悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
80 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

水の神の眷属クリスタライザー

しおりを挟む
 朝食を食べながらわたしは夢のことを思い出していた。
 夢の中ではかなり頭がボーっとしていたが、今思い返すとあの鳴き声はパラストカーティで聞こえてきた鳴き声だった。
 これは偶然なのか、それともわたしに何かを伝えようとしているのかもしれない。


「姫さま、お食事中に考え事とはあまり行儀が良いものではありませんよ」


 手が止まって物思いにふけっていたためすかさずサラスから小言をいただいた。
 物知りなサラスならもしかすれば何か知っているかもしれない。


「サラス、クラゲみたいな神さまっていましたかしら?」
「姫さま、まさか本気で言っているわけではありませんよね? 」


 思った疑問を聞いたら思いがけない返答が返ってきた。
 わたしはゴクリと息をのんで必死に考える。
 そこで思い出した。
 水の神の眷属には助言と忠告をしてくれるクラゲのような神がいると。


「思い出してくれまして本当にようございました。セルランたちを見送る前に講義をしないといけませんでしたから」
「うっ……」


 このような大事な日に朝からサラスの授業なんてたまったものじゃない。
 あまり迂闊なことを言うと自分の首を締めかねない。
 黙って食事を続け、調査へ向かう騎士たちの出立時間まで夢について何度も思い出した。


「それでは総勢二十の騎士はわたしと共に降りるように」


 まさかネツキ自らこの洞窟へ向かうとはおもわず、ただの口だけ男だと甘く見ていたようだ。
 ネツキ自身元々は騎士として名を上げていたが、年齢も上がったことで持ち前の知識欲を生かして文官へと職を変えている。
 まずはネツキ率いる騎士たちが先に降りていって、続いてセルランがジョセフィーヌ領から連れてきた騎士五人を連れて降りることになっている。

「ではマリアさま、行ってまいります。最初のフロアから道が分かれているようなので、ネツキとは別の方向から祭壇まで降りてみせます」
「セルラン、あなたなら何も問題ないと思いますがもし万が一でも危険だと判断したら引き返してください」


 セルランなら問題ないとわかっているがそれでも一抹の不安はある。
 どうにもネツキがたびたびこちらを見てにやけている。
 言いようも知れない不安があるが、たとえネツキの妨害があろうともセルランをどうにかできるとは思えない。

「マリアさま、出発の前に騎士の誓いをさせていただきます」

 セルランはわたしの前でひざまずいて、わたしの手を握っておでこに付ける。
 わざわざすることもないのに、わたしの不安を少しでも取り除くためだろう。


「わたしはマリアさまに仕える剣と盾の称号を持つ騎士として、主人の命令をこの身を以て叶えて見せましょう。……ご心配には及びません。わたしの戻る場所は貴方さまの側です。マリアさまの剣として必ずや役目を遂行してみせます」


 そう、セルランは最強の騎士だ。
 もしセルランでダメならば誰が行こうとも生きては帰ってこられない。
 それに今日はセルランも十分に体を休めているので、たとえデビルキングだろうとも倒してくれるだろう。


「ええ、信じています。最愛なるわたくしの騎士よ。貴方の誓いはしかと受け取りました。ではお行きなさい」


 セルランは顔を引き締めて洞窟の地下へと降りていく。
 わたしにできることは待つことだけだ。
 セルランがいなくなってから、時を見計らっていたクロートがやってきた。
 その顔はメガネ越しからわかるほど、不機嫌さが伝わってくる。

「怒っていますの?」
「姫さまにではありません、自分自身にです。まさかあのような男に出し抜かされて、姫さまに交渉をさせるなんて。小心者だと侮りすぎました。ただセルランなら知恵ある魔物の危険性くらいわかっているはずなので、心配はいらないでしょう」


 クロートがここまで表情を露わにするとはおもわず、彼にも人間味はあるようだと実感する。
 そこで先ほど見た夢について聞いてみようと考えた。
 やはり夢のように祭壇なんてない。
 あるのは壁だけだ。


「クロート少しあのテントでお話しをしませんか?」
「ええ? 構いませんが」


 わたしは人払いをしてクロートと二人でテントへ入った。
 一応男女だけで入るのは外聞が悪いため、もう一人の証人としてレイナにも来てもらった。


「荒唐無稽な相談なのですが、今日夢でクラゲの姿をした生物が現れましたの」
「クリスタライザー!? バカな……いやあの儀式で……」


 わたしはそこでやっと水の神の眷属がクリスタライザーという名前だったことを思い出す。
 だがどうにもクロートは狼狽えすぎではないだろうか。


「さすがはマリアさまですね。わざわざ神の眷属が夢の中までお会いに来てくださるなんて」
「わたくしも初めてみたことけどすごく可愛らしくてーー」
「クリスタライザーは何を見せたのですか!」


 危うくレイナと雑談しかけたがクロートが遮って、わたしの夢について詳しく話すように言ってくる。
 わたしも本題はこの夢なので話題を戻す。


「あの洞窟前の右手の方向に祭壇がありましたの。でもそこには壁しかないからあれはただの夢なのか、それとも何かを伝えようとしてくれたのかを相談したかったのです」
「クリスタライザーが現れるということはマリアさまについて良くない知らせがある時です」

 わたしはそこでセルランを送り出したことこそが良くないことだったのではないかと、体中から血の気が引いていく。
 クロートも焦っている様子から冗談で言っているわけではない。


「ここにいても仕方がありません。急いでそこへ向かいましょう」


 わたしはクロートたちとテントの外へ向かうと何やら騒ぎが起きている。
 そこでラケシスと下僕が走ってこちらまで来て何が起きたかを伝えてくれる。


「姫さま、ここは危険です。一度シュティレンツの城までお逃げください!」
「一体どうしたのですか? 何をそんなに慌てているのです?」
「南方より大群の魔物が押し寄せてきているようです。シュティレンツの騎士たちが迎撃に出ていますが、この数は異常事態すぎてマリアさまの無事が確約できません」


 まさかこのような時に魔物の群れがくると思ってもみなかった。
 だがどうしても、夢でみた祭壇の場所へ再度行かねばならない。
 眷属がわざわざわたしに知らせようとしてくるほどだから、ここで確かめないのは何か嫌な予感がする。


「姫さま、逃げますよ!」

 サラスがわたしの手を引いて逃げようとするがそれを振り払った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...