悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
120 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

亀裂

しおりを挟む
 ピエールの熱血授業から回復したわたしはレティアと共に食堂へと向かった。

「もうビックリしました。あまり無理をするとまた倒れますよ?」


 レティアは可愛らしくそう言った。
 わたしは微笑ましく思いながら、ふと今日は服装に力が入っていることに気付いた。

「今日は何か予定がありますの?」

 わたしがそう聞くとレティアは少し暗くなった。

「はい。今年入った領主候補生たちとお茶会をする予定です。ゴーステフラートも誘ったので来てくれるようですが、シュティレンツと仲が悪くなっているようなので、問題がなければいいと思っております」


 ゴーステフラートは今非常に不安定な場所にいる。
 順位は上がったが、ジョセフィーヌとゼヌニムの間で揺れ動いているので、仲間とも敵ともいえる。

「そうですね。でももう少しの辛抱です。わたくしが絶対にヨハネから取り戻します。姉として約束しますね」

 わたしはなるべく元気付けるためそう言ったら、レティアの顔は先ほどよりも明るくなった。

「お姉さまがそう言ってくれるなら安心です」

 その時、騒がしい声がこちらまで聞こえてきた。
 どうやらどこかで喧嘩しているらしく、この寮内ならジョセフィーヌが管理する三領土のどこかだ。

「見過ごせませんわね。レティア、当主一族として止めるわよ」
「はい……」


 レティアはまだこういった喧嘩の仲裁はしたことないだろうから、わたしが手本を見せないといけない。
 しばらく廊下を進むと、数人の男女がお互いに睨み合っていた。
 マントの色から、ゴーステフラートとシュティレンツだとわかった。
 シュティレンツの男がトライードを取り出して、今にも殺傷が起きそうな予感がした。

「貴方達、喧嘩はおやめなさい」

 わたしが声をあげたことで全員の注目がこちらに集まった。
 誰一人例外なく固まってしまい、一人が私の名前を口にした。

「ま、マリアさま!?」


 その言葉で全員が我に返って、姿勢を正して礼をした。

「王国院内での他領との喧嘩は禁止しております。特にトライードまで持ち出したとなると、殺傷の危険がありました。ですので、貴方だけは少し重い罰則を与えます。他の者も同じく罰則を与えるのでそのつもりでいてください」

 わたしは端的にそう言った。
 しかしトライードを持っている青年はそう思っていない顔をしている。

「マリアさま、どうかわかってください。この者たちはジョセフィーヌに仇なす領土です。これまでジョセフィーヌからたくさんの恩恵を受けながら、それを裏切るのですよ」

 必死な顔でそう言っているが、わたしは無条件でシュティレンツに肩入れする気はない。

「まだゴーステフラートはゼヌニムにいっておりません。今はそういった諍いをやめてください。貴方は少し興奮が過ぎますので、あなたとあなた、今回起きたことを述べなさい」

 わたしは両領土の女性を選んで今回の事の顛末を聞いた。
 まずはゴーステフラートからだ。


「はい、わたくしたちは図書館の本を借りようとしました。その時欲しかった本を見つけて借りようとしたのですが、シュティレンツの方々が来られて上級貴族の方が借りる権利があると無理やり奪おうとしたのです。ご存知だと思いますが、借りる権利は上級貴族の方が上です。ですが、我々はすでに七位まで上がって、上位領地の仲間入りです。そうなれば中級貴族であろうとも中位の領地の上級貴族とほとんど対等だと思っております」

 本の貸し出しは本来地位の高い貴族から優先的だ。
 暗黙のルールとして、上位の領地の場合にはその限りではなくなるなることがある。
 元々はどちらも中領地だったので普通のルールが適用されたが、ゴーステフラートは順位を二つもあげた。
 そうなると暗黙のルールが適用されるべきだと言っている。

「なるほどよくわかりました。シュティレンツ側の言い分はありますか?」

 女学生はもちろんです、と強く答えた。

「この頃のゴーステフラートは目に余ります。最近はマリアさまが我々のためにこれほど精力的に動いてくださるのに、魔法祭どころか騎士祭でさえ非協力的。それなのに権利ばかり主張するのはどう考えてもおかしい。どうかマリアさま、主人を裏切った者たちにこそ罰をお与えください」


 どちらも今の状況からくる不安に煽られている。
 だがここでわたしが不安になっては上に立つ者として失格だ。

「なるほど、両者の言い分は分かりました。ですが、喧嘩までしていい理由ではありません。ゴーステフラートは今の情勢ですので、もうしばらく事を荒げないようにしてください。シュティレンツは上位領地への対応がなっておりませんので、情勢関係なく一般的なルールに従ってください。お互いに燻るものがあると思いますが、両者手打ちとします。罰則は後日伝えますので、あとで代表者は呼び出します」


  まだお互いに納得はしていないようだがわたしの意見に逆らうつもりはないようだ。
 その時、護衛騎士を連れてユリナナが食堂へ行こうとしていた。
 ユリナナもこちらに気付いて、自領の者がいることに気付いたようだ。

「マリアさま、おはようございます。わたくしの領土の者が何かしましたでしょうか」


 わたしは今回起きたことを両者の観点から伝えた。
 ユリナナは頭を下げて謝罪した。

「マリアさまの手を煩わせて申し訳ございません」
「いいえ、何もなかったからよかったです。ゴーステフラートもわたくしの大事な領民です。お互いに非があったのですから、貴女が謝ることはありません。それにヨハネから取り戻す予定ですので、お互いの領土の仲が悪くなってはその後の経済にも大きな打撃が来ます。ユリナナさんも大変でしょうが、もうしばらく辛抱してください」


 わたしは心配をかけまいとそう言ったが、ユリナナはほんの少し表情が動いてすぐに戻した。

「心遣いありがたいですが、ゴーステフラートの総意はゼヌニム領に傾いております。どうかこれ以上の気遣いはゴーステフラートには不要です。わたくしはそうする意味と覚悟がありますので。ではこれにて失礼します」


 ユリナナは再度一礼して、ゴーステフラートの学生を連れて専用の食堂へ向かった。
 レティアが不安げにこちらを見ていた。

「ユリナナさまの噂は本当のようですね」
「噂? 何かありますの?」

 わたしはユリナナの噂を聞いてはいない。
 おそらくお茶会を何度か行ううちに知ったのだろう。

「あとでお部屋に伺いますので、その時話しますね」

 どうやらユリナナにはゼヌニムでないといけない理由があるようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...