてもらったが、騎士の練度が悪すぎる。ヴェルダンディもルキノも何をシュトラレーセの騎士ごときに手こずるのだ」
「いやいや、二人の上級騎士と互角なら問題ないだろ。セルランなら一人でもっと倒せるかもしれんが、俺は俺で頑張ったぞ」
「ヴェルダンディは一人で突っ込みすぎです。わたしと二人で戦えばもっと上手くいきました」
「ルキノはトロいんだよ。もっと前に出てくれれば俺も戦いやすいのに」
三人が自己主張するため空気が悪い。
己の実力に自信があるため、先ほどの戦いに間違いはなかったと二人は考えている。
「二人とも実力があるのですから、もう少し周りを生かす戦い方をしてください。セルランみたいに鬼神の強さを出す必要はございません」
「甘いことを言うな、ステラ。マリアさまの護衛騎士たる者全ての騎士の模範となる強さを見せつけねばならない」
「それはあなただけの理屈です。今回は勝つことが目的なのですから、騎士の矜持は二の次に考えてください!」
「何を言っている。騎士の矜持も勝利も二つあって意味があるものだ」
ステラとセルランの意見も対立が起き始め、このままだとあまりよろしくない結果になる気がする。
それを思ってか、クロートが一度止めに入る。
「いい加減にしてください。マリアさまの前ですよ。一度冷静になってください」
騎士たちはハッとなり、心を落ち着かせる。
クロートは次にリムミントに今回の反省点を促す。
「今回感じたのは、やはり個々の魔力差ですね。こちらが二つの駒を染めている間に相手に三つの駒を染められてはどうにもなりません」
「確かに魔力の差は大きな差ですからね」
わたしは同意の声をあげた。
この差をどうにか縮めないことにはどうすることもできない。
「わたしはそれ以前の話だと思っています」
クロートの発言にみんながクロートを見る。
「まず指揮系統を作らないとどうにもなりません。相手は常に何かしら作戦のもとに行なっていました。こちらも全体を見られる指揮官を立てないことにはどうにもなりません。正直今のリムミントでは荷が重いでしょう。まだわたしの弟の方がいい指示を出すでしょう」
「その愚図がか? 笑わせる。だれがそいつの指示なんて従うんだ。もしわたしがその場にいたら、間違いなく従わんな」
「ええそうでしょう。だからもっと適任なお方がいるではありませんか」
クロートが誰を言っているのかわたしは思い付かなかった。
全員が同じ考えである。
セルランはクロートのことを鼻で笑う。
「ほう、では聞かせてもらおうか。その優秀な人間を。リムミントより賢い文官がいるのなら側近に推薦を出さなければな」
「文官ではありませんよ。もちろん騎士でも侍従でもありません」
クロートの言葉にセルランは怪訝な顔をする。
そしてなにかを思いついたのか次第に顔を怒気で紅くする。
わたしは誰のことを言っているのかわからない。
次第に側近たちも気付いたのか、セルランとステラがクロートを責める。
「ふざけるな! 学生の遊びとはいえ本気で考えているのか」
「そうです。ただでさえ、騎士以外の女性の参加はほとんどないのに、そのような危険なことはさせられません!」
「何を言っているのですか。それを守るのが騎士の役目でしょう。姫さま以上にリーダーが務まる者はいませんよ」
「……ふぇえ?」
思わず変な声が出た。
今何を言ったのかゆっくり反芻する。
……聞き間違いかしら?
わたしはクロートにもう一度確認する。
「クロート、大変申し訳ございません。ちょっと聞き間違えたのかもしれないけど、わたくしをリーダーっておっしゃいました?」
「はい。今回は姫さま主導での領地改革。それでしたら姫さまがリーダーとして出るのはおかしい事ではありません。これを機会に他の貴族たちにも示しましょう。マリア・ジョセフィーヌは本気で領地発展を目指しているのに、その下にいる者たちが指を咥えるだけで恩恵に預かろうするのかと」
クロートの言葉に納得できるが前代未聞だ。
当主候補生及び領主候補生の令嬢が季節祭の戦いに参加するのは、淑女の嗜みに反するという共通認識がある。
だが一番の問題はわたしに策を立てる戦略がないことだ。
「今回姫さまは季節祭を優勝させるお考えがあるのですよね?」
クロートの顔が愉快げに見える。
しかしここで否定もできない。
クロートにすべて任せる作戦は、パラストカーティとの話し合いの時点で潰れている。
わたしは頷くしかない。
「も、もちろんですわよ。最高の策がありますわよ。いい機会ですから誰が主人かをお伝えしましょう」
どうもクロートの手のひらで踊らされている。
だがもう乗るしかない。
もうわたしではこの筋書きを変えられない。
「マリアさま、お考え直しください。クロート、今回のは騎士祭ではなく魔法祭だ。キングのルールはない」
……お願い、助けてセルラン!
わたしは自分が出ないでいい方法がないかをセルランに託す。
だが無常にもクロートは言い返す。
「別にキングのルールがあろうとなかろうと姫さまが指揮官として参加できないわけではありません」
「それに試合中ではわたしがマリアさまを守れない」
「それならヴェルダンディとルキノがいます。二人の実力なら変わりない働きをするでしょう」
セルランの睨みにも動じず淡々と返す。
クロートが爵位の差を物ともせずに言い返すその姿を、セルランは疎ましく思っているだろう。
次第にその目は熱を帯び始めている気がする、
「そんなに姫さまを信用できないのですか?」
クロートの言葉にセルランは凍りつく。
わたしもその言葉に何かモヤっとしたものが心にまとわりついているような気がした。
セルランは一瞬呆けたかと思ったが、すぐに激情を表す。
「お前、よくもマリアさまに不信感を煽るようなことを言ってくれたな。今日という今日は許せん」
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クロートも激情をのぞかせる
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その時思いがけない人物が声を荒げる。
「い、いい加減にしてください! クロート、セルラン、決めるのはマリアさまです! お互いの意見を通してほしいならマリアさまにお伺いしてください! マリアさまは本気でこの領土を発展させようとしているのにお役に立てないでどうしますか!」
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クロートはお父様の臣下であるため強く言うことができるが、下僕はそれがない。
下僕の代わりは他にもいる。
彼はまさに命をかけて言ったのだ。
……わたしは
そこで夢の中でわたしは望まれて死ぬという。
それは誰からも生きてほしいと思われなかったからだ。
あの時、わたしのために命をかけていた者はいたのだろうか。
もし、手紙の通りにしなければわたしはいつものように季節祭は不参加だっただろう。
わたしは側近たちから見て良き主人だろうか。
しかし、セルランにはさらに神経を逆撫でしたようだ。
「なっ、下僕の分際でこのわたしに意見などっ!」
「いい加減にしなさい! 」
セルランが矛先を下僕に変えた時、わたしは下僕の勇気ある言葉で目が醒める。
今は保身に走っている場合ではない。
自身の命の危険は、自分で取り除かねばならない。
それなのに今逃げている場合ではないのだ。
出来る手をすべて打ってでも、わたしは自身の命を守ってみせる。
わたしはもともと自分の運命に翻弄される女だったわけではない。
「セルラン、あなたがわたくしを心配してくれているのはわかります。ですが、決めるのはわたくしです。それとクロート、セルランはわたしを信用していないわけではありません。彼は立派な騎士です。二度目の侮辱は許しません。全員に周知します。わたくしは勝つためなら何でもします。わたくしの手を煩わせるかどうかを議論の中心に置くのを禁じます。わたくしは誇り高き五大貴族の次期当主、マリア・ジョセフィーヌ、この名を持って命じます。わたくしを天より向こうの頂きに連れていきなさい!」
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