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第五章 王のいない側近
未来での出来事
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伝承について調べ始めて、五日が経とうとしていた。
みんなの協力でどうにか前には進んでいるが、少ししか進まない。
本が古すぎて解読が難しい。
「飽きましたぁ」
もう頭が疲れてどうにかなりそう。
机に伏せて顔をテーブルに隠す。
クロートのため息が聞こえてくる。
「淑女なのですからそういったことをおやめください。サラスさまがシルヴィの城に戻ったからといって、何をしてもいいわけではありません」
サラスはジョセフィーヌの城に仕える侍従なため、現当主となっているヨハネの侍従となった。
そのためもうわたしたちと共に何かをすることはできない。
代わりとしてクロートがわたしの教育を全て見ることになっている。
ちょうど今なら全員が出払っているのでチャンスだと気付く。
「ねえ、クロート。教えてもらいたいのですが」
「何をです?」
「どうして未来からわざわざ戻ってきたのですか?」
クロートは言葉を詰まらせた。
わたしを見つめて、何を言うか迷っている感じだ。
何だか表情が辛そうに感じたので、わたしは慌てた。
「別に無理して言わなくてもいいのよ!」
思いの外声が大きくなった。
それでクロートは少し笑って、わたしに話し始めた。
「いえ、無理ではありません。ただ未来では色々と大変でした。今では想像出来ないかもしれませんが、側近たちも姫さまからどんどん離れていき、遂には一人となってしまったのです」
そういえばあの夢を見る前は特に勉強も頑張らなかったし、領地を盛り上げようなんて考えていなかった。
しかし、言ってしまえば普通の令嬢と同じような生き方なので特に嫌われるようなことではないのではないか。
「レイナやラケシスも?」
「ええ、ラケシスは特に裏切られたという気持ちで離れていきました。よくもあそこまで罵詈雑言が言えると今では感心できます」
ラケシスがわたしに対して吐く罵詈雑言が想像ができない。
褒める時にあれほど言葉が多く出てくるのだから、貶す時も語彙が豊富なのだろうか。
「わたくしってそんなにひどい性格ですか?」
自分ではなかなか悪いところには気付けないもので、特にわたしに対して悪口を言うなんて命知らずもいいところなため滅多に聞けるものでもない。
だがクロートは首を横に振った。
「全てはその時の行動です。春にあった毒殺未遂の事件を覚えていますか?」
わたしは頷く。
アリアと初めて会った時だ。
あの時はあやうくアリアに殺されるところだった。
魔法を使ったことで側近にもひどく叱られた。
「あれでパラストカーティとシュトラレーセは大量の死人が発生しました。パラストカーティが仕組んだという噂が広まり、ジョセフィーヌとスヴァルトアルフは対立します。さらにメルオープさまがカオディさまを殺してしまい、ジョセフィーヌ内も荒れてしまったのです」
予想以上にひどい惨状だ。
全部直前にわたしが止めたことではないか。
本当に手紙の通り行動しないと、取り返しがつかなかっただろう。
おそらくはユリナナはこちらを見限ってゼヌニムの領土に移ったのだろう。
「それはもう……地獄絵図ですね。貴方の手紙がなければ本当に危なかったわ。ありがとう、クロート」
「そのことですが、あの手紙はわたしではありません」
わたしはクロートの言葉を聞いて固まった。
てっきりあの白い口が助言するのだから、自分で用意していたと思っていた。
「一体誰がどのような目的であれを用意したのかは分かりません。ただあれは未来で起こることが書かれていた。普通の人間ではないことは確かですね」
「そうだったのですね……セルランはどうしたのです?」
わたしは少し気になっていた。
彼はわたしの味方だったのか。
「……彼が姫さまを断頭台へ送ったのですよ。その後は知りません」
クロートのセルランに対しての態度で何となく分かっていた。
だがやはり実際に言葉に出されると心が痛くなるものだ。
「今思えばヨハネさまに操られていたのかもしれませんがね。想像以上に今とは別の世界ですよ。マリアさまへの責任の追及は日に日に増していき、周りへの八つ当たりが酷くなりました。王のいない側近と揶揄され、自分を否定する様子はとても不憫でした」
あの夢の光景だと頬がこけており、かなり精神的に追い詰められていたのがわかる。
「しかし、主人を助けるために精一杯動かない側近に王のいない側近という資格はありません。もう姫さまはみんなの主人ですよ」
クロートの言葉で心が温かくなる。
わたしは彼に伝えなければならない。
「クロート」
クロートがわたしを見た。
「助けてくれてありがとう」
「えっ……」
クロートの眼鏡の中から水が落ちていく。
その眼鏡の奥で彼は何を思っているのかは分からない。
ただ、彼はわたしのためにここまで頑張ってくれたのだ。
もしこの件が片付けば、彼に最高の労いをしたいと思っている。
わたしは立ち上がり彼の手を持つ。
「今度はわたくしが貴方を守ってみせます。スヴァルトアルフにだって渡しません。貴方の側にはずっとわたくしがいます。だからわたくしと共に歩んでくれますか?」
「そ、それは……いや、それはいけなぁ」
動揺しているのか言葉が突っ掛かっている。
わたしはそこで言葉を間違えたことに気付いた。
これでは彼を束縛してしまう。
「もちろん、結婚したいときは言ってください。いくらでも縁談の話を持って行きますから! 貴方のためならいくらでも頑張りますよ」
わたしは力強く拳を握った。
クロートのためならいくらでも手を尽くそう。
「……そうですよね。お気遣いどうもありがとうございます。それではまずはこの伝承についてまとめてください」
急に冷めた声になり、ドサっと大量の本を置かれてわたしは青ざめる。
今日はもうやる気が全く起きないのに、この量なんて出来っこない。
「ひどい! 悪魔! 鬼! 黒眼鏡!」
わたしは必死に抗議するがクロートはこっちを見ずに他の棚へと歩いていく。
わたしの貧困な罵倒では効果が薄いようだ。
何故だか怒っているようで、耳や首が少し赤くなっていた。
みんなの協力でどうにか前には進んでいるが、少ししか進まない。
本が古すぎて解読が難しい。
「飽きましたぁ」
もう頭が疲れてどうにかなりそう。
机に伏せて顔をテーブルに隠す。
クロートのため息が聞こえてくる。
「淑女なのですからそういったことをおやめください。サラスさまがシルヴィの城に戻ったからといって、何をしてもいいわけではありません」
サラスはジョセフィーヌの城に仕える侍従なため、現当主となっているヨハネの侍従となった。
そのためもうわたしたちと共に何かをすることはできない。
代わりとしてクロートがわたしの教育を全て見ることになっている。
ちょうど今なら全員が出払っているのでチャンスだと気付く。
「ねえ、クロート。教えてもらいたいのですが」
「何をです?」
「どうして未来からわざわざ戻ってきたのですか?」
クロートは言葉を詰まらせた。
わたしを見つめて、何を言うか迷っている感じだ。
何だか表情が辛そうに感じたので、わたしは慌てた。
「別に無理して言わなくてもいいのよ!」
思いの外声が大きくなった。
それでクロートは少し笑って、わたしに話し始めた。
「いえ、無理ではありません。ただ未来では色々と大変でした。今では想像出来ないかもしれませんが、側近たちも姫さまからどんどん離れていき、遂には一人となってしまったのです」
そういえばあの夢を見る前は特に勉強も頑張らなかったし、領地を盛り上げようなんて考えていなかった。
しかし、言ってしまえば普通の令嬢と同じような生き方なので特に嫌われるようなことではないのではないか。
「レイナやラケシスも?」
「ええ、ラケシスは特に裏切られたという気持ちで離れていきました。よくもあそこまで罵詈雑言が言えると今では感心できます」
ラケシスがわたしに対して吐く罵詈雑言が想像ができない。
褒める時にあれほど言葉が多く出てくるのだから、貶す時も語彙が豊富なのだろうか。
「わたくしってそんなにひどい性格ですか?」
自分ではなかなか悪いところには気付けないもので、特にわたしに対して悪口を言うなんて命知らずもいいところなため滅多に聞けるものでもない。
だがクロートは首を横に振った。
「全てはその時の行動です。春にあった毒殺未遂の事件を覚えていますか?」
わたしは頷く。
アリアと初めて会った時だ。
あの時はあやうくアリアに殺されるところだった。
魔法を使ったことで側近にもひどく叱られた。
「あれでパラストカーティとシュトラレーセは大量の死人が発生しました。パラストカーティが仕組んだという噂が広まり、ジョセフィーヌとスヴァルトアルフは対立します。さらにメルオープさまがカオディさまを殺してしまい、ジョセフィーヌ内も荒れてしまったのです」
予想以上にひどい惨状だ。
全部直前にわたしが止めたことではないか。
本当に手紙の通り行動しないと、取り返しがつかなかっただろう。
おそらくはユリナナはこちらを見限ってゼヌニムの領土に移ったのだろう。
「それはもう……地獄絵図ですね。貴方の手紙がなければ本当に危なかったわ。ありがとう、クロート」
「そのことですが、あの手紙はわたしではありません」
わたしはクロートの言葉を聞いて固まった。
てっきりあの白い口が助言するのだから、自分で用意していたと思っていた。
「一体誰がどのような目的であれを用意したのかは分かりません。ただあれは未来で起こることが書かれていた。普通の人間ではないことは確かですね」
「そうだったのですね……セルランはどうしたのです?」
わたしは少し気になっていた。
彼はわたしの味方だったのか。
「……彼が姫さまを断頭台へ送ったのですよ。その後は知りません」
クロートのセルランに対しての態度で何となく分かっていた。
だがやはり実際に言葉に出されると心が痛くなるものだ。
「今思えばヨハネさまに操られていたのかもしれませんがね。想像以上に今とは別の世界ですよ。マリアさまへの責任の追及は日に日に増していき、周りへの八つ当たりが酷くなりました。王のいない側近と揶揄され、自分を否定する様子はとても不憫でした」
あの夢の光景だと頬がこけており、かなり精神的に追い詰められていたのがわかる。
「しかし、主人を助けるために精一杯動かない側近に王のいない側近という資格はありません。もう姫さまはみんなの主人ですよ」
クロートの言葉で心が温かくなる。
わたしは彼に伝えなければならない。
「クロート」
クロートがわたしを見た。
「助けてくれてありがとう」
「えっ……」
クロートの眼鏡の中から水が落ちていく。
その眼鏡の奥で彼は何を思っているのかは分からない。
ただ、彼はわたしのためにここまで頑張ってくれたのだ。
もしこの件が片付けば、彼に最高の労いをしたいと思っている。
わたしは立ち上がり彼の手を持つ。
「今度はわたくしが貴方を守ってみせます。スヴァルトアルフにだって渡しません。貴方の側にはずっとわたくしがいます。だからわたくしと共に歩んでくれますか?」
「そ、それは……いや、それはいけなぁ」
動揺しているのか言葉が突っ掛かっている。
わたしはそこで言葉を間違えたことに気付いた。
これでは彼を束縛してしまう。
「もちろん、結婚したいときは言ってください。いくらでも縁談の話を持って行きますから! 貴方のためならいくらでも頑張りますよ」
わたしは力強く拳を握った。
クロートのためならいくらでも手を尽くそう。
「……そうですよね。お気遣いどうもありがとうございます。それではまずはこの伝承についてまとめてください」
急に冷めた声になり、ドサっと大量の本を置かれてわたしは青ざめる。
今日はもうやる気が全く起きないのに、この量なんて出来っこない。
「ひどい! 悪魔! 鬼! 黒眼鏡!」
わたしは必死に抗議するがクロートはこっちを見ずに他の棚へと歩いていく。
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