悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

閑話ステラの恋愛話18

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 壁画の文字を写しながら、ホーキンスは教えてくれる。

「そうだね。奇跡の力を使う一族だったからこそ、この国を治める長になったと聞く」
「奇跡の力?」
「そう、たとえばパラストカーティの湖をどんな病でも治す薬にするといったことだ。でもこれは五大貴族が持つ奇跡の力ではなかったと思っている」
「そうなのですか?」


 ホーキンスはこれまでずっと蒼の髪の伝承を追っていた。
 その過程で色々な情報を手に入れたのだろう。

「ええ、マリアさまから情報をもらってそれを統合すると、どうやら水の神の眷属が全ての奇跡を起こしている。つまりは五大貴族とは神と交信できる代弁者というわけだ。そしてそれを出来るのは髪が変色するほどの魔力を持っている者だけだ」

 一理ある話だった。
 姫さまも仰っていたが、眷属が現れて助けてくれたと聞いた。
 シュティレンツでセルランが危機にあった時がそうだ。
 しかし一つだけ疑問があった。

「でもクロートは五大貴族ではありませんよ? それにクロートには眷属を視認することが出来ないと言っておりませんでしたか?」

 前にクロートも眷属が見えるのか姫さまは聞いておられた。
 シュティレンツの城の隠し部屋の時も、姫さまはたくさんの蝶が飛んでいると言っていたが、クロートには全く見えなかったらしい。


「そこなんですよ。あの青年の魔力量と髪の変色。これが一番この伝承をおかしくさせる。一体どうすればいいんだ!」

 ホーキンスは頭を抱えて大きな声をあげた。
 まるで駄々っ子のようになり、よっぽどクロートを調べてみたいようだ。

「大の大人なのですからもう少し気持ちを制御してください。それにそんな調べたいのなら本人にお願いしてみればよろしいではないですか」
「何度もお願いしたさ! でも毎度断られて、とうとうシルヴィから注意が来たんだよ」

 まさかそこまで嫌がるなんて。
 シルヴィが出てくるということはかなりしつこく頼み込んだのだろう。


「ホーキンス先生少しお時間頂いてもよろしいでしょうか」

 声を掛けたのはスフレさまだった。
 どうやら何か分からないことがあったようで確認しに来たのだ。
 疑問を解決してホーキンスにお礼を言った。

「ありがとうございます。変わった魔法陣なのでどうしても解読できなかったのですが、流石はホーキンス先生です」
「古語を使っているから仕方あるまい」
「そう言っていただけると落ち込まずに済みそうです」

 わたくしもホーキンス先生のところへ近づこうと足を踏み出したら足元が光った。

「えっ……」
「危ない!」


 スフレさまがこちらに走ってきた。
 だがもう遅い、スフレさまの顔を見るのが最後景色が真っ暗に変わった。
 何も見えない。
 一体ここはどこなのか分からないので壁を探そうと周りにゆっくり手を回した。

「うぉ!」

 何かに当たり、急に声が聞こえてビクッと体が震えてしまった。
 だがすぐにその声の人物に気付いた。

「スフレさま!?」
「その声はステラさまか。良かった、御無事で。一度灯りを付けます」

 スフレさまが持っている灯りを付けることでやっと周りを見ることができた。
 どうやら小さな部屋のようで、ドアが一つ付いていた。

「ここはどこでしょうか?」
「おそらくは侵入者用のトラップなのでしょう。……やっぱり鍵は向こうからしか開けられないようだ」

 スフレさまがドアを開けるのを断念した。
 鉄格子で出来ているので、人の力ではびくともしない。


「それなら魔法で壊しますか?」
「いいや、それはやめておいたほうがいい。この遺跡自体が古いから、魔法の衝撃で崩れる恐れもある。誰か来るまで待とう」

 わたくしとスフレさまで床に座った。
 今は何もすることができないのでなるべく無駄な体力を削らないようにしないといけない。
 どうにも気まずい時間が流れた。
 薄暗い部屋に異性がいるせいか、どうしても意識してしまう。
 何か話さないと身がもたない。

「「あの……」」

 お互いに声を出したので、思わず顔を背けてしまった。
 先にスフレさまが喋り始めた。

「先日は済まない。ステラさまの気持ちを無視してあのような質問をしてしまって。主君よりわたしを選んで欲しいなんて図々しいと今になって思ったんだ」
「いいえ、こちらこそ気の利いた言葉を返せなくて……」


 スフレさまを立てるべきだったのだろうが、どうしてもあそこで嘘が言えなかった。

 ……スフレさまはどういった顔をしているんだろう?

 顔を再度上げて横を向くと真剣な顔をこちらに向けていた。

「そんなことはない。あれはわたしが失礼なだけだ。自分がステラさまの騎士としての矜持に惹かれたのに、自分からそれを取り去ろうとした。だから!」
「ーー!?」

 スフレさまはわたくしの手を握った。
 熱く視線が交わり、一寸も目を逸らそうとしない。


「少しずつ君の目をわたしへと向けさせる。どんな神の言葉でもなく、自分の言葉で貴女の心を奪って、マリアさま以上に自分に夢中にさせてみせる。その時にまた同じ質問をしてもいいだろうか?」

 スフレさまはわたくしを理解してくださる。
 胸の中が熱くなり、声を出そうとした。
 しかしまだ駄目だ。
 理性がそう言った。
 何故ならまだ姫さまは不安定な時期だ。
 ここでわたくしが離れれば、姫さまの心を大人として支えられる者がいなくなる。
 だが、心の中の気持ちが理性に勝ってしまった。

「わたくしは貴方のことがーー」
「おーい、ステラさま、スフレさま無事ですか?」


 タイミング悪くホーキンスが部屋を開けて入ってきた。
 急いで手を離して立ち上がった。
 こうして今日の探索も終わり、この探索の間は一切スフレさまとお話をしなかった。
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