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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
待ち望む変化
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二人の男女は緊張した様子でバラ園へと入ってきた。
男性は見たことはある顔だったが女性は全く面識がない。
ローブの色で判断するとゼヌニムだが、今なお禍根が残るのによく今回のお招きに応じたものだ。
レイナが二人を連れて私の前まで先導した。
わたくしの目の前に来て神々の長い装飾の入った挨拶を終えた。
男性はアル、女性はヴェガという名前で、どちらも中級貴族だという。
「えっと、カナリアさん。この二人は?」
急に来たので、わたくしも全く情報がない。
だがカナリアは落ち着いて、真剣な顔で教えてくれた。
「何も相談せずにこの者たちを呼んでしまい申し訳ございません。この二人を見つけたのは実は今日でしたので、突然ですが一緒に来てもらったのです」
カナリアが今日見つけた男女をどうしてわたくしに会わせたいのか。
しかし次に衝撃の事実を言われた。
「実はこの二人、恋人同士らしいのです」
「えええーー!」
マジマジと二人の男女を見た。
二人は照れよりも緊張が大きいようで、戸惑った顔をしていた。
「えっと、ごめんなさい。二人は愛し合っている……のよね?」
ユリナナの件で仲が悪い領土同士でも恋はあるのだと知ってはいたが、やはりわたしの常識でないことだと自信が持てなくなり、自然と疑問形で聞いてしまった。
二人は特に気分を害した様子もなく、同時に首を縦に振った。
「はい、僕はヴェガを愛しています。たとえ仲の悪い領土だとしても、この気持ちに嘘はつけません」
「わたしも同じ気持ちです」
覚悟を決めた目でわたしを見てくる。
貴族たる者、わたしの前でもし不興を買えばどうなるかは分かっているだろう。
たとえ、ゼヌニムと仲を深めようと画策しているとはいえ、まだ確定情報が出ていない状況では少しばかり無謀すぎる。
おそらくはカナリアがわたしを信用して彼らを説得したのだろう。
「マリアさまが何やら頑張られていることは知っております。そこでわたくしたちシスターズでも密かに集まって、マリアさまの真意を探って少しでもお役に立とうとしました。ユリナナさんの噂は知っておりましたので、おそらく恋の応援をするつもりだと思い、同じように禁じられた恋で苦しんでいるのか情報を集めてやっとこの二人に出会えたのです」
おそらくかなり難航したことだろう。
万が一、この二人の恋が別の者にバレれば何が起きるか分からない。
そのため、誰にも悟られずにひっそりと王国院内だけの恋で終わらせるつもりだったのだろう。
「わたくしの妹たちは優秀ですね。ねえ、お二人のご両親はこの関係をご存知なのですか?」
答えがわかっている質問だが、念のため確認をしてみる。
「いいえ、誰にもこの関係は伝えておりません。もし知られればどのようなことが起きるかわかりませんから」
「仮に家族公認の仲になっても、近い将来家が苦しい立場に置かれるのは目に見えております。だからわたしはこの王国院の中だけでいいので、夢を見ていたいのです。いつか必ず覚める夢だとしても」
二人はしっかり覚悟を決めているようだ。
今まで黙っていたセレーネがカナリアに質問をした。
「カナリアさまはわざわざこの二人を呼んできたのはどうしてなんですか? ただ呼んだのではないのでしょう?」
「ええ、その通りです。マリアさまは今回のお茶会を通してどのような未来を思い描いているのですか? どうかその後の展望をお聞かせください」
彼女は問うているのだ。
これは領土を取り返すための戦略で一時的な混乱で済ませるのか。
それとも、これまでに捻りに捻られた価値観を元の形に戻す気なのかと。
一体何が起こるか分からない情勢に誰もが不安を抱え、どこにつけばいいのか分からなくなっている。
もしここでわたしが失敗したら、一気にヨハネから今の地位を奪われるかもしれない。
そしてわたしに付いていった者たちも一緒に転落の人生を歩むことになるだろう。
「わたくしは一時的なことのために動く気はありません。行うからには未来に希望のある形にします。確かにゼヌニムとの仲は良くはありません。もしかしたらわたくしのせいで、もう二度と修復の出来ない関係になるかもしれません。ですが、貴方達のように苦しむ民を見て見ぬふりはするつもりはないです。何年後には楽しい毎日が来ることを今は願うしかありませんが、お二人はわたくしのそんな未来を望んではくれますか?」
わたしの言葉に二人は一度顔を見つめ合って、再度わたしを見た。
アルは絞り出すように、勇気を持って答えた。
「願っても……いいのでしょうか」
「ええ、わたくしを良く知っているとは思いますが、蒼の髪を持った乙女ですよ。奇跡なんて簡単に起こしてみせます」
「ゼヌニム領のわたしも……受け入れてもらえますか?」
「水の神は全て受け入れてきたと聞きます。敬愛する水の神のようにわたくしもそうなれる器を目指しましょう」
二人はわたしに頭を下げて、お礼の言葉を残して去っていった。
彼らの苦難を少しでも減らすためにわたしもこれから頑張らないといけない。
カナリアもわたしに頭を下げた。
「この国を統べる一族の方に試すようなことを聞いたことをお許しください」
「いいのよ。わたくしもまだまだ甘い見通しだと気付かされました。彼らがリスクを取ってくれたのですから、わたくしも同じくリスクを負わなければいけませんね」
わたしは今も頭の中で次なることを考えている。
正直あまり褒められた手ではないだろうが、一つだけ思い付いた方法がある。
「ねえ、二人とも、お願いがあるのですが、聞いてくださいますか?」
友人にしか頼めない。
かなりの博打だが、これならもう静観なんてできない。
誰もが噂ではなく事実として受け入れてくれるだろう。
二人はわたしの真剣な顔に覚悟を決めていた。
一体どのようなお願いかを聞き漏らしがないように。
わたしが口を開けた瞬間にレイナが口を挟んできた。
「マリアさま、サラスさまとリムミントさまはもちろんご存知ですよね?」
わたしは開いた口をゆっくり下ろして、ニッコリと笑顔をカナリアとセレーネに向けた。
「文官を通して後でお願いしますわね」
カナリアとセレーネは唖然としていた。
もしこのまま進めていたら、また長い説教が始まっていたことだろう。
……ナイスフォローよ、レイナ!
幼馴染に大変感謝するのだった。
男性は見たことはある顔だったが女性は全く面識がない。
ローブの色で判断するとゼヌニムだが、今なお禍根が残るのによく今回のお招きに応じたものだ。
レイナが二人を連れて私の前まで先導した。
わたくしの目の前に来て神々の長い装飾の入った挨拶を終えた。
男性はアル、女性はヴェガという名前で、どちらも中級貴族だという。
「えっと、カナリアさん。この二人は?」
急に来たので、わたくしも全く情報がない。
だがカナリアは落ち着いて、真剣な顔で教えてくれた。
「何も相談せずにこの者たちを呼んでしまい申し訳ございません。この二人を見つけたのは実は今日でしたので、突然ですが一緒に来てもらったのです」
カナリアが今日見つけた男女をどうしてわたくしに会わせたいのか。
しかし次に衝撃の事実を言われた。
「実はこの二人、恋人同士らしいのです」
「えええーー!」
マジマジと二人の男女を見た。
二人は照れよりも緊張が大きいようで、戸惑った顔をしていた。
「えっと、ごめんなさい。二人は愛し合っている……のよね?」
ユリナナの件で仲が悪い領土同士でも恋はあるのだと知ってはいたが、やはりわたしの常識でないことだと自信が持てなくなり、自然と疑問形で聞いてしまった。
二人は特に気分を害した様子もなく、同時に首を縦に振った。
「はい、僕はヴェガを愛しています。たとえ仲の悪い領土だとしても、この気持ちに嘘はつけません」
「わたしも同じ気持ちです」
覚悟を決めた目でわたしを見てくる。
貴族たる者、わたしの前でもし不興を買えばどうなるかは分かっているだろう。
たとえ、ゼヌニムと仲を深めようと画策しているとはいえ、まだ確定情報が出ていない状況では少しばかり無謀すぎる。
おそらくはカナリアがわたしを信用して彼らを説得したのだろう。
「マリアさまが何やら頑張られていることは知っております。そこでわたくしたちシスターズでも密かに集まって、マリアさまの真意を探って少しでもお役に立とうとしました。ユリナナさんの噂は知っておりましたので、おそらく恋の応援をするつもりだと思い、同じように禁じられた恋で苦しんでいるのか情報を集めてやっとこの二人に出会えたのです」
おそらくかなり難航したことだろう。
万が一、この二人の恋が別の者にバレれば何が起きるか分からない。
そのため、誰にも悟られずにひっそりと王国院内だけの恋で終わらせるつもりだったのだろう。
「わたくしの妹たちは優秀ですね。ねえ、お二人のご両親はこの関係をご存知なのですか?」
答えがわかっている質問だが、念のため確認をしてみる。
「いいえ、誰にもこの関係は伝えておりません。もし知られればどのようなことが起きるかわかりませんから」
「仮に家族公認の仲になっても、近い将来家が苦しい立場に置かれるのは目に見えております。だからわたしはこの王国院の中だけでいいので、夢を見ていたいのです。いつか必ず覚める夢だとしても」
二人はしっかり覚悟を決めているようだ。
今まで黙っていたセレーネがカナリアに質問をした。
「カナリアさまはわざわざこの二人を呼んできたのはどうしてなんですか? ただ呼んだのではないのでしょう?」
「ええ、その通りです。マリアさまは今回のお茶会を通してどのような未来を思い描いているのですか? どうかその後の展望をお聞かせください」
彼女は問うているのだ。
これは領土を取り返すための戦略で一時的な混乱で済ませるのか。
それとも、これまでに捻りに捻られた価値観を元の形に戻す気なのかと。
一体何が起こるか分からない情勢に誰もが不安を抱え、どこにつけばいいのか分からなくなっている。
もしここでわたしが失敗したら、一気にヨハネから今の地位を奪われるかもしれない。
そしてわたしに付いていった者たちも一緒に転落の人生を歩むことになるだろう。
「わたくしは一時的なことのために動く気はありません。行うからには未来に希望のある形にします。確かにゼヌニムとの仲は良くはありません。もしかしたらわたくしのせいで、もう二度と修復の出来ない関係になるかもしれません。ですが、貴方達のように苦しむ民を見て見ぬふりはするつもりはないです。何年後には楽しい毎日が来ることを今は願うしかありませんが、お二人はわたくしのそんな未来を望んではくれますか?」
わたしの言葉に二人は一度顔を見つめ合って、再度わたしを見た。
アルは絞り出すように、勇気を持って答えた。
「願っても……いいのでしょうか」
「ええ、わたくしを良く知っているとは思いますが、蒼の髪を持った乙女ですよ。奇跡なんて簡単に起こしてみせます」
「ゼヌニム領のわたしも……受け入れてもらえますか?」
「水の神は全て受け入れてきたと聞きます。敬愛する水の神のようにわたくしもそうなれる器を目指しましょう」
二人はわたしに頭を下げて、お礼の言葉を残して去っていった。
彼らの苦難を少しでも減らすためにわたしもこれから頑張らないといけない。
カナリアもわたしに頭を下げた。
「この国を統べる一族の方に試すようなことを聞いたことをお許しください」
「いいのよ。わたくしもまだまだ甘い見通しだと気付かされました。彼らがリスクを取ってくれたのですから、わたくしも同じくリスクを負わなければいけませんね」
わたしは今も頭の中で次なることを考えている。
正直あまり褒められた手ではないだろうが、一つだけ思い付いた方法がある。
「ねえ、二人とも、お願いがあるのですが、聞いてくださいますか?」
友人にしか頼めない。
かなりの博打だが、これならもう静観なんてできない。
誰もが噂ではなく事実として受け入れてくれるだろう。
二人はわたしの真剣な顔に覚悟を決めていた。
一体どのようなお願いかを聞き漏らしがないように。
わたしが口を開けた瞬間にレイナが口を挟んできた。
「マリアさま、サラスさまとリムミントさまはもちろんご存知ですよね?」
わたしは開いた口をゆっくり下ろして、ニッコリと笑顔をカナリアとセレーネに向けた。
「文官を通して後でお願いしますわね」
カナリアとセレーネは唖然としていた。
もしこのまま進めていたら、また長い説教が始まっていたことだろう。
……ナイスフォローよ、レイナ!
幼馴染に大変感謝するのだった。
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